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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第四章 存在抹消
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存在抹消 その四

存在抹消 その四 です。

よろしくお願いします。

 どうやら僕の笑い方が気に入らなかった様子の鬼は片足を軽く上げて、コンクリートで出来たパネルを踏み抜いて足跡を付けた。自分の力を誇示するやり方としては間違っていない。特別な力を持っていない普通の人間では敵わないだろう。でも、呪いもどきが変化した僕なら大丈夫だ。

「今すぐ彼女たちを解放しろ」

 僕は鬼に向かって命令をする。この力があればどんな相手だって服従させることができる、はずだった。

 鬼は動きもせず、また桜子ちゃんたちが自由になる様子も見られない。

「なぜ、動かない」

混乱した。この力はそういうモノじゃないのか。それとも、命令の仕方を間違えた?

背後から総一の叫び声が飛んでくる。

「貴方は誤解している。それは人形だ! 人ではない!」

「え?」

 総一の言葉を聴いて、自分の過ちを理解し血の気が引いた。僕はこの特別な呪いによって普通の人よりも優れてしまったと勘違いしていた。自惚れていたのだ。茫然自失となり、僕の視界になにが見えているのかもわからない状況になった。

「危ない!」

 再び総一が叫ぶと同時に、僕の体は後方へと吹き飛ばされる。硬いコンクリートの地面に体を打ちつけたせいで、体がうまく動かない。かろうじて動く頭を上げると、鬼が人差し指を出しているのが見える。

 あんな指一本で吹き飛ばされたのか?

 すでに呪われてはいるけれど、自分の愚かさを呪った。僕は特別な力を手に入れたことで、物語の主人公になれたのだと錯覚をしていた。奥の手を封じられた今、僕にはなにもすることが出来ない。小冊子を渡して桜子ちゃんを助けた方がいい。

 鬼の視線が僕から逸れる。

『そこにいるのは、――――縁の者か? 残念だが、君も私の相手にはならない。下手に動けば、こちらもそれなりの行動をとる。いいかな?』

 姿こそ見えないが、総一が言い返すことはなかった。

『名も知らぬ読者。君に危害を食わるつもりもない。大人しく小冊子を渡せ。君がなにを求めていたのかは知らんがせいぜい出来損ないの――――で満足したまえ』

 出来損ない。僕のこれは、まだ不完全だということを指している。ということは、小冊子を読めば……いや、駄目だ。僕がするべきことは小冊子を読んで呪いを解くことではなくて、桜子ちゃんを救うことだ。

 痛めた体に力を入れて立ち上がり、デニムパンツの後ろポケットにしまいこんでいた三冊目の小冊子に手を伸ばそうとした時、自分の目にあるものが見えた。それはとても小さく、しかしずっと見慣れて来たもの。

 微かな希望と可能性が頭に過る。これに賭けていいのか。いいや、悩む前に行動しろと言い聞かせる。

「山本和博。この小冊子を手に入れたら、どうするんだ?」

『無駄な質問だ。知った所で意味は無い』

「あんたも出来損ないを掴まされたんだろう?」

 鬼の背にあった五つの黒い球体が急激に動き出した。僕の安い挑発に乗ってしまった反応にも見える。この球体がなんなのか計り知れないけれど、この広場を破壊したのは、この球体なのだと勘ぐる。

「図星か?」

『運がいい、お前が小冊子を持っていなければ灰にしてやるところだ』

 口調が君からお前に変わった。良い傾向ではあるけれど、まだ駄目だ。

 変化があるとすれば、鬼の背にあった黒い球体の形状だ。

 球体はドーナッツ型に落ち着くと、空の円には小さな球体が浮かび上がっている。いかにもビーム的なモノを撃ちますという形状だ。恐怖はあったけれど、非現実的すぎて実感がわかない。本当に撃たれでもしたら話は別かもしれないけれど。

 こんな脅しの道具を出されても意味が無い。僕が見たいのはこれじゃないんだ。なにかあったはずだ、彼を挑発するに打って付けの比喩があったはずだ。

 桜子ちゃんと同様な姿にされた高橋さんをみて、ようやく思い出した。そうだった、彼は呪術師ではあるが三流なのだと。

 不名誉な名称なのかはわからないけど、言ってみなければ。

「出来のいい人形だ。発明家と言われるわけだ」

『貴様、なんと言った』

「あんたの肩書きだ。呪術単体では三流だが自身が作った媒体を使えば一流。故に、発明家」

 鬼は何も言わないが、それでも意識して見ていた僕の目に間違いはなかった。ドーナツの穴に浮かんだ球体が激しく振動しているのがわかるが、危機感はなかった。

「うで、いっぽん、いただく、か?」

 振動していた球体が音も立てずに止まった。気づいてくれたありがとうと言いたくなったが、言わない。ここで逃すものか。

 僕は全速力で鬼の横を通り抜けて走りだした。距離にして二十、いや三十メートルくらいだ。顔はよく見えないし、これといった特徴も見られない。

 駆け寄る僕をみて男は度肝を抜かれたのか、そうとう驚いているのが分かった。

 鬼を通しての声は聞こえないし、僕の耳にも男の声は聞こえない。だが、男が発している言葉のフキダシは見えている。

「動くな! 山本和博!」

 名を呼ぶことで僕に掛けられた呪いもどきの力を増幅している、感覚で判断したが的中していた。

 山本和博は今度こそ僕の言葉に従った。

「近くにいたのがあんたの失敗だ」

 この広場に到着して、僕はすぐにここにいる野次馬に動かないように指示をしたけれど、三十メートルも先にいた人達には効果が見られていなかった。たぶん、影響が少なかったのだと思う。ここで木像の鬼を操っていた山本和博も同じように、はじめは僕の命令による影響下にあったけれど、すぐに解けたのだ。

「僕と会話をしている時、あんたのフキダシが見えたんだからな。呪われる本を作っておきながら、ずいぶんとお粗末な結末を迎えたな」

 山本和博の周りにいた野次馬が引いていて、人の壁で出来た道が出来上がっていく。動きを止めた山本和博は走りだそうとしている格好のまま静止していた。この姿勢で停まっているのも不思議だが、実に不格好だ。

「さぁ、面と向かって話をしようじゃないか。発明家、山本和博」

「その名で私を呼ぶな」

 ようやく対面することが出来た山本和博のご尊顔は、あまりにも平凡だった。決して悪い顔ではないのに、特徴がない。体型も細くも太くもない。すべてにおいて平凡そのものだった。

 発明家と呼ばれることには本当に嫌悪しているらしく、フキダシは意識しなくても見えていた。『馬鹿にするな』と。発明家という呼び名は山本和博のコンプレックスそのもののようだ。

「僕にどのような悪意を向けようと構わないし、知ったことじゃない。では、改めて言おう。桜子ちゃんと高橋さんを解放しろ」

「わかった」

 山本和博の意志が強いせいなのか、言葉では承諾しているけれど顔は不満気だ。反感する感情が強いと抵抗力はあるのかもしれない。いや、僕の呪いもどきが不完全だから完全に支配できないとも考えられる。

「あの解放するにもあの二人に近づかなければできない。移動させてくれ」

「嘘ではないな?」

「嘘じゃない。事実だ」

 念押しをしたので信じることにした。

 ようやく桜子ちゃんたちの前に立つことができたのだが、二人には手錠と目隠しの他に首輪が付けられていた。僕はしゃがみこんでその首輪に触れようとしたが、辞めた。何が起こるのかわからない。

「これは、なんだ」

「首輪だ。わかるだろう」

「なんだと、聞いている」

「叫ばれるとうるさいから、声を出せないようにさせただけだ。少し考えればわかるだろう? 読者のあんたがここに来て、口うるさいど田舎の女が叫ばなかったんだ。それくらい、気づけよ」

 背後から聞こえる山本和博の声に笑いが含まれているのがわかる。

「僕の声は、聞こえていたのか?」

「ああ」

「桜子ちゃん、高橋さん。動くなといったけど、呪われた道具が外されたら自由だから」

 僕にできることは、優しく囁くことだけだった。

「彼女たちに付けた呪いの道具をすべて外せ」

「わかったよ」

山本和博はポケットから手のひらサイズの鉄棒を取り出して、首輪と手錠に当てた。すると、首輪と手錠は音も立てずに崩れ去った。最後に二人に付けられた目隠しを剥ぎとると、山本和博の手の平で目隠しは糸くずになって消えた。

「傑作中の傑作だったのに」

 こいつの発明品に関して思うところはない。

 目隠しを外されて恐る恐る開いた二人の目は赤く充血し、涙を流し続けたのだろう。酷く腫れていて、痛ましかった。

 桜子ちゃんの手に触れながら、お互いの鼻が重なるくらいまで顔を近づけた。

「もう、大丈夫だよ」

「井上さん」

 久々に聴く、桜子ちゃんの声は弱々しく痛ましかった。

「ごめんね。助けに来るのが遅くなって」

 出来る限りの笑顔で桜子ちゃんに向ける。

「井上さん!」

 桜子ちゃんは僕の背中に手を伸ばして抱きついてきた。僕の胸に熱い涙が流れているのが分かった。また泣かせてしまった。

 僕は桜子ちゃんの頭に手を乗せて撫でた。

「高橋さんもすみません。怖い思いをさせてしまって。途中まで小林くんもいたんですけど」

「いいえ、私は」

 大丈夫ですと言いたかったのだろうけど、続く言葉が出ないのは彼女も辛かった証拠だ。

 ここに来ることを優先したばかりに高橋さんのことまで気遣うことが出来なかった自分が情けなかった。彼女だって彼氏である小林くんと会いたかったはずだ。

「高橋さん!」

 小林くんの声が広場に響いたので、顔を向けると血相を変えて僕らのほうへ駆けて来る小林くんの姿が見えた。

「小林くん!」

 彼の姿を見た高橋さんは急に立ち上がり、走り寄る小林くんの元へ急いだ。

 小林くんは、あろうことか鬼が破壊した地面の穴に引っかかって転びそうになった所を高橋さんに抱きとめられた。

「なんでいつも遅く来るの?」

 高橋さんが若干怒った風に言ったが、実のところは甘えている。

「いつも助けられなくてごめんね。その代わり、ちゃんとぼくは高橋さんの近くにいるから、許して」

「いいよ。一緒にいてくれるだけでいいよ」

 こういう男女の付き合い方もあるのかと感心してしまった。

 僕らの問題はこれで解決した。残るは、呪術師、山本和博をどう締めあげるかだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

存在抹消 その四 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


お詫びを一つ。

ここ連日、午後の投稿となっているのは、

自分の執筆の悪さにあります。

この連載を9時から読んでいた読者の方には申し訳ないと思っています。


早ければ今週木曜日、6/19には朝9時の投稿出来るように努力します。


明日の投稿も午後になります。

お時間がある時に読んでいただければ幸いです。


よろしくお願いいたします。

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