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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第二章 友人来訪
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友人来訪 その十二

友人来訪 その十二 です。

ここで第二章 友人来訪 は終了となります。


よろしくお願いします。

「あの、危ないこととかしませんよね?」

 囮と言われると危険な匂いしかしないので念のため尋ねてみる。この天見さんという人、ほんの出会って間もないけれど性格は桜子ちゃんと似ているし、何をしでかすのか分からない雰囲気がある。

「ないない、私達は普通に歩くだけだよ。んでもって、その後ろを井上さんが付いて歩けばいいだけ。ただし、フキダシを見るという意識は常にしておいてね」

 危険がないのなら構わないのだけど、天見さんの説明を受けただけではこれから何をするのか見当が付かない。

「じゃあ、桜子。このまま道玄坂を登るぞー」

「いいで! あ、109ってこぎゃんとこにあったんか。思った以上にデカイな」

 桜子ちゃんは上京してまだ一ヶ月半なのだから知らない場所は多いようだ。109前の多重交差点を渡って道玄坂を登り始める女子大生二人の後を追った。

 この坂の先には今月の頭、桜子ちゃんと共に渡辺姉妹から逃れるために通った小路があるのだが、そこに辿り着くまでの間に、僕の前を歩く二人に声をかけてくる輩がいた。

 多種多様に話しかけてくるが本心と本音は丸分かりだった。

 一人目はいかにも暇を持て余した大学生風の男。

「二人とも可愛いね」

 フキダシが視認できる。さらに、これまでと違って感情ではなく思惑すべてが分かってしまった。

『派手な女。マジでちょろそう』

 本音が聞こえるこっちが恥ずかしくなるのだけど、考え方が安易すぎて彼の将来を心配してしまった。

 二人目は日焼けサロンで焼きました、俺、遊んでいます風のチャラチャラした男。

「これからどこ行くの? お腹すいてない? なにツンツンしてんの? 笑ってみ。可愛いから。いや睨んだ顔もいいねー。」

 こいつもフキダシが見えるし、心の思いが強いせいかより鮮明にチャラい男の本音が分かった。

『好みで言えば、こっちの露出狂だけど、処女臭いこっちのほうが楽しめそうだな。いや、両方喰うのも有りだけど、俺の息子が持つかなー。いや、持たせっけどな』

 下半身で考える男ほど恥ずべき同性はいない。最後の方なんて二人を連れ帰る前提なのがおかしい。普段から暴言を吐くことはないけれど、正直、気持ちが悪い。まだ二次元をこよなく愛する人種のほうが潔い気がする。

 三人目は、前の二人と比べて小綺麗なシャツに細身のパンツスタイルで、話し方も腰が柔らかくて紳士的な男だ。

「このまま流し聴いてください。失礼ですけど。もうどこかの事務所に所属されていますか。僕はここの事務所の人間です」

『金髪の子はすでにスカウト済みっぽいな。読者モデルもやっていておかしくないが話はしないと駄目だな。隣の子は……素材はいいけど、まだ子供っぽいというか垢抜けてないのが残念だ。でも化けるのはこっちだ。黒髪の子が名刺を受け取れば今回は上出来だ』

 この人は本物のスカウトマンらしい。本当にこういう路上スカウトが行われているのかと驚いた。

 スカウトマンは名刺を二枚出して二人に見せたが渡す素振りは見せない。

「ここに書かれているのがうちの事務所です。名前くらいは聞いたことがあるとは思いますけど。あ、興味があればどうぞ受け取ってください。もし話だけでも聞いてもらえるのなら、僕個人の携帯ではなくて事務所の代表番号に電話していただければ大丈夫です」

『この子たちで何人目だっけ。ノルマの二十人には声は掛けたけど、今日も駄目っぽいな。事務所の名前を出せば若い子が食いつく時代でもないし。磨けば光る商品にはなりそうだけど、本人次第だし。そういえば、この間もここで捕まえた子、社長に気に入れられたけど、あれは俳優や業界の豚どもに与える餌にするんだろうな。スカウトするのも嫌になるよ』

 彼から出てきたフキダシから自動的に取り込まれてくる感情とその本音が、僕の心と同期する。スカウトマンの彼でもないのに、本当にこれまでやってきたことが無意味だとか、芸能関係で起きている薄汚さなどが僕自身のものとして体感してしまっている。

「こんなもんかな。井上さん、どうだった?」

 自分の真横にいるスカウトマンを完全にいないものとして、天見さんは僕に話しかけてきた。その時、スカウトマンはなにを思ったのかわからないけれど、その顔は落胆の一言で片付けられるほどの表情をして、登ってきた坂道を下っていった。

 下手に感情移入したせいか、横切るスカウトマンに申し訳無さを感じてしまう。

「どうやら、感情移入まで引き起こせるみたいだね」

 天見さんは坂道に備え付けられた花壇の縁に腰を掛けて足を組んだ。

「私がどうして井上さんと会いたかったのかっていうのは、それが呪いではなくて――――だと思ったからなんだ」

 一番抜け落ちてはいけない所が抜け落ちた。そして、混乱をしていた。ついさっき、僕のこれは呪いだから聞こえない何かではないはずだって、結論をだしたはずだ。

 桜子ちゃんも僕と同じく驚いている。

「たぶんだけど、私が何を言ったのか聞こえてないんじゃないかな」

「そうです、聞こえていません。でも、僕がその言葉を聞こえないのは小冊子に掛けられた呪いのせいだったんじゃ」

「そう、すべての元凶は小冊子に書かれていた文章だけど、それは呪いじゃない。円城了が施した、力だよ」

「でも、この文章を書いたのは山本和博という呪術師のはずです」

「小冊子の文章が手書きだとしたら? 書いた本人の文字を書き写せば話は別だ。活版であるなら――――すればいいしね」

 天見さん本人は伝えられていると思っているようだけれど、僕には届かなかった。言葉の前後を考えると、円城了や天見さんたちの能力自体を口にしているのではなく、それに関する言葉だと推測ができる。

 聞こえない言葉よりも事実だけを理解しよう。天見さんの言うとおり、小冊子は手書きだった。となれば、山本でなくてもいい。

「小冊子の文章を書いたのが円城了だというのはわかりました。それで、天見さんは何を知りたいんですか?」

「小冊子に施された円城了の力とその役目、更に言えば目的かな」

「僕はただフキダシを見て、感情移入させられたことが、どうして円城了の目的までわかるというんですか?」

 彼女の言葉の意味は理解できても、その結論に至るまでの過程が欠落していて腑に落ちない。

「問題はその感情移入までしてしまったことなの。何度もいうけど、井上さんに掛けられたのは呪いじゃない。正しく言うと呪いと――――のハイブリッドなんだ。これの意味するところが円城了の目的。いまここで、その目的を教えてもいいけど、おそらく聞こえないはずだよ」

「円城了の目的と僕に掛けられている『何か』が同一だから聞こえない、そう判断していいんですね」

 僕の出した結論に、天見さんがゆっくりと頷く。

「なぁ、話はなんとなーくでしか理解しちょらんけど、要は井上さんに掛けられとるのは呪いでなくて――――なんだが? じゃあ、これも月森さんなら解けるんと違うか? うちらは呪いだと思ったけん、駄目かと思ったけど同じなら」

 桜子ちゃんの指摘は正しい。同じ力であるのなら月森さんにだって解けるはずだ。

「それは無理だ。私と小町二人そろっても井上さんに掛けられている『それ』を解くことは出来ない。知らないだろうから言って置くけど、円城了は私と小町が揃っても対等に渡り合える相手じゃないんだ。力量が違いすぎるし下手をすると、私達のほうが――――を失いかねない」

「力を失うということですか」

「下手をしたらという仮定ね。リスクはあるけど、その呪縛を解く可能性はある。いま、ここには居ないけど、私達に親しい子がいてね、その子もいればさらに高い確率で解ける」

 真剣な目で僕を見つめてくる。本当に、僕の回りにいる女の子たちって男前というか、自分の身を呈したがるのだろう。もう一人増えたとしても、結局、僕が助かるか、彼女たちのリスクが高いことに変わりがない。

 誰かの犠牲で助かりたいなんて、御免だ。

「丁重にお断りしますよ。やせ我慢とかじゃなくて、敢えて呪いと言いますけど、これは三冊目を読めば解かれます。天見さんや月森さんに迷惑をかけたくはありません」

「助けてもらう人間は素直に甘えてもいいんだけどね」

「自分で巻いた種ですから、芽がでれば自分で刈り取ります」

「格好いいね。桜子、良い人見つけたんじゃね?」

 急に話を振られた桜子ちゃんの挙動がおかしくなる。慌てるというか、そわそわしている。

「なんだよ、言葉も動きもわかりやすい子だな」

 天見さんの言うとおり、桜子ちゃんはわかりやすい子ではある。でも、言い切れるところが気になった。

「うっさいわ」

 桜子ちゃんが照れ隠しで怒っているのを見て、天見さんが笑った。

 話が一段落して、天見さんの携帯電話が鳴ったので通話を始めた。どうやら、伊藤さんの呪いもどきを解いた月森さんからだった。

 話が一段落して、天見さんの携帯電話が鳴ったので通話を始めた。電話の相手は月森さんのようだが、会話をしている天見さんの顔が徐々に険しくなっていくのがわかる。

「お前がいながら何してんだよ!」

 天見さんの怒声が響くと驚いた人達が足を止めて、物珍しそうに彼女を見つめる。

「とにかくそっちへすぐに向かう。いまどこだ? ……分かった」

 携帯での通話を終えると深い溜息をついた。緊迫した空気のせいで、息苦しさを感じる。

「井上さん、これから小町たちがいる所まで一緒に来てくれ」

 僕の返事を待たずに天見さんはすでに歩き始めていた。

「向こうでなにがあったんですか?」

「伊藤秋野が伝言役になったらしい。これは完全に私らの失態だ」

 伝言役と言われて、僕は昼間に起きた出来事を脳裏に蘇る。人形のように身動きもせず、自動的にそして一方的に話しかける、桜子ちゃんと高橋さんの姿が浮かび上がる。

「伝言って僕にですか?」

「そうだ。詳しい話は後回しだ。とにかく今は急がないと」

 急ぐ天見さんに追いつこうと僕と桜子ちゃんの足も早まる。鬼気迫る僕らの気配を感じ取ったのか、自然と前を歩いている人達が振り返り道を譲ってくれる。

 僕ら三人は伝言役となった伊藤さんの元へと急ぐため、日が落ちて肌寒くなった夜の渋谷を駆け抜ける。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

友人来訪 その十二は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。

前書きでも記したとおり、第二章はこれで終りとなります。


明日は新章となる『通路開放』を投稿予定しています。

よろしくお願いいたします。

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