ローラ&お茶会
「レベルアップ、おめでとうございまーす☆」
「……は?」
オレの両手を握りしめ、ぴょんぴょんと跳ねるローラ。
その振動で大きな胸がゆっさゆっさと上下するのに視線―――見てねーし!
「ん、どうかしましたか?」
「いや、えっと……あれ?」
胸は違うんだ、胸は。
デュエルには勝利した。
悪魔はやっつけた。
その後―――
「って、レベルアップじゃねーだろ!
相手が偽物で、デュエルは勝ったけど敵が迫ってきて、宙づりにされて―――」
「絶体絶命、ですよね」
「そうだよ!」
なぜか微笑むローラに、思わず声を張り上げる。
「落ち着いて下さい。
まずは、お茶にしましょう?」
「お茶にしましょう、じゃねーだろ!」
今回の妄想空間は、白を基調とした家具の並ぶおしゃれな部屋に、レースのかかった丸テーブル。
2組のティーカップから湯気が立ち昇り、茶うけとしてドライフルーツらしきものも添えられている。
「どうぞお座り下さい、竜太様。
ここでこうやってお話できるのも、これが最後でしょうから」
「……」
そうか。言われてみて気づいた。
確かに、ここに来れるのも、これが最後になるのだろう。
デュエリストとして、カードを扱うことが出来なくなるなら。
そうだな。そう言われると、座って話すのも悪くないかもしれない。
ローラは頑張ってくれたんだし、今度ゆっくり時間をと言われていたんだ。
この先がないなら、せめて今、約束を果たさないとな。
「そういうわけで、レベルアップおめでとうございます☆」
「ん、ありがとう」
腰を下ろし、紅茶に口をつける。
華やかな香りと暖かさが、身体に染み入る。
「……おいしいよ」
「お口にあったなら良かったです」
茶うけに手を伸ばし、小さく一口だけ齧る。
それからまた、紅茶を啜った。
何を言えばいいのか、よく分からない。
ローラは、オレに悪魔と約束しろと言っていた。
客観的に考えれば、それが正しい。
オレだって、傍から見てたらそうしろと言うだろう。
「竜太様は」
「ん?」
「どうして、約束しなかったのですか?」
だから、それを聞かれることは、ある意味で当然だと思った。
「悪魔に、言った通りだよ。
ここでミーネちゃんを見捨てたら、身体は生きても、心が死ぬ。
オレは、オレを許せないし、納得できなくなる」
「そのために、命を捨てるようなことになっても?」
「実は、命を捨てるってのに、実感がないんだよな」
できるだけ、軽く言い、軽く笑う。
「本当はあの時に死んでたはずのオレが、今日までなぜか生きて。
でも、みんなは死んでいて。
その差が何なのか、考えても分からなかったよ」
運とは、言いたくない。
でも、運命とは、もっと言いたくなかった。
「……自分に納得のいく死に場所を、探してらしたのですか?」
死に場所、か……
それを探しているのだろうかと考えた時もあった。
明確な答えは出なかったけど、
「違うと思ってるよ。
それに、今回のは無駄死にもいいところだ。いい死に場所とは言えないだろ?」
「そうですね。
誰かを守ったわけじゃなく、ご自分に拘った結果ですから」
「ははは、その通りだな。
自分に拘ったか、まったくだ」
そうだ、オレは自分に拘ったんだ。
ありたい自分に。納得できる自分に。
「ありがとう、ローラ。なんかすっきりしたよ」
「……」
紅茶を飲み干す。
無言で俯くローラを、真っ直ぐ見つめる。
「今日知り合ったばかりだし、こんな最後で申し訳ないけど。
ローラは頼れるパートナーだったよ」
「―――そんなの、あんまりですよ」
「え?」
オレの言葉に、顔をあげたローラの瞳から。
いつの間にか、涙が流れていた。
「あんまりです!
私は、私は、ずっとあなたを待っていたんです!」