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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第三章 通路開放
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通路開放 その三

通路開放 その三 です。


よろしくお願いします。

 速報の報道が終わってもしばらくの間、放心状態に陥った。やっと我に返ってはじめにしたことは、桜子ちゃんから教えて貰った高橋さんのメールアドレスにテキストを打ち込んだ。簡素に当たり障りのない文章を作成し、僕の携帯番号も添えて高橋さんへ送信したが直ぐに返事は貰えなかった。

 もやもやしたまま出勤すると、書店内スタッフの間でも日本武道館半壊事件について話題となっていたけど「テロかな」とか「迷惑な上に、怖いね」だとか当たり障りのない、自分には関係のない事件だという扱いをしてそれぞれ抱えている仕事に戻っていく。

 確かに、著名人の事件や訃報でも起きれば、過去に販売されていた書籍などの問い合わせはあるのだけれど、こと建築物となると反応は鈍い。強いて日本武道館に関連づいて問い合わせがあったとすれば、九十年代に解散したバンドが再結成して今週末に武道館で復活ライブを行う予定が中止になり、そんな彼らの復活を知らなかった元ファンが音楽雑誌やらを買い求めに来ていたくらいだ。

 接客をしつつ、本日販売の雑誌を店頭に並べていきながら、お昼休みに入った僕はようやく朝から見ることが出来なかった携帯電話を確認すると、高橋さんからのメールが届いていた。音信不通だった彼女からのメールが届いた時みたいに喜んだ。

 お弁当箱を広げながら届いていたメールを読む。

『高橋理緒です。メールありがとうございます。井上さんのアドレスは今朝方、井上さんのメールを受け取った直後に桜子からも同じようなメールをもらいました。今後もよろしくお願いします。

 心配してくれた風林達のことですけど、安心してください。彼女たちは無事ですが、むしろあの二人の相手をしてしまった男の方が重症です。風林たちにも井上さんが心配していたと伝えますね。

 あと、ここからは私の個人的なお願いがあるのですが、今夜時間があれば、桜子に内緒で会ってもらえませんか』

 仕事が終わってもやることがあるとすれば、まだ読み終えていない小説を読むしか予定がなかった。

 僕は持参した弁当にほとんど箸を付けることなく、メールのやり取りを繰り返して今夜新宿で会う約束を交わした。会う理由や話したい内容など、言える範囲で教えてほしいと聴いてみたが、最後まで先入観を持ってほしくないから会うまでは秘密です、と一点張り。

 そこまで言われてしまうと、強気になれないし、なによりお弁当を食べる時間が無くなってしまう。食欲に負けて承諾をしたものの、天見、月森ペアに関するお願いごとであれば、話を聴いた上で断るつもりになっていた。

 定時になり仕事を終えた僕は足早に職場である書店を出て、普段から乗車をしない山手線に乗り込み新宿まで足を伸ばした。

 夜の新宿は書店に勤めてからほとんど訪れない街になってしまった。数年来なかっただけで街並みは多少なりとも変化がみられるけれど、人の数だけは変化がなく、いつもの新宿界隈だった。改札を通り抜けて中央東口から地上に出る。

待ち合わせに指定されたのは本当にローカルなミニアシアター劇場だった。場所は中央東口を出て、新宿駅を右手にしながら新宿東南口へ向かう道中に待ち合わせとなったミニシアターがある。

 東南口からでてもミニシアターには辿り着けるのだけど、駅構内から東南口改札をでようとしても、JR線を利用する人の波があって歩きづらいし、ましてや南口のコンコースなんて出たら待ち合わせやこれから乗車しようとしている人達で余計に歩きづらい。

 ミニシアターへの距離だけで言えば南口が最短かもしれないけれど、歩く時間を考えたら東口から出たほうが早くミニシアターに到着できる、と思う。結局、僕自身が早く到着できそうなルートを選んだだけだ。どこから出たとしても人が多いはずだし、歩きにくいのはどこでも同じだ。感覚的に早いかなで動いたほうが、気持ちは楽になる。

 劇場まであと数メートルというところで、高橋さんの姿が見えた。身長の高い女性だから目立っているのもあるかもしれないが、彼女には独特の空気が漂っている。人を惹きつける魅力とも言っていい。

 高橋さんも僕に気が付き、互いに会釈を交わした。

「待たせましたか?」

「いいえ。私も数分前に来たばかりなので」

「それで、話というのは?」

「ごめんなさい、あともう一人来るので、彼が到着するまで待っていてくれませんか?」

 フキダシが見える。彼とは高橋さんの『彼』でもあった。しかもかなり遅れているようで、伝わる感情がピリピリとしている。

「小林くんでしたっけ?」

「そうです。って、伝わるんでしたね。本当は彼と先に会ってから井上さんを待とうって話だったんですけど。野暮用が出来たから遅れるとかいって」

 口調は穏やかだが、僕が彼氏の小林くんよりも早く到着したものだから内面はかなり苛立っている。

「僕に用があるのって、その小林くんですか?」

「ええ。彼は桜子とも面識があるし、井上さんが持参していた小冊子にも興味を示していたんです。実を言うと、昨日も本当は小林くんも同行したいとか言い出してて、来ないでと突っぱねたんですよ」

「何が起こるのかわかりませんしね。まぁ、結果だけで言えば僕らに被害が出るようなことは無かったから、良かったんですけど」

「その心配もありましたけど、私が小林くんを連れて来なかった理由はもっと個人的な理由でして」

 言いづらそうな言葉らしいのだが、本心はすでに見えてしまっている。高橋さんがその言葉を口にするまで待つか、それとも僕から振っていいものか、判断しかねる。

「もしかして、見えちゃいました?」

 高橋さんは両肩を落として僕を見つめてくる。

「すみません、これ受動的に見えちゃうし分かっちゃうので」

 言いにくい言葉を理解してしまったのだから謝るしか無い。高橋さんが小林くんを連れて来なかった理由は、高橋さんが小林くんを過保護なまでに守ろうとするからだ。

 ここからは推測というか、予想なのだけど。

 親友でもある桜子ちゃんに、そんな彼氏にべったりとしている自分の姿を見られるのが恥ずかしいので、小林くんを呼ばなかった―――こんな所だろう。

 確かに、そんな姿を親友でもある桜子ちゃんには恥ずかしくて見せられないはずだ。今日ここで会うことを桜子ちゃんには秘密にしてほしいと言った意味もよくわかる。

 僕はちょっとだけ安心をしていた。高橋さんが小林くんを呼ばなかった理由は、オタクな彼氏を見せたくなかったからではないかと、疑ってしまったのだ。高橋さんとまだ見ぬ

 今日、ここで会うことは桜子ちゃんには秘密にしてほしいと言った理由がよくわかった。

「それにして、遅いな。何をしているんだろう」

 高橋さんがスマートフォンを鞄から取り出そうとした時、駆け足でこちらに近寄る青年の姿が見えた。

 息を切らせながら僕らの前に立ち止まった青年は、今どきの大学生という身なりではなく、実にカジュアルな服装だった。ボディラインが綺麗に見えるシャツにデニムで合わせて、靴はプーマーのスニーカーで配色はブラックとホワイト。定番中の定番色だがバランスはいいと思う。なんだか、イメージしていたオタクとは若干趣が違っている。

「遅い! もう、どこでなにしてたの? 連絡もないから心配するじゃない」

 怒った次にはもう心配をしている。

「ごめんね。高橋さん。ちょっと気になる物を見つけちゃって」

 彼氏、小林くんは物腰が柔らかく丁寧な青年だというのが第一印象だった。

 それ故に、こんな彼がオタクだなんて思えなかった。

「ほら、小林くん。私に謝るのは後でいいから、まずは井上さんに挨拶してね」

 うん、わかったよ、高橋さんに笑顔を向ける。その顔がとても印象を良くさせる。そして、高橋さんの過保護っぷりがすごく伝わる。なるほど、これば俗にいうバカップルですか。

 ……そうですか。

 いちゃいちゃしやがってとは口が裂けても言ので、脳内で叫ぼうか。

 見せつけられるほうのことも考えてくれ、と。

 小林くんが僕に深々と頭を下げる。

「はじめまして。小林吉行といいます。昨日は高橋さんが活躍したみたいでお力になれたのなら、ぼくも嬉しいです」

 僕が井上ですと言い終わると同時に高橋さんが小林くんの肩に手を乗せた。

「そんな、私は特別なことはしてないからね。持ち上げても駄目だよ」

 ああ、もうお腹いっぱいなので二人だけの会話はやめてくれないかな。もう少しでもこの会話が続こうものなら、さすがに苦虫を食べたような顔をして非難しよう。

「僕に用があると聞きましたけど?」

 刺のある言い方にならないよう努めたけど、大丈夫だろうか。

 僕の気持ちなど、気付く様子もなく小林くんは淡々と説明を始めた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

通路開放 その三はいかがでしたでしょうか。

楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


明日も投稿を予定しています。

よろしくお願いします。

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