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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
小冊子手記『白紙双紙』 二冊目
35/62

二冊目

白紙双紙 二冊目 です


よろしくお願いします。

 名も知らぬ読者殿。無事に二冊目を手に入れて何よりだ。

 私はまほろばの店主に二冊目を預けただけなのだが、何事も無く受け取ることができただろうか。余計な出費が出てしまったのであれば諦めてくれ。なに、失うのはただの金だ。君は使って消えてしまう紙幣よりも消えない何かを得られることが出来る、かもしれないのだ。

 何はともあれ、君がこの二冊目を読んでいるのならそれでいい。

 

 では一冊目の続きだ。自鳴琴を手に入れた私がその後の行動を語るとしよう。

 ご存知の通り、私は呪術師の端くれではあるが、特定の人物を探しだす(すべ)は持ち合わせていない。いくら自鳴琴に掛けられた呪いが分かっていたとしても、施された呪いから逆探知するかのように呪術師を見つけ出すことは不可能だ。

 円城了がなぜこの呪いを施した自鳴琴を作り、私の為にあの骨董店に残したのか、そこをまず考えた。自鳴琴の旋律を聴いて眠りに落とす呪いはもちろん私ではなく、別な誰かに向けて施された呪いだと推測する。

 私は自鳴琴に設置されたドラムのネジが巻かれていないことを確認して蓋を開いて、手探りに調べていくと、自鳴琴は二重底であると気づいた私は慎重に一枚目の底蓋を外すと、現れたのは指定された場所と時間が残されていた。

『麻布十番 Club Sound Vision 金曜 午前0時』

 隠された一文を読んだ時の私の気持ちが名も知らぬ読者にわかるだろうか。私は円城了に失望してしまった。円城了はこの私に件のクラブハウスで自鳴琴を使えと示唆している。金曜の夜ともなれば浮かれた男女が乱痴気騒ぎを起こしている。絶頂を迎えつつある彼らに向けて、彼が作った自鳴琴を使い夜遊び中の者共を眠りに落とすということだ。

 おそらく、円城了はこのクラブハウスには訪れていないだろう。私がいつこの小冊子を手に入れるのか、呪術師であろうとも見当は付かないだろう。なにより毎週金曜日にクラブハウスへ行くような人間とも思えない。

 実にくだらない。これでは子供の悪戯と変わらないではないか。円城了に抱いていた魅力は大きく損なわれた。

 このまま自鳴琴のことなど忘れて、私自身の日常に戻っても良かったのだが、乗りかかった船を途中で降りるのも私らしくない。

 金曜の夜。私は指定された時刻よりも早めに麻布十番のクラブハウスへと訪れた。

 この日のイベントに出演している演者項目を見たが、それなりに名の知れた演者が揃っていて、ハウスとロックが主になる。どうやら私にとっては当たり日だ。私はクラブハウスという場所が嫌いなわけではない。低音が聴く空間の中に身を投じるのはむしろ好ましいくらいだ。

 地下に繋がる狭くて薄暗い通路を歩き、受付を素通りして二重層になっているドアを開くと、私好みの音が体を貫いた。

 イベントが始まってまだ間もない時間帯のためか、流れている曲はロック系だった。階下では想像していた通りの若い男女が入り乱れ、体を揺らすか中にはすでに音に合わせて踊っている者もいた。日頃なにを思って生活をしているのかは知らないが、週に一度は楽しみたいこともあるのだろう。

 約束の時間までわずかとなった所で、私は中二階にあるゲストルームとVIPルームを兼ねた部屋に入った。

 このクラブハウスのオーナーが誰かも知らない。さらに言えば、私はここへとおずれたことなど一度もない。当然、見知らぬ私を見て嫌な顔を見せたが、数秒と経たない内に、その場にいた者全員が私を受け入れてくれた。

 オーナーに挨拶を交わして、本日の主催者の女に向かって、次のステージに立つ演者に自鳴琴を渡して流すように命令をした。

 主催者の女は快く承諾してくれた。もちろん、私自身が次の演者に自鳴琴を渡しはしたのだがね。その後、音響管理の部屋に入って軽い打ち合わせをしてやった。リハーサルとは違うと初めは訴えてきたが黙らせて従わせた。

 VIPルームに戻り、用意された無駄に高級な一人がけソファに腰掛けてホールを見下ろした。高い所から与えられた音楽を楽しむ人々の姿を観るのは意外と悪くない。

 幕内が終わり、自鳴琴を渡した演者が舞台に姿を表した。

 ホールの連中は新たな演者の登場に拍手ではなく歓声で迎え入れたのだが、待ち望んでいる音が流れず、困惑をしていた。

 ネジをしっかりと巻いた自鳴琴の蓋が開かれ、マイクを通してスピーカーに金属音のメロディが大音量で流れるのだから、驚いて当然だろう。

 愉快なことに、これも何かの演出だと思い込んだ者達は不満を漏らすことなく自鳴琴のメロディを聞き入れ、そして深い眠りに落ちていった。

 ホールにいた人間だけでなく、このクラブハウスにいた全員が昏倒しているわけだが、さて、何が起こるのか期待をしている。

 まさか、本当にここにいるすべての人間を眠らせて終わりというわけではあるまい。もっと別な何かが起こってくれるのを期待していた。

 昏倒しているホールの中に、一人だけ呪いに掛かることなく辺りを見回している男が目に入った。

 私はすぐさまVIPルームをでて階段を下り、眠りに落ちなかった男と相対した。

 男は私を見るなり縋り付いたかと思えば膝をついた。どうやら、私とやり合おうというつもりではないらしい。

「ずっとあなたが来るのを待っていたんです。ここへ訪れるようになってもう一ヶ月近くなります。どうしてもっと早く来てくれなかったんですか」

 そんなことを言われても、私が自鳴琴を見つけたのは先週の話だ。だが、この男は私を知っているようだが、ひとまず話を聴くことにした。

「僕は円城という男に呪われた筆を使ってしまったんです。君の書道がこの筆を持つことで生まれ変わると唆されて。もちろん、そんなオカルトな話なんて信じるわけがなかったんですけど、面白半分で使ったのがいけなかったんです」

 彼が持っていた道具の呪いとはなかなか面白いものだった。

 呪いの毛筆以外では書がかけなくなり、また書道家の書を見たものは文字の影響を受けてしまうということだった。

 文字による影響だが、例えば半紙などに『熱』と書けば見た人間は体のどこかが熱く感じる。『心』と書けば『辛い』や『嬉しい』といった感情が浮き出てくる。これらは書を見た人間次第ではあるが、このような影響を受ける。

「僕は確かに書道を通して何かしらの思いを伝えたいとは思ってはいました。けれど、悪い影響が与えてしまうことだって有り得ます」

「自業自得だ。そんな君に哀れむ気持ちも、同情すらしないよ」

「そんな、話が違う! ここで待っていれば、不思議な現象が起きた後、僕の呪いを救ってくれる人がくるって。そういわれてずっと!」

「君がなにを吹きこまれたのか知らないが、私は君を助けるためにここへ来たわけじゃない」

 私が突き放すと、書道家の顔はこの世の終わりを迎えたようになった。勝手に絶望されても、私には関係ないのだがな。

「この筆は壊すことも捨てることも出来ないんです。なぜかはわかりません。それも呪いだと言われればそれまでです。お願いです。僕を救ってください!」

「では、聞こう。私が君を救った後、私は何を得られるというのだ?」

 書道家は床に擦りつけた頭を上げた。頬には涙の後も見える。

「筆を渡した円城という人がどこにいるか、教えることが出来ます」

 納得はしたが、気に入らなかった。書道家を救って円城了の居場所を知ることではない。この書道家を助けることができるのかと、私を試している所が気に入らないのだ。

私はこの書道家が持つ毛筆の呪いなど解かなくとも、円城了の居場所を聞き出すことは割り箸を割ることよりも容易い。

 涙を流しながらお願いしますと哀願する書道家を見て心変わりをした。

 妙案が浮かんだからだ。

 いいだろう、試されてやろうではないか。

「呪いを解く方法は一つだ。君が持っている毛筆を私に渡すといい。そうすれば、君の呪いは解ける」

「本当ですか! それなら」

 書道家は持参していた鞄の中からボロボロになった毛筆を取り出した。この呪いの毛筆を壊そうと躍起になった痕だ。物理的な力で壊れるほど軟な作りはされていない。

 差し出された毛筆に私は手を出さなかった。

「本当に渡していいのかな?」

「どういうことですか?」

「その呪いの毛筆を私に譲渡すれば、君は対価としてこれまで培ってきた書道という技術を全て失う」

 書道家は顔面蒼白になった。いい顔だ。実にいい。

 声にすら出せないほどの絶望だろう。

「だが、これまでの技術は確かに失うが、また努力すればいいだけの話だ。君が書道に費やしてきた時間を、また繰り返せばいいのだよ」

 書道家が持っている筆が小刻みに震える。

 これまでの時間と努力がすべて失われるのだ。

 もうひと押しか。

「それでもだ。君は自由に筆を取って、書を描くとが出来るのだ。どちらが君にとって自由か、考えなくともわかるだろう?」

 震えていた毛筆が止まった。

「どうぞ、受け取ってください」

「いいだろう。受け取ってあげよう」

 私は書道家の手にあった毛筆をするりと受け取った。

「さぁ、これで君は自由だ。約束通り、円城了の居場所を教えてもらおう」

 おそらく毛筆を失ったことで、彼の中にあった書道の記憶などがすっぽりと消え去ったはずだ。突然の喪失感のせいか彼は自分の身に起きた現象を把握しきれないまま、唖然としながらも、円城了の居場所を教えてくれた。

 情報を手に入れた私は書道家を残して階段に足を掛けた。背後から嗚咽を吐きながら、泣きじゃくる声が耳に届いたが私には関係の無いことなので階段を昇りきった。

 

 二冊目はここまでとしよう。

 この後、私は円城了と会えるのだが、どのような結末になったのかは三冊目に残してある。

 場所は新宿区にある図書館だ。

 根気よく探してくれ。


 それでは名も知らぬ読者殿。


 最後の小冊子を楽しみにしていてくれ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

白紙双紙 二冊目 は如何でしたでしょうか。


楽しんでもらえれば嬉しい限りです。


実際には楽しむよりも、気分を害する内容かもしれません。

書いていた自分も、いい気分にはなりませんでした。


明日も投稿をします。

次回は新章となります。


よろしくお願いいたします。

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