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神魔大戦 Hero&Forces  作者: 岸野 遙
スタートフェイズ
18/40

子供&大人

 子供たちが肩を寄せ合い、息を殺し。

 じっと静かに、ただ祈る。

 どうか見つかりませんように。

 どうか、怖いことが起きませんように。


 そんな、拙く純粋な想いを、あざ笑うかのように。

 笑い声が近づき、大きな影がさし。

 そして、無常なる手が伸ばされ―――


(……)


 子供は無力だ。

 あるいは、身を寄せ合う中に、戦えぬ大人も混ざっているのかもしれないけれど。

 子供は、無力だ。

 子供であると、ただそれだけの理由で。


 救いはなく、慈悲もない。

 ただ、残酷なまでに、大人と子供という現実があるだけ。

 覆らぬ差、抗えぬ現実が。


(……ゆるせない)


 子供であるから。

 大人であるから。


 誰かが決め付けたわけでなくとも、差は現実で、現実は事実で。

 あの時。


(あの時―――)


 身を寄せ合いおびえる子供たち。


 人の居ない、獣人の村。

 粗末な家の片隅に、うずくまる。

 自分と、もう一人の―――人間の姿。


 それはもちろん、ただの妄想で。

 あの日あの時の光景ではないけれど。


 それでも、閉ざしたものを思い出させるには、十分過ぎる妄想だった。



「許せない」

「え?」


 つないだ手の、柔らかさ。

 抱きしめた、肩のかよわさ。

 子供の、小ささ。


 現実に触れ合うミーネちゃんから、現実の子供を、改めて教えられる。実感させられる。




 状況は移り行く。

 接触していたはずの赤い点と緑の点。

 しかしいつしか、緑の点をその場に残し、赤い点が家々へと向かい。


 その一つが、この家へ―――たどり着いていた。




 お姉さん。

 もしかしたら、人間の怖さや現実が分かっていないだけなのかもしれない。

 それでも、間違いなく。お人よしなのだろう。


 ミーネちゃん。

 いじめられ、病におかされ、それでも笑顔を浮かべて。

 その心の内には、何があるのだろうか。


 行き倒れさん。

 意識はまだ戻らぬ、人間の美女。

 盗賊に見つかれば、言うまでもなく。



 家の中、別室にあった緑の点が、赤い点の前に移動した。

 お姉さんが、盗賊の前に、自分から。

 きっと、そういう事なのだろう。


 抱く腕に、少しだけ力を込めて。


「リュータ……くん?」

「ごめんね」

「え?」




 今の自分は。

 大人の無力に泣き、心を―――記憶を閉ざした。

 そんな、あの日の自分と同じ、子供の姿。


 ああ、そうだ。

 そんな簡単な、大きな、ちっぽけなことを忘れていたんだ。


「ミーネちゃん」

「なぁに?」


 子供であること。

 大人で、ないこと。


 それでも。


「譲れないことがあるんだ」

「うん……?」


 分からない様子で。

 きっと首をかしげたミーネちゃんに、見えないと知りつつ、笑いかけて。


「オレは、大人が大嫌いだ」

「うん」

「だけどいつしか、嫌いなことさえ忘れて、大嫌いな大人になっていたって―――思い出したんだ」

「そう……なの?」

「うん、そうだったんだよ」


 この姿で、大人になっていたと言っても、何を言っているんだと思うだろう。

 でも、別にいいや。

 分かって欲しいわけじゃないんだ。

 ただ、きっと―――懺悔したい。謝りたい。やり直したい。

 都合のいい自分には、なりたくない。


「だから、子供として、子供らしく、やり直してくるよ」

「リュータくんの言ってること、わたしばかだから良く分からないけど。

 でも出ていったら駄目だよ、すごく危ないよ」


 当然な返事が、嬉しい。

 だから、一度髪を撫でて。


「お姉さんが危険だとしても?」

「そ、そうなの?」


 猶予はない。だから。


「ミーネちゃん」

「は、はい」


 悩むミーネちゃんの顔を、見えないけれど、覗き込んで。

 真っ直ぐに告げる。


「申し訳ないんだけど、一度、友達は辞めにしてくれるかな」

「え……」

「嫌いになったとかじゃなくて、オレがオレを許せないんだ。

 だから―――」


 もう一度だけ抱きしめてから、狭い中で体を入れ替える。

 出口へ、戦場へ向けて。


「無事に全部終わったら、今度はオレから言うよ。

 友達になって下さい、って」

「あ、あの、えっと」

「行って、お姉さんを助けてくるね」


 残念ながら、首筋を叩いて気絶させるとか、そんな器用な真似はできない。

 だから。


「スペル『うたた寝』発動」


 オレはカードを使う。

 それしかできないから。


「りゅ…た、く……」

「おやすみ、いってきます」


 ここで、キスの一つも出来ればかっこいいんだろうし、妄想でなら何度もそういうことはしたけれど。

 実際には、ぎゅっと手を握り締めるのが精一杯だ。


 でも、いいよね。

 これで終わりじゃないんだから。




 全部を思い出したわけじゃない。

 それでも、自分で自分に誓ったこと、それさえ蓋をして閉ざしていたことを。

 かつてのオレが何を想ったかを。


 この、噴き上がる、視界を赤く染めるような。

 強烈な怒りを、思い出した。


 それで十分だ。



 自分で自分に『納得』してこよう。

 それが出来たら、今度こそ、胸を張って。

 ミーネちゃんに、友達になって欲しいと、伝えよう。


 あの日、自分で壊した時計を直して。

 子供のオレから、やり直そう。


 許せないものを許さぬために。

 妄想に思い描いた自分を、今度こそ貫くために―――


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