準備&決勝戦
三位決定戦は、立ち上がりから罠デッキがハマり、穴掘りリザードマンの圧勝で幕を閉じた。
無表情じみた勝者と、さっぱりとした笑顔の敗者。
顔だけ見れば、どっちが勝ったのかよく分からない戦いだなーと思う。
それぞれ、内心でどう思ってるかは分からないけどな。
オレは、テーブルに広げていた自分のデッキをまとめて、左手の甲のホルダーに納めた。
眺めてあれこれ考えてはいたが、デッキ自体は全くいじっていない。
大会で試合に使用するデッキは事前登録制のため、今更デッキをいじることはできないのだ。
決勝戦の準備という意味では、やれることはほとんどない。
消えたように居なくなった、フード女はちょっとだけ気になるが。
決勝が終われば、きっとまたやってくるだろう。
「えへへ、リオリちゃん、大会が終わったらゆっくり付き合ってあげるからねぇ」
もらったカードのリオリちゃんに満面の笑みで話しかけてから、三枚のカードを腰に下げたカードポーチへしまい。
カードをセットしたホルダーごと、手甲を締め直す。
この手甲は師であるおやっさんからもらったデュエルグローブだ。
山札をセットする手の甲のホルダーと、マスター、宣誓カードをセットする手首のフィールドスペース。
さらに、扇のように広げた片翼に、5枚のカードをセットすることが可能。
名前は『黒鶴』
おやっさんがおやっさんの趣味で名づけた逸品である。
なお、普段のデュエルでは黒鶴を使っているが、大会ではデュエルグローブの使用は禁止だ。
山札は卓上に置くし、宣誓カードも山札の横に並べる。イカサマ対策ってことだね。
グローブを付けてるのは、精神統一というか、オレにとっての戦装束ってことになる。
「それじゃ、そろそろ行きますか」
全てのカードを片付け、昼飯も腹の中に片付け。
オレは割当スペースから、決勝戦を行う試合用のスペースへと向かった。
係りの人に参加証(今回の大会用に作られた、参加者IDと名前入りの宣誓カードだ)を見せ、デッキのチェックを済ませて席に着く。
後から来た対戦相手に頭を下げ、全ての準備を終えてその時を待つ。
やがて―――
『大変長らくお待たせ致しました。
これより、第二十一回ブルースムーン頂上杯、決勝戦を始めます!』
会場内に、大きな拍手が鳴り響いた。
拍手が収まるのを待って、カメラがやってきてスクリーンにオレの顔を映す。
『まずは選手の紹介をいたしましょう。
極限に突き詰めた趣味デッキ『ろりぃどすこぉぷ』で、胸を張って闘う紳士!』
「紳士と書いて変態と読むな!」
『二つ名は【やましぃろりーた】』
「やましい事など何一つないし!」
『山城 竜太選手です!』
カメラに向かって叫んでも、マイクは来ないので声は伝わらない。
悔しさをぐっと堪え、愛想笑いで頭を下げた。
あの司会、毎試合まいしあい、人の事をやましい呼ばわりしおって。
そんなんじゃ友達ができないだろうが!
司会とか周りの奴らのせいで、友達ができないだろうが!
『やましぃろ りゅーた選手は、デッキの9割以上をオリジナルカードで埋め尽くしたという、色んな意味で有名な趣味人です。
しかし変態性と呪詛の篭ったデッキは非常に強力で、一見するとぱっとしないくせに絶妙なバランスでいかなる対戦相手とも対等以上に渡り合います!』
ああもう、この司会は!
オレに恨みでもあるんだろうか。
もしかして、オレの事をいじめてた奴らの仲間なんだろうか。くそう……
ちなみに今日の大会用デッキは、80枚中79枚がオリジナルカードである。98%以上だな。
もちろんその79枚のうち、79枚に愛らしい幼女達が描かれているぞ。
幼女こそ至高にして至福!
『そんな変態……もとい、変態紳士と対しますのは。
【地下墓地の皇王】萱幹 皇治選手です!』
カメラに向かい、わざとらしく前髪をかきあげてから頭を下げる対戦相手。
吊り気味の鋭い眼差しと口元に自信と嘲りを浮かべ、クール系イケメン風なスマイルで歯を光らせた。
オレの時より大きな拍手に混じり、声援が聞こえる。
くっ……くやしくねーし! むかつくだけだし!
『数多の死者を束ねし皇王は、闇に見初められし超一流の決闘者です。
押し寄せる死者の軍勢を前には、幼女もリザードも為すすべなく打ち破られ死者の仲間入りをすることでしょう!』
「なんなんだよあの司会、どんだけオレのこと嫌いなんだよ!」
オレのぼやきに、くっくっくと含み笑いをする対戦相手。
いけすかねぇ!
「ほざくな、下郎が。
俺様の踏み台になれる栄誉を噛みしめながら、惨たらしく死ね!」
し、死ねまで言われた!?
「死ねって、師ねじゃなくて死ねって!」
『どうやら選手の二人も盛り上がっているようです!』
盛り上がってるって言うのか、これ。普通にマナー違反だろ!
『それでは、山城選手から宣誓をどうぞ!』
司会の言葉に頭を切り替え、オレは差し出されたマイクに向けて叫んだ。
「オレはルールを順守し、持てるカードと知略の全てを込めて、正々堂々戦うことを誓います!」
「私はルールを順守し、持てるカードと知略の全てを込めて、正々堂々戦うことを誓おう」
『勝負はもはや待ったなし、運命の決勝戦。
ここまで来たら説明は不要でしょう、両者も会場もボルテージはMAX!』
「踏みにじってやる」
「く、負けてたまるか、オレが勝つし!」
ブースの外からも、歓声だか声援だかが飛び交い。
カメラが、オレ達二人の顔を順に映し、そして。
『決勝戦。
決闘、スタート!!』