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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第三章 通路開放
29/62

通路開放 その七

通路開放 その七 です。

よろしくお願いします。


※6/7 11:00 本文ミス修正しました。

※6/7 15:20 本文加筆修正しました。

「でも、井上さんの手作り料理を食べらんということにはならんけんな。この約束は絶対に果たしてもらーけんな」

 その約束を果たすのは、何時にしようかな。

「僕の、この呪いもどきが解けて、全部終わったら作ってあげるよ」

 一つの区切りが付けば余裕も時間も出来る。

「約束な?」

 桜子ちゃんが小指を僕の胸元近くに出して来たので、彼女の小指と僕の小指を交差させる。いつの時代から使われてきたかわからない、けれど日本人だったら絶対に知っている約束の儀式を行った。僕らは例の詩を歌うことなく、無言のまま指を交わし、そして切った。

「そろそろ、うち行くわ。ご飯食べる時間なくなーでしょ」

 休憩に入ってもう三十分を過ぎようとしていた。

「弁当を食べるだけだから、平気だよ。じゃあ、今週火曜日に」

 僕は軽く手を降ったけれど、桜子ちゃんは別れを惜しんでいるのか、動こうとしない。

「なにかいい忘れたことでもある?」

「メールってうちは面倒だと思っちょーけん、あんませんけど、ちょっとした事とかメールで呟いてもいいだーか?」

「いいよ」

 その代わり、メールの返事は遅くなるかもしれないけどと付け足した。

「話せる時は、電話もしていい?」

「許可を取るようなことはしなくていい。桜子ちゃんがしたい時にメールも電話もすればいいんだ」

「ん、そげする。今度こそ、ばいばい。またね」

 今度は桜子ちゃんが小さく手を振って渋谷駅の方へと向かい、階段を下ってその姿が見えなくなるまで、僕は歩道橋の上にいた。

 その日の夜、仕事を終えて帰宅した頃に桜子ちゃんからメールが届いたのは言うまでもなかった。メールの内容は、本当に他愛もないことだらけで、思い返す必要もないことだらけだった。特別な会話なんて一つもないのに忘れた頃になって、とても大切なことだったと思い知ることがある。

 遠い未来で後悔するのか、懐かしむのか、それを左右するのも今の僕ら次第だということだ。人間関係がどうなるのか、というのはこういう繋がりを常に撮り続けるか否かだ。

 そして、メールをしていて気がついたのは、小林くんの連絡先を聴いていなかったことだった。僕は桜子ちゃんとメールのやり取りをしつつ、高橋さんに小林くんの連絡先を教えてもらうためメールを送った。

 今の僕にとって一番連絡を取り合わなければいけないのは小林くんであることをすっかり忘れてしまっていた。


 火曜日の朝。関東区域では朝から雨模様で午後にはさらに強い雨が降るという予報だった。六月には梅雨入りになるので、今のうちに連日のように振る雨に慣れるためだと言い聞かせよう。

 雨脚は予想していたよりも弱くて傘を持ち歩くか迷った。僕は手が塞がるようなアイテムが小さい頃から苦手で、外出時はなるべく持たないようにしている。豪雨や豪雪は仕方がないが、傘を差さなくてもてもいいような天気であれば傘を所持して外出しない。駅から図書館までのかなり歩くことが予想されるし、豪雨にならないという保証もないので、嫌々ながらも大きめのビニール傘を持ち歩くことにした。

 下北沢を経由して小田急線に乗り換えて新宿まで出た。

 待ち合わせにしていた場所は東口を出てすぐに交番前だった。ここも定番の待ち合わせだけれど、奇をてらう必要もないので一番わかり易い場所にした。

 先週の火曜と同じようにJR線中央改札を出て、今度は東口の階段を昇りきると、東口出入口にある自販機の所で携帯電話を操作している小林くんを見つけた。僕はそのまま声をかけようとしたら携帯電話が震えた。どうやらメールを送信した直後らしい。

「待たせたかな」

「ども、おはようございますー。さっき到着したばかりで着きましたよーってメール送ったばかりですよ。今日は残念な天気ですねー」

 相変わらずのんびりとした口調だけれど、彼らしい話し方で合っている。彼の指摘した雨は僕がアパートを出た時よりも雨粒は大きかった。

「傘を持ってきて正解だ」

「大正解ですよ。雨が振っているのに傘を持ってこない人なんていませんからねー」

 当たり前の指摘をされたので思わず笑いそうになってしまった。やはり僕は変わった人種なのだろう。

 緩みそうな頬を引き締めて移動手段をどうするか話し合う。

「四谷図書館までどうします? 晴れた日ならいい運動ってことで徒歩でもいいんですけど。その前に、四谷図書館がどこにあるのかも知らないんですけど?」

「新宿御苑が最寄り駅になっているから地下鉄で移動かな」

「大賛成です」

 僕らは地下通路から丸ノ内線まで移動することにした。雨の影響もあるせいか地下通路を利用する人が大勢いた。

「図書館にあるはずのない不釣合いな物ってなにが想像できます?」

「本以外のなにかであることは確かだけど、下手に勝手なイメージを作り上げて見つけることが難しくなる。先入観を持たないで探した方がいい」

 丸の内線は東京メトロ線の中でもかなり奥深い場所で運行をしている。まず辿り着くまでに時間が掛かり、改札口まで移動するのも億劫になる。

 ようやく辿り着いた丸ノ内線のホームは朝方ということもあって、かなり混雑していた。新宿から新宿御苑までの乗車時間はたぶん五分とかからない。到着するのは早いが代わに満員電車を味わうことになった。

 電車内では小冊子とは別に、お互いのプライベートの話をする機会となった。

 小林くんは予想通りにアニメや漫画が好きなそっち方面のオタクでは会ったのだけれど、驚いたのは彼が最も熱中しているのは、フィギュアであり、その造形だった。

「切欠はやっぱり七罪花蓮なんですよ」

 魔法熟女と言わないのは彼にも羞恥心があるからだ。こんな満員電車内で話すような話題ではないし、誰が聞いているともわからない内容でもない。話し声は自然と小声になっている。

「二次元にいるキャラクターを三次元となって、触れることも出来るなんて僕の中ではかなりの衝撃的な事件でしたねー。でも、フィギュアって予想以上に高いし、小学生のお小遣いとかじゃ絶対に買うことができない代物でだから、どうしようかって考えたんですよ。あ、買えないのなら作ってやろうって思ったのが初めですかねー」

 彼も中々の行動力があるようだ。好きなことをとことん楽しんでいる。そんな完全オタクな小林くんと高橋さんがどのように知り合ったのか気になった。

「高校生の頃、ちょうどゴールデンウィークが終わった直後にぼくと高橋さんは出会ったんです。ご存知の通り、僕は変な体質を持っていますからね。高校に入学したての頃、僕はまた厄介な道具に目を付けられたんですよ」

「そして助けてくれたのが、高橋さんか。でも、中学までは普通だったんだよね? なんでまた高校生のころに道具の声が聴こえるようになったの?」

 小林くんは目線を上に上げて言葉を選んでいる。

「高橋さんのプライベートな所に触れちゃうし、僕の口からはあまり言いたくないないんですよねー。そこはもう突然、道具と対話できるようになってしまったと納得してください」

「悪い。そこまでのこととは思っていなかったからさ。興味本位で聴くことではなかったね」

「いやー。人間誰だって超自然的な現象を目のあたりにすれば、知りたいっていう欲求には勝てないですって。ぼくだって初めて高橋さんの力を知った時は思いっきり食いついちゃいましたからね」

「食いつくって?」

 彼の言葉に今度は僕が食いつく。同時に次の停車駅であり目的地の新宿御苑に停車すると車内アナウンスが流れる。

「ほら、特殊能力なんか持っている同級生なんて普通いないでしょう? もう運命を感じちゃったんですよ。変身なんてしたら尚更いいのにーなんて言ったら怒られちゃって。ん、あれは呆れていたのかな?」

 そう言いながら、思い出し笑いをし始めた。

「高橋さんは今でこそ落ち着いた感じになっちゃいましたけど、出会った当時は常に不機嫌でやることすべて粗暴だったし、怖かったなー。でも、ぼくが変な道具を見つけてしまう度に、高橋さんは嫌な顔こそするけれど助けてくれたんです。根はいい子だなーって」

「もしかして、惚気話になる?」

「なっちゃいますね」

 頭を掻きながら肯定される。

 不思議と先週感じていた嫉妬みたいな醜い感情は沸かなかった。

「着いた」

 僕が呟くと同時に小林くんを含めた大勢の人が駅のホームへと降り立っていく。改札口へと繋がる階段はどこかと辺りを見回していると小林くんが惚気話の続きをした。

「付喪神探偵」

「ん? ああ、親しい人か憎んでいる人しか言われないあだ名だよね」

「これ、命名したのはぼくなんです。道具と会話が出来て、道具たちの問題を解決する。まるで探偵じゃないかってね」

「名付けられた方からしたらたまったもんじゃないね。アニメや漫画の世界に憧れている中学生のレベルじゃないか」

「仕方ないですよ。当時、ぼくらはまだ中学卒業したての高校一年生でしたからね」

 遠い昔でもないのに、懐かしんでいる小林くんを見ているとこの二人が出会い付き合うようになったのは当然の流れだったのだろう。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

通路開放 その七 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


明日も投稿を予定しています。

よろしくお願いします。

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