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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第五章 悪戯交差
48/62

悪戯交差 その一

新章 悪戯交差 その一 です。

よろしくお願いします。


追記 6/26 本文修正

再追記 6/30 本文修正

 春生から掛かってきた携帯電話に桜子が通話ボタンを押す。

「もしもし」

 恐る恐る電話の向こう側にいる春生に話しかける桜子の姿にリビングにいるみんなが注目をしている。

「うん、優太さんもおらいよ。はあ! そんなんお兄ちゃんに関係ないがね! いまは中野にある知り合いのマンションにおーで。いや、こっちのことはどげだっていいがね。お兄ちゃんはどこにおーの?」

 順調に会話が進んでいるように見えたが、春生と話をしている桜子の顔は険しい。

「いや、最後の小冊子はまだ読んどらん。うちらもう知っとーよ。お兄ちゃん、円城って人と繋がっとるんでしょ?」

「石田さん。その携帯、スピーカーモードが付いているのなら切り替えて」

 声を萎めて伝えた月森さんに桜子は頷くも、携帯電話を耳から離そうとしない。

「ダメ、スピーカーにしたら携帯を切るって先に釘さされちょる」

 短い溜息を吐いて、月森さんがわかりましたと呟く。春生はすでに先手を打っていたようだけれども、この会話を伏せる必要性が感じられない。

 春生は桜子と僕が一緒に居ることを確認したようだけれど、それこそ僕に直接電話を掛けてくればいいだけの話だ。

「うん、うちらが持っとる。そんで?」

 桜子は通話先の春生に向かって何度か頷いてから僕を見た。

「待ってよ。そんなん勝手すぎーわ。優太さんが行くならうちも一緒にいくわ! ダメってなんでだで!」

 桜子が叫び、僕に助けを求めるような目をして訴えてくる。

「春生、井上だ。お前、今何処にいる」

 強めな口調で言ったものの、桜子の携帯電話から春生の声ではなく不通音のみだった。

「切れている」

 桜子に携帯電話を返した。

「春生はなんだって?」

「二十時までに、山本が持っちょった技術書を優太さん一人で持って来いって」

「場所は?」

「井の頭公園の例の場所で」

 例の場所と言われれば、弁財天のお堂しかあるまい。腕時計で時間の確認をすると六時半を回っていた。

「天見さん、このマンションから中野駅までどれくらい掛かりますか?」

「徒歩で三十分ってとこだけど、乗り継ぎや移動を考えると井の頭公園に到着するのは時間がぎりぎりかも。電車に乗るよりも車で移動したほうがまだ早いよ。井上さん、免許は持っているよね?」

「ありますけど、車の運転なんてここ数年していないから」

 運転が下手ですアピールこそしたものの、僕は天見さんが所有している車種を想像して怖気づいた。車に詳しくは無いけれど、素人目にも天見さんが乗っていた車は高級車そのものだ。万が一のことがあったら僕の薄給では弁償などまず不可能だ。

「大丈夫、運転は私がするからさ!」

 大きな胸を強調してくれたはいいけど、はっきりいって不安しか無い。事故こそ無いかもしれないけれど、急加速と急停車の連続は乗り心地がいいとは言えない。

「僕らここに連れて来られたのに、また運転して貰うのは気がひけるので、他の方に運転をしてもらうというのはどうでしょう?」

 我ながらいい誤魔化し方をしたと褒めたかったが、運転免許を所持していたのは僕と天見さんだけだった。運転免許なんて高校卒業前に取得するものではないのかと訴えたかったが無駄だと悟る。彼らは十代でしかも大学生だ。長い夏休みで取ってしまおうという気持ちがあったのかもしれない。

「お兄ちゃんは優太さん一人で来いってゆっとるけん、天見さんが一緒におったらいけんのと違う?」

「桜子のお兄さんは井の頭公園に一人でって言ったんだから、私が井の頭公園にさえ入らなければいいんじゃないの?」

「そんならうちも一緒に行ってもいいが?」

「理屈で言えばそうか。じゃあ、桜子以外に一緒に来る人はいるかい?」

「私と吉行くんはパス。山本は捕まえたし、当分の間はあんたたちが面倒を見るんでしょう? それなら日を改めて彼が作った道具がどこにあるのか教えてもらう」

「理緒さん、本当にここで終わりにしちゃっていいの? まだなにも解決していないのに」

「私との約束は山本が見つかるまでの間だけ。それ以上は、関係がないの」

 そうかもしれないけどなーと煮え切らない態度をしていた小林くんではあったが、最終的に彼らはここで降りると宣言した。

「それでは、理緒さんたちには私達が戻ってくるまでここで待っていてもらいましょう。私と風鈴さんは、まだ目的を果たしていませんからね」

「総一くんは?」

 その名前を出して失敗したと思ったのか、高橋さんは口元を押さえた。

「彼には山本さんの監視を続けてもらいます。彼の行為は決していいことではありませんが、呪術師はまだ居るというのであればそれを受け入れましょう」

「総一が呪術師の存在を認めているのなら、残しておくしかないだろう」

 天見さんが同意した。総一に対して冷たくしたのは、愛情表現の裏返しということか。二人とも素直ではないようだ。総一がどちらの女性を選ぶのかわからないけれど、尻に敷かれるのは確定事項のようだ。

「それに、小冊子の件については私と風鈴さんの二人が受け持ったものです。最後まで彼が付き合う必要はありませんよ」

 月森さんが立ち上がり天見さんの隣に並び立った。見た目も正確も正反対の二人が揃うとやけにしっくりくる。二人で一つの存在なのだと実感する。

「円城了が現れるとは限りませんよ?」

「そんなに都合よくあいつが現れるとは思ってないさ。桜子の兄さんから情報が得られればそれで御の字さ」

 天見さんが固めた右拳を広げた左手の平に打ち当てる。気合は十分のようだ。

「そんなら、この四人で行くか。話しとる時間が惜しいわ。さっさと小冊子をもって井の頭公園にいかこい」

 僕らは山本の監視を続けている総一から技術書を受け取って、天見さんが運転する車で井の頭公園まで移動した。

 平日とはいえ大通りの交通量は多かったが渋滞という程でもなく比較的にスムーズに移動することが出来た。ただ、一つだけ難点があるとすれば、天見さんの運転だった。信号、歩行者、前方後方などの確認は出来る限り毎度のことしてほしいという点だ。

 急ブレーキをされる度に冷や汗を流してしまうので心休まる暇もなかった。変な緊張感を保ったまま、ろくな会話もせずに天見さんが運転する車は吉祥寺に到着した。

 井の頭公園の近くの車道に停車させて、僕一人が車から降り立った。僕と同じく後部座席に座っていた桜子がウィンドウを下げて技術書を手渡してくれる。

「あのお兄ちゃんがなにも企むこともなく一人で待っとるとか考えにくいけん、くれぐれも用心してな」

 実の兄に向かって酷いことを言っているけれど、冗談でも嘘でもなく事実あり得る話だから質が悪い。

「念を押しておくけど付いてきたらダメだからね。ここで約束を破ったら何もかもが台無しになる」

「わかっとーわね。そんくらい。いつまでも子供扱いするのはやめてよ」

 ごめんと素直に謝ったけれど、子供扱いくらいするさ。君との年齢差を考えたら当然のこと。でも、こんな風に思うのも今だけだ。

 今後は友達といった立場で触れ合うのではなく、対等に話し合い、共に時間を過ごすことになるかもしれないのだ。

「気ぃつけんさいや。終わったらすぐに連絡するんだで」

「ありがとう」

「ん。さぁ、うちの迷惑なお兄ちゃんに会ってきんさい」

 小さく頷いた後、車に背を向けて井の頭公園内に入り込んだ。

 時計の針は十九時二十分を指している。雨はすでに上がっていたが、陽が落ちたのもあって体感気温はかなり低かった。久々に春生と会う緊張感と相まって、二の腕をさすりながら園内を歩いている。約束の時間までかなりの余裕はあったけれど、早めにあのお堂へ到着しても問題はないはずだ。

 園内に設定された園内地図を見て弁財天のお堂の場所を確認する。今月に入って二度目の来園だが、通い慣れていない場所なので頭の中には正確な地図は作られていなかった。

 現在地と弁財天のお堂の位置を把握して、再び歩み始める。

 雨に濡れた草木から夏の匂いが嗅ぎ取れた。六月にもなればこの匂いは感じられなくなり、次に季節の匂いを嗅ぐことができるのは夏の終わりか、強烈な夏日にしか嗅ぎ取れない真夏の匂いくらいだろう。

 前回、弁財天として姿を表した中村さんは約束の時間から遅れて登場した。あの時はいきなりの修羅場だったな。桜子と中村さんは出会った直後に口喧嘩に発展したからな。そう遠くない過去なのに、懐かしさすらある。

 池の中に囲まれたとても小さな島に建てられた弁財天のお堂が見えてくる。

 朱色の橋を渡りきって、そのままお堂の前まで行くと、春生が一人、弁財天のお堂にある小さな階段に腰掛けているのが見えた。

 春生は僕が彼の前に立っても下を向いたままだった。

「待たせたか?」

「俺は勝手にお前を待っていただけさ。気を使う必要性すらないよ」

 この会話を切欠にして、春生がようやく僕と目を合わせた。表情こそ明るく見えるが、この日習慣あまりでかなり痩せたような印象を受ける。

「これ、痩せたんじゃなくて、やつれたんだ。井上に小冊子を渡したあとも大変でさ。眠ることも食事することもままならない状況だったんだ」

「技術書がらみか?」

「それ以外で動くことはないな」

 春生はポケットから煙草の箱を取り出して、一本口に咥えこんで、フィルターを強く噛んだ。

「園内は禁煙だ。僕以外に人は入って来られないかもしれないけど、ルールは守ろうぜ」

「千弦みたいなことを言いやがって。喫煙者は本当に肩身が狭くなったよ」

 このまま話していては、何時までたっても世間話になりそうなので、僕の方から本題に入ろうと切り出す。

「技術書は持ってきた。話したい内容とは何についてだ? 円城了か? いま僕が手にしている技術書をどのように処分するのか。知りたいね」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

新章 悪戯交差 その一 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えれたのなら、嬉しい限りです。


明日も投稿します。

よろしくお願いいたします。

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