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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第四章 存在抹消
43/62

存在抹消 その八

存在抹消 その八 です。

よろしくお願いします。

 まずは月森さんの迅速な対応のお陰で僕らは誰からにも追われずに済んでいる。あれだけ派手に街を壊しているのにも関わらず、報道機関はおろか警察にも目を付けられなかったのは複数人の警察官僚に政治家、そして各メディア媒体の声掛けをしてくれたからだ。

 天見さんの行動と判断力にも脱帽だ。彼女は僕らが山本和博を捕らえると信じて、満身創痍の僕らを拾うため車を寄越してくれていた。車は三台用意されていて、うち二台はダミーとして使ったらしいのだがすでに報道規制や警察関係に根回しが行き届いていたので入らぬ心配ではあった。

 天見さんの荒っぽい運転に揺られながら中野区にある天見さん個人で所有しているマンションの一室に運ばれた。

 ここへ到着するまでの経緯はこんな感じだが、マンションに到着してからが大変だったともいえる。

 それも少し前のことだ。こうして各メディア媒体で捏造と報道規制されたニュースを確認することが出来ているのは一段落ついたからとも言える。

すでに新宿東口と西新宿で起こした山本和博との攻防戦が終わってから四時間近く経っている。

テレビから垂れ流される偽りの報道が終了し、キャスターは次のコーナーのアナウンスを始めた。どうやら芸能人のゴシップに関する内容だったのでこの場にいる全員が興味を示していないとわかり、テレビの電源を落とした。雑音が消えると一時的な静寂が訪れ、リビングにいる全員の顔を見渡す。このリビングにいる面子は山本和博と小冊子を探していた僕、桜子、高橋、小林の四人と、呼び出され僕らを助けてくれた天見、月森の二人。計六人が大きなテーブルを囲んで地べたに座っている。山本和博は総一監視の元、別の部屋で手足を拘束して軟禁状態にしている。

「小林くん、報道や警察に関してはこれで問題ないとご理解いただけましたか?」

 月森さんが優しく、小さな子どもをあやすような口調で小林くんに告げた。

「オッケーオッケー、これで問題なく明日からの普通の生活が送れるよ」

 月森さんの根回しがどこまで順調に進んでいるのか気になった小林くんがテレビ及びインターネット上での状況を把握したかったという理由で会談は一時中断されていた。

「話の続きと行きましょう。井上さんたちが三冊目の小冊子を見つけた後、呪術師山本との接触、戦闘までは把握出来ました。そこで、井上さんから幾つか聞きたいことがあります。このマンションへ入室してからのこと、つまり山本和博の尋問で得た情報から気づいた点ないし疑問点があればお話して頂けませんか」

 いつの間にか進行役に徹している月森さんに催促されたが、しかし僕もまだ頭の整理が付いていないのが現状だ。

 僕自身でも消化しきれていない部分を洗い、点在する既成事実を組み合わせるため考える時間を設けさせてもらった。

 時計の針は戻せないが、数時間前の記憶をさかのぼり再構築することは可能だ。記憶は、そうだな。このマンションに到着した直後まで遡るとしよう。


 匿わせてもらうマンションに訪れたころには豪雨は霧雨のような状態となっていた。エレベーターに乗って八階の部屋に通された。部屋の間取りは2LDKといった広さで古い物件ではなく比較的に新しいマンションだった。部屋の内装は実にシンプルでテーブルとカーペットにテレビが一台と電話機が一台用意されているだけだ。

 まず初めに行ったのはすでに手足を拘束していた山本和博を別の部屋に移動させてから椅子に固定させた。すでに抵抗する気力すらないのだが、念のため総一が山本和博を監視することになった。

 すぐにでも尋問としたかったが、雨に濡れた僕らの体は完全に冷えきっていたので交互にシャワーを浴びてから、ということにした。

 先に女性陣から入ってもらい次に男性陣という順にした。僕は三番目で桜子と入れ替わるようにバスルームに入って熱いシャワーを浴びた。バスルームも広くて僕が住んでいる築三十年余りのアパートにあるユニットバスの三倍の広さはあった。

 シャワーを浴びる人間が五人もいればそれなりの時間が掛かかり、全員がシャワーを浴び終えたころには一時間ちかく経過していた。

 誰かが一人シャワーに入っている間、山本和博を監視していない一人を除いた四人がリビングでお互いの情報を交換し合ったのだが、全容を把握するには素材不足だったため話をしても纏まらなかった。

お互いの情報を交換し合う具体的な話をしたのは僕がシャワーを浴び終えて、用意されていた服(どれも新品の服で袖一つ通されていないとすぐにわかった)に着替えてリビングに戻ってからだった。

 柔軟剤で柔らかく、そして優しい匂いを纏ったバスタオルで頭を拭きながらリビングに戻ると小林くんを除いた全員が神妙な顔をして僕を迎え入れた。この時から総一は山本和博の監視をしていた。彼が最後にシャワーを浴びることになったのだが、さすがにタオルを持ち込んで見張っていたはずだ。

「じゃあ、次はぼくが入ってくるよ。詳しい話を聴くなら井上さんが適役だとは思うからね」

 小林くんが僕の肩を軽く叩いて与えられた新しい服とバスタオルをもってバスルームへ入っていった。

 リビングには女性四人だけなので、居心地はいいとは言えなかった。シャワーを先に浴びた桜子と高橋さんの髪は未だにしっとりと濡れていた。どうやらドライヤーは用意されていないようだ。

 みな思い思いの場所に座っていた。テーブルの前に付いているのはいわゆる誕生日席と呼ばれる場所に月森さん。その左隣に天見さんと続けて高橋さん。桜子は高橋さんの対面になるように座っていて、僕は月森さんと対面する形で下手側の誕生日席へと座った。

僕の右隣にいる桜子からはボディソープの香りが漂ってきていた。

「お風呂あがりで申し訳ないのですが、今後の予定をお話します。小林くんが戻ったら山本和博の尋問を始めます。彼と話を下準備として、事前にどのような質問をするのか決めておきたいのですが、井上さんからなにかお聞きになりたいことはありますか?」

 両手を組んだ月森さんが話を切り出してきた。

「僕が聞きたいのは、なぜ山本自身が作ったはずの小冊子を今になって手に入れようとしたことです。彼の行動には一貫性が無い上に矛盾だらけだ」

 一度、言葉を切って広場での山本和博とのやり取りを思い出しながら話す。

「山本は僕に掛けられている呪いもどきを出来損ないと言いました。裏を返せば山本自身も出来損ないの力を与えられたから、三冊目の小冊子を手に入れたかったということになります」

 思い出しながら話を構成していく内に、自分の頭の中も整理していたせいで聞きたいことが憶測に切り替わってしまった。

「質問というよりも、答え合わせをしたいという感じが近いかもしれません」

「いいえ、井上さんの憶測は間違っていません。むしろその考えを聴いたおかげで私達の間で出した憶測が確信へと変わりました」

 月森さんが遠慮がちに答えて、天見さんと目を合わせた。

 その、二人だけが知っている雰囲気が、気に入らなかったのだと思う。

「二人はどこまで知っているんですか? 三冊目の小冊子を読めば僕の呪いもどきは解ける、と同時にあなた達と同じ力を得られるようになるんですよね? でも、違った。僕の呪いもどきはすでにあなた達と同じ段階まで進んできている。一体、三冊目を読んだ後に得られる報酬というのはなんですか?」

 言い終わると桜子が僕の右手をそっと触れた。そうされることで、僕自身が怒っているのだと自覚させられた。

 落ち着いて話していたつもりが感情に任せて話していたらしい。会話に置いて冷静さをかけていたら無意味だ。

 腕を組んで僕の話を聴いていた天見さんがこちらに目を向ける。

「その説明をする前に、私から確認したいことがあるんだけどいい?」

「どうぞ」

「私らの力は大きく分けて二つあるんだけど、もう気がついているかな?」

 天見さんの質問に対して僕は小さく頷いてから広場で起こした僕の力と、三菱UFJ銀行ビル前で見た総一の力を思い出す。

「精神を操ることと物質の具現化、ですよね」

「その通り。私と総一が具現化するタイプ。小町と井上さんは人の精神を操るタイプ。私達の力っていうのは、二つに分かれているのが常識なんだ。ところが、この常識を覆した人物がいる」

 天見さんと月森さんが、わかるよねという顔をしている。僕だって考える頭もあるし察しもいい方だと自覚している。

「二つの力を持っているのがあの円城了」

「そう。そして最悪なことに了は天才なんだ。だから呪術というモノまで会得しやがった。それで、私達は……悪い、この話は関係ないわ。忘れて。井上さんに知ってほしいのは、了が呪術までも使用して自分と同じような人間を作ることだったんだ」

「三冊目の小冊子を読めば呪いが解けるのではなくて、物質の具現化にする力を得られるということ、ですか?」

「実を言うと、私らの考えもあくまで憶測の域で可能性が高いという判断でいたんだ。ところが、呪術師山本が出てきたことで、憶測が確信へと変わった。山本も了から私らと似通った力を手に入れたが、それは出来損ないだった。より完全な力を得るには?」

「三冊目の小冊子が必要だったというわけですか」

「その結論に帰結するのが妥当だと考えられます。ですが、ここで幾ら確信を持ったとしても机上で作り上げたものです。そうですね。井上さんの言われる通り、山本には尋問ではなくて答え合わせをすると考えたほうが良さそうですね」

「そういことになるか」

 月森さんが纏めた言葉に天見さんが同意する。もちろん、ここに居る誰もがそこで落ち着くと思われたのだが、これまで聞くだけだった桜子が異論を唱えた。

「なぁ、よー話を聞いちょったけども、おかしないか?」

「どういうこと?」

 桜子の対面上にいる高橋さんがテーブルに身を乗り出して聴いた。

「だってな? おかしいがね。あの小冊子って山本が書いたもんなんだが? 作者だってあいつなんだで? なして自分で隠したもんを必死こいて取り戻そうとしたん? 井上さんが初めに思っちょった疑問は解決しとらんがね」

 桜子の至極当然な疑問に僕らは言葉を失ってしまった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

存在抹消 その八 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


明日も投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

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