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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第三章 通路開放
30/62

通路開放 その八

進路開放 その八 です。

よろしくお願いします。

 地上に出ると雨脚は更に強くなっていた。午後からではなく午前中からこの雨の様子では先が思いやられる。まだ湿気を感じられないのが唯一の救いだ。

 傘をさしても風に舞った雨を防ぐことは出来ずに肩を濡らしながら、図書館に到着した。厳密に言うと、四谷区民センタービルの前に僕らは立っている。建築デザインは二等辺三角形を模したデザインで、鉄筋コンクリートの側壁に大きめのガラスがはめ込まれている。子供みたいな感想を述べてしまうが、格好いいデザインの建築だ。地上十二階建てで、図書館と呼ばれるフロアは七階に位置していた。

 建物内は見渡す限り綺麗に清掃されていて清潔感があった。それに建築されてから長い年月は経っていないようだ。天井も高くて見晴らしがいい。

「こういうビルって税金で建てられるんですよね」

 小林くんが当たり前のことを疑問符した。

「税金を使って建てるのはいいけど、みんなこういう施設とか利用しているんですかね。まだ税金とか払っていないけど、公共施設を使わないまま生活する住民が多いと思いません?」

「賢く利用する住民はいるさ。でも、自分が支払った税金が何に使われているかなんて、把握している人はいない。国とか行政から税金を払えと言われているから義務として払うだけで、払った後のことは無頓着なんだよ」

「そういうもんなんですかねー」

「何にせよ、僕らはここの区民でもないし、税金も収めているわけじゃないからさっさと用を済ませよう」

 建物が近代的であれば内装もさぞ凝っているのだろうとイメージしていたのだが、図書館の出入口である自動ドアを前にすると、意外と普通の図書館フロアだった。本棚は特別高いわけでもなく、成人女性でも取りやすいくらいの高さで統一されている。天井も予想よりはるかに低かった。ただし、フロア自体は広くて所蔵されている本はかなりの数だと推測できる。

 館内の広さからして二人同時に探すよりも二手に分かれて探したほうが得策と考えて、入り口から見て左側のフロアを僕が、右側を小林くんに任せて散策することにした。十五分後にはまた出入口付近で集まることにして、散策中になにかあればメールで知らせ合うという取り決めをした。

「ここまで来て、言うのもあれですけど、見つけられなかったら赤っ恥ですよね」

「それはそれ。僕の勝手に付き合ってもらった分、お礼はさせてもらうよ」

「遠慮しときます。これはぼく自身が選んだことなので、変に気を使ってもらっても困るんで。では、後ほどー」

 足取りの軽い小林くんを見送って、僕も担当することにしたフロアを渡り歩いた。

 雨が振っているせいなのか、利用している人は少なくて歩きやすくまた色んな場所に目を配ることが出来る。

 図書館と呼ばれる場所に来るのは久々だった。職場が書店ということもあるから、本の匂いには慣れていたはずだけど、きちんと本を保管する場所なだけあってインクや紙独特の匂いが鼻につき、妙な懐かしさを呼び起こした。

 本棚が作る通路というのは非日常的でどこか楽しい。必要以上の光量を与えてもらえず、ひっそりと人の手に触れるのを待ちわびている本たち。僕を、私を手に触れてという声が聞こえそうにもなる。もしここに高橋さんがくれば読んで欲しいと願っている本たちの声で溢れて卒倒するのではないか、そんな気さえもしてくる。

 通路の終わりには必ず本棚を背にした椅子が設けられている。遠く離れた場所で本を読むよりも、取り出した本棚の近くで読めば元の場所に戻すのも容易だし、何処から取り出したのか忘れるということも起きにくい。

 最近では普通の書店でもこうやって座り読みが出来るようなサービスを初めているけれど、売り物の本と貸出本の価値は全く違いので、できれば大手書店にはこのようなサービスは行わないで欲しい。

 余計なことを考えていたせいで、いま歩いていた通路をろくに探索せずに普通に歩いてしまった。

 今度こそ本棚や通路に天井と目に届くところは満遍なく見て歩いた。

 とある一角では僕の背よりも高い本棚が用意されていて、念のためと小さめの梯子を運んできて上の棚まで調べてみたが、特別変わったものは見当たらなかった。

 何の収穫もないまま出入り口まで戻る。ふとどれくらいの時間がかかったのか腕時計を見ると散策を始めてから探索時間の十五分はとっくに過ぎていた。

 探索することに夢中で時間を確認することを怠っていた。ということは、ここに居ない小林くんも僕と同様に時間を確認してないということになる。携帯電話を見たところメールが届いてはいなかった。僕以上に丹念に図書館には不釣り合いな何かを探しているのだろう。このまま小林くんが戻ってくるのを待つか、それとも小林くんを探しに右のフロアを周るか悩んでいる所に携帯電話が震えた。

 メールの内容は簡素で『日本・世界歴史コーナーまで来てください』の一文だけが送れてきた。受け取ったメールを見るやいなや、館内地図から位置を確認して小林くんの元へと急いだ。

 館内地図によれば歴史コーナーは右側のフロアでは一番奥地の角だった。

 壁際の隅にある本棚をジッと見つめている小林くんを見つけた。

「小林くん」

「良かった。ちょっとここを見てもらっていいですか?」

 僕は小林くんが目配りをした本棚を見たが、びっしりと本が差し込まれているだけで変わったところは見受けられなかった。首を傾げていると本棚に差し込まれた本の奥に白い紙が見え隠れしている。

「見つけました?」

「ひとまず、本を取り除いてみよう」

 僕らは一冊ずつ本を取り出してみると、本棚の奥に貼られていたのは半紙だった。

「確かにこれは不釣り合いだ」

 小冊子を読めばすぐにわかると小冊子の著者である彼の伝言では二冊目を読めばすぐにわかると言っていたけれど、読まなくても必要な道具はすぐに思いつく。

「用意するものは筆か」

 目の前にある半紙に何かを書き込めば三冊目の小冊子が見つけられるということになる。

彼の伝言では僕が思うまま、感じるままに行動すればいいみたいなことを言っていた。つまりそれは僕の望むことを書けばいいのだ。

僕はとりあえずの考えをまとめて、棚に取り出した本を元に戻す。

「助かったよ。お陰で簡単に見つけることができた」

「いや、厳密にはそれを見つけたのは井上さんです。ぼくじゃないんですよ」

 言っている意味がよくわからなかった。

「ぼくはそこが気になっただけであって、なにも見つけていないし、というか見えていなかったんですよ」

 見えていないのに見つけた、というのはかなりおかしな表現をしていることになる。

「じゃあ、今もここに何があるのか見えないということ?」

「そこの本を取り出してようやくぼくにも隠されていた半紙が見えたんです。仕組みは読者である井上さんが存在していると確認した上で、他の人にも認知されるという呪いだったんじゃないですかね」

 小林くんの言葉を聞いて、春生が僕の為に作った小冊子のことを思い出した。あの小冊子は僕が読むことで初めて僕以外の人間にも読むことが出来るという絵読術の力だった。つまり、これは半紙を媒体とした呪いなのだろう。

「よく気がついたね」

「見えないけど、なんていうか。変なものが近くにあるなーっていうのは長年の経験で体得したんですよ。今回もそうで、ここを通りかかった時、変な気分になったけど、よくわからなくて。だから、井上さんにここへ来てもらうようにお願いしたんです」

 さらに、その違和感を発している場所を特定するため、ジッと本棚と睨めっこをしていたと教えてくれた。

「しっかし、自分の身に何も起きないとわかっていると、すっごい気楽でいいもんですねー。もしかしたら自発的に変な物を見つけたほうがいいのかな?」

「そういうのはあまり試さないほうがいいよ。何もない日常のほうが生きやすいということもあるしね」

「それ、井上さんが口にします? 自分から呪いにを掛けられにいった人が言ったら説得力ゼロでしょ?」

「違いない」

 僕らは静かに読書を楽しむ人の事を考えて小さく笑った。

 約一時間もいた図書館を出てから、僕らは区民センター内にあるモスバーガーで一息つくことにした。

 注文を終えた僕らは適当な二人席のテーブルに注文札を置いて、椅子に腰を下ろした。

「モスバーガーでもモーニング始めてたんですねー」

「かなり前から初めていたみたいだけどね。外食はあまりしないけど、たまーにモスバーガーって食べたくなるんだよね」

「美味いですからねー」

 といった、世間話を織り交ぜつつ、スタッフの人が持ってきた出来立てのモーニングセットを食べた。

 時間にはかなり余裕があった。目当ての不釣り合いな物は見つかったので、高橋さんには見つけたので小林くんには帰ってもらうことを、桜子ちゃんには見つけた事実のみを伝えた。

「よくよく考えてみると、僕が居なくてもあの半紙を見つけることは出来ましたよね?」

「それはそうなんだけど。あんな風に隠されていたら、どれくらい時間を掛けたのかわからないよ」

「確かに早めに見つけたほうがいいとは思いますけどねー。あ! そうだ。不釣合いな物を見つけた時、井上さんに教えてほしいことがあったんですよ。いま聞いちゃってもオッケーです?」

 モーニングセットの野菜バーガーを頬張りながらどうぞと頷いた。

「小冊子にも伝言にも、隠されていた半紙に呪いが掛かっているなんて記されていなかったはず。今回はたまたま呪いの施された物だったから良かったけど、もし普通の半紙だったらどうするつもりだったんですか」

「普通の半紙であるはずがないと、僕は思っていたんだ」

 口の中に残っていた野菜バーガーの欠片を烏龍茶で胃の中へと流し込む。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

進路開放 その八 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


作中の四谷区民センターと図書館は実存しますが、

建物の描写や図書館内のフロアに関しては、

フィクションの部分が大半となっております。



明日も投稿します。

よろしくお願いいたします。

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