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神魔大戦 Hero&Forces  作者: 岸野 遙
スタートフェイズ
26/40

炎&悪魔

 獣人の村へと戻る。

 何人もの盗賊たちが地に倒れ伏し、村人たちはまだ迷子中。

 なんだか、急に静かになってしまった気がするな。


 ふと、下の方で動く気配があり、


「……そういや、お前はエンチャントだもんな」


 右手に握っていたマグロを持ち上げる。

 きょろりと無表情な目がオレの方を向いた。


 一緒に戦ってくれたわけだし。見慣れてくると、愛嬌がある気がしてくるから不思議だ。


「さて、とりあえず、っと」


 マナチャージ、キープコスト、ドローフェイズを済ませるか。


 迷子の軍勢など、持続ターンのある効果は、自分自身のキープコストフェイズごとにターンの経過がカウントされる。

 これで、村人が戻るまであと1ターンだ。

 ドロー前に、ポーチに突っ込んでいた手札を


「危ない!」


 いきなりすごい力で突き飛ばされて、地面に転がる。


「おいローラ、いきな―――」


 振り向いて……


「……な、なん……」


 目の前にある真っ赤な炎。

 人ひとりくらい簡単に飲み込みそうな、巨大な炎の奔流がオレの目の前を横切っていった。


 先ほどまでオレの立っていた場所を焼き尽くす炎に、オレは言葉を失う。

 突き飛ばされていなければ、あの炎で……



 炎はすぐに、オレの顔や肌に熱だけを残して消えた。

 でも、ひりひりと焼け付く顔の熱さが、強い心臓の鼓動が、今の炎が現実のものであったと教えてくれる。


 消えた炎の向こうに見えるローラの姿に少しだけ安心しつつ。その目が睨みつける方向へと顔を向ける。


「はあぁぁ……外れてちまいまちたか……」


 大きなため息とともにそう言ったのは、屋根の上に立った子供のような―――



 人間だなんて思えない。

 それは外見だけの話ではなく、肌に感じる……これはなんだろう。

 殺気? 危機感?

 そういった何かが、この存在が危険なものであることをオレに告げている。


 服装は、白いワイシャツに赤い蝶ネクタイ、肩からのサスペンダーで黒い半ズボンを止めている。これは普通の人間と同じ。

 身体は、たぶんオレより低い背に、病的に綺麗な色白の肌。赤い髪と目。この辺も個性の範疇だ。

 顔付きは整っており男子とも女子とも取れる。声も、澄んではいるが性別不詳な感じ。ここまでは人間だ。


 耳のあたりから突き出した、ぐるりとねじれた巻貝のような角。

 その身長の倍ぐらいの長さがあり、先端に牙だか角だかの生えた、こうもり状の黒い片翼。


 服装はともかく、その角と翼は、いくつものカードに描かれる邪悪なる存在に良く似ていた。


「悪魔?」


「ああ、わたちが悪魔だってこともばれてちまいまちたか……

 これは予定にない結果でつ、困りまちた」


 そう、悪魔。

 少なくとも、オレの知識からすれば悪魔と思える子供が屋根の上に立っていた。


「いきなり攻撃を仕掛けてきたようだが。

 オレに、何の用だ?」


 マグロを左手に持ち替え、そっと腰の後ろのポーチに手を伸ばす。

 手札と、さっきローラからもらった2枚のカード。

 それにこのターンのドローを済ませれば、とりあえずは自由に行動出来るようになる。


不思議ふちぎな魔力の波動を感ぢて、思わづ顔を出ちてちまいまちたが。

 何の用……と聞かれると困りまつ」


 ポーチからカードを手に取る。


「用事がないんなら、大人しく帰ってくれないか?」


 相手を刺激するかもしれないが、ドローを済ませないことにはオレも何もできない。

 ドローフェイズ!


「用はないでつが」


 引いたのは、使えない高レベルユニットと、ダメージ軽減のリザーブカード。

 ポーンめ、欲しい時に来ないとは。おのれ。

 高レベルカードも、こんな状況でなければ小躍りするくらい嬉しいカードだったんだが。

 今の状況では、喜ぶ余裕は全く全然これっぽっちもない。ないったらないし!


 手札は7枚。

 でも、召喚できるユニットはポーン1枚しかない。

 あとはリザーブカードをセットするくらいしかできないが―――


 問題は、目の前の悪魔がオレの行動を許してくれるか、だ。


「たきほどから感ぢる、きみの魔力の波動。

 どうちまちょう、好奇心こうきちんが抑えられないような、早くユナンちアに帰って寝たいような、ときめきが止まりまてん」


「……帰って寝た方が、お互いにとって幸せで有意義だと思うぞ」


 なんなんだろう、こいつは。ふざけてるんだろうか?


 いや、よくある悪魔の人を騙す話術かもしれない。

 友達を作るために尊い話術本を山ほど読み明かしたオレが騙されるとは思わないが、警戒は忘れたらいけないな。


「もちきみの魔力が、わたちの求める力であるなら」

「……」

「お使いのついでに、きみもぶちのめちて連れて帰りまつ!」


 ぶわり、と正面から叩き付けた圧力に、膝をつきそうになる。


 交渉決裂みたいだな、くそ!


「サモン【ポーン】!」


 もはや見慣れた立体図形、ポーンが一体だけオレの前に姿をあらわす。

 そのポーンに隠れて、無言でリザーブカードをセットする。


 悪魔の圧力からオレを守るように立ちはだかるポーンに向けて、悪魔が歓喜の声をあげた。


「おおお、何でつかそのぢゅつは!

 今の魔力の揺らぎと作り出たれたゴーレムという結果を考えると、明らかに魔力値のレートにあわぬ驚異的な力!」


 突然の悪魔との開戦。

 戦う理由も意味も分からないまま、オレは手札を開いた。


 ちくしょう、やってやるしかねーし!

 オレにはエリート&フォースカードがある、決闘者デュエリストとして必ずこいつを倒す!


「魔力がどうとか知らねーし、襲ってくるなら返り討ちにするだけだし!」


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