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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第三章 通路開放
24/62

通路開放 その二

通路開放 その二 です。

よろしくお願いします。

「あんたたち、本当に今夜、武道館へ行くつもりなの?」

 高橋さんは心配半分、面白半分で友人二人へ聴いた。

「当然」

「私達を怒らせたのが運の尽きです」

 不敵に笑う二人は凛としていて華があった。それは自分たちの勝利が確実だと言わんばかりだ。

「でも、武道館なんて関係者以外入れないんじゃ?」

 深夜とは言え、武道館ともなればセキュリティだって厳しいはずだし、簡単に入れるわけがない。

「ご心配なく。関係者として入館します。無関係の方には外へ出ていただきますから、私達の戦闘に巻き込まれることはありません」

「戦闘?」

 冗談ではなく真顔で言っている。なんだか、本当に漫画の世界に踏み込んだ気がしてきた。能力者(いまだに能力の本質を知らないけど)同士が武道館で戦い合う。

 そして、敢えてもう一度言おう。

「戦闘ですか」

「武道館を全壊するわけじゃないし、大丈夫でしょう。それに武道館だって保険に入っているから、問題は無いんじゃないのかなぁ」

 天見さんが軽い口調で言う。保険に入っているとかいないとかの問題ではなくて、武道館という場所は毎日の様に何かしらのイベントが開かれている。聞いた話だと一日のレンタル料は数百万単位だ。イベンター側も武道館側も多額の損害が出てもおかしくない。いやいや、その前に、武道館自体を破壊するようなことを、この露出度の高い派手な子と、地味に見せかけて毒舌の眼鏡っ子が?

「話を盛ってますよね?」

「相手を殺すようなことはしませんから、大丈夫です」

 月森さんが弾けるような笑顔で答える。今日一番の笑顔を見せてくれたのは、非常にありがたいというか、嬉しいのだけれど、僕の質問に対する解答ではない。

「あ、誤解しないでくださいね。私は補助役ですから、ゴミ虫みたいに踏み潰すようなことはしませんよ。それをする役目は実戦役の風鈴さんです」

「ちょい待てコラ。その言い方だと私が人の命を粗末に扱っているみたいじゃないか。私は一度も殺したことはない」

「ごめんなさい、半殺しの間違いでしたね」

 これが現役女子大生の言うような科白だろうか。桜子ちゃんもそうだけれども、とても高校を卒業したての女の子が日常会話で使うような言葉とは到底思えない。

「悪いけど、今回、私はパスさせてもらうからね。それはそっちの問題だから」

 今夜、命を落としかねない友人に対して冷たい言い草だと思うけれど、しっかりとフキダシは見えていて、心配も多少はあるけれど二人への必ず自分の元へ戻ってくるという確信があった。

「理緒は井上さんたちと一緒に山本和博を追えばいいさ。小冊子探しは私らにはまったくというほど関係が無くなったからさ」

 これで当初の予定通り、それぞれの標的に行動することとなった。天見さんと月森さんは円城了を、高橋さんは僕らと共に最後の小冊子を探しつつ、山本の後を追う。そして、僕は呪いではない何かを掛けあわせた何かを解くことだ。

 眠っている伊藤さんは天見さんたちに任せて、僕らは会議室を後にして一旦、駅の方まで出た。高橋さんの話では実家は京王井の頭線沿いにある富士見ヶ丘らしいのだが、現在は一人暮らしをしていて、僕らとは別の路線で帰宅するみたいだ。

 高橋さんを見送りと来週の予定を話し合うため、僕らは渋谷ハチ公前にある地下鉄への入り口の前で立ち止まり立ち話を始めた。

「来週は、朝から僕一人で図書館へ行くよ。二人は講義が終わってから来てくれないかな」

 二人は学生なのだし、講義にはちゃんと出て欲しい。高橋さんは山本のことが気になるだろうけど、学生の本文を見失ってはいけない。それは桜子ちゃんにも言えることだ。

 ここで大人ぶるつもりはないのだけれど、大学で学べる時間は長いようで短い。四年という歳月はあっという間に過ぎ去ってしまうのだ。もちろん、遊びだって必要だけれど、学びもせず、遊びもしないのは大人になった僕からすると勿体無いと思える。

 軽い説教になってしまってうんざりされるかと思ったが、二人は意外にも素直に僕の言葉を受け入れてくれた。

「不釣合いという言うくらいなのだから、すぐに目につくと思うし、講義が終わっている頃には見つけていると思うよ」

「小冊子探しに関しては見の危険はないらしいけんな。一緒におりたいけど、来週は我慢するわ」

「私も今日は小冊子の声を聞くだけの予定でしたからね。二冊目以降は会話をしても意味がなさそうです」

「なぁ、理緒。会話ができんのにどげやって山本を探すつもりでいたん?」

「もしかしたら小冊子以外の物で、山本和博が残している物があるかもしれないでしょう。私はそっちを期待しているの。それに小冊子を隠しているのであれば、一度は山本が訪れた可能性があるってわけだし。探せるところは探すつもり」

 高橋さんが探偵と呼ばれる所以はなにも道具と会話が出来るからではなくて、目的の為ならばしつこく付き纏い、粘り強く探し続けているからだな。

 では、そろそろと言って高橋さんが地下へと繋がる階段へ降りようとして、こちらに振り返った。

「講義が終わったら連絡しますね。連絡先は桜子から教えてもらってください。じゃあ、また来週」

 高橋さんは小さく手を振ってから、踵を返してそのまま地下街へと消えていった。

 見えなくなるまで彼女の背中を見送ったあと、僕らもそろそろ井の頭線にいこうかと、桜子ちゃんの手を握る。

「え?」

 咄嗟のことで驚いたらしく、握られた手を凝視する。

「嫌だった?」

「嫌、じゃない……よ?」

 良かったと呟いてから、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩いた。今日の目的は一応とはいえ達成されている。探すものがなければ気分を切り替えてデートにしたっていいんだ、と自分勝手に行動してみた。

 このまま夜の渋谷で遊び通そうと思えばできたけれど、僕は明日の朝から仕事だし桜子ちゃんは大学だ。学業に励んでほしいみたいなことを口にした側から、自分の言動を反故しては元も子もない。

 僕らは手をつないだまま井の頭線の改札を抜けて急行と各駅停車のどちらを乗るか悩んだ。桜子ちゃんは吉祥寺だから、急行に乗るほうが早く着くけど、僕が住んでいる最寄り駅は各駅停車でないと止まらない。

「井上さん、各駅で帰ろ」

 少しでも長く、僕と一緒にいたいとのことだ。

 理性がぶっ飛びそうで自分が怖くなる。

 この場で桜子ちゃんを抱きしめたいという衝動に駆られたけど、我慢した。帰宅ラッシュのピークは超えた時間ではあるけれど、一番線、二番線ともに電車待ちをしている人で溢れている。テレビドラマでもないのに、ましてや桜子ちゃんは可愛いからいいけど、抱きつくのが僕では不快に思う人が絶対にいる。

 人の迷惑を掛けずに生きることが最低限のマナーだ。

「なぁ、いますっごいくだらん事、考えちょらん?」

 相変わらず鋭い指摘をする。桜子ちゃんは心を読むことができるのかと、阿呆なことを考えてしまった。

「うちの気持ちが伝わったんでしょう? そんで邪な事を考えて、我慢して、表情がころころ変わるけん、すぐわかったわ」

「ごめんなさい」

「だけん、なんで謝るで。うちはなんも咎めとらんよ。むしろそんな井上さんを見とるのが楽しいわ」

 僕は手を引かれて各駅停車に乗車した。

 押し鮨の気持ちを味わないながら、けれど密着した状態に幸せを感じつつ、僕らは会話することもなく身を寄せ合った。

 三駅目に停車し、自動ドアが開くとようやく僕らは握っていた手を離した。最後に触れ合った指先が互いの温もりを確かめ合う。

「じゃあ、また、来週」

「うん、またね。今日はだんだん」

 この時、彼女の方言で言ってくれたのがとても嬉しかった。彼女の方言を理解できるのは、僕ただ一人なのだから。

 翌朝、桜子ちゃんから届いたメールで起こされた。

 内容は高橋さんの携帯番号とメールアドレスが記載されていて、すっかり忘れとった。ごめん。と書かれた文面があった。

 桜子ちゃんらしいなと思いながら、テレビを付けてニュース流しながら、洗面台に向かった。顔と歯の汚れを落として、今日の弁当を作ろうかとキッチン立つとアナウンサーが速報と言って、昨晩に起きた事件の内容を伝え始める。

「今朝零時頃、千代田区にある日本武道館が破壊された事件について……」

 僕は慌てて部屋に戻りテレビの前に立った。

 画面に写しだされたのは、天井の半分がほぼ破壊された哀れな武道館の姿だった。なおもアナウンサーは手元の原稿に目を落としてはカメラ目線でしゃべり続けた。

「館内は爆発物によって破壊された箇所があり、警視庁ではテロの可能性も視野にいれて捜査を続けています」

 何をしたら、こんな壊し方が出来るのか不思議だったし、天見さんと月森さんの存在がより恐ろしく感じた瞬間でもあった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

通路開放 その二 は如何でしたでしょうか。


楽しんで頂けたのなら裏しい限りです。


明日も投稿を予定しています。

よろしくお願いします。

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