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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第四章 存在抹消
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存在抹消 その十

存在抹消 その十 です。

よろしくお願いします。

「それこそおかしな話だがね。だって、小冊子の文章を書いとった人は円城了が作ったオルゴールを見つけたんだが? そしたら円城了が二人おることになーがね」

 桜子は息巻いて僕の発言を否定したが、他の面子から異論は上がらなかった。

「一冊目の小冊子は僕の手元にはもうないし、まぁ、あったとしても僕以外読むことはできないけれど、一冊目の小冊子にはオルゴールを作ったのは円城了と名乗る者と書かれていたんだ。自称、円城了だとも受け取れないかな」

「そんなん言葉遊びだがね。んなら、うちらは円城了の言葉遊びに付き合わされたってことかいな」

「彼なら、やりかねませんね」

 桜子の言葉を肯定したのは月森さんだ。天見さんも同意するかのように頷いてみせた。

「そげしたら、自称円城了っつーのは山本ってことになるんか?」

 自分が信じていたことを覆されたので、多少の興奮はしているようだが桜子の指摘は間違っていない。

「たった二人しか登場人物がいないから、消去法とも言えないけど、山本和博が本物の円城了に向けて挑発をしたのが真相。山本が円城了と接触をしようとしたのは少なくとも三ヶ月位前からだと思う。ある程度の下準備が出来たから、山本は円城了を挑発して、そして負けた、もしくは騙された。その辺りは本人に聞けばいいさ」

「接触を試みるまでの下準備って、もしかしてあのパズルが?」

 付喪神探偵である高橋さんが小林くんを押しのけて僕に近づく。

「いまから三ヶ月前に小林くんが不本意に手に入れた木製パズルは円城了とやりあうための試作品のはずだ。試行錯誤結果で作り上げたのが今回の鬼の木像。きっと、円城了には通用しなかったんじゃないのかな。でも、不完全な力を得ている僕なら勝てると見込んでいたのだろうけどね」

 パズルを完成させることで声を失わせるという呪い。これは声を発することで特殊な力を使える人にとっては致命的であり相性が最悪な呪いの道具だ。

「『白紙双紙』に自分の名前を出さなかった理由なんて、円城了の都合だ。この三冊目の小冊子にはその理由が書かれているかもしれないけど、読んでしまった後で僕が円城了の元へ行く可能性だってある」

「なしてそう思わいの?」

「円城了は人を操ることもできる。それはもう実体験済みだからね。桜子、僕が一冊目の小冊子を読んだ後、熱を出して倒れただろ? あれは円城了によるものだよ。人を操るというのはある意味、暗示や催眠に近いかもしれない。かなり強力とも付け加えておこう」

「催眠術を扱う人の中には私達との血縁者が混じっているのでしょう。先祖返りとでもいうのでしょうか。完全ではないけれど、自分の中に眠っていた才能を呼び起こすことはたまにあります。それでも、血と経験をいまでも引き継いでいる私達とは比べ物にもなりませんけれど」

「ちょっと怒っています?」

「まさか。この程度で怒るほど私は小さい人間ではありませんよ」

 月森さんはそう弁明しているが、横にいる天見さんは小さく首を振った。

「なんにしても、三冊目の小冊子は読まなくて正解だと思う。春生と連絡をとれれば、一冊目の小冊子を渡した人間のことがわかると思って読まなかっただけだけど、これで確定したよ。春生に小冊子を渡したのは円城了だ。あとは、春生と連絡が取れれば円城了を探す手がかりが掴めるはずだ」

「それは本当ですか?」

 月森さんがテーブルを叩く。

「舟渡名鶴からは了さんの情報はなにも得られなかったので、次は山本をと思っていたのです。ただ、彼は了さんの意思に反して井上さんたちの前に現れたので、半分諦めかけていました。それで、春生さんという方は何者なのですか?」

 僕は高橋さんを見たが、首を振った。彼女のことだから、桜子の兄である春生の話をしているものだと思っていたので、春生の名前を出したのだが当てが外れた。

 名前を出しておいて、春生のことを話さないわけにもいかなかったので、ゴールデンウィークで起きたことを話した。もう何度も話した内容だったので説明するのも小慣れてしまった。当然、ゴールデンウィークの話をするということは、春生だけでなくあの事件に関わった全ての人間を話すことになったわけだけど。

 話し終えると、思わぬ反応があった。

「渡辺依里子。懐かしい名前を聞いたな。そっか、あのアマ、自信喪失しちゃったもんだから大本の力を手に入れようとしたわけだ」

 天見さんが思い出し笑いをしながら膝を叩く。

 彼女の話し方、仕草をみて、僕は『白紙双紙』の一冊目を受け取った時のことを走馬灯のように思い出した。

「まさか、依里子を倒した同年代の女の子って、天見さんだったんですか?」

「そうそう、まさに私だよ。そっかー、あの女を歪ませたのは私だったのか。てことは、私があの女のプライドを打ち砕かなければ井上さんもだし、中村千鶴という泥棒さんにも迷惑をかけてなかったわけだ。いやー、世間は狭いね」

 面白いわーと天見さんは自己完結をした。

 偶然かそれとも必然なのか。こんなにも用意された人との出会いなんてあるのかと、自分の境遇に驚かされている。

 僕はさらに話を聞き出そうとした。

「依里子が同年代の子に負けた話も春生から聴きました。それが、天見さんだったのは驚きですけど、そこはいいです。天見さんたちの力と絵読術書はどういった繋がりがあるんですか?」

「ああ、それはね。んっと、どっから話したらいいんだ?」

 天見さんが頭を軽く掻くと、月森さんが溜息を吐き出した。うんざりしているようにも見える。

「小学低学年の説明しか出来ないような風鈴さんの代わりに私が答えます」

「なんだと、小町! てめぇ!」

 最低なけなされ方をした天見さんが立ち上がったがすぐに高橋さんと小林くんに取り押さえられる。この二人も難儀だな。

「暴れる猿は放っておきましょう。技術書が造られた切欠というのは私達が使う――――に近づこうとした人々が作り上げたものなのです。絵や文字を読み上げることで擬似的ではありますが、私達と同じ立場になりたかったのです」

「いまだに、月森さんたちがどんな力をもっているのか、聞こえませんけど、繋がりはわかりました」

 まほろば店主の斉藤さんが言っていた大本という意味も。『白紙双紙』がどれだけ優れた小冊子なのかようやく実感できたとも言える。

「絵読術書を扱うものは術者の中でも上位だというのはご存知ですよね。この絵読術が最も私達に近い存在なので交流ははるか昔からありました。しかし、術者と――――は、すみません。聞こえないのでしたね。私達の一族と争うことは過去に数例ある程度、近年で手合わせをしたのは風鈴さんだけです。誠に不本意ではあるのですが、具現化する力を持つ者の中で、風鈴さんに適う人間は一人を除いて存在しません」

 その一人というのは、やはり円城了のことだろう。

「具現化の天才と絵読術の天才が戦ったというわけですね」

「結果はすでにご存知の通りです。私も泣いて応援しに来てほしいと風鈴さんから頼まれて見学したのですが、お話にならないくらいの雑魚であっという間に終わってしまいました」

「私は泣いて頼んでじゃいねーぞ! 適当なこと吹き込むんじゃねーよ!」

 視界の端で暴れている姿がみえるけれど、見えないふりをする。

「昔話は以上です。本筋の話から大きく離れましたが。無駄な話では無いと思います」

「ええ、無駄ではないです。いや、この話をしたお陰で大切なことを思い出しました」

「大切なこと、とは?」

 月森さんが首を傾げる。まだ天見さんも月森さんも山本が持っていた技術書のことを知らないんだ。また話がそれそうなので、ここ言わないでおこう。話した所で時間の無駄になる。

「そのことに関しても、春生と連絡を取らなければいけなせん。肝心の春生には留守電に折り返しの電話をするようにしか伝えていないので、何時かかってくるのかわかりません」

「じゃあさ、さっさと山本の所に行こうぜ。もうかれこれ一時間以上、あの部屋で山本と総一が二人きりなんだ。しかも総一はまだシャワーも浴びてないんだぞ?」

 高橋さんと小林くんに抑えられていた天見さんが落ち着きを取り戻して話しかけてきた。

「それもそうですね。石田春生さんにも都合があると思いますし、いまは了さんと密接に関わり裏切った人間がすぐそばにいるのですからね。彼から話を聞くのが早いでしょう。私も総一くんの側に居たいですから」

「お前、そんな事言って私の総一に変なことすんじゃねーぞ」

「あらあら、風鈴さん。総一くんが誰のものだと? 聞き捨てなりませんね。まさか猫みたく三歩あるいて忘れるといった可哀想な記憶力でしたか? 彼は私のお婿さんなのですよ?」

「アホか。それはそっちの親同士が決めたことだろう? あいつは私と前向きに付き合うって告白したじゃねーか。お前こそどういう脳みそしてんだよ」

「どう考えても、あれは風鈴さんに脅されたから言ったまでのことです! なにを勘違いされているのですか!」

 手を出さない分ましかもしれないが、一人の男性に対してこういう女性同士が言い争う状況を目の当たりすると、なんだか総一の奴が羨ましくなってきた。これは、あれか、ライトノベルの主人公的な立ち位置に彼はいるのかな。

「あの二人、総一くんのことが大好きなんだ。出会ったのは三年前なんだけど、風鈴は総一くんと出会った直後に一目惚れ。小町は小さいころから決まった殿方ということで総一くんに盲信中なの。肝心の総一くんは、二人のお姉さんに振り回されている癖に、二人とも女性として好きですとか言ってんの。終わってるよね?」

 聞きたくもない三角関係を親切に高橋さんが教えてくれた。すごく、どうでもいいです。そして最後の主観は同意しかねます。

「あーうっさわ。このダラズどもが! 山本の所に行くなら行くでさっさと行くで。お前らの目的はなんだで! ほら、小町、ゆってみんさいや!」

 桜子の大声により天見さんと月森さんの口論がやんだ。名指しされた月森さんにいたっては、体を小さくさせている。

「了さんの居所と、山本が手に入れた力についてです」

 月森さんの弱々しい声で目的を聴いた桜子は満足して、次に天見さんを指さした。

「風鈴、あんたも言んさいや。あんたはここに何しにきたん? 好きな男に近寄るためだけにここに来たんと違―が」

「了の企んていることを阻止するためです」

 あんなに暴れまわっていた天見さんを一喝して大人しくさせた桜子に拍手を送りたいくらいだ。桜子の隠れた才能だ。

「そんなら、もう行くしかないな」

 桜子がリビングにいるみんなを見渡して笑った。

「な?」

 こんな強引に人を引っ張る力をもった桜子に異論反論を唱える人は居らず、大人しく彼女の言葉に従った。

 桜子ちゃんの方こそ、言葉による人を操る力を持っていたほうがいいのかもしれない。


 リビングを出て山本和博が拘束されている部屋に入る。部屋の中央に用意された椅子に拘束された山本和博がいて、見張っていた総一は意外にも元気そうだった。用意されていたタオルで濡れた体は拭きとったようで、服も用意されたものに着替えている。

「一人にさせてごめんな」

「私に会えなくて寂しかったんですよね。ごめんなさい、総一くん」

 部屋に入るなり総一の元へと駆け寄よろうとする天見さんと月森さんだが、二人の首元は柔道経験者の二人に掴まれた。

「いい加減にせーや、お前ら」

「ちょっとは真面目にしてよ」

 柔道経験者の二人に睨まれた天見、月森ペアは怯える総一から二歩ほど下がった。

 四人のことはとりあえず後にして、僕は山本和博に目を向けた。

 山本和博の姿は天見さんが具現化させた紐によって手足が縛られ、椅子に固定されている以外にも、口にはガムテープに目隠しをしている。手足の拘束以外の二つは僕が支持したものだ。目隠しをした理由は、桜子と同じ目に合わせたかったという僕の個人的な恨みから来たものだ。

「ということで、交代だよ。シャワー空いたから入ってくるといいよ」

 小林くんが代表して総一に山本の尋問を行う旨を伝えた。

「それなら自分もここにいます」

「うん、君のそういう真面目な所はいいと思うんだけど、後ろの二人がいるのはわかっているよね?」

 小林くんが、例の二人を親指で示した。

「あ、はい。行ってきます」

 総一は僕らに挨拶をして部屋を出て行った。

 天見さんと月森さんは出て行った総一を惜しむような仕草こそしていたけれど、すぐに気持ちを切り替えて拘束されている山本和博を睨んだ。

 天見さんは乱暴に目隠しと口のガムテープを剥ぎ取る。

「やぁ、呪術師山本。お前に聞きたいことがあるんだけど、教えてくれるかな?」

 山本和博の目と口は自由になっていたけれど、目は虚ろで口は金魚のように開いては閉じるの連続だった。

 僕の人を操る力が未だに継続している証拠だ。

「井上さん、こいつを自由にしてやってくれないかな?」

 天見さんは山本と睨み合ったまま指示を出した。

「どうすれば?」

「自由にするというイメージを持って、言葉を発してください。きちんと山本にも自由になったという実感させられる言葉であればいいのです」

 同じ力をもつ先輩の月森さんが教えてくれた。

「山本和博。お前に発言をする自由を与えてやる。だが、手足は不自由のままだ」

 僕が許せるのは会話だけだ。それ以外を認めるつもりはない。

 山本和博の目に生気が戻ると、眼光鋭くして僕ら全員を睨んだ。

「そんな姿で睨まれても怖くないね。小町、初めてくれ」

 天見さんが身を引くと呼ばれた月森さんが代わりに一歩前に出た。

 人を操ることができる彼女に尋問というのは打って付けの役割だ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

存在抹消 その十 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


次回はこの物語の根本に触れる予定です。


明日も投稿します。

よろしくお願いいたします。

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