悪戯交差 その二
悪戯交差 その二 です。
よろしくお願いします。
どっから話せばいいのかねーと腕を頭上に上げて背筋を伸ばしながら春生が言う。
「本当はな。お前の留守電を聞いても、折り返し連絡するつもりなんてなかったんだよ。でも、今日の夕方のニュースを見て気が変わった。今月に入って二度も月森の人間が動くのは有り得ないからな。この両家は円城と関わりがある。ということはあの男が作り上げた小冊子を探しているお前とも繋がりがあると直感したわけよ。あー、どうやって繋がったのかなんて、言わなくてもいい。どうせ、付喪神探偵の理緒って子が呼び出したんだろう? あの子の事を忘れていたのは完全に失念していたよ。まぁ、桜子のおかげもあって円城が描いていた当初の筋書きから外れたんだから、ある意味良かったんだろ」
「良くはない。結果的に、僕は桜子と友達の高橋さんを危険な目に合わせてしまったんだ」
「偽善者ぶってんじゃねーよ。桜子や理緒って子が居なくても、他の誰かが人質にされていたんだ。お前の知らない人が人質となってもお前は、同等の怒りや憤りを感じていたか」
「それは」
僕は口ごもった。春生の指摘は、正しい。知っている人間だからこそ心配できるのであって、名前も知らず、通りすがりの人間が桜子と同じような立場に立たされても、心配はするけれど、同じ感情を抱かないだろう。
「高橋理緒が登場した時点で、円城は新宿での暴動まで筋書きを書き換えたんだよ。お前も、そして付喪神探偵、天見、月森も同様に円城の手で踊らせていたんだ」
「筋書きを変えたのは二冊目を手に入れた辺だろう。円城は舟渡という呪術師を経由して高橋さんの存在を知った。あそこがターニングポイントだった」
高橋さんの顔は割れていたのだから、円城の耳に入ったと考えるのが妥当だ。
「円城が筋書きを書き換えた起点でもある。当初の筋書きでは、新宿での暴動はお前と呪術師の山本って男の一騎打ちだったはずだが、天見と月森の天才児二人と、付喪神探偵までも巻き込む形に書き換えたはずだ」
春生の話を聞いていると、どうやら全てを知った上で僕に話をしているようではなかった。
「細部は違っているけれど、大半は合っている。その書き換えたことが原因で、僕の留守電を無視できなくなった、ということでいいんだな。それで何をしてくれるんだ」
「手助けならぬ助言を与えに参上したわけよ」
助言というのなら、それこそ僕の携帯に連絡をすればよかっただけの話だ。桜子の携帯に電話を掛けることもなく、またこうやって僕を一人で呼び出す必要すらない。
「考えているなー。またもや口元を手で隠しているぞ?」
春生がニヤニヤしながらいうので、腹立たしかった。
「考えた所で、お前の中にある決定事項が変わらないから、その間違いを訂正しに来てやったんだよ」
「どういう意味だ?」
「きっと色んな情報を取り過ぎて深読みしすぎてんだよ。今のお前は。三冊目の小冊子、まだ読んでいないんだろう? それが間違いだっての。三冊目の小冊子を読まなければ、円城了には辿りつけない」
「読めば円城了に取り込まれる可能性があってもか?」
「ほれ、やっぱり思ったとおりだ。お前、天見か月森もしくは両方からこんな事を吹き込まれなかったか? 『三冊目を読めば自分たちと敵対関係になる』みたいなことをだ」
「それに近いことは言われた。これまでの出来事を振り返えると、円城了が最後の小冊子に何か仕込んでいる可能性だって否定出来ないだろう」
「その可能性はない。断言してやる。俺が聴いた報酬はお前たちが出した推測しているようなものじゃない」
「それも円城了から聞いたのか?」
「一冊目の『白紙双紙』を貰った時に聴いたんだよ。呪いを解いた後の報酬はそれで間違いはないのかって」
「報酬は言葉を具現化する能力だろう? もうそこまでの見当は付いているんだ」
春生が口に咥えこんでいた煙草を右手で抜き取って、僕が話しだすのを待っている。
「お前が僕に掛けられている呪いもどきを知らないと信じて教えてやる。僕の呪いは、相手の言葉がフキダシとなって見えて、そこから感情が読み取れるものだ。そして、この呪いは変化した。僕は自分の言葉で人の精神を操ることまで出来るようになっている。お前も知っているんだろう? 円城了は人を操ることも出来て、さらに具現化をする力すら持っている。故に彼は唯一であり異端だと言われた。彼は自分と同じ人間を作り出すために、この小冊子を作り上げた、そうなんだろう?」
僕が言い終わると同時に、春生は手にしていた煙草を再び咥えこんでそのまま火を付けた。
「おい!」
非難しようとしたが、春生は携帯灰皿を取り出してすでに灰となった部分をその中に落とした。
「これがあるから、吸わせてくれよ。公共のルールはあるかもしれないけど、誰かが居た場合だろ? 他人様同士が集まっている場合は迷惑になるから煙草を吸うなってだけの話しであって、いま俺の目の前にいるとは友人のお前だけだ。見ず知らずの人間が入ってくる心配もない。すでにこの小島は技術書の結界によって誰もはいってこられないからな」
携帯灰皿を階段の脇に置いて、春生は技術書を掲げた。そんな屁理屈を聞くために僕はここに来たんじゃない。
紫煙を吐き出しながら春生が僕を睨んだので、僕も睨み返す。
「ダラだな。お前。すっかり騙されてんじゃねーか」
春生が出雲弁で非難したのは、出会ってから一度もなかった。そして、春生の言葉はフキダシとなり、感情が伝わってきた。この言葉に偽りはなく、事実だ。
「円城了はどういう人間なのか聞かされているんだろう? よく思いだせ。俺と根本は似ているが行動理念が違う。円城了。あの男は人を狂わして楽しむんだぞ?」
円城了は僕らが三冊目の小冊子報酬が具現化する能力だと思い込ませる切欠があったとすれば、舟渡名鶴が語った円城了の伝言のせいだ。
あの伝言には俺が何を企んでいるのか気づいたかと天見さんと月森さんに問いかけていた。そう言われることで彼女たちは具現化の能力譲渡だと思い込まされていた。
そうだと考えることはできる。が、反論はある。
「円城了がお前に嘘を教えている可能性だってあるだろう。なぜ、僕らの考えが間違っていると言い切れる?」
「言い方が悪かったか。井上の出した報酬は半分正解だ。正しい解答を導き出すには、幾ら考えてもわかるわけがない。水平思考みたくイエス・ノーを答えてくれる出題者がここにはいないんだ」
水平思考。出題された問題を既成事実や概念に囚われずに解答を導き出すゲームの一種。
春生がいう出題者は円城了のことを言っているのだろう。問題は初めから出されていたけれど、円城了は初めから僕の前にはいなかった。
「俺からの助言はここまでだ。三冊目の小冊子をどうするのか、お前が決めろ。その代わり、読まなければお前はずっと――――もどきに悩まされ、いつしかそれに振り回される、お前が手に入れたのは本物ではなく偽物だ。地道に円城を探すのもいいだろうが、手遅れになっても知らんからな」
「春生は円城了がどこにいるとか、連絡を取ることもできないのか」
「忘れるな。『白紙双紙』を渡したのは確かに俺ではあるが、読むと決めたのはお前だ。だから助言をしたんだ。俺をがっかりさせんなよ」
「過大評価しすぎだ。僕はただ考える事しかできない。それだけだ」
「俺から言わせると、過小評価しすぎだと思うんだがな。まぁ、それは個人の主観だ。お前の主観など知ったことじゃない」
フキダシが見えたが、見ないと意識してみた。どうやらフキダシが見えた後でも意識すれば感情が伝わる前なら、見えなかったことになるみたいだ。
そんな、僕の力が成長したとか、変化したとかの話はどうだってよかった。僕は彼の言葉だけで受け取りたかったんだ。
冷たいかもしれないが、この突き放し方が出来るのは友人だからだ。僕を信じているからこそ、言える言葉だ。その気持ちに応えないでどうする。
「優しい友達を持てたことに感謝するよ」
「なんだよ、いまさら気づいたのか? 失礼な奴め」
春生は短くなった煙草を携帯灰皿に投げ込んで灰皿の外側から煙草をもみ消した。
「そろそろお前が持ってきた技術書を返してもらおうか」
返すか、やっぱりこれはお前の技術書だったか。
僕は春生の手に文庫サイズの技術書を返した。渡した後になって、その技術書に入っている道具を誰が作ったのか知りたかった。マンションで出した答えは円城了が作った物、かもしれないという曖昧な結論になったけれど、実際は誰が作ったのだろう。
「春生、その技術書の中に何が入っているのか知っているのか?」
「知っているさ。知っているから返してもらったんだよ。これも三冊目を読めばわかる。嘘じゃない」
「念押しか?」
「違う、事実だからだ」
「春生、まだ話せる時間はあるか?」
「あるにはあるが、報酬に関する話をするんだったら、俺は帰るぞ」
「いや、そっちじゃないんだ。まだ分かっていないことがあるんだ。あの現場に居なかったお前だから、円城了と敵対していないお前だからこそ訊ねたいことがある」
「そういう言われ方をされてお願いされるのっていい気分だ。いいぜ、聞けよ、訊ねてみるといい」
僕は新宿東口の広場で起きた出来事を簡単に説明した後、改めて訊ねた。
「僕が広場に到着した時、桜子と高橋さんはすでに囚われていた。でも、これは結果であって、経緯が吹き飛ばされている。山本が円城了に会ったのは二ヶ月も前の話だ。それなのに、なぜ桜子と高橋さんを人質に取ることが出来たと思う?」
「お前はどう考えたんだ?」
「今日、改めて山本に会って指示を変えたんだと思う。仮に今朝、円城と山本が接触したのであれば、新たな謎が出てくる。今日、僕が三冊目の小冊子を探すことを知ることが出来たのか、そして午後になって桜子と高橋さんが新宿に来ることを知ることができたのか。具現化する力や人を操る力を持ってしても、僕らの行動まではわかるはずがないんだ。さらに掘り下げると二冊目の小冊子を見つけた後もそうだ。付喪神探偵である高橋さんと桜子を操るにしても、どこからか見ていないといけないし接触しなければいけない。ということは、僕らの行動は円城に知られていたということになる。そんなことが、あの円城了には可能だと思うか」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
悪戯交差 その二 如何でしたでしょうか。
楽しんでもらえたら嬉しい限りです。
明日も投稿します。
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