軽くおばん&カード
「レベルアップ、おめでとうございまーす☆」
「え?」
唐突に掛けられた声に振り向くと、そこには一人の……んー……えーっと
「軽くおばん?」
「本当に失礼な方なのですね、竜太様は」
腰に手を当てて、上目遣いで覗き込んでくる、軽めのおばん……その、美少女。
おそらくは、文句なしの美少女なのだろう。
布地に縁取られたフリルが伸びるほど引っ張られた胸元からは、深い谷間が垣間見え。
ふんわりと広がった長い黒髪を背中へ伸ばし、大きく明るい瞳にちょっとだけ不服そうな表情。
もう少し若ければ、オレも平常心では居られなかったに違いない。
危ないというか、惜しいというか。
んんん、オレは何を言っているんだ。幼女以外に興味なし!
「で、その軽くおばんっぽい美少女が、オレに何のようなんだ?」
「……非常に不本意ながら、お言葉の前半がひじょーに不愉快なのに、竜太様に美少女と言われてちょっと嬉しい自分が憎いです。
はあ……こんなお方が私の待ち人だったなんて」
オレの質問は丸ごと無視して、美少女が頬に手を当ててためいきをついた。
どことなく憂いを帯びた表情に、ためいきをつきながらもこちらを真っ直ぐ見つめる澄んだ瞳。
可愛らしい青と白のフリフリドレスを着ているが、幼さの残る顔に意外に大人びた表情。瞳に宿る、オレに向けられた深い感情。
どきどきなんかしてねーし!
「っと、失礼致しました。
時間制限もありますし、話を進めさせていただいてよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。頼む」
「承りました!
ここは妄想の女神様の作られた、妄想世界と似たような空間です」
「幼女☆召喚!」
「ただし、妄想力の具現化は一切できないので予めご了承下さいませ」
「くっ―――」
読まれていただと……
脳裏にあの恐怖の女神のニヤリ顔が浮かんだ気がした。悔しくなんかねーし!
「エリート&フォースのスキルを得た竜太様には、レベルが上がるたびにこの世界へお越しいただき、カードを獲得していただけます。
竜太様がここに来ている間は時間が止まっているのとほぼ同じ状況ですので、世界とのずれなどは気にしないで大丈夫です」
「ほほう、なるほど」
妄想の世界だし、止まってるんだか流れが遅いんだか、その辺は都合よく出来てるってことだな。
「竜太様がカードを手に入れる方法は、大まかに3つございます。
一つ、冒険者またはスキルのレベルを上げて、ここで私からレベルアップのカードを受け取る場合。
一つ、戦闘で勝利するたびに、自動でカードを得る場合。
最後に、何らかの特別な方法や、特別な理由で女神様からカードを受け取る場合。ですね」
敵を倒して強くなればなるほど、カードがいっぱいになるってわけだな。
「カードの入手方法は分かったんだが、それってつまり、カードを手に入れるまでは何もできないってことなのか?」
「いいえ、そうではありません。
竜太様が入手したカードは、デュエル用のデッキにも、冒険中の行動用としても自由に使えるものとなります。
デュエル用デッキの枚数が足りない場合は、自動でランダムにデッキが生成されます」
「なるほど」
「詳しい説明は、全て黒鶴のディスプレイから見れますので、後でご確認下さいませ」
言われて見てみると、黒鶴の腕の部分にいつの間にかディスプレイがくっついていた。
アームターミナルっぽくてかっこいいな、これ。テンションあがるぜ!
「では、今回5レベル分のカードをお渡ししますね」
美少女の手に、5枚のカード。
5レベル分……ってことは、6レベルになったのかなと思いつつ。ありがたく受け取り、わくわくで中身を確認する。
たまらんよな。どれだけたくさんカードを持っていても、このわくわく感は格別だ。
まして今回は、異世界で初のカード!
新しいエキスパンションを初めて開ける時、いやそれ以上の期待と興奮で胸が高まる。
ちなみに、エキスパンションってのは販売するカードのシリーズのことだ。これ豆知識な。
さて、カードの内容は、っと♪
【冒険道具セット】 レベル0 エンチャント
テントやロープなど、冒険に必要な道具が一式詰まっている。中身は召喚時に自動で補充され、また自分で手に入れたものをセットに追加することも可能
【ゴブリン】 レベル1 地属性 攻撃:★ 防御:- 体力:★ 種族『ゴブリン』
【ホワイトドッグ】 レベル1 風属性 攻撃:★ 防御:★ 体力:★ 種族『アニマル』
【マグロ】 レベル1 水属性 攻撃:★ 防御:- 体力:★ 種族『フィッシュ』
1レベルのユニットが武器として扱うことが可能。その場合、このカードをエンチャント扱いとし、対象ユニットを 攻撃:+1 する
【初心者の盾】 レベル1 エンチャント
対象ユニットがレベル1の場合 防御:+2 する
「冒険道具セット……?」
「それは、デュエル用ではなく冒険用のカードですね。
マナを必要とせず、いつでも道具を取り出せますので。必ずお役に立つと思いますよ」
「なるほど。
便利そうだな、了解した」
つまり、面倒な用意はこのカードが一枚あれば事足りるってわけだな。
さすがは異世界、便利だ。
あとはユニットとエンチャントか。
初心者の盾は、名前やデザインは違う(つまりオリジナルカードってわけだ)が、初心者用エキスパンションにこんなカードあったなぁ。
レベル1限定で防御力+2。一見すると強そうだが、バトルすると必ず最低1ダメージ食らうので、実際はほぼ何の役にも立たないハズレカードだ。
他のユニットも、ホワイトドッグは初心者の盾と同じ理由でただのレベル1ユニットと同様。レアカードなんだけどね。
マグロは……なんだこりゃ。面白いと言えば面白いか、ただの1レベルユニットより使い道は広そうだ。
「それと、本当はこれでおしまいなんですけれど。
やっと竜太様にお会いできたのですし、新たな称号を得たお祝いにもう一枚、サービスしちゃいますね」
そう言って美少女が、笑顔でウインク一つ。思わず、胸が高鳴る。
ちが、どきどきなんかしてねーしぃー!
さっきのカード入手にテンション上がっちゃってるだけだしぃー!
「は、早くくれよ!」
「ふふ、かしこまりました。それではどうぞ」
わざわざオレの手を握って、その手に輝くカードを乗せてくる美少女。
な、なんだよう、嫌がらせなのかよう!
オレは幼女にしか興味ねーし!
【オプション機能】 レベル0 インストールカード
「インストールカード……?」
「私が女神様にお願いして、竜太様のために作っていただいたんですからね?
感謝して下さいね?」
「説明がないんだが、どんな効果なんだ?」
「黒鶴のディスプレイに乗せ、インストールと言ってみてください」
言われたとおりに試してみると、軽く光った後にカードは跡形もなく消えてしまった。
「これでオプション機能がインストールされました。お役立て下さいね」
「―――しまった!」
「え?」
「たった一枚しかないカードを使っちまったー!」
うあああ、なんたる不覚!
欲しいカードとのトレードでもないのに、レアカードを使ってしまうとは!
「これだから決闘者の人は……」
「なんだよう、決闘者なんだからいいじゃんかよう。
まあ、幼女じゃないから諦めるか。とほほ」
「あの、今後インストールカードを手に入れた時にも、ちゃんとインストールして下さいね?」
「……考えとく」
呆れと不安が入り混じった美少女に、さすがにただ断るわけにもいかず、ぼかして答えておいた。
そんなオレに、歩み寄ると
「使って下さい、ね?」
「わ、わかった。
わかったから、あんまり顔を近づけないでくれ」
き、緊張するんだし。
目線を逸らしながら、触れないようにジェスチャーで抑える。どうどう、落ち着いてくれ。
「私、竜太様のコレクションを増やしたくて頑張ったんじゃないんですからね?」
「わかった、わかったよありがとう。
ちゃんと有効活用させてもらうし」
「うん、ありがとうございます。
ではそろそろお時間ですので、こちらにはまたレベルが上がった時にお越し下さいね」
頷いたオレに、少しいたずらっぽい顔をして
「ではすぐにお会いしましょう、竜太様」
ひらひらのスカートの裾を摘むと、優雅に一礼してくれた。
は、反応に困るじゃんかよ。絶対領域とか見てねーし!
「ん、また頼む」
「はい、頼まれました」
笑顔の美少女に、とりあえず軽く片手を挙げ。
オレの意識は光に飲まれた。




