観察&終戦
引いたカードは、ポーンが1体とスペルが1枚。
すぐに決着とはいかないが、試すにはちょうどいいスペルが来たな。早速使ってみることにする。
わーいスペルだー、使ってみたらどうなるんだろー! 一秒でも早く見てみたいよね、どっきどきだね☆
というわけではない。断じて違うし。
「あの悪魔に対し、スペル【スペルアロー】発動!」
翳したスペルカードが発動し、3本の鈍く光る魔法の矢がそこそこな速度で敵悪魔に迫る。
「むむきゃっ、普通の術も使えるのでつか!」
「大丈夫だよ、このスペルで死ぬことはないから」
「!?」
意趣返しとばかりに、相手のセリフを返してやりつつ。
矢は身体を覆った翼に突き刺さり、弾けて消えた。
表面上、効果は全くなさそうである。ダメージ、ちゃんと入ってるといいんだがなぁ。
ちなみに、スペルの効果はこんな感じだ。
『対象のユニットに、1ダメージを与える。このスペルの効果でとどめを刺すことはできない』
「ちょっとひりひりちまつが、こんなもんぢゃやられまてんよ!」
「分かってる、そう焦るなよな。
ポーン、あいつを攻撃だ!」
いつものように、頭を支点に胴体が敵の方を向き。
炎の雨をブロックした時とは正反対に、細く長くなるポーンの胴体。
「貫け、ポーンランス!」
スペルアローよりさらに早く、ポーンもまた矢のように飛び出す。
「おおお!」
躱そうとする悪魔を追いかけるポーン。
悪魔が手から放った炎弾を受けつつ、切っ先がまたしても悪魔の翼に刺さって消えた。
「だいぶひりひりちまつ。
なるほどなぁるほど、受けただめーぢいぢょうの何かを感ぢまつ。これいぢょうは食らわない方が良たとうでつね」
ポーンの刺さった翼を、まるで水を振り払うようにぶんぶんと振り回す。
そんな相手を後目に、オレはポーンを1体召喚してエンドした。
呼び出されたポーンが、オレの眼前でほんの少しだけ浮いている。
その様を、攻撃を仕掛けない様子を見て、悪魔は大きく頷くと。
「でもこれで、だいたいきみの力はわかったでつ」
事もなげに、そう微笑んだ。
「まづ、力を使うには予備どうたとちて、手をこつるのと、手を掲げるあるいは術をたけぶのが必要なんでつね」
手をこつる……こする、か。
多分、左手のデッキからカードをドローしていることを言ってるのだろう。当たっている。
デュエル中のカードについては、オレ以外からは全く見えないらしい。手札も場札も、デッキやマスターカードも。
「とちて、君にはほとんど魔力がないち、力を使うのにほとんど魔力を必要とちない。
そのかわりに、ぢぶんのやりたいことが必づいつでもできるわけでない」
「随分とまぁ、分かったように具体的に言うんだな?」
「分かってまつからね。
発する魔力量と揺らぎを見ればレートは分かりまつ。ゴーレムを呼ぶのも術を使って矢を飛ばつのも同ぢ魔力量でちた。
さらに、ゴーレムを呼ぶかづもまちまち、2体で守ったり1体で守ったりもばらばら」
いや、2体で守ったのは、1体でまとめて防御できるって思いつかなかったからなんだがなぁ。
そんなことは、当然教える必要はないけど。
「そのくて、こちらが込めた魔力の量によらづ、ゴーレムは必づ攻撃を1回だけ防御ちて、消える。
今の攻撃も、同様に1回攻撃ちて消える。
1回だけ命令を出てるとか、1度攻撃を受けると必づ消えるとか、とういうていやくがあると見まちた」
的確だな、こんちくしょう!
視界の端で、ローラが険しい表情をしている。
……いたよ? 影薄いけど、ちゃんと傍にいるよ?
ついでに、なぜか小型化して腰に刀のようにぶら下がったマグロもいるよ?
「色々な術を複合ちた代わりに、つきに力をてんたくできるわけぢゃない能力。
でも力については、概念に近いひぢょうに強い力。ありえないレート値。
―――ふぉーつもち、ということでつか。なるほどなぁるほど」
?
「たて、だいたいきみの力は分かりまちた。
ひぢょうにおもちろい力だと思いまつが、魔力量があまりに低いために、わたち好みではないことも分かってちまいまちた」
「そうかい。なら、このまま何もなかったことにして帰るか?」
攻撃はされたが、今のところオレにも村人にも実害はない。
このまま大人しく引きさがってくれるなら、喜んで見送ってもいいとは思う。
今までのこいつは、完全に観察と遊んでいただけだろう。そのくらいはオレでも分かる。
「んー……
たちかに、今日はおつかいもぶぢに終わり、思いがけないお宝もあり、わたちはとってもご満悦でつ。
きみの力は好みではないので、ぶちのめちて持って帰る程でもないでつ」
めんどくさそうに言ってくる悪魔。
若干むかつく気もするが、実害のなかった相手に喧嘩を吹っかけて暴れる気はないんだ。
うん、お帰りいただこう。
「わかった。
じゃあオレも襲われたことは水に流すから、今日のところは大人しく帰ってくれないか?
こっちも連戦で疲れてるんだよ」
「わかりまちた。楽ちかったので、まんどくちて帰りまつ。
とれではみなたん、たようなら」
よっこいしょ、と。
悪魔が、屋根の上に置いてあった、何かを翼で抱え上げた。
それは―――
「ま、待て! それはなんだ?」
「ん、これでつか?
これが、ぼくのおつかいでつよ」
悪魔が翼で抱え上げたもの。
それは、ミーネちゃんの家で隠れていたはずの、行き倒れさんだった。
「……一つ、教えろ」
「はい?」
「その人と一緒に、獣人の親子が居たはずだが」
「ああ、いまちたねぇ」
振り返った悪魔は、最初と変わらず笑みを浮かべている。
翼と角がなければ、美少女か美少年か、とても魅力的な人間に見える、その姿。
なんの悪意も悪びれもせず、無邪気な笑顔で、悪魔は。
「親は、やくとくによりきでつたてて見逃ちまちた」
「子供は!」
オレの叫びに、翼を高く掲げて。
「ぢゅうぢんにはありえぬほど強大で、ちかも曇りのないとてもつんだ魔力。
とってもわたち好みでちたので、おつかいのついでにいただいちゃいまちた」
翼の内に眠る、行き倒れさんとミーネちゃんを示した。
「―――返せ」
「いやでつ」
聞き返すことも、馬鹿にすることもなく。悪魔は平然と答える。
だが、オレだっていやだ、絶対に許せない。
「その子は、オレの」
ミーネちゃん。
笑顔。ぬくもり。言葉。
約束。
「オレの、友達になるんだ!」