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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第一章 進入不可
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進入不可 その八

進入不可 その八 です。


よろしくお願いします。

 僕らが入店したカフェはショコラカフェの専門店でどうやら名前の通りチョコレートを取り扱っているお店らしく焼き菓子やケーキがショーケースに並べられている。その中でも彩り鮮やかなマカロンは興味をそそられた。先ほどシュガードーナッツを食べたばかりなのでここは我慢しよう。

「食べたいけど今は我慢だわ」

「奇遇、私もちょっと抑えているだよね。ほら動かなくなったから筋肉が脂肪に変わっていて困っているの」

「そら三年間も動かんかったらそーなーわな。うちはつい半年前まで現役だったけん、まだ動けるで」

 それでも甘いモノは食べたいのですという気持ちがひしひしと伝わってくる。

「というか、桜子ちゃん。君も柔道をやめたの?」

「言っとらんかったかいな。うち、柔道は高校で引退したに。ちょっと体は動かしたいけん、適当に柔道場でも探さ思っとるけどな」

「でも、君が入学した大学って」

「そうなんです。桜子が通っている大学は柔道でも強豪校の一つなんですよ。スポーツ推薦でも入れるのに、学力のみで入るなんて。驚きですよね」

「なんでまた柔道を辞めたの」

「それは、言わん」

 強い拒絶を感じたのでこれ以上は聞かないことにしよう。

「私、理由知っていますけど教えましょうか?」

 そういう高橋理緒からは楽しみたいという思いが強かった。どうやら、桜子ちゃんをからかいたいらしい。

「理緒、いらんことゆったら落とすで」

「やれるものならどうぞ。返り討ちにするから。筋力はなくても技は衰えてないつもりだから」

 一触即発気味な二人を宥める。なぜこうも喧嘩っ早い女の子たちなのだろう。柔道をしている子はみんなこんな感じなのだろうか。

 カウンターにいる店員さんと顔があったので、小さく頭を下げてからドリンクの注文をすることにした。向こうも面倒な客が来店したなと思っているに違いない。冷やかしではありませんよという意思表示で睨み合う二人を呼んで注文するように催促した。

 僕と高橋理緒はカファラテを注文して、桜子ちゃんはアイスティーを注文した。ショコラを取り扱った専門店なのにショコラを一つも注文しないというのは気が引けたが、今日のメインは飲食ではないので諦めた。会計を済ませてドリンクを受け取った後、僕らは二階に上がると、片側に座席シートがあって手前にテーブルと椅子が一脚という感じで六席設けられていた。幸いなことに他に来客がいなようだったので、手前の席についた。もちろん、僕が椅子で女性二人は座席シートだ。

 三人とも注文したドリンクを一口飲んだ後、僕の正面にいる桜子ちゃんが両肘を付いて話しかけてきた。

「そんで、二冊目の小冊子はもらえたん?」

「それが小冊子に書かれていた住所にいったんだけど、どうしても辿りつけなくて」

「ほんじゃ、嘘を書かれとったってこと? それとも暗号みたいなんがどっかに書かれとるとか?」

「僕もそう考えた。後で読み返すつもりだけれど、それらしい文章はなかった気がするんだよね」

「そうなってくーと、こっからは理緒の出番になーな」

 桜子ちゃんが高橋さんと目を合わす。

「井上さん。小冊子は持ってきていますよね。それを私に貸して貰えますか」

 言われるがまま、僕は鞄の中に入れておいた小冊子を取り出してテーブルの上に置いた。小冊子が読めないことはもう知っているはずだし、呪いを掛けられる心配もない。僕以外にとって何の意味もない小冊子であるはずなのに、高橋理緒は探偵としてどう扱うのかきになった。

「どげだ、理緒?」

「人を呪う本だから、協力はできるかもって思っていたけれど、予想以上だったかも」

 二人の会話についていけない僕は蚊帳の外で何をするのか見守ることしか出来ない。

「実際に目にするまで半信半疑だったけれど、これは本物だね。これを読んでしまった井上さんが呪われているのも事実だってわかった」

「呪いも本も嘘だと思っていたんですか?」

「ええ。もしかしたら桜子が変な男に騙されているんじゃないかって、思っていたくらいです。もし騙されているのなら制裁しないといけませんからね」

 これが普通の反応だよな。先週、非常識で非日常を体験してしたお陰で変な免疫がついてしまった。制裁とはまた過激な発言だけど、冗談ではなくて本気だから余計に怖い。

 高橋理緒は手持ちのバッグから型の古い折りたたみ式の携帯電話を取り出して小冊子と向き合うように置かれた。これが意味するところはまだわからないけど、僕も高橋理緒について知りたいことがある。

「道具の探偵とはいったいなんですか?」

 僕もまた高橋理緒と同様に道具の探偵という存在に半信半疑だった。さすがに桜子ちゃんの友達だからケチをつけるつもりはない。助けてくれるのであれば、高橋さんの口から事実を聞きたかった。この目さえあれば、彼女が探偵であることくらいわかってしまう。

「厳密にいうと、私は探偵ではありません」

 高橋さんは言葉を切る。自分の秘密を打ち明けることに躊躇しているようだった。

「言いにくいのなら無理をしなくても」

「大丈夫です。桜子と親しい人になれるのなら、私は井上さんを信じます。私はある特定の道具であれば触れることで会話ができます」

 高橋さんはバッグから折りたたみ式の古い携帯電話を取り出して耳に当てる。

「携帯を持って話さないと、周りからみたら頭の痛い女にしか見えませんから。一人でいる時はこんなの使いませんけどね」

 苦笑いをしながら彼女は窓際にあるカウンターに視線を向けた。そこには一人で外を眺めながら小休憩を取っている女性客がいた。

 彼女もまた非日常と非常識の合間にいる側の人間なのだと教えられた。僕の呪いのことも小冊子のことも彼女は初めから受け入れることができたんだ。

「これからこの小冊子と話をします。でも、道具と話している姿に注目しないでくださいね。集中できないとかじゃなくて、単に恥ずかしいだけなので」

「うちらはうちらでなんか適当に話でもしておくわ」

「井上さんがこの小冊子から聞き出したいことは、骨董店の行き方と小冊子を集める以外でも呪いを解く方法だけでいいですか」

 新たに聞きたい事と問われると悩んでしまう。そこでパッと思いついたことをお願いしてみることにした。

「この小冊子を書いた人は、読者を呪いそして報酬を与えようとしたのか、聞いてもらえますか。作者の意図というか目的が知りたい」

 高橋さんはわかりましたと答えた。テーブルに置かれた小冊子に触れながら携帯電話を耳に当てて何食わぬ顔で「もしもし」と話しかけた。

「私達の会話を聞いていたから知っているとは思うけど、井上さんは古道具屋に辿りつけなかったのはなぜなの? ああ、そういうことか。じゃあ……」

 小冊子との会話が始まり、僕と桜子ちゃんはなるべく彼女を見ないようにしてドリンクを飲んだ。さて、携帯電話で通話をしている人が近くにいる場合は聞き耳を立てるか、気にせず話をするかのどちらだが、僕らが選んだのは後者だった。

「桜子ちゃんは高橋さんがこんなことが出来る人と知ったのは中学生の頃から?」

「いんや。中学の頃は理緒も普通だったで。理緒がこれを出来るようになったんは高校に上る前の春休みで、理緒と直接会ったんはその年の夏休みだけんな。あん時も大変だったわ」

 桜子ちゃんが過去を振り返りながら溜息を付いた。

「まさか大きな事件に関わってしまったとか?」

 冗談のつもりだったけど、桜子ちゃんの返答は「そげだで」だった。

「三年前だけどよー憶えちょるわ。うちは個人戦で全国大会に出場することになっとたっけん東京に来とったんだわ。全国大会は武道館でやっちょって、そん時に理緒と会ったに。まー、中学時代と違って荒れちょる感じだったわ」

「桜子、余計なことを言わないで」

 高橋さんは折りたたんだ携帯電話をテーブルに戻していた。どうやら小冊子との会話は終わったらしい。

「あの時、助けてくれたから今もこうして友達でいられるから嬉しいけどさ」

「そげそげ。理緒がおらんかったら、井上さんを助けることさえ出来んかったけんな」

 そうねと言って高橋さんは僕に顔を向けた。

「結果だけを言いますね。まず骨董店へ行くには小冊子に書かれている行き方を口にしながらでないと辿りつけないそうです」

 小冊子に書かれていた内容を思い出す。彼が骨董店へ向かうまでの道順が確かに書かれていた。それを復唱しながら歩けということなのか。

「独り言を呟いているようにみえるかもしれませんけど。骨董店へ行くためですから諦めたほうがいいです。呪いの解き方ですが、小冊子自身は知りませんでした」

「そうですか」

 落胆する僕に高橋さんが語りかける。

「道具は自分が持っている知識、記憶以上のことは知らないんです。例えば、テストの答案用紙に問題の答えを聞いたとしても、彼らはテスト用紙ですから数式を解くための知識はありません。この小冊子はさらに特殊で自分の役目となる部分はきちんと答えられるのですが、それ以外のことは全く知りません」

「読者に呪いを掛ける事と、自分に書かれている文章の意味だけということですか。じゃあ、僕が新たに付け加えたほうの質問は?」

「それは聞き出せました。これは著者の意思なのか、小冊子の製作者の思惑なのかわからないと言っていましたが、この小冊子を作った理由はただの気まぐれで深い意味は全くない。ただ自分、つまり小冊子自身がここに存在することで世の中が少しでも変わったら面白い、そういうことだそうです」

「なんそれ。随分と自分勝手なやっちゃな」

世の中を楽しもうとする春生と似ている所があるけれど、どこか方向性が違うようだ。なんとなく、春生がこの本を自分のものとしなかったのがわかった気がした。

「ひとまず、骨董店の行き方はわかったからそれでいいとしよう。高橋さん、ありがとうございました」

「私も協力できて良かったです」

 そういってカフェオレを一口飲んだ後、とてもいいにくそうに「あの」と口にした。

「もし良ければ、私にも小冊子探しを手伝わせて貰えませんか」

 突然の申し出に驚いた。気持ちはありがたいけれどそこまでしてもらう理由もないし、なによりこれ以上、僕の為に迷惑を掛けてしまう人が増えるのは避けたかった。

「すみません。井上さんのためだけに探したいんじゃないんです。これは、私のためでもあるんです」

「どういうことですか?」

「その小冊子を制作した人物は、もしかしたら私が追っている人かもしれないんです」

 僕の意図としない所で、物語が急転していく。

 これが偶然なのか必然なのかも判断できないでいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

進入不可 その八 は如何でしたでしょうか。


明日も投稿を予定しています。

よろしくお願いいたします。

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