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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第三章 通路開放
33/62

通路開放 その十一

通路開放 その十一 です。

よろしくお願いします。

 世界堂という文房具専門店へ訪れたのは今回が初めてだ。新宿通りを歩いているとあの大きな出入口を前にして、こんな所があるものなのかと感心したことがある。

 生憎と、僕には美術には疎くまた絵心も全くなかったので気にはなっていても用もないので入店することはなかった。今回みたく毛筆を買う用事でもなければ関わることのないお店だろう。

「久しぶりに来たなー」と、感慨深く言った小林くんと足並みを揃えて世界堂へと入店した。

「小林くんは何を買いに来たの?」

「モデル人形とあとはスケッチブックにパステルです」

「いまさらかもしれないけど、小林くんは美術学校にでも通っているの?」

「あれ、言ってませんでしたっけ。僕は文学部に席を置いていますよ。大学も普通です。画材などを買いに来たのはもっぱら趣味の方です」

 学業に関係ないのなら、サークルで書いていると言ったほうが正しい気もするけれど、趣味とはなんだろう。

「僕はフィギュア造形師なんですよ」

 ごく一般的な生活をしている人には聞き慣れない造形師という言葉かもしれないが、書店に勤めている僕もかろうじて知っている程度の職業だ。簡単に言ってしまえば、人形の素体から特定のキャラクターを創作して原型を作り上げる。3Dプリンターが登場して個人でも購入できるほど手軽に人形などが作れるような時代になったけれど、一昔前はアナログ方式で手作りのフィギュア造形が主流だった。まさにいまさら手作業で人形の素体から造形をする人間がいるとは思わなかった。

 だが、造形をするのにスケッチブックやパステル等が必要なのだろうか。ふと浮かび上がった疑問を察したのか、それとも言いたかっただけなのか小林くんが僕の疑問を解消させる。

「何かを作る時はやっぱり一度イラストに書き起こしてから造形に入るんですよ。他の人がどんな風に作っているのか知りませんけどね。一応、これでもホビー雑誌に何度か入賞したことがあるんですよ」

 フィギュア雑誌は数少ないが、プラモデルやフィギュアを取り扱っている有名誌は二冊ほどある。筋金入りのオタクとはこっちの事だったのか。

「とりあえず、店の前で立ち話もなんですから、お互いに購入すべき物を買いましょう。僕のほうが時間かかると思うので、筆を買ったらここに来てください」

 と、小林くんはフロア案内に書かれたコミック画材を指さして、足早に移動していった。

 世の中には色んな趣味を持っている人がいるのだなと感心しつつ、僕も僕で目的の毛筆を探す旅に出た。

 子供のころ、無駄に文房具屋に来ていたのを思い出す。なんというか画材の匂いが好きだったのだ。綺麗に陳列されている鉛筆や消しゴム。真新しいノートの山。

 近所には必ず一件はあったはずの文房具屋はもうなくなっている。学校指定の教材ならいざしらず、ノートや鉛筆に筆箱などと言ったアイテムは近所の小さな文房具店で購入するよりも、大きめのデパートやショッピングモールで洒落の効いた文房具を買うことが多い。需要なきものは無くなるのが世の常かもしれないが、あの小ぢんまりとした文房具店独特の雰囲気と空気は、大型店では味わえない空間だ。

 ノスタルジックな過去を思い出しながら毛筆が陳列されている一角に辿り着いた。僕意外にも一人の男性がいるが、彼は目の前にある筆を眺めるだけで手に取ろうとしない。

 僕も彼に習って種類別にされた毛筆を物色する。一言で毛筆と言ってもかなりの種類がある。動物別の毛もあれば、毛先の太さ、硬さだけでなく穂先といって形状別までも存在している。

 種類の多さにも驚かされたけれど、なによりも驚いたのは値段だった。小学生の頃、何気なしに使っていた毛筆だったけれど、こんな値が張るものだとは思ってもみなかった。今にして思えば、学童教材を一式揃えるだけでも数万円はするのかもしれない。親は子供のためとはいえ、大きな出費になる。こんな所で親に感謝することが来ようとは、予想もしなかった。

 毛筆の種類は豊富ではあるけれど筆を持って文字を書くのは今回の一度きりだ。高い毛筆を買った所で宝の持ち腐れになるのは明らかだ。僕は数ある毛筆の中から硬くて細めの毛筆と墨汁、そして墨汁の受け皿も探しだして購入することにした。

 紙袋に収められた毛筆と墨汁はさらにビニール袋に入れられて手渡される。それなりの金額を取られたけれど、三冊目の小冊子を手に入れるためならこれくらいはしかたがないだろう。先週の臨時収入もあるので懐事情はいまのところ問題はない。

 僕の買い物は済ませたのだけれど、小林くんはどこへ行ったのだろう。それとなく辺りを見回しても彼の姿は見えない。

 まさか、こんな新品だらけのお店でも変な道具に絡まれているのかと心配になった。ここに入店してかれこれ二十分近くは経過している。買うものは予め決まっていたようだし、なにを悩んでいるのか。

 僕は彼が居るであろう販売フロアまで足を伸ばすと、さすがはコミック画材を取り扱っているだけはあって、人口密度は他のコーナーと違って人の密度が濃かった。それは人の多さも指しているのだけれど、そのキャラクターという点でも濃いと言っていい。

 漫画を描く人は総じて眼鏡装着率が高いらしく、ほとんどの人が似たり寄ったりの眼鏡を愛用している。ただ、イメージにあった運動不足による太っている人とか、全身真っ黒な服装をしている人は見当たらず、かつ同じ格好をしている人はいなかった。ただ、男女年齢問わずアクセサリーや小物を鞄や服に装飾している人は多い。

 この中に小林くんは居るはずなのだけれど。

 若干、場違いな気がしないでもないが恐る恐る足を踏み入れて間もなく小林くんの姿を見つけることができた。

 数メートル先にいる小林くんは一人の男性と話をしているようだった。さらに近づく小林くんと話しているのは成人男性ではなく少年というほうが正しかった。

 少年の背は歳相応といえるくらいの身長で百六十五センチといったところか。僕と小林くんは同じ背丈だから予測だけれど。おそらくは高校生くらいだろう。平日とはいえ、まだ午前中のはず。学校もあるはずなのに、それに小林くんとはえらく親しげに話している様子をみると、今日その場であったのではなく顔見知りのようだ。

二丁目の交差点同様、あらぬ妄想と想像をしている僕の視線に気がついた小林くんが手招きをする。

 なんだか見えてはいけないものを見てしまった感じがして、足取りは重たかった。

 若い二人を前にして僕はとりあえず会釈をしてみた。

「なんなんですか? 畏まってお辞儀なんかしちゃって。まぁ、総一くんの姿もみられてしまったし、そろそろネタばらしとしますか」

 総一と呼ばれた少年はどぎまぎしながらも僕に会釈をしてきたので、こちらももう一度頭を下げた。いくら頭を下げる民族である日本人でもここまで多々続けにすることはない。

「はじめまして。自分は藤原総一です。今日は朝から尾行させて頂きました」

 僕も自己紹介をしようとした矢先に、藤原総一と名乗った少年は聞き捨てならない言葉を発した。さらに、藤原少年はつい最近きいたばかりの女性二人の名を挙げた。

「風鈴さんと小町さんから人となりは聴いていたので、自分が尾行することもないと思ったのですが、あの二人に言われると自分も断れないのです。不快な思いをさせてしまったらすみません」

 高校生とは思えないくらいバカ丁寧な言葉使いで謝られた。

「これはどいういうことだい?」

「ぶっちゃけて言うと、今回の件は井上さんが思っている以上に大事だったりするわけですよ。天見さんたちは呪いを解いた後の報酬を、井上さんがどうするのか、気になっているので、今回は監視役として彼が手配されたんです」

「ということは、君も天見さんたちと同じ?」

「お察しの通りです」

 軽い溜息が出てしまった。となると、モスバーガーでの話は忠告でありながら、その実は僕自身を試していたということか。

 さすがにいい気分はしないな。

 僕が黙っていると藤原少年が深く頭を下げた。

「本当に申し訳ありません。風鈴さんや小町さんも悪気があって、尾行という手段を取られたわけでは無いのです。今回の件、誤解なきよう説明もさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 いちいち堅苦しい言い方をする少年だ。言葉からして本当に謝罪をしているようだけれど、フキダシは見えない。先週、天見さんと月森さんのフキダシが見えなかったと同様に、彼も同じ力を持っているから見えないのだろうか。

 さらに困ったことに、若い少年を謝罪させている姿は注目を集めてしまう。桜子ちゃんが路上で泣いてしまった時は、他人の目がなんだと思っていたけれど、さすがに視線が痛く感じられてしまう。

「藤原くんだっけ?」

「できれば自分のことは総一と呼んでください」

「わかった。わかったから、とりあえず頭を上げてくれないか」

「よろしいのですか?」

 藤原少年は頭を下げたままで、顔だけをこちらに向けた。君は軍隊にでも所属していたのか。中村さんや伊藤さんとは違ったやりづらさがある。

 一言でいうのなら頭が硬くて面倒なタイプだ。

「よろしいから、とにかく出よう。というか小林くん、買い物は?」

「あ、済ませておくんで先に外へ出てください。じゃあ、総一くん、ちゃんと井上さんの誤解をとくんだよー」

「かしこまりました」

 先週と打って変わって男だらけの集会となってしまった。僕もぶっちゃけて言うが、これなら取りまとめられない女性陣に囲まれたほうが百倍もマシだ。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

通路開放 その十一 如何でしたでしょうか。


ここに来て、また新キャラクターの登場をさせてしまいすみません。

これは天見風鈴と月森小町が登場した時も反省すべき点でしたが、

本来であれば、すべての登場人物は物語の序盤に

登場させるのがセオリーです。、

読者の方にはご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません。


また、物語のほうですが、

作者が予想していたよりも長くなっています。

これらの反省を含めて『禁書読書』を執筆していきます。


明日も投稿します。

技量不足の作者ではありますが、

今後共よろしくお願いいたします。

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