プロローグ
「地球は28世紀末に氷河期を迎える。」
あるアメリカの自然科学者がそのように発表したのは西暦2655年のことだった。
当時の人々はそんなことを言われても、あまり関心を示さなかった。
100年後の話などピンとこなかっただろうし、正直なところ100年後に生きている人間などいるはずもない。
そう考える人の方が実際に多かった。
その発表の62年後に、南極の氷が急激にとけ出すようになるまでは。
地球温暖化が南極の氷をとかす原因となっていたのは、20世紀から分かっていたことだ。
少しずつとける分にはあまり影響がなかった。
急激にとけ出したということが問題だった。
氷が急激にとけたことで、海水の温度も比例して低下した。
海水の温度が低下することで、大気の温度も低下した。
その結果として、氷河期を誘発することになった。
氷河期になることを止めることはできない。
多くの議論の末に一つの結論に至った。
「別の星に移住する。」
これが結論だった。
当時の科学技術は宇宙に人類全てを乗せて移動することができる宇宙船を作ることは可能だった。
問題は、地球以外に生きることができる星を見つけることだった。
それからさらに41年後、ようやく移住が可能な星が見つかった。
調査の結果、その星には先住民もいるとのことだった。
不安と希望を抱えながら、地球人はその星に移住することになった。
そして16年の宇宙の旅を経て、新天地である星『アルフ』に到達した。
アルフは地球とは反対に海よりも陸の方が広い星だった。
地球が『青い星』と言えるなら、アルフは『紅い星』と言える。
それは地球人にとってありがたいことであって、大したことではなかった。
それよりも地球人が気になった…否、気にならざるを得なかったものがアルフにはあった。
風をおこし、雨を降らせ、火を生み出す…。
あるいは、怪我や病気を治し、空を翼も無しに飛ぶ…。
そんなことを平然と、当たり前のようにアルフの人々は行う。
地球人がたどり着いた星は
『アルフ』は魔法の存在する星だった。