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神魔大戦 Hero&Forces  作者: 岸野 遙
プロローグフェイズ
2/40

ローブ&フード

「こんにちは。ちょっとよろしいかしら?」

「んぉ?」


 お、おおお?

 三位決定戦の開始とともに掛けられた声に横を向けば、いつの間にか対面に人が座っていた。

 全身を、いかにもな黒いローブ&フードで覆い、こてこてばっちりな怪しさ抜群っぷりだ。

 ど、どうしよう、どうしようか。


「怪しい奴があらわれた。どうする……」

「どうするって、私に質問されても困るのだけど?」


 はっ、心の声が外に。

 落ち着け、平常心へいじょうしん。

 こういう時は、冷静に状況を判断することが大事だ。うん、そうだ。


 ここはオレに割当られた、控室代わりのデュエルスペース。

 今は三位決定戦が始まったところだ。試合を観戦しようとしたら突然声をかけられ、気づいたら目の前にこてこてに怪しいフード姿。

 フードで顔とかは分からないけど、声を聞く限りでは女だな。おばん。

 おばんとしては、比較的耳触りのいい綺麗な声をしていると思う。おばんだけど。

 うん、状況は冷静だ。間違いない。


……そうだ!

 今日のオレは絶好調、わざわざ訪問してきてくれたくらいだし、今ならやれるに違いない。

 オレの本棚の一角に鎮座まします、ハウツー本で学んだトーク術が火を吹くぜ!

 ということで今日は―――あの本にしよう。


 まず、正直に、自信と礼節を持って相手に自分をさらけ出す。


「ようこそ、我が秘密基地へ。

 未来の大決闘者ビッグデュエリストたる我にいかな用向きであろうか?」

「とりあえず、決勝で戦う相手選手の関係者ではないけれど、対戦前の個人スペースを訪れたことはごめんなさい」


 渾身の挨拶を、スルー…だと……

 いやいや、慌てるなオレ。相手はまず非礼を詫びた、見た目はともかく礼儀正しいじゃないか。

 一応デッキを見えないようにまとめつつ、素直に頭を下げる怪しいおばんに頷く。


「許そう。

 で、どのような用であるのかな?」

「話が早くて助かるわ。

 対戦相手は私じゃないのだけれど、この大会の決勝戦の後にあなたに戦って欲しいのよ」

「代理の対戦申込みか。そんなの試合後でいいんじゃないか?」

「優勝者に対戦申込みをする人はたくさんいるでしょ?

 なら、試合前から予約しておいた方が確実だわ」

「なるほど。

 胡散臭い外見の割に、用事は割と普通であったな」

「あんまり普通でもないんだけどね」

「ふはは、面白いイベントは大歓迎だ」


 苦笑交じりに呟く怪しいおばんに、笑い返す。


「もしオレが負けたら対戦の約束はどうなるのかね?」

「負けても関係ないわ。私は、あなたに戦って欲しいのよ。

 ご指名だからね」

「了解した」


 優勝者だから手合せしたい……というわけではないのか?

 いや、もしかしたら決勝相手の方にも対戦を申し込んでるのかもしれないな。

 そこまでは勘ぐらなくてもいいか。

 もしそうだったら胸がいた―――

 いやいや、詳細を聞かない方が、突発イベントっぽくて楽しいから。うん、楽しいから。絶対そうだし。


「でもやっぱり、できるだけ華々しく優勝して欲しいところね」

「そりゃぁもちろんであるな。オレは勝利する」


 オレだって負けるつもりはないし。

 調子もいいし、気合もばっちりだ。


 心の中からふつふつと湧き上がる衝動を感じる。

 心が止まらない。わくわくが止まらない。


「それじゃ、約束したから。対戦後にお願いね」

「了解した」


 大会の後には、野良試合なり、欲しいカードのトレードなり、やりたいことはたくさんある。

 一人にあまり長時間拘束されるのはちょっと困るけど、試合の申し込みくらいなら歓迎だ。


「あと二つ、伝える事があるわ」

「ん、なんだ?」


 真っ黒いローブのやみの中から伸ばされた指が、ぴっと立てられる。


「一つは予言。

 あなたの大戦は、神話を導けば栄光を掴めるでしょう」

「占いか?

 まあ、わかった」


 神話―――か。

 もちろん、その言葉が示すものが何か想像はつく。


「しかし、初対面の人間にそんなことを突然言われるとはな」

「もう一つは」


 オレの言葉を遮るように、伸ばした指が3枚のカードをテーブルに伏せて置いた。

 エリート&フォースのカードだ。少なくとも裏面は。


「今日の対戦では使えないけれど、このカードをあなたにあげるわ。

 もしかしたら役に立つかもね」

「なんだ?」


 占いのような3枚のカード。

 まずは、一枚だけ色の違う右のカードを手に取る。


「宣誓カードか」


 フリフリのドレスのようなローブを着て凹凸の激しい黒髪の美少女ややおばんが、ふわふわした手乗りサイズの毛玉?と戯れているイラストの描かれた一枚。

 見覚えがないから、どうやらオリジナルデザインの宣誓カードのようだな。


 宣誓カードとは、デッキに入れるカードとは別の、決闘者デュエリストとしての宣言を表すカードで『ルールを順守し、持てるカードと知略の全てを込めて、正々堂々戦います』といった旨の宣誓文が書かれている。

 通常のカードの裏面は青基調の魔法陣のような模様が書かれているが、宣誓カードの裏面は色違いで白だ。


 宣誓カードの扱いについては、エリート&フォースの説明書の中に小さく書かれている。

 このカードをデッキおよびマスターカードと共に並べることで、決闘者デュエリストとしての宣言と、ルールを把握していることを示すわけだ。

 宣誓カードを置かなくてもルール違反ではないが、決闘者デュエリストからはルールを遵守するつもりのないやつとしてみられるので注意してくれ。

 マナーは時にルール以上に重要である、ということだな。


 ちなみに、ユニットとしてのマスターを表すマスターカードの裏面は黒である。これ豆知識マメな。


「ルール的には、確かに宣誓カードだけど。

『説明カード』とでも呼んでちょうだい」

「説明カード、ねぇ」


 イラストの下のテキスト欄には、他の宣誓カードと同じく『宣誓』が書かれていた。

 オリジナルの宣誓カードを名刺代わりに扱うデュエリストは結構いる。そういうことなんだろうな。

 このフードおばんのか、対戦する予定の相手のか。


 なお、オレは宣誓交換したことはほとんどない。

 配る用に大量にいつも用意しているけど、たまーに頑張ってこっちから配ろうとしたりするんだけど、どうしてか交換をしてくれる人はほとんどいない。

……理由は知らねーし! きっとオレが強いからだし! みんな照れてるだけだし!


「まあ使わないと思うけど、くれるもんはもらっておこう」


 宣誓カードについては、オフィシャルでもものすごい種類のカードが出ているし、オリジナルで作成している人間もすごく多い。

 オレ自身、50種類ぐらいオリジナルの宣誓カードを作っている。本来は『宣誓』としか書かれないカード名まで変更した逸品だ。

 なので、もらっても好みのイラストじゃないし使うことはないと思うんだけど、オレなら断られると辛いので受け取る。


「ええ、受け取ってちょうだい。必要な時に使ってくれればいいわ」

「必要な時がきたらな」


 宣誓カードとマスターカードは、デッキとセットで常に持ち歩いている。

 忘れたりすることはないと思うが、必要な時がもし来るなら使うかもしれないな。


「んで、2枚めは……」


 真ん中に置いてあった2枚目のカードを開く。

 書かれているのは、先ほどの宣誓カードにも描かれていたふわふわした毛玉の群れだった。

 カード名は『恵みの精霊たち』

 オリジナルデザインの軍勢カードみたいだね。


「……ふわふわだな」

「ええ、ふわっふわよ」


 それ以外にコメントしようがなかった。




 今更だが、三位決定戦の開始前に言ってた話を覚えているだろうか?

 エリート&フォースにおける、オレが考える大きな特徴2点。

 それは、軍勢カード(および、対になる精鋭カード)とオリジナルカードについてだ。


 軍勢カードというのは、一言で言うなら群れを表現したカードだ。

 それに対して、精鋭カードと言うのは個人を表す。

 一匹だけのゴブリンは精鋭だが、ゴブリン盗賊団なら軍勢カード。

『近衛騎士の山本さん』は精鋭カードだが『近衛騎士団 山本ふぁみりーず』なら軍勢カードという具合だ。


 群れを表すカードなので、一枚で複数のカードを防御できたり等、個人である精鋭カードとは色々と扱いが異なってくる。

 けどまぁ、詳しいルールは説明書を読み、デュエルの中で覚えてくれ。説明面倒だし。



 もう一つのオリジナルカードというのは、効果やステータスの決まったカードに、好きなイラストと名前をつけられるカードのことだ。

 例え、元になったカードはゴブリンであり、強さはゴブリン並み(というか全く同じ)であっても『宇宙龍皇ギジオンレギオン』とか名づけてもおっけー。

 名前負けとかは、気にしたら負けだと思ってる。名前負けだけに。


 オリジナルカードに使えるカードは、通称『白カード』と呼ばれ、名前とイラストが空欄になっている。

 専用のツールとスマホをつなぎ、この白カードに好きなイラストと名前を印刷すれば出来上がりってわけだ。

 大会でも問題なくオリジナルカードを利用できるし、トレードを考えなければ全く不都合はない。


※ 著作権や肖像権など、法律は各自の責任で必ず守ってね。お兄ちゃんとの約束だよ!



 そういうわけで、ふわふわの精霊たちのカードについてもわかった。

 最後の一枚をめくって―――


「お、おおおおお!?」


 そこには、あどけない笑みで先ほどのふわふわ(ただしバスケットボールサイズ)を抱きしめ、上目づかいでこちらを見上げる美少女―――


「否、幼女が!

 素晴らしい! このカードは―――」


 歓喜の声をあげつつ顔を向けると。


 先ほどまでいた怪しいローブ&フード姿のおばんは、いつの間にかいなくなっていた。


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