説明カード&敵襲
「こんにちは、竜太様。先ほどぶりですね」
振り向けば、いつの間にやら。
部屋のベッドの上に立った美少女が、オレを見て微笑んでいた。
「お前は、女神の部下の、美少女!」
「会うなりなんて酷いことを言うんですか、私だって泣いちゃいますよ」
「なんでお前が―――
いや、そうか。まあ予想してしかるべきだったな」
すでに黒鶴にセットされている2枚のカード。
片方はオレのイラストの描かれたマスターカード。
もう一枚は―――
「私はローラ。
妄想の女神様に仕える精霊のようなものですわ」
説明カード、と言いながらおばんから渡されたカード。
目の前にいる美少女、ローラの描かれた宣誓カードである。
「デュエル中は、私が竜太様の傍にお控えして、カードのことをあれこれ説明します」
会った時と同じ、青と白のフリフリドレスに身を包み。
大きな胸をばーんと張って微笑むローラに頷くとオレは一言だけ告げた。
「チェンジで」
「ちょっ―――
ちょっとそれ、チェンジってどういうことですかぁ!」
「交換ってことだよ、こ・う・か・ん!
何が悲しくて、ややおばんにカード説明なんかしてもらわないといけないんだよ」
「あー、またややおばんって言いました!
しかも今度は、美少女って書いてくれなかった!」
おい、人の思考読むなよ!
「オレは幼女が好きなの。
幼女ユニット以外使うつもりはないし、幼女以外がそばにいても邪魔で面倒なだけだし」
「なんて酷い事を言うんですか!
嬉しくて嬉しくて気合入れて出てきたら5秒でチェンジとか本気で涙が滲んでます!」
言葉通り、やけに子供っぽくうるうるしながらオレに食ってかかるややおばん―――ローラ。
「いや、だって一緒に居るならミーネちゃんがいいし」
幼女でお友達、まじ天使。らぶすぎるよね、ミーネちゃん。
「わ、わかさがにくい……」
「だいたい、オレはお前のことを知らないんだし。
カードくれるならともかく、別に出てきたからって嬉しくないし」
「あ……あんまりです……」
がっくしと膝をつくと。
像が崩れるようにぼやけ、そのままローラは消えてしまった。
「……えーっと」
思わず、あれこれ言っちまったが。
よく考えたら、ローラに恨みとかあるわけじゃないし、ちょっとだけ、悪いことした……かな?
一人になった部屋で、立ったまま。
オレはなんだか無性に気分が悪くて、それ以上何もする気にならなかった。
思い出したように、マスターのオレが盾を装備し。
ターンが巡り。
カードを引き。
ユニットは呼ばず、ターンが巡り。
手札枚数が溢れ、ポーンを捨てて、カードを引く。
そうしてポーンを何枚か捨て、ポーンがやっと3枚まで減ったところで―――
脳裏で鳴り響く、目覚まし時計のような音。
「これって……マップ機能!」
すっかり忘れてたが、マップに確かに赤い点が複数現れていた。適当に叩いて止める。
すぐに、家の外からカンカンと打ち鳴らす鐘の音が聞こえた。
あれか、非常警報で敵襲ってことか!
手札をとりあえずポーチに突っ込み、盾を装備したまま部屋を出て居間へ向かう。
「リュータくん!」
「ミーネちゃん!」
よかった、ミーネちゃんは無事だ。起きて居間に来てたらしい。
不安そうなミーネちゃんの手を取ると、ちょっとだけ微笑んでくれた。
ああ、かわええ……
やっぱり幼女が至福で至高です。他には何もいらない。
「二人とも、こっちだよ!」
おっと、あまり浸ってもいられないよな。
行き倒れのおばんを背負ったお姉さんが来て、オレ達を台所へ連れていく。
そのまま、脇の貯蔵スペースに押し込まれるおばんとオレ達。暗がりの中、握りしめたミーネちゃんの手が暖かくて幸せだった。
「リュータ君、ミーネが抜け出さないように捕まえといてね」
「わかった」
ぎゅっと、手を握り。
もう片手で、軽く抱きしめる。
「いいね、何があっても出てきたり音を立てるんじゃないよ」
「お姉ちゃんは、どうするの?」
ミーネちゃんの声に、はははと笑い。
「私まで一緒に入るには、そこは狭いだろ?
他に場所を探してなんとかするよ」
よろしくと、オレに向けて言い残して。
お姉さんは背を向けて台所から出て行った。
姿は見えないが、オレにはマップがある。さっきまで忘れてたけど。
お姉さんの点をクリックすると、名前を表示できるみたいだ。知り合いだからとか、本人を確認したからかな?
とりあえず、ミーネちゃん、お姉さん、行き倒れさんを名前登録。
そのお姉さんは他の部屋に入ると、そこの一角で動きを止めた。多分、どうにか隠れたんだろう。
家の外では、いくつもの赤と緑の点が交差し接触する。
拡大してみれば、いくつかの家でも同じように緑の点が一か所に固まり。
そんな家とは別の、無人の家に赤い点の一つが入って行き。
どうやら家の中を物色しているのか、中をうろうろしていた。
「……」
この赤い点が、盗賊だとして。
もし、人のいる家に入ったら?
もしも、隠れている人達を見つけたら?
獣人は捕まって、奴隷にされる。
「いたっ」
「あっ、ご、ごめんねミーネちゃん」
「う、うん。静かにしなきゃね」
思わず力が入ってしまった拳を開き、もう一度慎重に手をつなぎ。
オレは、マップを見つめて。
何が、どうなるか。それを思わず、脳裏に描いていた。