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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第五章 悪戯交差
50/62

悪戯交差 その三

悪戯交差 その三 です。

よろしくお願いします。


追記 6/28 10:05 文末を修正しました。

 僕の質問の仕方がいけなかったのか春生が不可解だとも言いたげに首を傾げた後、自分の中で納得して小さく頷く。

「俺から言えることはやっぱり三冊目の『白紙双紙』を読め、だ」

「さっきの疑問でさえも、報酬に関わっているとでもいうのか」

「悪いが、これ以上は教えられない」

 春生がお堂の階段から立ち上がり煙草を咥えて、フィルターを噛んだ。

「次に会うのはお前が円城と会った後だ。どういう結果になっていても俺はお前と会う。数少ない友達の一人だからな」

 その言い方は、僕が別人になるかのような口ぶりだった。それならば、今目の前にいるお前は、石田春生の方こそ昔のままであると言い切れるのか。

「お前自身が円城了に操られて記憶を改ざんさせられていることだって考えられるんだぞ。そうだとしたらお前の言ったこと全てが信じられなくなる。今のお前は円城了に操られていないと、それでも言い切れるか?」

 春生は僕のいうことなど気に止める様子も見せずにこの孤島からでる唯一の橋に歩みはじめた。

「春生」

「俺と円城の関係をきちんと話していなかったな。あいつは俺たちのクライアントでもあるんだ。客が俺らを騙してもメリットなどな」

「待て。話はまだ」

 僕の呼びかけに春生が足を止めたが、こちらには振り返ろうともしない。

「井上、桜子を呼び捨てにして呼ぶようになってどれくらい経った?」

「え?」

 想定もしていなかったことを聞かれたので即答が出来なかった。僕は腕時計を見て桜子と呼び捨てにした時間を思い出して逆算した。

「半日も経っていない」

「わかった。まぁ、せいぜい仲良くしろよ。万が一でも桜子を泣かせたら、酷いからな。その時は、友達ではないから気をつけろよ」

「お前、こんな時に冗談をいうなよ」

 明るく言ってみたものの、春生から発せられる殺気みたいなものが僕の体に纏わりつく。それは不快ではなくて恐怖そのものだった。

「俺がこの小島から出て行った後も人払いの結界はしばらくの間、有効にしておく。人が来ない内に、三冊目の小冊子を読め。じゃあな」

 今度こそ、春生は弁財天のお堂がある小島から出て行った。

 一人残された僕は春生が座っていたお堂の階段に腰を降ろして、三冊目の小冊子を取り出すも、すぐに読むことは出来そうになかった。

 日が沈み、空の模様は曇天のままで月さえも見えない。結界によって人が入り込めなくなったこの場所はあまりにも静かだ。

 小冊子を読んでしまった後のことが気になってしまうからだ。春生の言っていたことが真実なのか、それとも天見さんのマンションで導き出した答えこそが正しいのか。それとももっと別な結果が待っているのかもしれない。

 時間にして数秒間だけあれやこれやと試行錯誤したが諦めて、手元にある小冊子を開くことにした。

 春生の言葉や自棄を起こしたわけでもなく、僕の中にあったのは目の前にある文章をただ読みたいという衝動しか残らなかったからだ。

 強いて理由というのを付け足すとすれば簡単だ。こんな静かな野外で誰にも邪魔されず本を読むというのは贅沢の一つだ。誰も干渉されないという事実が読書欲を沸かせた。ただ、それだけなのだ。

 小冊子を開いて頼りない電灯の明かりで円城了が書いた語りを目で追い始める。

 この中で描かれている彼が円城了だとは分かっていても、僕が読み取れるのはこの小冊子手記『白紙双紙』の語り手である彼にしか思えなかった。つまり、ノンフィクションではあるけれど、物語とされた時点で語り手の彼と著者の円城了とは別人としか扱えないのだ。

 最後の小冊子にしては素っ気ない始まり方と終わり方をしていた。

 彼は書道家から教えてもらった円城了の工房に入った。山本(もちろん手記の中では円城了と書かれているけれど混乱するので山本とする)も彼が自分の工房に訪れるのを待ちわびていた様子で、両手を広げて彼の来訪を歓迎した。

彼は工房内を軽く案内されたが、どこかしこに山本が作ったオルゴールが設置されていて、絶え間なくメロディを奏で続けている。

さほど広くもない工房を案内し終えた山本は現在製作中である鬼の木像を彼に見せて、次のように豪語した。

「これが完成していれば申し分なかったのだけれど、贅沢は言えない」

 未完成の木像の上に山本は新たなオルゴールを取り出して蓋を開いた。当然、そのオルゴールさえも呪いが掛けられているものだとわかっている。だが、突然の睡魔に襲われることもなく、体にも変化はなかった。

 山本は自信家である彼なら油断をしているに違いないと踏んでいたようだった。オルゴールの呪いは沈黙。言葉を発することが出来なければ、彼もただの人だと山本が指摘する。

「このオルゴールを一度聞けば最後。例えオルゴールを破壊してもあんたに掛けられた呪いは解けない」

 山本は勝ち誇ったが、驚きもしない彼を見て苛立った。彼の目が山本を哀れんでいるようにしか見えなかったからだ。

「そんな目で見るな。あんたは俺の呪いに負けたんだ。自分の力を取り戻したければ俺の犬になれ」

「無理だな」

 言葉をまともに発することができないはずなのに、彼は悠然と否定をした。彼がどうやって言葉を発することができたのか詳細は明かされることなく結果のみ記されていた。

 工房に訪れてから五分程度。彼は山本の企みなどお見通しで声を封じられる対策を練って山本がいる工房にと訪れたそうだ。

 待ち望んでいた結果が得られると思っていたが当てが外れたと彼は言った。山本は彼が当初に考えていた通り、自分の仲間に引き入れることに成功した。

 山本は彼に説得されて仲間入りをしたわけではない。彼に操られただけだったのだと、同じ力を持っている僕にはわかった。

 本編の語りが終わると、そのまま読者である僕に向けてメッセージを残していた。

 前半は楽しんだとか、またこういう趣向をこらした遊びを試したいといった願望などが書かれていたけれど、後半からは雰囲を変えて呪いの解き方について書かれていた。

 この三冊目の小冊子を読むことで呪いを解く下準備が整ったとあった。完全に呪いを解くために必要なのは読者である僕が、この呪いがどういった力なのかを理解し言葉にすることで解けるのだと書かれていた。

 すぐにでもこの呪いが何であるのか答えを見つけたかったけれど、まだ小冊子を読み終えていないので彼の語りを読み続けると、彼の身勝手さが浮き彫りになった。

 読者の僕が呪いを解いた後、万が一にでも解かれたことが不服だと思ったのなら私に会えばいいと書かれている。つまり、人を操る便利な力を今一度手に入れたいと願うならば著者である円城了に会いに来いと言っているのだ。そして、小冊子を読んだ後の報酬についても、直接会えば譲渡するための場を設けるとまであった。

 一冊目では会っても僕の人生が大きく変わることが無いなどと言っておきながら、この言い草はなんだ。人を馬鹿にしているのにも程度がある。彼は、円城了は自分以外の誰かは手駒にしか思っていないのだ。

 そして、最後はこの一文を読んだ。

『名も知らぬ読者へ。私は何処にいる?』

 最後の最後で、会話をすることもできない僕に対して疑問符を投げかけてきた。散々、会話が成立しないと言っていた彼が書き残したのが、どこにいると聞いてきた。

 どこに居るのか知っていたら、天見さんと月森さんに教えていたさ。自分が起こっているのか呆れているのかいよいよ判別がつかなくなって来ている。

 読後の感想を敢えて述べろと言われれば次の小冊子がなくて良かったが、正直な気持ちだ。もう円城了が書いた小冊子に関わりたくはない。

 小冊子を閉じて、僕が座っている階段の上に置いた。

 もう、結論は出ている。天見さんと月森さんには悪いけれど円城了の居場所はわからないままだと伝えるしか無い。僕の意思はもう決まっている早く呪いを解いて終わりにしたいんだ。

 春生の結界はどれくらいまで持つのかわからないけれど、僕の呪いを解くまではここに居座ることにしよう。

 僕に掛けられた呪いが何であるのか、正しい名称を導き出すため思考を始める。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

悪意交差 その三 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


明日も投稿します。

よろしくお願いいたします。

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