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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第五章 悪戯交差
52/62

悪戯交差 その五

悪戯交差 その五 です。

よろしくお願いします。


※追記 6/30 本文加筆修正しました。

修正加筆箇所は『コインパーキングから一台の高級車が~』

ここ以降から加筆しております。

 直立不動のまま頭によぎったのは当然、呪いもどきが解かれていないということだったが、それは否定された。言霊と呟いた後に得られた解放感は清々しさすらあった。

「優太さん、どげさいたの?」

 桜子が僕を覗き見ながら聞いてくる。彼女の中にあるのは不安と恐れ。つい数分前に携帯で離した時は普通だったのという心の声さえもきちんと聞こえている。

 これではまるで、

「言霊を手に入れたみたいじゃないか」

 切符売り場で腕を組んでいた天見さんが僕の呟きに気づいて顔をしかめる。腕をほどいて力強い足取りで僕に詰め寄ってきた。

「言霊を手に入れたってどういうことだ? あんたやっぱり初めからこうするつもりだったのかよ」

「なしてそげんこと言うで。優太さんはそんなつもりはなかって言っとたがね。ちゃんと優太さんを見てみんさいや。言霊の力を手に入れて喜んどる顔に見えーかや」

「どういう訳があって手に入れてのか、それは私も知らないし、どうでもいいよ。私が知りたいのは、そこじゃない。言霊を手に入れたってことは、私らと共に行動する意志があるのか、それとも言霊を授けた了に付くのかだ」

 天見さんは空手を習得した人が行う息吹を吐いた。

「日本刀」

 天見さんの具現化する言霊が見えた。厳密に言えば彼女が発した言葉がフキダシとして出現し日本刀へと変異していく様だ。そうして、言霊遣いの右手には本物の日本刀が握られている。

「そんなん出してどげするつもりだで」

「殺したりはしない。脅しさ。私だって、精神と具現化を手に入れた言霊遣いとやりあうのは経験が無いわけじゃないし、体術に関しては私のほうが上だと自負している。けれど、了と同じ力を手に入れたのなら、こちらだって警戒しなければいけないんだからな」

「待ってくれ。僕は具現化までは手に入れていない」

「そうかい」

 天見さんは微笑んだが、しかしその目は笑っているというよりも鋭さを増していた。日本刀を両手に持ち替えると、両脇を締めて刀は右頬の辺りに近づかせ、左足を半歩だす。素人の僕でさえ、天見さんの構えに隙がないとわかる。

「具現化までってことは、精神のほうは手に入れたと解釈していいよな」

「ふざけんなや。お前の勝手な思い込みだがや。優太さんの話も聞かんと決めつけたりすーなや」

 冷静な天見さんとは真逆に桜子は完全に激高している。あの子の正確だ。日本刀を目の前にしても、恐れこそあるものの天見さんに立ち向かうだろう。天見さんだって、なんの能力を持っていない桜子を傷つけるとは思えないが、なにが起こるのか予測すらできない。不幸な事故だって起こりえるのだ。

「動くな」

 僕の言霊によって二人は静止した。人を操る力の方は継続しているようだ。僕の言霊は天見さんの具現化とは違って、フキダシのような形では見えなかった。視認できたのは小さな粒みたいなものだった。その粒が彼女たちの体に付着し侵食したように見えた。

「嘘だろ。風鈴より上かよ」

 天見さんは身動きこそ取れないが、話すことは出来るらしい。その表情はかなり苦しそうに見えた。

「こんなことになるのなら、風鈴も連れてくればよかった」

 苦しそうな表情から一変して無表情となり、天見さんが手にしていた刀も消えた。

 二人をこのまま放置しておくこともできないけれど、一緒に行動するのもまた出来そうにない。

 僕の言霊を利用すれば二人の記憶を改ざんした上に行動を支持することだって可能だ。

 下り線の電車が井の頭線駅に到着した。ついさっき見えた電車が急行だったので、いま到着している電車は各駅停車なのだろう。井の頭公園ともなればベッドタウンでもあるので、少なからず下車した人達がいるだろう。この場所に居座ることは難しい。なにより、身動きも喋りもしない女性が二人もいるのだからかなり不自然だ。

 彼女たちを解放した後の事を考える。

 記憶の改ざんか、精神を操るか、その両方か。そして、僕はどうすればいいのか。

 駅のほうからざわついた雑音が聞こえ始める。

 もう、言うしか無い。滑舌がいい方ではないけれど、早口になりながらも僕は動きを止めた女の子ふたりに言霊を飛ばした。


 コインパーキングから一台の高級車が出て行った。相変わらず車に疎い僕にはあの高級車の名前どころかどこのメーカーすら知らない。たぶん、高いんだろうなーという感想しか持てない。そのいかにも高そうな車が車道に出るといきなり加速して走り去っていく。あの車を運転しているのはもちろん運転手は天見さんだ。暗闇の中に浮かぶテールランプが目に焼きつく。

「風鈴にはなんて言ったん?」

 僕の隣で囁くのは桜子だ。

「三つだよ」

天見さんに出した指示は桜子を解放する前にだした言霊だったので桜子も詳しい内容までは知らないままだ。

三つの内容。まず一つ目、僕と桜子の姿が見えなくなること。二つ目、居ないと思い込んだら駐車した車まで戻ってマンションに戻り、事の顛末を話すということ。

「小町には?」

「ほぼ同じことだよ」

 月森さんはコインパーキングに停車していた車内で僕らの帰りを待っていた。天見さんの後を追い、ここへ辿り着いた僕は天見さんよりも先に車へと近づいて、月森さんが座っている座席のウィンドウをノックした。

「あら、意外と早かったのですね?」

 ウィンドウを下げて僕を見上げた月森さんに言霊を飛ばす。

「月森さん、これからあなたは僕と桜子の姿が見えなくなります。そして、詳しい事情は今から戻ってくる天見さんに聴いてください。そして、二人でマンションに戻り二人で何が起きたのかを話してください。いいですね?」

「ええ。いえ、待って。それはどういう?」

 僕の言霊を受け取った直後、月森さんは目の前に居る僕を探していたが認識していない。車内で慌てふためく月森さんに気がついた天見さんが駆け寄ってきた。

 二人の言霊使いは言い争いこそするけれども、努めて冷静に振る舞って話を纏めた。

 天見さんが車に乗り込む際、すぐ間近にいる僕らを探したがすぐに諦めて運転席に乗り込み、乱暴にドアを締めた。

 一台の高級車が出るまでの出来事はこんな感じだった。

「記憶は操作せんでもいいの?」

「するつもりはないし、そんなことをしたら、それこそ本当に普通の生活へ戻れなくなるような気がしたんだ」

最後の三つ目は、僕からの伝言だ。

「僕を信じてくださいって、あのマンションにいた全員に伝えて欲しいって頼んだ」

「信じてくれーだーか」

「さぁ。どうかな。信じてくれてもくれなくてもいいよ。天見さんや月森さんには悪いとは思っているよ。円城了と会うために彼女たちは関わってくれたんだから。すでに言霊を手に入れた僕が会うとなれば、気に入らないとは思う。でも、これだけは言える。僕は円城了の言霊によって動いてはいない。また円城了も操る気はなかったんだ。三冊目の小冊子を読んだときはわからなかったけど、円城了は本気で読者に委ねたかったんだ」

「委ねるって何を?」

「報酬の譲渡さ」

「やっぱ、円城って人と会うんだね。ほんに大丈夫なん?」

 フキダシはもう見えないようにした。感覚的にしか言えないけれど、このフキダシというのはラジオの電波みたいなもので、言霊を使う僕は電源の入ったラジオ本体みたいなものだ。ようは、フキダシとなる電波を拾わないように電源を切る状態にすればいい。スイッチのオンオフはどこにあるのかと訊ねられたら、どこかにあるとしか言えなかった。

「円城了という男が何を企んでいるのかっていうのは覚えているよね」

「ん、覚えちょーよ」

「僕らが考えていた円城了の企みと、彼が本当に企んでいることは別かもしれないんだ。勿論、彼は悪い人間だよ。他人を巻き込んで楽しんで、心を弄んで、失意の底まで落ちた人を見て、助けもせず傍観するだけの冷たい人間性を持っているのは変わりない。それでも、彼は僕に、つまりは読者であり言霊を持った人間には別の思いで接触しようとしているんだ」

 春生の助言を鵜呑みにしてしまえば、そういうことになる。

「優太さんがそげな風に言うんなら、信じーわ。にしても、うちは嬉しいで。こうして二人きりになれたのもだし、うちのことを信用してくれたこともな」

「信じるさ。それ以前に僕ら二人でなければいけないんだ」

「一緒におりたいだけじゃいけんの?」

 どうしてここで怒ったような顔をするのかわからない。僕は獰猛な動物を宥めるかのように両手の平を見せて落ち着くようにと仕草で返した。

 桜子は頬を膨らませて小さな抗議を始める。

「んじゃ、なんだで?」

「この小冊子を探すと決めたのは、僕と桜子の二人だから。高橋さんや小林くん、天見さんや月森さんはに関係がない。円城了に会うことは、言霊遣いとしてあうのではなく、あくまでも読者として会うため。そこに因縁を持っている人間が加わったら、台無しじゃないか」

 この説得に言霊は使っていない。これも、まぁ、感覚だ。使うと意識しない限りは使えないと言った感じだ。こんな小さな説得にまで言霊を使う必要だってないのだ。

「そげだね。そげだったわ。肝心なことわっせとったわ」

 桜子が両手を交差しながら上に背を伸ばした。

「やっと二人きりで探すことができーね」

「もう三冊目は手に入れちゃったから探すも何もないんだけどね」

 思わず笑ってしまった。

「間違えたわ。二人きりになれたね」

 桜子が僕の袖を掴む。その仕草は彼女の甘え方の一つだともう気づいている。甘えてくれるのは嬉しいし、僕だって応えてあげたいけれど前面に出せなかった。

「桜子のほうこそ、大丈夫? 円城了に会う覚悟は出来ている?」

「安心しんさいや。うちはな、一人ではダメな子かもしれんけど、誰かと一緒におったら強い子になれーけんな。優太さんと一緒におったらそらもうめっちゃ強いで」

「頼りにしているよ」

 年下の、しかも女の子に頼る男もおかしいけれど、精神的な図太さも腕っ節も彼女のほうが何枚も上手(うわて)だ。これが僕なりの甘えかもしれないが、いつかは立場を逆転できたらいい。

「そんで、どうやって円城を見つけるで。言霊遣いの二人がずっと探しとっても見つからんかった人を、素人二人が簡単に見つけーことができーだーか」

「すごく簡単に出来るよ。きっと今すぐにでも会える」

 僕は三冊目の小冊子を取り出す。

「ここに会える方法が書かれているからね」

 三冊目の小冊子を読み終えた直後にはわからなかったことだけれど、呪いが解けた今なら円城了が書き残した文面の意味がわかる。合わせて春生が僕に小冊子を読むように催促した理由もだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

悪戯交差 その五 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


明日も投稿します。

よろしくお願い致します。

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