通路開放 その四
通路開放 その四 です。
今回は、個人的に好きなエピソードになりました。
よろしくお願いします。
「大それた要件なんてないんですよ。ぼくはただ井上さんがどんな人なのか知りたかっただけなんです」
本当に大した理由でもなくて拍子抜けしてしまった。
「興味を保たれるほど、特別な人間でもないけどな」
「何を言ってるんですか。読んだら呪われると分かっていて読む人は十分、特別な人間ですよ」
真正面から指摘されてしまうと認めることしかできない。ただ、僕がそうなってしまったのは石田春生という男が残した不思議な小冊子を読んでしまったからだ。不可思議な本を読んでしまったからいまの僕がいる。
「結果からすると後天的な部類だよ。非日常の世界に飛び込みはしたけれど、いまでも普通に書店で働いている。僕の友人である石田春生や君たちの友達でもある天見さん、月森さんたちは日常から完全に逸脱している。僕はそこまで踏み込む勇気はない」
「さすがに、日本武道館を半壊させたのにはびっくりしましたねー。あの二人らしいと言えばらしいんだけど。僕だってあそこまでの非日常には浸かっていません。どちらかと言えば、僕と高橋さんも日常と非日常をきちんと住み分けている人種です。この点だけは一緒です」
「そういわれてしまうと、納得はするけれども」
小林くんは右手で一本指を作って、天を指した。
「それともう一つ。ぼくと井上さんの共通点みたいなのがあるんですよ」
「みたいな?」
「井上さんが自覚して地雷原に踏み込んでいくタイプだとしたら、ぼくは無自覚に地雷原へ踏み込んでしまうタイプですかね」
無自覚というと、あの立体パズルのことか。
「小林くんは山本和博が作ったパズルと知らずに手に入れたの?」
「そうです。彼が通学している道中にたまたまフリーマーケットが開催されていて、さらに偶然にも彼が小学生の頃にはまっていたアニメキャラクターだったらしいのですけど、そのフィギュアが格安で販売されていたんです」
つい数カ月前に起きた出来事を思い出しながら話しているせいか、高橋さんがうんざりし始める。
男子小学生が欲しがるようなフィギュアといえば、やっぱりヒーロー物とか、いまでも長期連載しているあの漫画キャラクターだろうか。六年前ともなれば、かなり出来のいいフィギュアが出ていたはずだ。
「すっごい可愛いんですよ。変身後の衣装をモデリングしたフィギュアなんですけど」
「ん、ちょっと待って。可愛いって? 変身後って? なんだか僕が想像しているものとかなり違うんだけど」
「私は詳しく知らなかったんですけど、当時深夜アニメで放送していた魔法熟女なんたらってやつで」
「魔法……熟女?」
それ、魔法熟女七罪花蓮のことじゃないのか。見た目は十代だけど中身は三十路という全く新しいコンセプトで放送していたアニメだった気がする。七つの大罪をモチーフにしていたはずだ。面白いのは変身前の状態では中学生にしか見えない姿なのに、変身後はまさしく艶嬢といった色気のある魔法熟女となる。放送当時、ネットでは合法ロリババアという言葉が流行った気がする。
かなり際どいアニメであると同時に登場キャラクターの深部をえぐるような作りをしていてかなり波紋を呼んだ。あんなアニメを子供の頃から観ていたのか。というか、性格形成において色んなところが欠損してしまうような気がする。主に、性癖というかフェチズムのところで。あのアニメに登場するほぼすべてのキャラクターが三十代だったからだ。制作側もまさか小学生にまで需要があるとは思いもしなかっただろう。
もしかして、高橋さんと付き合っているのはフェイクで、本当に好きなタイプは年上のお姉さんだったりするのか。
僕が彼の性癖云々を考えている最中、まさしく七罪花蓮の話を語りだしていた。
「そして、僕が手に入れたのはタイプ色欲・スペシャルエディションのコスチューム! 未開封ときたら買うしかないですよ! ぜひともあのコスを高橋さんにして欲しい!」
小林くんの思いの丈が、大きなフキダシとなって出現した。大きさがわかるのは、初めて見たな。彼の感情が飛び込んでくると、どうやら高橋さんに抱いている感情は恋そのものであり、コスプレをしてほしいという願望は下心丸出しだった。
良かった、恋愛対象は同年代のようだ。
見えない手で胸をなでおろしている所に、とんでもない発言を僕にふっかけてきた。
「高橋さんがあの淫魔の申し子みたいな格好をしたら、見たいですよね?」
僕に親指を突き立ててきた満面の笑みを見せた。さすがにその手の趣味はないので若干引いた。自分の彼女にあんな格好をさせたがる彼氏はどうかと思うぞ。
あまりにも嬉しそうにしているものだから、高橋さんが小林くんの脇腹を摘んでねじった。
「そこまではまだいいんですよ。彼は欲しい物を必ず手に入れる代わりに、不要な物までも必ず一つ手に入れてしまうんです。それが、山本和博が制作した立体パズルでした」
ようやく話の本題に入ることが出来た。
「私はこれまで自然発生した道具の呪いは何度となく触れ合ったことがありますが、人間の手で作られた呪いを見たのは初めてでした」
「声が出なくて本気で焦ったよ」
立体パズルを解いたのも彼だったのか。
「呪いの解き方は物理的でしたけど、パズルを壊すことで事なきを得ました。これはもう昨日、話したままですけどね」
高橋さんが心なしか、胸を張っているようにも見えた。自慢の彼女だぞと小林くんに伝えたいらしい。
「ぼくは高橋さんと付き合って本当によかったと思っているよ。毎度毎度、ごめんね」
「そういうのは後で言ってよ。照れるから」
うん、僕もいい加減、二人のじゃれ合いに付き合いたくない。というか見せつけないで欲しいんだ。こっちはまだそこまでの距離に成っていないからさ!
見たくないので、僕のほうから話を纏めることにした。
「僕が受動であれば小林くんは能動か。正反対というのは的を射ている」
「分かってくれます? こういうの表裏一体みたいで楽しくなりますよね。子供の頃にみた映画の設定みたいで面白いですよね」
「その映画ってアンブレイカブル?」
表裏一体、映画の設定と言われて、まず思い浮かんだタイトルがアンブレイカブルだった。
「それですそれです。シャマラン監督に、ブルース・ウィルスとサミュエル・L・ジャクソンが出演してましたね。個人的には前作のシックスセンスのほうが驚き度は上だったかな」
「アニメは詳しくないけど、映画なら僕もそれなりに観てきたよ。そっちの方面では話がまともにできそうだ」
案の定、小林くんも乗ってきてくれて、いいですねーと合意してくれた。
「実は今度、高橋さんと二人でここの劇場で映画を見ようって話をしていたんですよ」
小林くんがミニシアターのテナントがある地下への階段に指をさした。
「つまり、それって下見という名のデートだよね? お邪魔だったのかな?」
「いえいえ、そんなことはないです。どちらかと言えば、映画館の下見のほうが後付みたいな感じなので」
必死に弁明してくれている所、悪いのだけれど、僕にははっきりとフキダシが見えているし嘘をつかれていると分かってしまった。
十代なんだしと、自分に言い聞かせた。二人の恋が末永く続くようにと願おうじゃないか。
それに、小林くんは天然の不幸を引き寄せるタイプだ。僕見たく、本を読めば呪いが解けるというわけじゃない。高橋さんが過保護になるのもわかるような気がする。
アンブレイカブルの設定は確かに面白味があったけれど、風呂敷が大きいだけに、結末の落ちは弱かった気がする。
映画のタイトル通り、決して壊れることのない不死身の男。陰ながらにヒーローとなっていく描写は面白かった。そして他人に触れることで危険を察知できる能力もあった。
不意にあるアイディアが思いつき、小林くんに質問をした。
「小林くんが不用意な物を手に入れる時って、必ず欲しい物を手に入れないと駄目なの?」
「絶対ではないですよ。それはもう高校生のころは必要以上に災難が舞い込んで来ましたからね。僕が欲しい物のランクが高ければ高いほど、厄介な道具と出会っていたので、高橋さんには苦労ばかりさせちゃいましたけどね」
「私は気にしてないから大丈夫」
いかん、すぐに惚気話になってしまう。僕は畳み掛けるように次の言葉を投げかける。
「ということは、身の危険がないものであれば、特別ほしいと思うような物がなくても、変な道具と巡りあう可能性はあるよね?」
「ええ、まぁ、そういうことになりますけど」
「小林くん、来週の火曜日の朝方って時間はある?」
「ありますよー」
それなら話が早いなと僕はほくそ笑んだ。多分、悪そうな顔をしていたのだろう。高橋さんが目ざとく僕の表情に気がついた。
「井上さん、もしかして、小林くんも?」
「君たちの講義が終わるまでには、見つけ出すと約束するよ」
「ん、え? どういうこと?」
「絶対ですからね!」
状況を把握していない小林くんに小冊子探しの手伝いをしてもらうように改めてお願いをする。
彼には無自覚に変わった道具と巡りあってしまう。それならば、図書館にある不釣合いな物も、すぐにみつけられるのではないかと考えたのだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
通路開放 その四 如何でしたでしょうか。
楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。
念のため、今回のエピソードで出てきたアニメタイトル
『魔法熟女七罪花蓮』というアニメは存在しません。
魔法熟女と名のついた漫画はあるようですが、
設定などはオリジナルです。
正直言えば、なんとなく出現したアイディアです。
執筆中、これは面白いかもしれないと思い始め、
どこに需要があるかわかりませんが、
この「魔法熟女七罪花蓮」の執筆しようかと思案しています。
官能小説にするつもりはありませんのであしからず。
長くなりました。
明日も投稿を予定しています。
よろしくお願いします。




