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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第一章 進入不可
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進入不可 その六

進入不可 その六 です。


よろしくお願いします。

 言葉が文字で見える呪いは小冊子に登場した呪術師の円城了と重要な繋がりがありそうだ。小冊子に仕組まれた呪いを解くには三冊目の小冊子を読めばいいと春生は言っていたけれど、一筋縄で終わるような気がしない。この『白紙双紙』を受け取った春生自身が騙されている可能性もある。

 色々と考えたいことはあるけれども、小冊子を探さない限り進展はなさそうだ。小冊子を閉じてテーブルに置くと、桜子ちゃんが早速はなしかけてくる。

「どげだった? なんかわかったことあった?」

 僕は小冊子の内容を掻い摘んで説明した。話している合間に疑問を投げかけてきたが、明確に答えることは出来なかった。彼女もこの小冊子が読めれば説明する手間も省けるのだけれど、春生の話では僕以外の誰かがこの小冊子を読むことはできない。

「ちょっと読んでみーわ」

 桜子ちゃんは僕が制止する間も与えてくれず、テーブルに置いた小冊子を手にしてページを開いた。冒頭の文章は消えていたから、僕みたいに呪いを掛けられることはないから慌てる必要はなかった。

 僕の心配を他所に、桜子ちゃんは小冊子のページを捲っていく。

「駄目だわ。どのページ開いても、なんも書かれちょらん。白紙だわ。井上さんには何かが書かれているように見えちょるの?」

 開かれた小冊子のページには文章がちゃんと見えた。僕にしか見えないことはこれで照明はされたけど、桜子ちゃんまで呪われてしまったらどうするつもりだったのかと、問い詰めた。

「うちは呪われても良かったんだで。したら、なんの気兼ねもなく二人で小冊子探しができるがね」

 安易に二人きりになりたいという気持ちの裏返しだと僕に伝わっていないと思っているのが、桜子ちゃんらしい。というか、これはもう僕に本音が聞かれても構わないという開き直りかもしれない。

「そんな強硬手段を取らなくても、一緒に探すつもりでいるよ。昨日も小冊子を探していたんだ。これからも二人で探そう」

「そういってくれると信じとったで。井上さんは優しいけんな。そんでいつから小冊子探し始める? うちは今日これからだって動けるで」

 やる気を見せてくれるのはありがたいけど、まともに動けないこの体で外を歩きまわる気にはなれなかった。明日からまた仕事が始まるので、今日一日はこのまま休んでいたい。

 僕の意向を汲んでくれた桜子ちゃんはうちも動かんと合わせた。こういう正式にお付き合いしている風の会話をしていると、僕と桜子ちゃんの距離どうなっているのか気になってしまう。痒い所に手が届かないこの感じがむず痒い。

 もしかしたら、桜子ちゃんにとって小冊子探しはちょっと危なげなデートと定めているのではなかろうか。その考えはぜひとも訂正していただきたい。

 デート改め、小冊子探しの日程を決めることにした。

 僕は仕事の都合上、毎週火曜日しか休みがない。年中無休の書店では週一の休みなんてよくある話だ。雑誌や書籍は発売日と発売曜日が決まっているので、連日で休みが貰えるのは今回のゴールデンウィークか正月くらいしか休みが取れない。大手の書店は知らないけど、弱小小売店ではこんな物だ。

「火曜日は午後に講義取っとらんから、自由に動けるで。んじゃ、毎週火曜は一緒に小冊子探しにすーか」

 まさか本当にデートをする感覚でいたみたいで僕としては嬉しいやら悲しいやら複雑な気分だ。気楽に言ってしまう所が桜子ちゃんらしくていい。ただ当人からするとそんな悠長な事は言っていられない。

「できれば来週の火曜日で片を付けたい。仕事に支障は無いかもしれないけど、僕は呪われている身だからね」

「ごめん。浮かれとったわ」

 こうして素直に謝れるようになったのは昨日の出来事が大きい。密度の濃い一日だったら人を変えるには十分だったと思う。

 そろそろ切り上げようと思い腰を上げた。

「もしかして、帰るつもりなん?」

「いつまでもここに居るのも悪いからね。それに鞄の中にある弁当箱も洗いたいし」

 食事を終えた後、自分の荷物を確認していた。部屋は八畳くらいあって、壁際のベッドから見て右側はバルコニーがあって遮光カーテンが引かれている。パソコンデスクがバルコニーの手前にあって肘掛け付きの椅子の上には僕の荷物が置かれていた。部屋の中央に僕らが座っていたローテーブル。桜子ちゃんが座っていた真後ろには二人掛けのソファがある。

 椅子の上に置かれていたデイバッグを手にする。

「そんなん、うちが洗っちゃるで」

「昨日からずっと同じ格好だし、それに体も洗いたいかな」

 昨日一日でどれだけの汗をかいたのかわからないけど、自分でもわかるくらい汗臭かった。

「お風呂くらい入っていけばいいがね」

 僕は軽い溜息を付いた。ちょっとふてくされている桜子ちゃんに意地悪をしたくなるのは呪いのせいだと、言い聞かせる。

「一緒に居て欲しいのなら、ちゃんと言わないとダメだよ」

 引き止める言葉すべてに、寂しさと一緒にいたいという気持ちが伝わっていた。彼女の我儘ではなく、一緒にいてほしいという願望しかなかった。

 これくらい直球の直球で言えば桜子ちゃんも恥ずかしくて、居てほしいとは言わないだろう、と思った僕が甘かった。激甘思考だった。

「うちの近くにおって。ここに来て」

 僕の投げた直球はものの見事に芯を捉えて場外を超えるホームランとなった。さらに桜子ちゃんは自分の座っている真横の床を軽く叩いて、ここに座れと催促までしてくる。

「桜子ちゃん、僕の返事、いうべきかな?」

「まだダメ。あと、いやらしいことも、まだダメだで」

 これが、尻に惹かれている男なのかと妙に納得してしまった。


 風呂から上がると春生の衣類が用意されていた。さすがに下着までは借りたくなかったので、昨日まで履いていた自分のトランクスを履いておく。

 衣類を着て髪をバスタオルで拭きながらキッチンを横切ると、洗い物入れには僕の弁当箱が並べられていた。

 なんだかなぁーと呟きながら居間に戻るとソファに座って『白紙双紙』を持った桜子ちゃんと目があった。

「おかえり」

「ただいま」

 風呂に入っていただけなのに、お帰りと言われたのは初めてだ。僕が戻ってくるのを待ちわびていたらしい。

 僕がベッド側の方へ座ろうとすると、目で威圧してきた。ああ、隣に座れということですね。怖いアイコンタクトに従って桜子ちゃんの隣に座る。もちろん、少しだけ距離はおいている。

「あんな、この小冊子だけど、小冊子を集めらんでも解く方法があるかもしれんで」

「どういうこと?」

「うちの東京におる友達でな。変わった道具に困った人を助けてごさい探偵の女の子を知っちょるに」

 うーん。聞きたいというか、突っ込みどころが満載だ。

「友達で、探偵で、そして女の子?」

「そげ、めっちゃ美人で、柔道もめっちゃ強いんだで。中学の頃に全国大会で知り合った子なんだけど、これがまたいい子だに」

「さらに情報を増やさないで。混乱するから。一番、引っかかっているのは道具に困った人を助けるって、どういうことなの?」

「そのまんまだで。道具専門の探偵さんだに」

 胡散臭いと正直に言えたら、どれほど楽だっただろう。

「高橋理緒ってゆってな。詳しことは本人から聞けばいいわ。本当は二人だけで探したかったけど、やっぱうちの我儘だけん、我慢する。そんかし、ちゃんと井上さんの力になっちゃーけんな」

 桜子ちゃんなりに、僕のことを思ってくれて行動してくれたようだ。その気持ちだけで良かったのだけれど、道具の探偵か。

 また変な人と知り合うことになりそうだ。

 そうこう話していく内に、来週火曜日の予定が固まった。

 午前中はひとまず僕一人で骨董店へ足を運んで二冊目の小冊子を手に入れる。手に入れても入らなくても、午後には桜子ちゃんと道具探偵の高橋理緒と顔を合わせることになった。

「理緒はほんに美人さんだけど、気ぃつけんさいや。怒らすとうちよりも怖いし手も早いけんな」

 目移りしたらキレますという感情が言葉に乗って伝わってきた。

 来週の火曜日といわずいますぐにでもこの呪いを解きたいと思ったのは、ここだけの話だ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

進入不可 その六 は如何でしたでしょうか。


前作とくらべて、コミカルな描写が増えました。

こんな作風になりましたが、楽しんでもらえているのなら嬉しいです。


次回、道具の探偵である高橋理緒が登場します。


明日も投稿を予定しています。

よろしくお願いいたします。

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