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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第六章 禁書読書
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禁書読書 その七

禁書読書 その七 です。

この部をもって完結となります。


よろしくお願いいたします。

 翌日、僕は桜子の部屋で一泊することにした。早めに目を覚まして自分が住んでいるアパートに帰宅することにしていた。就寝前に始発で帰ると桜子には伝えてはいたけれど、念のため置き手紙を残しておいた。春生みたく姿を消すみたいなことは書かず、今日の夜もここへ戻ってくると。

 熟睡している桜子を残すのは後ろ髪を引かれたけれど、仕事がある以上しかたがなかった。

 始発に乗車して自分のアパートに戻ってからすぐに弁当を作って、気がつけば出勤時間間近となっていた。いつもどおりの時間に出社して、今朝方届いた書籍や雑誌などを検品し、棚への陳列、平積み、売上げデータの確認などなど普通に仕事をこなしていく内に、退勤時間となった。

 5月下旬は日が落ちるのも早く、昨日の雨雲も残っていて空模様はどんよりとしている。空は残念かもしれないが、僕自身はとても晴れ晴れとしている。呪いという憑き物が落ちたおかげでもあるし、数年ぶりに恋人ができたおかげでもある。

 店を出た僕は一旦、渋谷駅に入って銀座線に乗って表参道で降りた。前回は徒歩で骨董通りまで歩んだけれど、無駄な体力を使いたくもなかったし、早く用事を済ませて帰りたかった。

 骨董通りを突き進んで、まほろば骨董店がある路地に到着する頃には街灯の明かりが頼もしい薄暗さになっていた。

 夜の時間帯ということもあって、この街路を歩いている人は見当たらなかった。突然、僕がここで消えたとしても、大きな騒ぎになることはないだろう。

「まほろば骨董店の入り口はここだ」

 何もない空間に向かって呟くと、ここへ初めて訪れた時と同様に目の前が歪み空間と空間の間が裂けてモダンな建物が姿を表した。

 店の装いに変化はなく、ずっと昔からここに存在していたと主張している。

 立て付けの悪い引き戸を引いて店内に入る。これもまた以前と同じく、骨董品で溢れかえり、人ひとり分しか歩けない道なき道を歩く。

 この店の店主である斉藤さんが鎮座しているはずの木机の前に到着したのはいいが、居るはずの斉藤さんの姿が見えなかった。

「こんにちは」

 僕は辺りを見渡しながら呼び声をかけた。

「斉藤さん。いらっしゃいませんか?」

 名を呼んでも返事は返ってこない。腕時計を見ると時刻は十九時。夕飯時と言えはそうだが、食事にでも出かけたのかもしれない。

 日を改めてまた訪れればいいのかもしれなかったが、またここに足を運ぶのは気が引けた。円城が残した指南書を手に入れることで、僕が関わってきた全ての出来事が完結するからだ。悠長にまた今度、などと言ってしまっては尾を引いているようで気持ちも悪いのだ。

「斉藤さん、いらっしゃいませんか?」

 無駄だとわかっていても呼びかけてしまうのは早く帰りたいという願いから来るものだった。

「聞こえているよ」

 怒っているような声で返事したが、どこから聞こえてきたのかわからず、辺りを見回す。

「ちょっと待って。そっちに行く」

 どかどかと足音を立てながらまほろば店主斉藤さんが姿を表した。

「あんたか。待っていたよ」

 斉藤さんは僕の顔を見るなり、握手を求めてきたのでそれに応じた。

 手を握り合って数回ほど重なりあった手を降った。

「この日が来るのを待ちわびていたよ。それで、君はどちらにしたんだい?」

「報酬はもらいます」

「そうかい。やっぱり言霊という力に魅了されたか」

 斉藤さんが気にかけていたのは、報酬の指南書を受け取るかどうかだ。つまり、僕が言霊を手に入れるか、否かだ。

「言霊は、要りません。ただ、本を所有するという意味で貰いに来ました」

「なるほど、やっぱり君は変わっている。面白い男だ」

 斉藤さんと話していると、どうやらこの人は円城が何を企んでいたのか、知らない様子だ。けれど、昨日までの話を斉藤さんにするつもりはない。無駄な話ではないけれど、時間を無駄にはしたくない。指南書を手に入れたら、天見さんか月森さんに連絡をしよう。

「実は、その指南書なんだが。渡す前にある男と会ってもらいたいんだ。俺の馴染みなんだが、どういうわけか君が今日来ることを知っていたんだ」

 歯切れが悪い言い方をする。ここに来ることを知っているのは、数が限られている。今回の小冊子探しに関わった男性を思い浮かべる。小林くん、総一、そして春生くらいしかいないが、ここに入ることが出来るのは春生だけだが、昨日も会って今日も会うなんて考えにくい。

「あいつも、店内にいるんだが。どこへいったのか。おーい、井上くんが来たぞ」

 斉藤さんは野太い声で店内に呼びかけると、

「はーい、はいはい」

 僕の背後から陽気な声が聴こえる。さらに僕はこの声に聞き覚えがあった。

 背後から足音が近づいてくる。とてもゆっくりした足取りではあるけれど、足音が存在感を際立たせている。

「井上優太くん。久し振りだね」

 初めて会った時と同じように、彼は僕の名を呼んだ。振り返ると、黒のスーツに青のシャツ。左手首には刺青が見え隠れしていた。

「吉田さん、ですよね?」

「あれ、君には名乗っていなかったはずなんだけどなー。あ、千弦から聴いたのかな?」

 何も面白く無いのに、吉田という男は笑いながら後頭部を軽く掻いた。彼は女泥棒である中村千弦さんの上司であり、この人もまた泥棒ということらしい。

「此処に来ることは、千弦さんから聞いたんですか?」

「うん、まぁ、そんなとこだね。もちろん、君が指南書を手に入れることも知っているさ。一応、千弦と春生くんの上司であるからね。このボクは」

 吉田さんの返答に驚き、すぐに返答ができなかった。

「春生が、あなたの上司? あいつも泥棒になってしまったんですか?」

「そうだよ。彼はこちら側の人間になってしまったのさ。心配はしなくていいよ。法律で裁かれるような悪事はしていない。ボクらはわかりやすい表現として泥棒と名乗っているだけだよ。むしろ悪人を裁く側のほうさ」

 またもやわかりにくい説明をされる。その職種について幾つか聴きたいことはあったけれど、あまり長居はしたくなかった。

「斉藤さん、どうして指南書を受け取るのに、この人と会う必要があるんですか?」

「おいおい、随分な言い草じゃないか。そんなに嫌われるようなこと君にしたかな?」

「そんなつもりはありませんよ。吉田さんと会う必要があるのか、僕にはわからないだけです」

「初めて会った日。僕は君に合格と言ったね。春生くんに詰め寄ったらしいが。そんなに気になったのかい?」

 吉田さんは僕の質問には応えようとせず、自分のペースで話し始めた。自分勝手なところが、とことん僕と合わない。

「ええ。合格の意味がわからず、春生にも聞きましたがはぐらかされて」

 ゴールデンウィーク中、春生を探していた最中に吉田さんと出会った。彼は僕と幾つか会話をした後に「合格だ」と呟いたのだ。今になっても、その合格の意味はわからない。

「君はね。井上優太くん。特別な力を所持しない人種という意味での合格したんだ」

「それは大きな間違いです。現に僕は借り物とは言え、言霊という最も珍しくて強力な力を所持していました」

「君は春生くんから『白紙双紙』を受け取る際に、言霊という力を得られると知らずにあの小冊子を読んだ。借り物だったその言霊はもうない。君は強制的に言霊を譲られただけであって、意図的に貰い受けたわけじゃない」

「言葉のあやとりでもするつもりですか?」

「そう。(あや)を取っている。でも、君は特殊な力を放棄した。どんな力なのかもわかった上で所有することを捨てた。特別な力を得ることも使えることもできるという人間を、ボクは合格と言ったのさ」

「僕を泥棒の組織に引き入れようとしているのなら、お断りしますよ。それに特殊な力を使ってこその組織ではないのですか? 現にあなたは使っていた」

「まぁ、うちの組織のことはいい。ボクはね、君の本心が知りたくてここに来た。斉藤くん、例の本を彼に」

 吉田さんの合図によって、斉藤さんが懐から束になった鍵を取り出して、床に置かれていた金庫を机の上に置いて、鍵を差し込み解錠した。

 金庫から取り出されたのは二冊の本。一冊は古びてはいるけれどとても陰陽師がいた時代に造られた本には見られなかった。たしか、陰陽師が存在していたのは平安時代ぐらいではなかったか。それを考えると古びているとはいえ紙質からして新しく見える。本の作りも、例のごとく和紙と紐で装丁された小冊子だ。

 二冊目もまた形こそ紐でくくられた小冊子ではあるけれど、つい最近つくられた物にちがいなかった。

「さて、この二冊がどんな本なのか知っているね。言霊という力をどのように扱い、封じ、発展、進化などが書かれている書物だ。一冊は原本を明治時代に模写した一冊。その模写された指南書を現代語訳された一冊。こんな素晴らしい力を手にすることができるのに、君は放棄するんだ。これを所有するのは嘘なのだろう?」

 どうやら、天見さんたちの話も知っているらしい。

「ええ。言霊遣いに渡します」

「そうだ。君は特殊な能力を身につけようとしない。だからこそ、打って付けなのさ」

「打って付け?」

 思わずオウム返しをしたのは、吉田さんの真意が掴めないからだ。

「普通の人のままで、不可思議に飛び込もうとする人間を、僕らは欲しているんだよ。そう、あの中村千弦のような人種を」

 中村さん。中村千弦さん。ゴールデンウィークを最後に会っていないけれど、言われてみれば絵読術書はおろか他の技術書を使わなかった。

「さて、井上優太くん。君に面白い話を聞かせてあげよう。この二冊の指南書を手に入れたら、再び奇妙で不可思議な出来事に巻き込まれる。君は普通の人のままでいられるかな?」

 煽られるのは嫌いだが、吉田さんのいう面白い話は、気になった。むしろ、気に入ってしまった。

 特別で特殊な人間は、僕以外の誰かがやればいい。僕は僕のままで居続ける。

 机の上に置かれた二冊の小冊子を掴んだ。

 僕の物語は、まだ続く。

                         〈了〉

最後まで読んでいただきありがとうございます。

禁書読書 その七 如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


今回を持って小冊子シリーズ第二弾

『禁書読書』は完結となります。


最後の後書きとなりますので、

今回は長めに書き記そうかと思います。


連載を初めて二ヶ月になりました。

こんなに長い連載になるとは思いもしませんでした。

連載当初は毎朝9時に投稿していたのですが、

それも難しくなり、時間が伸びてお昼ごろの投稿が増えました。

いつもは前日に投稿する原稿をあげていたのですが、

ついに間に合わなくなり、当日書いて投稿が今日まで続きました。


連載一ヶ月目は、多くの方に読んで頂けたのですが、

ある日を境に、閲覧数が減り、ユニーク数も激変しました。

自分の描写力と文章力、その他の要因があってのことだと思います。

プロットといった骨組みを作らずに書き続けたので、

おかしな描写、辻褄の合わないところもあったかと思います。

すみませんでした。


正直、へこんでしまいましたが、

完結するまで書き続けようと努めました。


この作品を最後まで読んでいただいた

読者の方々には本当に感謝しています。

ブックマークの登録や、文章などの評価を頂けた時は、

本当に嬉しかったです。

ありがとうございます。


連載当初からの読者様、

連載途中からの読者様、

完結まで読んで頂けたこと誠に感謝しております。


ありがとうございます。


またいつの日か別の作品でお会いできたら。


それでは。

14/7/9 アサクラ サトシ

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