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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第三章 通路開放
31/62

通路開放 その九

通路開放 その九 です。

よろしくお願いします。

「彼は伝言で三冊目の小冊子を探すことを余興といった。それは普通に探し出しても見つけることが出来ないことを意味している。だとすれば、不釣り合いな物、つまりは半紙だったけど、あの半紙自体に何かしらの呪いみたいなものが施されていると予想を立てたんだ」

「そこでぼくの変わった体質を利用したと」

「言葉は悪いけどそうなるね。僕一人で探していたら、あんな早い段階で見つけることは出来なかったと思う。本当なら誰にも迷惑を掛けないようにと考えていたんだけど、危険がないのなら手伝ってもらおうかなって」

「適材適所ってやつですか」

 僕はポテトを食べながら頷く。

「半紙には何を書くんです?」

「候補はあるけれど、深くは考えてないかな。実際に筆を持ってから決めるつもりさ」

 そですかと言って、小林くんもポテトを数本摘んで口の中に放り込んだ。ポテトをよく噛み、グラスに注がれている冷えたコーラを飲んで口の中に纏わりついた油を落とし、喉を潤した。

「井上さんは小冊子を探し終わった後、円城さんや山本和博に関わろうとしていますか?」

 唐突の問いだったのですぐに答えられなかったが、僕の決断は変わっていない。

「円城了や山本和博と関わるのは小冊子だけでいいよ。あの二人が何を企んでいようと僕が出しゃばった所で意味が無い。あの二人と対等に渡り合うのは同族の誰かで、道具の声を聞ける誰かだ。これも君のいう適材適所さ。僕なんてお呼びじゃないよ」

 言い終わって軽く笑ったが、小林くんは真剣な眼差しを向けてくる。

「それ、呪いが解けた後でもそう思っていてください」

「やけに勿体ぶる言い方をするじゃないか」

「そんなつもりはないんですけど。呪いが解けた後の話をする前に、数日前の話をしてもいいですか?」

 断る理由も見つからなかったので、話すように催促した。

「天見さんたちが武道館で倒した相手ですけど、彼も彼女たちと同じ力を持っているというのは知っていますよね?」

 僕は伊藤さんの体を操っていた相手と天見さんたちの言い争いを思い出して頷いた。

「これは天見さんたちから直接聴いた話なんですけど、彼は同族ではなかったんです」

「となると、呪術師?」

「そうです。でも彼は自分のことを呪術師だとは思っても居ないし、嘘すらついていない」

 小林くんのいう事の一つ一つが抽象的で全体が把握しきれない。混乱している僕に小林くんが一つずつ整理して話しますと、前置きを置いた。

「武道館で天見さんたちとやりあった男の名前は(ふな)()名鶴(なつる)、二十三歳。表向きの仕事はイベントプランナーですが、先ほど伝えたとおり彼は呪術師です。呪術の種類までは教えて貰えなかったのですが、彼は請け負った仕事は一人でこなし、誰かと組んで仕事をするようなタイプではなかったそうです」

「それは単純に円城了と出会って師事しただけの話では?」

「いいえ。彼は円城さんではなく山本和博と出会っているんです。よく思い出してください。先週、三味線弾きの伊藤さんが口にした伝言を。舟渡は誰の部下ですか?」

 記憶の蓋を開いて先週の出来事を手さぐりする。

 ホテルの会議室。操られた伊藤さんと目があい、円城の伝言が終わった後、著者、山本和博の伝言。

 一語一句覚えているわけではないけど、伝言の内容を引っ張り出して、反芻して思わず声を上げた。

なぜ、あの時、すぐに気が付かなかったんだろう。伝言は著者の山本和博によるものだ。冷静に考えれば、伊藤さんを操っている人間は山本の部下であるはずなのに、円城了を慕うような口ぶりはおかしい。

「気付かなかった理由は後回しにします。山本和博は自分の呪術で舟渡名鶴を手懐け、さらに自分の事を円城さんだと思わせたんです」

 自分ではなく円城了に見せかけることが山本和博の狙いかもしれないけど、その理由は山本和博にしかわからない。

「一ついいかな。舟渡という男が呪術師でさらに山本和博に操られていたとしよう。でも、彼は天見さんたちと同じような力を扱っていたじゃないか。だからこそ、天見さんも同族だと思っていた」

「問題はそこです。彼は呪術師でありながら、天見さんと同じ力を持ち合わせていた。本来であれば別々の力を混合させて、ハイブリッド化させたかったのでしょう」

 別々の力を掛け合わせたハイブリットは天見さんからも聞いている。

「舟渡の話にはまだ続きがあります。天見さんの話では、彼は呪術が使えなくなり、呪術師だったことすらも覚えていません。失敗したから記憶を改竄したのでしょう」

「そんな理由で?」

「円城さんと山本和博は人に干渉して狂わせるんです」

「同情するわけではないけど、改竄された記憶は元に戻せるの?」

「簡単ではないみたいですよ。テキストの保存と上書き保存みたいなものと月森さんが教えてくれました。呪術師として再び元に戻れる可能性は、ないでしょうね」

 ようやく、彼が僕に何を伝えたいのか理解できた。舟渡名鶴の話をすることで、遠回りさせながらも山本和博と円城了という人間が恐ろしい種類の人間だということを知らせるためだった。

そして、もう一つ。舟渡という男は未知の力を山本和博から与えられたことを僕に伝えたかったんだ。

それは与えられる物だ。

「この話の大本は、呪いを解いた後に円城了や山本和博と関わるかどうかだったよね」

「気づいてくれました?」

「かなり遠回りなことをしてくれたけど、気付くよ。呪いを解けば僕には報酬がある。その報酬こそが、天見さんたちや円城了と同じ力のことだ」

 まほろば店主の斉藤さんを思い出す。呪術師でも絵読術者でもない、普通に書店で働いている男が特殊な力を得ようとしているのだ。

「その通りです。別に、天見さんたちと同じ力を手に入れるのは井上さんの自由です。でも、そうなった場合、普通の生活には戻れなくなります」

 小林くんは僕が特殊な力を手に入れる前提でいるらしい。

「呪いを解いても、報酬を受け取らない権利だって僕にはあるんだよ?」

「本当にあの力を欲していなければいいですよ。でも、井上さんは自分から呪いを掛かりに行く人だ。さらに深い所に踏み込める後押しがあれば、考えも思いも変わるかもしれない」

 僕だって人だ。心変わりをするかもしれない。先月までありふれた日常を生活していたのに、気がつけばどこかズレた世界に足を踏み込んでしまっている。この状況を厄介だとか、不幸だとか思っているかと言えば肯定しない。

 残念なことだけど、僕はこの状況を楽しんでしまっている。

「井上さんが出す結論に天見さんと月森さんは責めたりはしません。それにぼくは直接敵対する関係ではありませんからね。こうやって、普通に食事することだってあるでしょう」

 小林くんは目の前にあるハンバーガーをようやく口にした。

「それでも、友達と親しくなった人が争うのは見たくもないし想像もしたくないですよ」

「忠告として受け取っておくよ。でも、自分で言うのもなんだけど大丈夫だと思うよ」

 僕も食べかけの野菜バーガーを一口、二口と食べる。

「根拠があれば教えてくれますか?」

「そんなものはない。僕には止めてくれる人がいるんだ。ちょっとおっかない子だけどね」

 小林くんが目を丸くする。どうやら誰の事を言ったのか合点が言ったらしい。

「彼女は、彼女になったんですか?」

「なっていないから、大丈夫ともいえるんだけどね」

「お互いに苦労していますね」

「本当にそう思うよ」

 小林くんと僕は正反対だけど同じ境遇だ。隣にいる女性はどこか粗暴で、素っ気なくて、寂しがり屋で、強いけど弱い。だけど、そんな彼女だから一緒に居たいと思わせてくれる。不思議な人なんだ。

 わだかまりというほどではないけれど、喉に引っ掛かっていた小骨が取れてスッキリしたようになった僕らは重苦しい話を一転させた。

 彼は思った以上に映画を観ているようで、古い映画もそれなりに知っていた。嬉しかったのはビリー・ワイルダーの作品を幾つか観ていると言ってくれたことだ。

 映画の話から枝分かれして、会話が回っていく。こうやって取り留めもない会話をして楽しむのは久しぶりだった。なにより、フキダシを見ないという意識をしていないから、彼がこれまで観てきたものの感動などが直接伝わって、余計に楽しかった。

 そんな会話の中で、ポロッと意外な名前が出てきた。

「円城さんも昔はこんな風に話せたのにな」

 その言葉もまたフキダシとなって現れた。

 今、小林くんが抱いている感情は『懐かしい』と『寂しさ』だった。

「君も、円城了のことを『さん』付けで呼ぶよね。天見さんや月森さんも円城了のことを昔から知っていて、そして親しい間柄にも思えた。確かに、不思議な力を持っている同族なのだからお互いの事は知っているのだろうけど。ただの敵同士ではないよね」

「そこ、突っ込んじゃいますかー」

 小林くんは椅子の背もたれに体を預けて天井を仰いだ。

 聞いて後悔はしているけれど、今を逃したら聞く機会は訪れないと僕は思った。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

通路開放 その九 はいかがでしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


明日も投稿を予定しています。

今日のように昼過ぎに投稿することが、

これから増えてくるかもしれません。


朝の投稿で読まれていた方には申し訳ありませんが、

ご理解をいただけると助かります。


よろしくお願いいたします。

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