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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第四章 存在抹消
37/62

存在抹消 その二

存在抹消 その二 です。

よろしくお願いいたします。

 三冊目の小冊子を読むのは春生と中村さんの連絡が取れ次第だ。山本和博と円城了の企み事がなんであれ、僕が安易に呪いもどきを解いていいような場合ではない。

 携帯電話をしまおうとした時、液晶画面には留守番のマークが上がっていた。件数は五件。僕は慌てて着信履歴を確認すると案の定、桜子ちゃんからの番号が上がっていた。

 留守録を確認することもなく、そのまま桜子ちゃんの携帯番号に合わせて通話ボタンを押した。

 コール音はたった一回で繋がったのはいいが、僕の心中は穏やかではない。桜子ちゃんを怒らせているのだとしたら宥めるのも一苦労だ。

『井上さん、大丈夫だで!』

 久々に聴いた桜子ちゃんの出雲弁が妙に懐かしかった。第一声が僕への心配ならば怒ってはいないようだ。

「大丈夫。ちょっと電波の届かない所に居たから繋がらなかったんだ。それと、三冊目も見つけたよ。いま、何処にいる?」

『ほんに? 良かったわ。ずっと電話しとっても繋がらんし、めっちゃ心配しとったけんな! んと、今は理緒と一緒に東口っつーところにおるわ。なんがロータリー挟んでちっこい公園というか広場みたいな所におーわ』

 桜子ちゃんには僕が到着するまで待ってもらうことにした。詳しい話もその時でいいだろう。

 通話を終えると同時に、図書館から小林くんと総一くんが出てきた。小林くんは僕が手にしている携帯電話を指さして尋ねてきた。

「石田さんのお兄さんです?」

「いや、妹の方。春生のほうは連絡がつかなかった。折り返し連絡がくるとは思うけど、いつになることやら」

 小林くんに桜子ちゃんと高橋さんがすでに新宿へ到着している旨も伝えると「時間切れですかねー」と彼は呟いた。

「もうちょっとご一緒したかったんですけどね。仕方ないか。ぼくはここまでということなので、舟渡名鶴が言うべきだった伝言を教えますね」

 舟渡の名前を聞くまで伝言のことなどすっかり忘れていた。この小冊子に関してなにかしらの節目に伝言があったのだから、三冊目の小冊子を手に入れた後にも伝言が用意されていてもおかしくない。むしろ、著者の性質からして伝言は絶対に用意されている。

「吉行さん、本当に伝言を」

 総一くんがすごい剣幕をして小林くんに突っかかっていく。

「大丈夫だよ。君だって井上さんと話をしてみて、この人がどんな人なのか、わかっただろう?」

 総一くんが僕のほうに視線を向けたが、すぐに小林くんへと戻した。

「井上さんのことは少しではありますが、どんな方なのか、どのような性質を持った方なのかは理解出来ました。風鈴さんも小町さんも心配はないと仰っていましたが、しかし、万全に越したことはないと自分は思います」

「じゃあ、何のために舟渡名鶴からこの伝言を聞き出したの?」

「それは、最後の伝言なのだから重要な手がかりがあるかという理由で聞き出したのであって」

「ほら、だから読者である井上さんが聞かないでどうするのさ。それに、天見さんたちだって、こうなると分かっていたから最後の伝言を僕に託したんだよ」

 小林くんらしい軽い口調が総一くんの毒気を抜いた。さらに言えば、小林くん自身の性質に呆れた様子で脱力しとも言える。

「自分は吉行さんの楽観的な思考が羨ましいです」

 完全にやる気をなくしてしまった総一くんは小林くんから引いた。

「月森さんが聞き出した作者の伝言です。あー、ちょっと待って下さいね。さすがに空で憶える記憶力がないので」

 小林くんはスマートフォンを取り出して操作し始めた。どうやらテキスト化した伝言を読み上げようとしている。

「小林くんが読み上げなくても、僕がそのままテキストを読めばいいんじゃないのかな?」

「何を言ってんですか? こういうのは人の口で伝えるから意味があるんですよ!」

 桜子ちゃんを待たせているので効率のいい方を選んだだけなんだけど、僕の思いは小林くんには伝わらなかった。

「では、改めて。伝言ですよー。

『名も知らぬ読者へ。

 この伝言は三冊目を手に入れて間もない頃に聞いているはずだ。

 君もいきなり司書から声を掛けられて驚いたろう。

 なに、この伝言を言い終われば、

 これまでの操ってきた者たち同様、

 すぐに解放されるので心配無用だ。

 そして、私からの伝言もこれで最後なる。

 あとは、君が手に入れた三冊目を読めば、

 晴れて君は自由だ。

 この自由という意味を君がどのように受け取るのか、

 また、君がどのような行動を取るのか、私は一切関与しない。

 そう、私からは一切関与しない。

 意味はわかるね?

 名も知らぬ読者へ。

 私は待っている。

 では、いつの日か』

 これで、伝言は以上です。この伝言を聞けば風鈴さんと小町さんがどれだけ危惧しているか分かってもらえるでしょう?」

「天見さんたちがどれほど気に病んでいるのか、大体の見当はつくけれど、今朝ここに来た時にでも教えてくれれば良かったのに」

「何事も順番ですよ。順番。それにこの伝言を井上さんに教えるかはぼくが決める手はずだったので、伝える順番をどうこう言われたくはないです」

 生意気な事を言ってくれる。これは十代特有の大人に近づくための一歩みたいな風にも見える。僕自身もそういった過去が無いわけじゃないので、何処かもどかしかった。

「きっと、この伝言を聞いたとしても、井上さんの意志はそう簡単には崩れたりはしないでしょう」

「僕が山本和博や円城了を求めないという保証はないんだよ?」

 小林くんが鼻で笑う。

「保証が存在するのは企業間と企業と顧客だけに存在するものですよ。個人対個人、ましてや感情までは、当事者たちにしかわからない。そんな個人間の感情を保証してくれる紙切れなんて存在しませんよ」

 本人は上手いことを言っているつもりかも知れないが、言いたいことは感覚で伝わるだけで、本質までは伝わってこない。心の中がざわついてくるけれど、なにも言わないほうがいい。こういうのは黒歴史になるから自分で気づき、自分自身で恥じて欲しい。

「井上さんが手に入れた『白紙双紙』という小冊子は、井上さんだけで解決していく問題だったはず。それなのに付喪神探偵が関与しておかしな展開になっただけ。僕らが関与しなければ、こんな複雑な図式も生まれなかった。もし僕らが関わらなかったら、井上さんは、この伝言を嫌味な女性司書から聴いていたんです」

「だから、最後の伝言を聴くのも当然だと言いたいのかい?」

 先ほどの言葉にはフキダシが出ていた。『こちらが本筋』と。フキダシを意識して見てないので、本音がすべて読み取れたわけじゃないけれど、察するに付喪神探偵である高橋さんがいなければ、天見さんたちが関与することもなく舟渡名鶴が負傷せずに最後の伝言が聞けたはずなのだ。

「当然というより、自然の流れであれば聴いていたんですよ」

 初めからそのように言えばいいのに、変に語りたいという思いがあるから話が長くなってしまった、とは言わないでおこう。これも彼の性格と人間性なのだから。

「それで、井上さんの中ではなにか変わりました?」

「どうかな。本来、知らないままで事情などを知ってしまったからね。この小冊子を受け取った当初から決めていたのは、どんな報酬であれ受け取るつもりは無かったんだ。特殊な力だとしても、いまのところ変化はない。ただ、呪いが解けた後、なにが起こるのかわからないのは事実だ。僕の意志とは別な力が働くかもしれない。想像だけどね」

「あれこれ考えるよりも、まずは行動あるのみですかね」

「最悪な結果を生み出さない為にも、一冊目の小冊子を手に入れた石田春生と連絡を取り合わなければいけない。うまく円城や山本の居場所を突き止め、天見さんたちと高橋さんが何かしらの解決を見つけ出すかもしれないしね」

「すっごく失礼なことも言ってもいいです?」

「いいよ」

 そうは答えたものの、先にフキダシが見えていたので、僕になにを伝えたいのか分かっていた。加えて、僕自身も言いながら気づいていたことだ。

「他力本願ってどうかと思いますよ」

「奇遇だね。僕もそう思っていたんだ」

 自分でも情けないけど、ここまで来たら協力し合わなければいけないところまで来ている。僕一人だけで解決できる出来事ではもうないのだ。

 ずいぶんと話し込んでしまった。この雨の中で二人の女の子を待たしているのだから外に出たらタクシーを拾って移動しよう。

 図書館から離れてエレベーターに乗り込み一階のボタンを押した。

「二人はどうする?」

 密閉されたエレベーターが途中で止まることなく一階へと下降していく。途中で三半規管がおかしくなったので唾液を飲み込んで耳抜きをした。

「ぼくは新宿御苑まで歩きます。総一くんは三冊目が見つかるまでの監視だったけ?」

「自分は井上さんが三冊目を読み終わるまでご一緒する約束となっています」

 僕へと向けた言葉ではあるけれど、会話が成立するのは小林くんだけだ。

「どのみち、ちゃんと会話ができないのであれば、離れて貰ったほうがいいか」

 一階に到着してエレベーターの扉が開くと、総一くんは小林くんに耳打ちをした。

「え、なに、小声すぎて聞こえない」

 先にエレベーターを降りた僕は二人が出てくるのを待つ。何気ない光景かもしれないけど、耳打ちをする姿というのはあまり見かけないもので非日常な一面だった。

 エレベーターの扉が閉まりかけそうになって、二人は仲良く降りた。

「『ご迷惑をお掛けしますが三冊目を読まれるまでひっそりと同行させていただきます。この件が終わりましたら、改めてお詫びをさせてください』と総一くんが言ってました」

「まるで伝言ゲームだな」

「それですよ。今日の僕がしたことって、半紙を見つけ出すことと、誰かの伝言を行っただけですからね。なんかもやもやするなーと思ったらそれだ!」

 僕はさすがに呆れて笑ってしまった。

「気付くのが遅すぎるよ」

 区民センターを出て新宿通りでうっかり屋さんの小林くんと別れて、空車の赤いマークが灯っているタクシーを呼び止めて乗り込んだ。

 新宿駅までと目的地を伝えると「かしこまりました」と一言告げて、運転手はアクセルを軽く踏んでタクシーを前進させた。

 再び新宿二丁目の交差点に差し掛かった時、僕の携帯電話が鳴った。相手は桜子ちゃんだった。最後に電話をした後、時間が経ったので心配したのだろう。僕は軽い気持ちで通話ボタンを押した。

 僕がもしもしと言う前に、桜子ちゃんの悲痛な声が僕の鼓膜を刺激した。

『井上さん、いまどこ、早く来て! 助けて!』

「ちょっと、どうしたの!」

 僕が叫ぶと同時に携帯の通話が切れた。

 僕は後部座席から運転手に向かって叫んだ。

「運転手さん、急いで! 早く!」

「急げって言われても、困るんですよねー。雨で車も多いしー」

 お前の都合は知らない。知ったことではない。

 信号はもう青に変わっていた。早くしろよ。アクセルを踏めよ!

「急げと言っているだろ! 走らせ!」

 僕が怒鳴ると運転手は萎縮し素直に「はい。すぐに出します」と怯え、情けない声を上げながらタクシーを走らせた。

最後まで読んでいただきありがとうござます。

存在抹消 その二 は如何でしたでしょうか。


投稿時間が日によってばらばらですみません。

なるべく投稿時間は統一できるよう努力いたします。


明日も投稿します。

よろしくお願いいたします。

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