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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第三章 通路開放
28/62

通路開放 その六

通路開放 その六です


よろしくお願いします。

 コール音を聞きながら歩道橋を上り、うちの書店周辺を見下ろすことにした。不動峰は潔く立ち去ってくれたけれど、店前で通話しているところを見られたくはなかったのもある。かといって離れすぎてしまうと桜子ちゃんと入れ違いになりかねないからだ。

 地上を見下ろしながら通話が繋がるのを待っていたのだけれど、一向に繋がる気配がなかった。一旦、通話を終了してからメールで連絡をしたほうがいいか。

 携帯を耳から離して通話ボタンを切ると首筋になにか冷たいものが当てられた。

「うわ」

 水滴が付いた首を抑えながら振り返るとペットボトルで口元を隠した桜子ちゃんが立っていた。

「人を脅かす時はこんくらいベタなほうがいいが」

「ビックリした。いつから居たの?」

「ヒカリエの方から歩道橋に昇ったら井上さんが見えーが。携帯が鳴っとるのはわかっとたけど、このまま無視して驚かしたろって思ったに」

 小さく笑う桜子ちゃんを咎めるつもりもなかったし、なんとなくこんな風に話せるのが楽しかった。

「今日はどうしたの? 買い物かな」

「買い物もあるけど。んー、あれだけん。言い辛いわ」

 フキダシこそ見えなかったけれど、なんとなく言いたいことは分かった。フキダシとなって本音が伝わってしまうことを恐れる、というかはにかんでいる所をみると恥ずかしのかもしれない。

 そこで僕はこの二日間で見つけたフキダシを見ない方法を桜子ちゃんに伝える。

「はー、そげだったら何をいっても平気だね」

「常に意識しないといけないけどね。意外と大変だったりするんだよ」

 自分のミスまでも思い出して苦笑い気味に答えてしまった。

「一人で渋谷に来とってもつまらんし、理緒は理緒で小林くんと一緒におるはずだけん。その、近くに寄ってみただけだに」

 口調というのは感情面が如実に出ているので、何を伝えたいのか呪いもどきがなくても察することはできていた。しかしこの呪いもどきを手に入れて、そしてフキダシを意識して見ないようにすることで、余計に口から出た言葉の意味を考えてしまう。こんな能力が物語でありがちな異性の感情に鈍感な主人公にあったとすれば、物語が成立しないだろうとくだらないことを考えた。

「急に来たらやっぱ迷惑だった?」

「そんなことはないよ。会いに来てくれて嬉しいよ」

 僕の言葉に桜子ちゃんが嬉しそうに微笑む。僕を思っているからこそ、過剰な反応をしているようにも見える。

「さっきまでヒカリエに行ってたの?」

「そげだで。あんなでっかいビルん中にいろんなお店があーけん、飽きることがなかったわ。まぁ、うちの趣味の服はほとんど無かったけどな」

 渋谷という街は年々変わりつつある。十数年前までは高校生や大学生が中心として形成されていた街だったけれど、そのまま大人になった彼らの半数(以下かもしれない)がまだここに青春の名残を持って訪れている。

 年と共に体も精神も成長させられてしまった彼らは当然、若いころと同じような服装など出来ない。ヒカリエはそういった大人になった彼らをターゲットとしたデパートでもある。十代の桜子ちゃんにはまだ早いのかもしれない。

 これから四年としない内に、桜子ちゃんも容姿が変わっていくのだろう。今後、どれだけ一緒にいられるのかわからないけど、大人になった彼女を見てみたいという気持ちはある。

「また黙ってかーに。次はなにを考えちょったん?」

「今後、どうなるのかなーって」

 嘘は言っていない。でも本音も言っていない。

「今後か。三冊目の小冊子はすぐに見つかるといいけどな。火曜日、朝から一緒におれんけど、無理はせんといてね」

 二人の間で共通していて、かつ僕自身のことで『今後の』こととなれば、小冊子の行方と呪いもどきがどうなるのか、になる。もっと違う方向での『今後』と解釈された場合、僕もどのように返答していいのか困った。馬鹿正直に桜子ちゃんの成長した姿を見てみたいなどと言ったら、それはもう一人の男としての願望ではなくて親心に近いものだ。

「火曜日だけど、図書館におるかもしれんのなら携帯で電話せんほうがいいよね? メールで新宿にきたでーって送ればいいだーか?」

「それでいいよ。もしかしたら、予想以上に早めに不釣合いな物は見つけられるかもしれないからね」

「なんかすごい自信たっぷりに言っとらいけど。なんか秘策でもあったりするん?」

「秘策なんてないよ。ただ、なんとなく見つかるような気がするんだよね」

 小林くんの協力があればきっと見つかるという甘い考えではいる。

「まるで小林くんみたいな変な特技でもあーみたいなこと言わらいね」

 核心を突かれて冷や汗が出た。桜子ちゃんは何気なしに言っているとは思うのだけど、妙な勘を働かせる。

 ここで焦りを見せたら、高橋さんとの約束が叶わなくなる。僕はそこまで嘘が得意ではない。できれば、この種明かしは不釣合いな物を見つけた痕にしたい。話をはぐらかすと桜子ちゃんのことだから突っ込みをいれてくるはずだ。論点を外さずにかと言って事実を伝えないようにしないと。

 瞬時の思いつきだったけれど、会話のクッションを入れるため、僕は小林くんの変な特技を知らない体で桜子ちゃんに聞いてみた。

「小林くんの変な特技と言っていいのかわからんけど。小林くんは普通に生活しとるつもりかもしれんけど、行く先々で何かしらの変なもんを見つけらいに。そんでもって、何かに取り憑かれたりして、理緒がその面倒をみとったわ。難儀なことかもしれんけど、彼は彼でまたかーとか言って、気にしとる素振りもないけどな」

 間違ってはいないけど、第三者から見ると小林くんの特異体質はこんな風に受け取られているようだ。

「そんで、井上さんの自信はどっから出てきたもんだで。うちはそっちが気になるわ。隠し事はなしだで」

 興味津々の桜子ちゃんが僕のパーソナルスペースの限界を飛び越えてくる。僕らの関係はいまだに友達なのでこの距離は緊張してしまうし、無駄に意識する自分が恥ずかしい。

「僕もよくわからないけど。ずっと苦労し続けて小冊子探しをしてきたのだから、たまにはあっさりと見つかってもいいかなーっていう楽観視だよ」

 思いつきで出た言葉だけれど、本音ではあった。春生の時は渡辺姉妹に追われ、暴力まで振るわれて足腰が立たなくなった。今回は走ったり移動したり、言葉が聞こえなかったり、肉体面よりも精神面で辛い思いをしている。

 三冊目の小冊子くらいすぐに見つかって欲しいのだ。

「なんだー。ただの願望かいや。期待して損したがね」

 納得はしてくれたみたいなので、高橋さんの約束が破られずに済んだ。

「とにかく、新宿についたらメールをしてくれればいいよ。見つけたか見つからなかったかはその時に教えるから」

「ん、わかった。あ、時間大丈夫だ? いま休憩時間なんだが?」

 そう言われて、腕時計を見るともう二十分近く経過していた。どうしよう、そろそろご飯を食べないと。

「桜子ちゃん、お昼はもう済ませたの? もしまだなら一緒にご飯でもたべようか。とはいっても、僕は弁当だからどこかのお店で食べるってことはできないけど」

「うちはいいよ。心配せんでも適当にご飯たべーけん。ごめんな、大した用もないのに時間とらせて」

「いいよ、僕のことは気にしなくて。桜子ちゃんの言うとおり、メールで会話するのって味気ないって僕も思うよ。電話で話せることはできるけど、やっぱり人はちゃんと顔を合わせて話したほうがいい」

「ん、うちもそう思うわ。その人がなにを思っとるか、よーわかーけんね」

 不意に見せる彼女の笑顔がとてもかわいくて、意識することを忘れてしまった。桜子ちゃんが僕に抱いている感情は『もっと知りたい』だった。

 この間、僕が大人気ない態度を取った時と同じ思いだ。

 あの時も、場所は違うけれど歩道橋の上だった。桜子ちゃんにがっかりさせてしまうような言動を取ってしまったけれど、それでも僕を思っているのは不思議にも思えた。

「どげさいた? 難しい顔して?」

 フキダシが見えたことはバレていないようだけど、この子は人の表情をよく読みとる。

「ああ、今日の弁当はそこまで自身がないから、見られなくて良かったって思っていただけ」

 僕のつまらない嘘に桜子ちゃんが小さく笑う。

「井上さんでも失敗されるんだね。それを聞いて安心したわ」

「なんで?」

「料理がほんに完璧だったら女の立場なんてないがね?」

 その心配はないよと伝えてあげた。僕が呪いもどきで目覚めた直後に、振る舞ってくれた朝食を見て、料理はかなうわけがないと。

「褒めても何もでてこらんで」

 桜子ちゃんは頬を赤らめて、もじもじしながら照れた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

通路開放 その六 は如何でしたでしょうか。


楽しんでもらえたのなら嬉しいです。

明日も投稿します。


よろしくお願いします。

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