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神魔大戦 Hero&Forces  作者: 岸野 遙
プロローグフェイズ
1/40

準決勝&勝利

 青い空の下、緑の大地に。

 吹く風にも散らせぬ熱気を纏い、戦の雄叫びが響いた。


 銀色の甲冑に身を包んだ軍勢が、敵陣を目指し草原を進んでいく。

 軍勢の傍らには、赤い狼に跨った少女が足並みを揃えて、意気揚々と歩みを進める。


 さらに青空には、飛竜を駆る少女とグリフォンに跨った少女。

 それぞれ、絹糸のように美しい髪を風に遊ばせ、互いの武器を掲げて敵陣を見据える。


 進軍する彼らの後方には、弓兵と魔術師の軍勢。

 そして、自信と信頼の笑みで仲間を見守る、彼女らのマスターの姿があった。


 敵陣に到達した飛竜少女が、号令と共に剣を振り下ろす。

 その声にあわせて、グリフォンの少女が、赤狼の少女が、甲冑の軍勢が一斉に襲いかかり―――




「……投了」


 終戦を告げる一言にあわせ、脳裏の妄想ワールド内の敵陣で一斉に白旗が挙がったのだった。




「ふはははは、我が陣営に敵なし!」


 今日は絶好調だ、この勢いで次も必ず決める!

 準決勝を順調に勝てたことで、安堵以上に興奮と優勝への手応えを感じた。


 司会のちょっと失礼なアナウンスを聞き流しつつ、オレはカードをデッキに戻して、軽くシャッフルした。

 それから、オレ自身であるマスターカードと、その傍らに置かれた宣誓カードをデッキと共に手の甲のホルダーに片付ける。

 さらにマナチップやマーカー類を袋にまとめて、席を立った。

 オレに敗れた対戦相手は、無言で自分のデッキのカードをまだ見つめている。


 心の中で和やかな挨拶を交わし、控え室―――なんてしっかりとしたものではないが、オレに割当てられた決闘デュエルスペースに下がった。

 試合用のスペースでは、5分ほど休憩した後に三位決定戦が行われるらしい。

 そっちの試合にも興味はあるが、決勝戦前にイメージトレーニングもしておきたいところだ。


「まだ試合まで5分はあるし、とりあえず昼飯にするか」


 漫画喫茶のような個室の卓上にデッキを広げつつ、かばんからとりだした餅をかじった。




『神魔対戦 Elite&Forces』


 全世界で多くの中毒者を生みだす、今最も人気のあるカードゲームの名前だ。

 かくいうオレも、何年も前からずっとプレイし続けている。

 腕前の方は、そこそこの規模の大会―――つまり今日の大会の、決勝戦に出れるぐらいのレベルだ。

 弱くはない。

 弱くはないが、日本ランカーとか狙うにはまだ力不足といったところじゃないかな。

 ショップ店員くらいならやれるだろうけど、ゲームのプレイヤーで食っていける程ではない。

 ていうか、あんなレベルの奴等は別次元だ。やる気も情熱も、プレイ時間も財力も。

 普通のオタクとしては、十分誇れるレベルだと考えている。


―――考えてはいるんだが、でも少しだけ。

 日本一、なんて称号には夢と希望を感じちまうんだよな。

 少年の冒険心が震え上がるって感じ?

 遠すぎて現実感はないけど、妄想程度にはオレが日本一になったらと想うわけだ。


 さておき、このエリート&フォースなんだけど。

 ああ、本家の名称はもちろん英語だが、日本語表記だとカタカナなんだよ。これ豆知識マメな。

 なので基本的にはカタカナで語らせてもらうとして。


 エリート&フォースのプレイヤーは魔法を操る『マスター』となり、魔術の使用や魔物を召喚して対戦相手を倒すのが目的だ。

 基本的な流れとしては、まずユニットをお互いに召喚していき、相手のユニットを倒して経験値を貯め、マスターのレベルを上げる。

 レベルが上がったら使えるマナも増えるので、徐々に高ランクのユニットや強い魔術を使えるようになる。

 そうして、相手より強いユニットを揃え、敵軍を殲滅し敵マスターを倒せば勝利だ。


 もちろん細かいルールは大量にあるんだけど、それは置いといて。他のカードゲームとの違いは大きく2点だと思っている。



『皆様お待たせしました、これより三位決定戦を始めます!』


 お、始まるみたいだな!

 口の中の餅を咀嚼しながら、個室の壁に掛けられたスクリーンに目を向ける。

 そこには、対戦する2人の姿が映っていた。


『一人目は、Elite&Forcesの申し子とも言うべき正統派の軍勢使い!』


 オレと対戦しなかった方の選手が、どっかで見たような笑顔で手を振っていた。

 おばんか。

 思えば、昔と比べてずいぶんと女性プレイヤーも増えたものだなぁ。怖い怖い……


『準決勝では惜しくも敗れたが、三位決定戦で大海原から巻き返しを狙う!

海軍セーラーアイドル】赤川あかがわ しずく選手ー!』


 ぱちぱちぱちと、会場内からわりと大きな拍手が飛んだ。

 あわせて、やや野太い声援が飛び交う。


『女性プレイヤーとしては抜群の実力と知名度を誇る赤川選手、一部では熱狂的なファンもいるとか。

 雑誌の取材なども多く、Elite&Forcesのアイドルとして大ブレイク中です!』


 ふーん。

 なんか見たことあると思ったら、そういや誰かが騒いでたっけ。

 世間一般的には、美少女決闘者デュエリステスとか、海軍セーラーアイドルとか、なんとかかんとか。言ってたような。


『準決勝では、海王精鋭軍やドルフィンライダーズなどの高ランク軍勢ユニットを扱っていました。

 きっと今回のデュエルでも、強力な軍勢達を見せてくれることでしょう!』


 野太い声援が、結構うるさいなぁ。

 そんなにいいもんかね、このおばん。


 年齢は二十ぐらいかなぁ、目鼻立ちのしっかりしたアイドル顔をしている。

 全体的にスラリと細く、まぁ世間一般的には文句なしの美人なんだろうなぁ、きっと。

 でもオレとしては、おばんに興味はないのでどうでもいい。持ってるカードの方がよっぽど興味あるよな。


……けして僻んでいるわけではない。

 そうさ、僻んでなんかいない。人気があるとか声援がすごいとか友達が多そうとか、けして僻んでるわけじゃねーし!


『さて、そんな海軍セーラーアイドルと戦うもう一方の紹介です。

【穴掘りリザードマン】小橋こばし いつき選手ー!』


 ついさっきオレと戦った、前髪で目元を隠した中年が頭を下げた。

 先程よりも明らかに小さな拍手が、ぱらぱらと鳴る。


 オレも軽く手を叩いた。

 好敵手ライバルなんてもんじゃないが、今日初対面の仲ではない。

 自分の趣味をめいっぱい詰め込んだデッキで戦うスタンスは嫌いじゃないし、おばんよりは頑張って欲しいものだ。

 ともだ……なんでもない。何も言ってないし。


『準決勝だけでなく、全試合一貫してユニットよりも予約リザーブカードを中心とした戦いを進める罠使いです。

 穴だらけの大地で待ち構えるリザードマンの群れを、いかに攻略するかがカギとなるでしょう!』


 司会の発言が、どう聞いても勇者おばんが悪者リザードマンの討伐に向かうって図式なんだが。

 どんなカードを使おうと決闘者デュエリストは平等である、という基本理念くらいはしっかり持って欲しいもんだよ。ふう。


 あいつの罠デッキ相手には離脱付きの騎乗ユニットがかなり役に立ったが、決勝戦ではどうかなぁ。

 次の相手、アンデッドデッキだったよな。そうするとキーになるのはやっぱり……


『両者、準備はよろしいでしょうか?』


 2つ目の餅をかじりつつ、決勝の事を考えながら両者の準備と宣誓をぼんやりと眺める。

 やがて、選手の準備が整い、司会が一つ頷くと。


『それではこれより、三位決定戦を開始します。

 Elite&Forces、デュエルスタート!』


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