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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第四章 存在抹消
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存在抹消 その十二

存在抹消 その十二 です。

よろしくお願いします。

「山本は鬼の木像を通してではあるけれど、自分の事を『私』と言っていたのは覚えているかい?」

 僕は総一と囚われていた桜子と高橋さんに同意を求めた。

「いいや、なんも憶えちょらん。話しとったんはわかったけど、なにをゆっとたんかまではわからんかった」

「私もです。そもそも鬼を通して話すという概念がよくわかりません」

「自分ははっきりと覚えています。彼の一人称は『私』でした。間違いありません」

 総一はともかく桜子と高橋さんの反応は、こんな所だろう。目隠しで視野は奪われ、手錠もされているし、身動きすら取れなかったのだ。まともな精神状態ではなかったはずだ。

「人が自分の一人称を変える時ってけっこう限られているんです。例えば接客業をしている人間はよく変えます。客の前では『私』、同僚の前では『僕』ないし『俺』です。人によっては総一みたいに『自分』と使う人もいるでしょう。山本の場合は自分が僕らに対して優位性を見せるために『私』としていたかもしれませんが、実際は違うと判断しました」

「どうしてそのような判断をされたのですか」

 月森さんが睨むように見てくる。どうやら納得はしてないようだった。

「山本が月森さんの質問を返した時、彼からフキダシが見えましたよね?」

「ええ、見えました。了さんへの評価としては正しいです。私も同感でした」

「私のほうはそんなに得意じゃないからかすれる程度でしか見えないけど、奴の感情は伝わったよ。フキダシが見えたからってどうってことはないだろう?」

「僕はまだお二人と、そして今日会ったばかりの総一くんには伝えていませんでしたが、僕には三人の言葉からフキダシを見ることが出来ないです。もちろん、意識して見ようともしましたがダメでした」

「それは有り得ない。具現と精神と別れて入るけれど、フキダシを見るのは基礎中の基礎だし同じ力を持っている人間同士で見ないなんてことは前例がない」

 天見さんが反論してくれるけれど、彼女の方こそ思い違いをしている。

「ここにその例が現れたんですよ。似通った力を持つまがい物がここにね」

 僕は自分の胸に手を当てて小さく訴えると、三人の本物は狼狽した。

「ここで僕は二つの仮説を立てます。一つは、山本は僕と同じまがい物の力を持っているから、フキダシが見えた。二つ目は、山本は精神を操る力を得たのではなくて、精神を操られていたのではないか、です。僕が質問をした結果でいえば後者でしたけどね。あと、確認を取っていませんが、精神を操るということは心情面だけでなく、記憶の改竄も舟渡名鶴がされていたと、小林くんから聴いています。ともなれば、山本も円城了に記憶の改竄と行動を組み込まれていると考えるのが妥当でしょう」

 月森さんが山本を見て「彼は」と呟く。

「彼はこの二ヶ月間の間、ずっと了さんに操られたままだったのですね。本当に、あの人は人を狂わすのが得意な上に残酷ですね」

「小町、それは今に始まったことじゃない。こうなると分かっていたことだ。山本が操られていると気づいたのはぶっちゃけていうと、すげーよ。たったそんだけの取っ掛かりを頼りにして推理するんだからな。でも、山本が技術書まで了から受け取ったなんてスリしただけではわからないはずだろ? 了も確かに絵読術書の末裔とも繋がりはあるけれど、あれは本来、門外不出でって、一子相伝の術式だ。私らでさえその作り方は知らない。まぁ、知った所で私達には作る必要性が無いんだけどな」

 彼女たちが持っている力の劣化版である絵読術は確かに必要ない。それは円城了にだって不要な代物であることに変わりはない。

「円城了は自分で技術書を作ったのではなく、他の誰かから譲り受けたのが正解だと思いますよ」

 思いますよと濁したのは、僕自身が彼らが関わっていると信じたくなかったからだ。しかし、この最悪な予想は裏切られることなく事実だ。

「よーわかったわ。やっぱあの人らが関わっちょるんだね」

 桜子がぶっきら棒に言い切った。この件に関して敏感になっているのは誰よりもまず桜子だ。僕だってそうは思いたくは無いけれど、符合する部分が多すぎる。

「石田春生さんだというのですか?」

 驚きを隠しもせずに総一が聞いてくる。

「それはちょっと違う。そうだな。上手く説明できる自信はないけれど、時系列順に話そう。まず、円城了と初めに接触したのは女泥棒の中村千弦さんだ。彼らの間にどういった取引が行われたのかは不明だ。それから円城了は自分で作った呪術が施された道具を譲り受けた技術書に収めて、山本に手渡して使い方を教えてから記憶を封じた上に、山本の口調を小冊子に書かれている著者のように変えた。自分が著者であるように振る舞い、そして、円城了に裏切られたという記憶まで添えて。下準備を整えてから二ヶ月後のゴールデンウィークが始まる前後に、今度は春生が円城了と接触して小冊子手記『白紙双紙』を受け取った」

 ひと通りの説明が終わり、みんなの反応がどうなるのか様子を伺った。感心や拍手は上がってこない。彼らから僕に与えてくれたのは沈黙だった。

 今回、春生は僕と共に行動は出来ないと言った理由は、この事実に僕が気づくと察したからなのだろうか。それとも、円城了という男と関わっていることを隠したかったからなのか。それは春生だけが知っている。

「天見さん、月森さん。春生が円城了の居場所を知っているのかわかりませんが、繋がりは確実にあるはずです。探すとしたら円城了よりも春生を探したほうがいいでしょう。彼が見つかるまで、僕は三冊目の小冊子は読みません。読んでしまったら、僕がどうなるのかわかりませんからね」

 三冊目の小冊子に隠されているのが、呪いを得だけでなく、新たな力を僕に与えるものだというのはもうわかっている。そして、その後に何が起こるのか、予想すら出来ない。

「そうして頂けると、私達も助かります。井上さんまで敵に回したくはありませんから」

 暗く沈んだ空気が漂う中、桜子が得意の柏手を一拍うちこんだ。

「なぁ、そろそろ休憩でもせんか? 気が滅入る話ばっかしとっても仕方ないがね。いったん、心の整理みたいなもんでもしようや。な?」

「それ、ぼくも賛成―。てか、ぼくとしては新宿での出来事がどうなったのか知りたいんだよね。月森さんの力は信用しているけれど、実際に自分の目で見ないと信じられないんだよねー。天見さん、パソコンとLANケーブルか無線LANって出せる?」

 小林くんが桜子の調子にあてられて軽口を叩く。

「そんなハイテク機器まで出せるほど万能じゃねーよ」

 天見さんは丸みのある言い方で小林くんを叱った。

「リビングにもどろっか。テレビはあるんだし、それにSNSとかネットの情報ならスマートフォンからでも閲覧できるでしょう?」

 高橋さんの提案に賛成して、みんなが部屋を出ようとする中、総一だけが山本の前から動こうとしなかった。

「総一、そいつはもう大丈夫だよ。起きたとしても、何も出来やしないって」

「どれくらいの間、眠るかは測りかねますが、風鈴さんの言われる通り、彼には呪術師としての力はもうないはずです。残念ですが、舟渡という男と同じ末路を辿ったのでしょう。どういう原理なのか、まだわかりませんが、了さんに操られたということであれば、おそらく」

「そうかもしれませんし、そうでもないかもしれません。舟渡は確かに呪術師と終わりました。でも、この山本和博という呪術師は違いかもしれない。仮に呪術の全てを失っていたとしても、自分が彼を脅威として見ることで、呪術師山本和博であるという証明であってほしいのです。そう思わなければ、彼は何ために今日まで呪術師として存在していたのでしょう。了さんに操られるためだけに、呪術を磨いてきたのですか?」

 天見さんがそっと総一の肩に触れる。

「同情なんてするなよ。その山本だって了みたく、誰かを傷つけたかもしれないだろう。野心があったから了に近づいた。そして触れてはいけない異物に触れて全てを失ったんだ。自業自得さ」

 冷たい言葉ではあるけれど、事実だ。総一の考え方は人として誠実な道徳心であり純粋だ。だが、それは大人の世界では通用しない。付け入る隙を見せるようでは、これからさき痛い目に合う。

「その同情が、彼を傷つけることになったとしてもですか? 呪術が使えなくなった彼は最後の誇りを失うのです。それを目の前にして、あなたは何が言えますか」

「同情の為に、ここに居座ったりしません。自分は、ただ……」

「ただ、何だというのです。総一さん。私はあなたのそういう甘さは好きです。風鈴さんも同じようにそんな総一さんに惚れ込んだのです。ですが、それは総一さんの独り善がりであることも知ってください」

「それでも、呪術の力を残しているかもしれません。それに了さんによる改竄が未だに残っている可能性だって否定はできません」

「わかりました。みなさん、ここは彼に任せましょう」

「そうだな、好きにさせるといいさ」

 月森さんと天見さんは総一を敢えて突き放すような言葉を放り投げて部屋を出て行った。

「ちょっと、二人とも」

 高橋さんは二人を追いかけて行き、小林くんも釣られて部屋を出た。

「井上さん、うちらも行こう?」

 桜子が僕の袖を握る。

「総一くん。僕が言うのも、お門違いかもしれないけど。そういう行為が出来る大人って実は少ないんだ。とてもね。ただ、君がここに残ることで消えたはずの呪術師は存在していることになる。いまは自己満足かもしれないけど、もっと別な形で存在を消さない方法を見つけ出すといい」

「はい、ありがとうございます」

 感謝の言葉を述べたものの、彼は僕らの方を見向きもしなかった。きっとそれは見せられない顔をしていたからだろう。

 リビングに戻ってからテレビを付けこの時間帯で放送しているニュースを片っ端から見てはチャンネルと変えた。小林くんはスマートフォン片手に匿名掲示板サイトの閲覧にソーシャルネットで情報を得ようとしていた。

 テレビから流れ出てくるキャスターやコメンテーターの意味不明なコメントを流し聞きながら、月森さんが今朝から山本との戦闘終了までの間のことを話すように促されて記憶している限りの話をした。

 僕らが最後の小冊子を見つける前の話だけでなく、桜子と高橋さんがどのように山本が作り上げた鬼の木像に襲われたのかも聞かされることとなった。

 

 記憶の回想を終えて、自分の頭の中が整理された。

 手元には月森さんが用意してくれたお茶のペットボトルが置かれていたので、キャップを捻って一口飲んだ。

 月森さんから質問を投げられたけれど、疑問点というものはなかった。唯一あるとすれば春生がいまどこで何をしているかだ。あの男を捕まるのは容易ではない。

「石田春生さんを探しだす以外、私達に残された道はない、そんな顔をされていますね」

「人の心まで読めるんですか?」

「まさか、私は超能力者ではありませんよ」

 冗談を言ったつもりかもしれないけれど、笑えなかった。

 重苦しい空気を変えたのは、やはり桜子だった。実際には桜子自身ではなくて、彼女が持っている携帯電話に着信音が流れたからだ。

「ごめん、うちのだわ」

 そういって、桜子が携帯電話の液晶画面を見て「うわ!」と大きな声を上げたので、みんなが桜子に注目する。

「どげすーだ」

「なにが?」

「電話、お兄ちゃんからだわ」

「いますぐ出て。早く」

 僕が促すと、桜子は何度も頷いてから携帯電話の通話ボタンを押した。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

存在抹消 その十二 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


今回で 存在抹消 は終りとなります。

明日は新章の投稿となります。


投稿時間は、現段階では未定です。

申し訳ありません。


よろしくお願いいたします。

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