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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第四章 存在抹消
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存在抹消 その十一

存在抹消 その十一 です。

よろしくお願いします。

 山本和博に深々と頭を下げた後、月森さんは丁寧な口調で自己紹介を始めた。

「はじめまして。山本和博さん。私は月森小町です。実際にお会いしたことは無くとも、私の名は聞いたことはありますよね」

「知っている。円城、天見、月森は御三家だ。知らない奴がいたとしたら、こちらの世界を知らない素人だ」

「当然の評価を頂けて安心しました。山本さん。あなたは私の質問に対して拒否、虚偽、沈黙による解答はできません。ですが私も悪魔ではありません。あなたには発言権を与えます。いいですね」

「寛容だな。そこは感謝する。なにから知りたい?」

 月森さんの質疑が始まり、山本和博は淡々と質問に答えるだけだった。

「了さんの居場所は?」

「知らない。むしろ俺が聞きたいくらいだ」

「なぜ、了さんと接触を試みたのですか?」

「簡単なことだ。俺は出来損ないの呪術師。自分で作った発明品がなければ、三流以下さ。そんな人間が求めるのは、高みと決まっているだろう? 手に入れたかった。見てみたかったんだよ。高みに立てる者の風景を。相手はあの円城家始まって以来の天才に凡人が挑むのは、ドラマティックじゃないか。もちろん俺だって馬鹿じゃない。策は用意していた。円城了を陥れるための策と準備をずっとしてきた」

 こいつの言う準備の中にあの声が出せなくなるパズルも含まれているのだろう。僕の考えていたことは外れてはいなかったが、山本和博の一人称が変わっている。東口の広場でこいつは自分の事を「私」と称していたはずだ。

 僕の心内のことなど知る由もなく月森さんは質問を続けていく。

「でも、あなたは了さんに敗北し、言われるがまま三冊の小冊子作りを命じられた」

「あの男に言われた通りの品を作った。どういった内容の手記なのかは俺も知らない。読者が決まってしまえば続く小冊子もその読者しか読めないという呪いを掛けたんだからな」

「呪いは一つしかなかったということか」

 僕の呟きに山本和博が反応するも、返答は得られない。

「了さんの――――とあなたの呪いで重ね合わせて作られたのが一冊目の小冊子だったわけですね」

 僕の独り言といってもいい呟きを月森さんが引き継いで質問をしてくれる。

「正確には円城が小冊子作りに関わったのは一冊目と三冊目だ。二冊目を作った理由は、あの人の気まぐれだ。意味なんてない」

 山本和博の口元からフキダシが飛び出してくる。東口の広場では見ることはできても、感じることはできなかったが、この距離なら感情までも伝わってくる。彼は円城了に対して『天才』『理解不能』といった賛否を入り混ぜている・

「そうでしょうね」

「あいつは、そういう奴だよ。分かり合える奴なんていないさ」

 彼の言葉に思う所があったのか月森さんだけでなく、天見さんも同様に頷いた。

 感傷的な相槌なのに、彼女たちからはフキダシが見えないのは、いつものことだ。

 違和感が僕の思考を支配する。

「次は質問ではなくて、確認です」

 その確認は三冊目の小冊子を奪いに来た理由だろう。だが、その確認をするだけ無駄だ。

「月森さん。その確認をする前に、僕にも山本へ質問をさせてくれませんか?」

「それは、構いませんが……」

 どうやら、最後まで自分で質疑を続けたかったようだ。横槍が入ったので月森さんはヘソを曲げたみたいだ。

「まぁ、私と同等とは言えませんが、人の精神に入り込めるのなら、大丈夫でしょう。念のため私からも告げておきます。山本さん。彼、井上さんの質問に答えてください」

「いいだろう。なんだ。井上さんとやら」

 はじめて僕の名前を知ったかのように返す。

「山本さん。あんた、このマンションへどうやって連れて来られたのか覚えているか」

「車だ。しかもとびっきりの高級車だってのは覚えている。運転は荒かったがな」

 月森さんと高橋さんがくすりと笑う。運転をしていたのが天見さんだったから面白かったのかもしれない。だが、僕には笑うことは出来ない。

「どうして、僕らに手足を拘束された上に車に乗せられたんだ?」

「鬼の木像を動かしたからだ」

「どんな目的で?」

「目的?」

「そうだ。何が目的であんたは渋谷のスクランブル交差点で鬼の木像を動かして暴れたんだ?」

 僕に視線が集まる。この問で頭の上にクエッションマークを上げたのは、僕以外の全員だろう。山本和博にも見えはしないが頭の上に出ているような気がする。

 誰もが僕の発言をおかしいと感じたはずだ。僕ら山本とやりあったのは新宿で、鬼の木像を出したのは東口の広場だ。言い間違えたにしては露骨すぎる。

即答できるはずの答えなのに、答えられない山本をみて更に混乱を呼びこんだ。

「俺が、渋谷で? スクランブル交差点で鬼の木像を出したのか? 何故? 目的ってなんだよ?」

 困惑しながらも、山本は鬼の木像を出した場所を訂正しようともせずに、逆に僕へ問いかけてきた。

「覚えていないのか?」

「いや。待ってくれ。言える。俺は、覚えて、いる」

「覚えているなら、答えてくれ。ゆっくりでいい。なんなら、あんたが朝起きてから渋谷に到着し、鬼の木像を出すまでの間を話してくれたっていいんだぞ」

 僕が困り果てた自分に優しい言葉を掛けられて安堵したのか、山本は破顔して何度も頷いてみせた。

「それは……待ってくれ。俺は……言える。ちゃんと言えるんだ……。俺はマンションの部屋を出て、そこから車に乗って。なぜか鬼が必要だと思い出したんだ。それからレンタル倉庫へ行って、鬼を取り出して……それから」

「それから?」

 山本は頭痛でもしているのか、眉間に皺を寄せて苦しそうにしている。

「わ、分からない。思い出せないんだ」

「誰かに会ったんじゃないのか?」

「誰かって?」

「円城了に」

「いいや、会ってない。俺が最後に会ったのは二ヶ月前だ」

「二ヶ月前に会って何をされた? いや、何かを貰ったはずだ。サイズにして文庫くらいの大きさをした本を」

「も、もらった。使い方も教えてもらったけど。あれ、なんでだ。なんで、ポケットに技術書が入ってないんだ。なぁ、俺が円城からもらった技術書はどこにあるんだ? 思い出せない。いつも身につけていたのに」

 あの技術書は総一が持っているはずだ。保管した場所まではわからないけれど、どこかにある。

「井上さん、これは一体どういうことですか?」

 山本の変貌ぶりを見て月森さんが慌てて聞いてきたが、彼女の前に右手の平を見せて動かないようにと無言で訴えると、こちらの意向を組んでくれて黙ってくれた。

「山本さん、最後の質問だ。あんたは円城了から技術書以外なにも受け取っていないんじゃないのか? いいか、よく聴いて、思い出して答えて欲しい。あんたに月森さんと同じ人を操るような力はないな?」

「そうだ。その通りだ。俺は、技術書だけを貰った。教えてくれ、俺は誰にやられて、どうやって捕まったんだ? あんたら――――なんだろ? 違うのか?」

 これ以上は可愛そうだと、哀れんでしまった。桜子を泣かせた当事者ではあるけれど、山本を憎むことは出来そうになかった。

「もういい、しばらく眠っていてくれ。僕が起こすまでゆっくり眠るといい」

 僕の言葉を子守唄と勘違いしたのか、目を閉じた山本はそのまま眠りに落ちた。

「勝手に眠らせちゃいましたけどよかったですか?」

 部屋にいる全員が僕に注目する。

「どこから突っ込んでいいんか、わからんわ」

「眠せたことはこのさいどうだっていいです。井上さん、なにがどうなっているのか、説明してください!」

 僕は桜子に両腕を掴まれた上に、上半身を激しく揺らされた。そんな僕を月森さんは助けようともせずに、説明を求めてくる。他の三人はただ方針したまま僕らが騒いでいるのを眺めていた。

「きちんと説明するから、まずは離して」

「うちにもわかるように説明してごさんと許さんけんな!」

「話すから、離して」

「そげなつまらん冗談いっとー場合じゃないで!」

 冗談を言うつもりはなくても、つい言葉が出てきてしまったものは仕方がない。

 いい加減しつこいと思ったのか、高橋さんが割り込んで桜子を引き剥がしてくれた。

 長く揺さぶられたので、頭がふらふらとして柔らかい絨毯が敷かれた床に座り込んだ。

「さぁ、井上さん。話してください」

 十代の女性が四人と男性が一人か。僕以外全員若いと思うと、なんだかやるせなくなる。

 部屋の扉が開いて総一までもが入ってきた。

「これは、どういう展開ですか?」

「総一、それがさ!」

「聴いて、総一くん。井上さんがすごいことを言い出して、そしたら」

 このまま説明しないでもいいのかと思ったけれど、総一に取り巻いた二人は、また桜子と高橋さんに咎められるはめになった。

 総一は彼が離れている間に起きた出来事とその会話を高橋さんが説明することで落ち着いた。

「自分にも教えて頂けますか?」

 話す機会を奪われてしまったので、興が冷めたところもあるけれど話さないわけにもいかない。

 僕がまず話しだしたのは、山本が自分の一人称が変わっていた所からだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

存在抹消 その十一 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら、嬉しい限りです。


今回も昼過ぎの投稿となってしましました。

すみません。


明日も投稿します。

よろしくお願いいたします。

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