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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第三章 通路開放
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通路開放 その一

第三章 通路開放 その一 です。


よろしくお願いします。

 109前の横断歩道を掛け渡り、そのまま小路を直進して渋谷マークシティまで駆け抜けた。どうやら渋谷マークシティ内にあるホテルで月森さんたちは伊藤さんの呪いもどきを解いていたらしい。

 落ち着いて話ができたのは一階にあるホテルエントランスからフロントまで直中のエレベーターに乗った時だった。

「フロントは通さなくていいから、会議室のある六階のボタンを押して」

 僕は天見さんに言われるとおり、六階のボタンを押してからエレベーターの扉を閉じた。

 当然のように息切れを起こしているのは僕だけで他の女子二人は軽い深呼吸をしただけで息の乱れは整っていた。どういう体の作りをしているのだろう。

「なぁ、なんで伊藤さんはいまになって伝言をいうことになったんかな?」

 誰に問うわけでもなく桜子ちゃんは呟いた。その疑問は当然で、伊藤さんが伝言役になる機会は幾らでもあった。オルゴールのドラムを手に入れた時でも良かったし、ハチ公前で再集合した時でも良かったのだ。それなのに、今になって伝言役となるのは不自然すぎる。

「あいつらの都合なんて私が知るわけないじゃん。わかっているのは、こっちが油断して伊藤秋野に――――させられたことだ」

 いい加減、聞こえないことにも慣れてきた。触れる必要もない。意味はわからないままでも、僕が骨董店を出た後に気になっていたことが解消できたことくらいだ。高橋さんと桜子ちゃんを伝言役として利用した人物は前置きに『伝言です』と断りを入れた。ということは、山本和博以外の人物が行っていたということになる。

 消去法でいけば円城了になるのだけれど。

「いま伊藤さんと繋がっている相手は円城了なんですか?」

 腕を組みエレベーターの壁に背もたれをしていた天見さんが僕を睨む。

 もし円城了であるのなら、因縁を抱いている天見さんと月森さんがたった二人で対峙するとは思えない。前回の借りを返すとまで意気込んでいた二人であれば万全の体制を整えるはず。ましてや、僕を睨んでいる目の前の彼女が感情で動くタイプにも思えない。

考えは二つに一つしか無い。

「もう月森さんがもう一人の増援を呼んでいるのですか? それとも円城了ではない?」

「察しがいいね。後者だよ。私としては了と直接話しがしたかったけれどね。残念ではあるけれど、伊藤秋野を操っている人間は了との繋がりを持っている。そこが私らの活路だ」

 エレベーターが六階に到着して扉が開く。

 僕は開ボタンを押しっぱなしにして、女性二人を先に降りてもらった。

 エントランスの中央にはすでに高橋さんが待ち構えている。

「ずっとあいつを追い続けてきたんだからな」

 理緒、どんな状況だと力の入った声で出しながら高橋さんに駆け寄っていく天見さんを目で追う。

 天見さんは円城了を名前で呼んでいた。敵対している相手ではなく、それはもっと別な思いが込められているようだ。

 そこまで思案しながらエレベーターを降りて、不思議だなと思って天見さんをもう一度『意識しながら見た』。感情の込められている言葉であるはずなのに、なぜ彼女からはフキダシが見えないのだろう。

 多分、天見さんに聴いたとしても聞こえない何かだ。聞くだけ無駄だと言い聞かせてエントランスの中央にいる高橋さんの元へ駆け寄った。

 高橋さんは深く語らず、伊藤さんと月森さんがいる会議室まで案内してくれた。

 通された会議室は想像していた様なパルプ椅子と折りたたみ式のテーブルなどは用意されておらず、高そうな一人用ソファが四脚と中央には艷やかに輝いた黒いテーブルが用意されていた。部屋は天井が高くて奥行きもある。こんな所で会議するような人達を想像してみたが、良からぬ企みをしている企業の人達しか思い浮かべられなかった。

 伊藤さんは会議室の入り口から見て、左奥にあるソファに座っていて、耳には携帯電話を当てている。

 伊藤さんは入室してきた僕に視線を注いで、携帯電話で通話している相手に話し掛けた。

「名も知らぬ読者が到着しました。はい、代わります」

 てっきり代わると言われて、携帯電話を受け取るものだと思ったが違った。

「どうも。名も知らぬ読者さん、それと付喪神探偵に同族の皆さん。あともう一人は、勇ましい少女としておきましょうか」

 声は伊藤さんだが喋り方が別人だ。彼女の体を乗っ取った感じだ。

「――――の無駄遣いしやがって。携帯を置いてスピーカーモードにすればお前の声は聞こえるだろう。なぜそうしない」

 天見さんが伊藤さんではない同族の人物に怒りをぶつける。

「円城さんの演出ですよ。演出。今回用があるのは天見、月森の両名と、名も知らぬ読者の方だけです。まずは同族の両名から要件を伝えましょう」

 同族と呼ばれた二人が身構える。

「円城さんのお言葉です。

『俺との再会を楽しみにしているのなら、

 残念だったな。

 今回、お前たちを戯れる気は毛頭ないんでな。

 読者、たしか井上優太という名だったかな。

 彼が三冊目を手に入れた後なら、

 気分次第で相手にしてやらんでもないぞ。

 付喪神探偵を使ってお前たちをよこした理由は、

 この俺が何を企んでいるのか知って欲しかったんだよ。

 どうだ、嬉しいか?

 むしろ、泣いて喜べ。

 井上優太に掛けられているモノがなんであるか、

 もう気がついているな。

 どんな結果になるのか、実に楽しみだ。

 では、風鈴と小町、近いうちにどこかで相対しよう。

 あと、彼にもよろしく言っといてくれ』

 以上です。現段階で円城さんを追うのは辞めたほうが得策です」

「相手にしてやるだ? ふざけやがって」

「風鈴さん。あなたが勝手にやる気になるのはかまいませんけど、本来の目的は井上さんのそれが――――であるかのはず。了さんが相手にしないというのなら、それでいいのではありませんか。下手に出ると前にみたく、それこそボロ雑巾以下の存在にされますよ」

 月森小町は礼儀正しいというより、自然に毒を織り交ぜているから普通に毒を吐く人より怖い。

「続いて読者の方。作者からの伝言です。

『名も知らぬ読者へ。

 二冊目を読むための余興はどうだったかな。

 彼女との会話は愉快だっただろう。

 もし、君が彼女にとって楽しめる人間であるのなら、

 いい関係が築ける。

 同性である場合は、残念だがあまり関わらないほうがいい。

 この伝言はオルゴールのメロディを狐の三味線弾きが聴けば、

 自動的に彼女と伝言役の部下と繋がり、

 読者の君に話しかけているはずなのだが。

 例外が出た場合、部下が上手くやってくれているだろ。

 さて、三冊目だが新宿の図書館にある。

 大雑把な説明だったのは謝ろう。

 だからこうして、伝言を残している。

 最後の小冊子は四谷図書館だ。

 しかし、普通に探しても見つけられない。

 そう、また余興を用意した。

 まずは四谷図書館で不釣り合いな物をまずは見つけることだ。

 それを観察し、推測し、行動したまえ。

 なに心配する必要はない。

 二冊目を読んだ君にならすぐに必要なものがわかる。

 なにをすべきか、自ずと気付くはずだ。

 君が思うままに遂行すればいい。

 では、名も知らぬ読者。

 三冊目を無事に手に入れてくれることを祈っている』

 伝言は以上です」

 前は伝言が終わり次第、操っていた相手を解放したのだが、今回はそうしなかった。

「これでやっと僕の役目も終わりました。が、僕には個人的な用がありますので、今しばらく伊藤さんの体を利用させていただきますよ」

「そんなことだろうと思ったよ」

 伊藤さんを見下ろして天見さんが凄んだ。

「ええ、分かってくれると思いましたよ。円城さんは相手にしないと言われたけど、僕は違う。あの方の邪魔になるのなら今のうちに処分してしまいたい」

「奇遇だな。私もお前のご尊顔を拝みたいと思っていたところなんだよ」

「風鈴さん。そんな小物なんて放っておいても大丈夫ですよ」

 どうやら同族同士の諍いが始まったようだ。

「月森嬢。連れないことを言わないでください。僕はあなたみたいな腹黒い女性を手懐けるのが大好きなんです。ぜひとも交えてください」

「風鈴さん、心変わりしました。この下衆を磨り潰しましょう」

「まとまりましたね。本日、日付変更後、武道館で落ちあいましょう。伊藤秋野を解放します」

 言い終わると、伊藤さんは気を失ってしまった。

「伊藤さん」

 慌てて伊藤さんの前に座り込むと静かな寝息が聞こえてきた。

「安心してください。理緒さんが操られていた時と同様に、記憶が無いだけで後は無事です。その睡眠も脳をリセットするためのものですから、害はありません」

「そうですか」

 月森さんの口調は優しく、安心させてくれるような雰囲気があった。それなら当然、感情が込められているわけだから、フキダシが見えてもおかしくない。なのに、彼女からにもフキダシなんて視認できなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

新章 通路開放 その一 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


明日も投稿を予定しています。

よろしくお願いします。

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