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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第六章 禁書読書
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禁書読書 その一

第六章 禁書読書 その一 です。

よろしくお願いします。

 小冊子手記『白紙双紙』の感想を著者である円城に向かって臆することなく、感じたままのことを喋った。喋り通した。円城は終始無言のまま僕の言葉に耳を傾けていた。

 主に述べたことと言えば、登場人物である彼、つまりは目の前にいる円城了のことを指しているのだけれど、人格や言動に対して感情移入どころか共感することすらできなかった。むしろ怒りすら覚えていたと正直に打ち明けた。

「酷い評価を頂いたものだな。できれば物語性のところも教えてくれるか」

 僕にしては感想というよりも悪口に近い感想を述べたつもりだったが、円城了には全く堪えている様子が見受けられなかった。

「もういいだろう。僕は君の要望通りに感想は述べた」

 正当な権利を主張したつもりだが円城は頷きもしない。思い通りにならないのが気に入らないのかもしれないが、こちらだってなんでもかんでも彼の要望を聞き入れるつもりはなかった。

「君はできればと言ったんだ。だから言わない。こちらもそっちの要望に応えたんだ。今度は僕から君に訊ねたいことがある」

「なにを言っとるで。さっさと言霊を解いてもらったほうがいいがね」

「僕だってこの言霊を解いてこの男と別れたいのは山々だけれど、彼が作った小冊子を手に入れてからの三週間。何が起きていたのか知っておきたいんだ。たぶん、この男と直接話ができるのはこれが最初で最後だ」

 桜子が大きな溜息を吐き出して、僕の肩を軽く叩いた。

「変なとこで頑固だけんなぁ。いいわ、好きにしーや」

 桜子は鼻息を荒くしてそっぽ向いた。

「読者の判断は正しい。今日を逃せば君と再び会う日はこないだろう。そのためにも物語についても感想を聞かせて欲しかったのだがね」

「泣き落としかい?」

「俺は自分や他人に流す涙なんてない。君が言いたくなければ聞かないまでだ。では、改めて。俺に訊ねたいこととはなんだ」

「三冊目の小冊子を読めば、春生は僕が抱いている疑問が解ける、みたいなことを言っていた。この事象を操る言霊を手に入れて、ようやくわかったよ。君は、僕と何度か接触していたんじゃないのか?」

「え、いつ会っとったん?」

「それは知らない。記憶の改ざんをされていたからね。たぶん、僕だけじゃない。桜子や高橋さん、小林くんとも会っていたかもしれない」

 円城は僕らがどのように動くのか、直に聴いていたからだ。もちろん、会っていたという記憶すら消されて。

 桜子の顔が青ざめる。知らない間に記憶を改ざんされていると知ったら、誰でも驚くし恐怖する。しかし、僕が怖いと思えるのは人の記憶を平気な顔をして行ってしまうこの男自身だ。

「石田さん。安心するといい。君や付喪神探偵、それに吉行には会っていないし記憶の改ざんも行っていない」

「信じていいのかな?」

「信じるか。やはり君はずっと言霊を使っていないようだ」

「君を呼び出してから、フキダシも見ていないし、言霊も使っていない。この力はあまりにも反則すぎる」

 万能すぎる力は身を滅ぼすような気がする。僕は聖人君子でもなければ、正義の味方でもない。ただの人なんだ。黒にも白にもなれる。僕の感情次第で色んな物を、人を書き換えてしまうかもしれない。

「なるほど。読者の言いたいことは、よくわかったよ」

 円城は僕から出てきたフキダシを見て、僕の真意を読み取ったようだ。

「君は何時から僕と接触していた? 初めはまほろば骨董店から出た時、舟渡名鶴から僕らの存在を聴いたものだと思っていたんだけど違うはずだ。あの日、あの時間に行くことを事前に知っていた。と、すれば、君は僕が一冊目を手に入れた時点で接触をしていたということになる」

「詐欺まがいの男は、きちんと制裁しておいた。ああいう利己的な人間は俺も嫌いだ」

 詐欺とは。あのカードゲームのコードを盗みとった上に、うちの店に難癖をつけて新たな本を奪った男性客のことを言っているのだろうか。

 運悪く、あの日、クレーマーが訪れた日に円城は来店していたということか。けれど、あの詐欺まがいをした男に制裁をする理由なんてないはずだ。

 正義なんて言葉は使いたくないけれど、彼にも良心みたいなものがあったのだろうか。

 円城の表情が緩んだ。その笑みが意味しているのはなんだろうか。

「俺はあの男の仕草や言動、容姿がすべて気に入らなかった。制裁をした理由をつけるとすればこれだけだ」

 犯罪者みたく身勝手な犯行動機だった。

「種明かしだ。一冊目の小冊子は二度読んだはずだ。一度目の発熱からの昏倒。そして覚醒してからの再読。昏倒したのは、文字に含めていた言霊を受け入れるための準備時間であり、細かい指示を受け入れるための時間だ。その中に、俺の連絡先や落ち合う手段もあった」

 気に入らないやり方だが、理にかなっている。いつ読まれるとも分からない小冊子だ。まほろば骨董店をいつまでも見張りをさせておくわけにもいかないだろう。

「読者の君から連絡をもらった俺は勤め先にお邪魔した。最近は本を購入することがなくなってしまったので興味本位に覗かせてもらったよ」

 円城がどのようにして僕らの行動を知り得たのか納得はできた。

「もう一つ。山本に与えていた技術書の中身。あれを作ったのもあんただな?」

「彼は強い力を欲していたからね。あれは小冊子を制作してくれた山本に対しての謝礼だ。読者である君との戦闘でも使うように所持したが、まさか三冊目を読まずに立ち向かうとは思いもしなかった。いや、そうさせた原因は俺だがね。それと、あの技術書に関してだが、あれはまだ持っているかい?」

「あれは、君を呼び出す前に、春生と会って返したよ。三冊目を読もうと決めたのも、春生の助言があったからだ」

 感謝こそしているけれど、心中は穏やかではなかった。春生は一つだけ僕に嘘をついた。

 春生は、技術書についても三冊目を読めばわかると言っていたが、嘘だった。まんまと春生の演技と話術にはまったのだ。フキダシを見ないと意識していると、春生は察したのだろう。それは友達であるからこそ信用してくれるだろうという僕の思考を読み取っての行動だ。

 あとはもう、僕に与えられた言霊を剥ぎとってもらうだけなのだが、まだ話し足りないような気がした。話し足りないではなく、もっと根本的なこと。

「円城。君は小冊子を作った本当の目的は一体なんだったんだ? 言霊の力を与えるだけなら、小冊子にする必要なんてなかったはずだ」

「目的をいうならば、それは俺自身が面白いと思ったから作っただけにすぎない。君も体験した通り、言霊とは絶対的な力だ。こんな力を苦労もせずに与えられるわけがない。小冊子を探して手に入れるからこそ面白いのだ」

「読者以外の人間が巻き込まれても、なんとも思わないのか?」

「思わない。道徳心に対して説教をしようとするのも無駄だ。それとも、意図的に使っていない言霊を使って俺の人格を変えてみるか? それもいいだろう。だが、それをしてしまったら、読者の君も俺と同じになる。君にできるかな?」

 唇を強く噛み締めた。ここで一言何かを言えば、確実に言霊として発動してしまう。それだけは避けたい。

「読者である君の言霊を無くす前に、報酬の話を先にさせてもらう」

「報酬なんて要らない。不要だ」

 どうせ、言霊に関する何かだろう。

「そう言わないで、報酬が何なのかも聞いておいて損は無い」

 僕は返事をせずに、円城を睨み続けた。どうせ、言霊に関係している何かだろう。

「怖い目だ。まぁ、それでいい。俺が読者に用意していた報酬はとある有名な陰陽師が残した本だ」

 予想は外れたけれど、間違ってはいなかった。

 有名な陰陽師と言われてまず初めに連想されたのは安倍晴明だ。

「残念だが、安倍晴明ではないぞ」

「陰陽師と言われれば誰だってその名前を挙げるに決まっている」

 ややムキになって言い返してしまった。

「名前は言わないが、とにかくとある陰陽師が書き残した本なのだが、もちろん原本のままでは読めるわけもないので、俺が現代語訳に訳してやった。内容は言霊の全系統と呪術に関する指南書だ。俺が読者である君に与えた事象を操る言霊もその中に書かれていた」

「春生が言っていた半分正解とはこのことか」

 具現化する能力の譲渡が僕ら初めにだした報酬だった。だが、用意されていた報酬はその根本ともいえる陰陽師の秘術だ。

「それでもだ。僕はもう言霊という力に関わるつもりはない」

「そうかい。まぁ、それもいいが、もう一つ面白い話を聞かせてあげよう」

 円城の口元の端が上がる。嫌らしくも不気味な笑みだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

第六章 禁書読書 その一 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


この第六章が最後の章となります。

あと何回投稿するか未定ですが長引かせる予定はありません。


明日も投稿します。

よろしくお願いします。

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