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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第二章 友人来訪
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友人来訪 その十一

友人来訪 その十一 です。

よろしくお願いします。

 メールを受け取ってから待ち合わせ場所に到着してから三十分が過ぎようとしていた。僕らは渋谷の待ち合わせでは定番中の定番である渋谷ハチ公付近で四人の女性たちが到着するのを待ちわびていた。高橋さんは桜子ちゃんよりも先に伊藤さんへ連絡をしていて、どうやら彼女もまだ渋谷にいたらしい。一方、高橋さんたちは品川駅にいたので、山手線一本でこられる渋谷での待ち合わせという流れとなった。

 時刻は十八時をすこし回っているせいもあってか、仕事終わりの人々やこれから遊びに出かけようとしている若い人達が集まっては散らばっていく。スクランブル交差点前に目を向けると信号待ちをしている人達で埋め尽くされている。

 僕らはハチ公の銅像前にある腰掛けに座って流れ行く人々を眺め見ていた。

「あいつらほんに遅いな」

 この科白を言い始めてかれこれ二十分。正確な体内時計を持っているかのように五分置きに「遅い、遅い」と呟いている。つまり、これで四回目の「遅い」だ。

 人の言葉をカウントするのはいい趣味ではないけれど、何気なしに数えてしまった。

「よう、さっきぶり」

 とても親しみが込められた声が届居たので、目を向けると浴衣姿からグレーのフルジップパーカーにインナーはTシャツ、黒のタイトスカートというカジュアルな格好で、こんどはちゃんと化粧をしている状態の伊藤さんが僕の真横に立っていた。

「他の奴らは?」

「まだ来とらんで。てかな、あんたもあんたで遅ないか?」

「風呂入って、化粧もばっちりしてきたんだから文句言うな。十代の小娘と違って二十代のお姉さんは色々と大変なんだ」

「小娘ってゆうなや」

「じゃあ、生娘か?」

 また口論になるかと思ったが、桜子ちゃんは拳を握るだけに留まっている。さすがに大人になろうとしているだけはある、のかな。

「面白くもない冗談ばっかいうなや」

「これがあたしの持ち味なんだから、そこは笑って許せ。まだ来ないんなら、あっちで煙草吸ってくるわ」

 伊藤さんはこちらの返事を待たずに目と鼻の先にある喫煙所の一角へと姿を消した。渋谷区では歩きタバコはもちろん、喫煙が出来るコーナーが設けられるようになり、喫煙者に取っては肩身の狭い街となった。人通りの多い街路で歩き煙草はやめて欲しいが、見世物小屋みたいな喫煙所の一角を作るのは、元喫煙者からすると哀れみを感じ得ない。

「煙草ってそんなに美味いもんなんかな」

「美味いとか不味いんじゃないんだよね」

 苦笑しながら答えると非喫煙者である桜子ちゃんにはいまいちピンとこなかったらしい。

「元喫煙者から言わせると、若い内に喫煙を始めるのは格好いいとか一足先に大人になった証拠みたいな感覚とも言えるかな。吸い始めた時はそうかもしれないけど、その後に待っているのは煙草を吸うという習慣。それとは別に、自分だけの間を作るために煙草を吸ったりもする」

「そんな間を作るためにお金を払うのは、違う気がすーけどな」

「僕もそう思って煙草を辞めた口でもある。吸えなくても、別に死んだりするわけじゃないからね。ただ、いまでも煙草を吸いたいと思うことはあるかな」

「井上さんには煙草は吸ってほしくないなぁ」

「当分、その予定はないかな」

 今後、煙草を吸わないとは約束はできないのは、煙草を辞めた今でも吸いたいという欲求があるからだ。

 僕らの前に複数人の人が立ち止まったので顔を向けると、申し訳無さそうに両手を合わせている高橋さんが立っていた。

「遅くなってごめんね」

「理緒が謝ることないってば。悪いのは遅れてきた私らがいけないんだしさ」

 と、高橋さんの肩に手を置いた女性は髪の色はほぼ金髪に染まり、大きな胸を隠すどころかむしろ強調するかのようなワンピースに白いヒールを履いている。

「そうなんです。遅れてきたのは全部、頭の足りないこの人がいけないんですよ」

 金髪の子を指さしながら軽い毒を吐いたのはセミロングの黒髪に黒縁眼鏡、紺色のカーディガンにグレーのブラウスで合わせ、少し眺めのスカートの女の子だ。

「頭が足りないってどういうことだよ、小町」

「言葉のとおりです」

 事情を飲み込めない僕らを放置して言い争いを始めた。随分と騒がしい人達だな。

「風鈴も小町もうるさい。黙って」

 高橋さんが冷たく言い放つと、二人はしぶしぶ口を閉じた。

「えっと、この派手なほうが天見風鈴で、黒縁眼鏡が月森小町です」

「もう少しマシな紹介をしてくれ」

「不本意ながらも、風鈴さんと同じ意見です。黒縁眼鏡ってそのまんまじゃないですか」

「あんたたちの紹介なんてこの程度でいいの」

 高橋さんもさらりと酷いことを二人に言って、僕と桜子ちゃんを紹介していると、喫煙所から伊藤さんが戻ってきた。

「お、揃ったのか。あたしは伊藤秋野。そちらのお二人が――――かな。よろしく頼むわ」

 天見風鈴と月森小町の正体(と言っていいのかわからないけど)が聞こえないのが前提となっているけれど、やっぱり聞こえないというのは気持ちが悪いな。

「二人であたしの――――を解くわけなの?」

「その役目は私、月森小町が行います」

 月森小町が胸に手を当てて名乗り出る。そのまま、話が進むと思ったら桜子ちゃんが割って入り、伊藤さんを指さした。

「あんた、普通に自己紹介しちょるがね」

「あ? ああ。だって今のあたし狐じゃないからさ。それに演奏聴いてないだろ? だからいいんだよ」

 理屈はわかるけど、身勝手すぎる。

 人数も多いので会話が交差して話が纏まりそうもない。僕はこういうグループでの会話は苦手だ。会話の一方通行が起こりやすいので取り残される事が多いし、また会話に参加できないこともある。

「私は井上さんと話ができればいいんだけどさー」

 桜子ちゃんと伊藤さんの言い争いを無視して天見風鈴が僕に顔を近づけてくる。いかにも遊んでいますみたいな格好の女の子に近寄られる経験は殆どないから、変に緊張してしまう。

「近い近い近い!」

 そう叫びながら僕と天見風鈴の間に桜子ちゃんが入ってくる。見ている分ではちょっと面白いけど、桜子ちゃんも大変だな、って感心している場合でもないか。このままでは収集が付かない。

「あんたたちうるさい、マジで。時間の無駄になるから騒がないの」

 リーダー気質なのだろう。高橋さんが騒がしい女子たちを一喝して場を治める。

「あの、伊藤さんの呪いみたいなのは月森さんがいればいいんですよね。それで、天見さんは僕に用があるのなら、一緒にいる必要もないし、ここは二組に分かれませんか?」

 僕はなるべく角が立たないような口調で女性陣に向けて提案を上げてみた。

「そうしましょう。こうも個性が立つ女ばかりだと収集が付きませんからね。じゃあ、風鈴は井上さんと桜子と一緒に。私と小町が伊藤さんと。これでいい?」

 異論は出てこなかったので、ひとまず二組で別れることになった。

 伊藤さんは呪いもどきを解いてもらったらそのまま帰宅するらしい。

「優太、また機会があったら会おう。平日の昼間は代々木公園にいるから、気晴らしにあたしの三味線を聞きに来いよ」

 相変わらずの上から目線で伊藤さんは高橋さん、月森小町と共にハチ公前から立ち去っていった。

「あれが、狐の三味線弾きか。噂では聴いたことがあるけど、中の人がああいうのとはおもわなかったなー」

「知っているんですか?」

「演奏者としてというより、別口での有名人だけどさ」

 そっちの世界での有名人ということは、伊藤さんが口にしていた魔法に関係しているのかもしれない。本当に僕の知らない世界というのはまだまだたくさんあるようだ。

「つか、私に敬語とか使わなくていいよ。そういうの壁を作られているみたいで嫌なんだ」

「井上さんは真面目だけん、初対面の人には普通に敬語だで」

「そういう桜子はいきなりタメ口?」

「理緒の友達ならうちの友達ってことにもなーがね。あんただって敬語よりもタメ口のほうがいいんと違うか?」

「まさか。そんくらい砕けた感じのほうが付き合いやすいよ」

 なにやら意気投合し始めている。高橋さんが向こうに行ったのは、この二人の相性がいいのだと判断したのだろう。

「じゃあ、本題に入ろうか。あとこっちの都合で悪いんだけど歩きながら話させてもらうから」

「僕は構いませんけど」

 つい先程までカフェにいたしどこかで腰を下ろしながら話す気にもなれなかった。桜子ちゃんの様子を伺うと、歩きながらでもいいようだった。

 サンキューと日本語の発音で礼を言われて歩きながらの会話が始まった。

「私が井上さんに聞きたいのは小冊子を読んだ直後に掛けられた呪いについてなんだけど、フキダシの視認、そこから干渉される感情でいいかな?」

「そうです」

「そのフキダシだけど、発動範囲ってわかる? 人のフキダシが視認できる距離ともいっていいかな」

 フキダシが見える範囲なんて考えたこともなかったし、確認しようとも思わなかった。

 歩き続けていた僕らはスクランブル交差点を渡って道玄坂にある銀行の前を横切っていた。ここは夜になるとナンパ目的や夜のお仕事をお誘いする輩が大勢いる。

 辺りは騒がしいが見渡した限りだと、視界に入る範囲内ではフキダシが出ているようには見えない。

「見えないのね。じゃあ、他人の言葉をフキダシとして『見る』と意識したらどう?」

 意識するか。呪いだから受動的なはずだけどと疑問を抱きながら言われるがまま、今度はフキダシを見ると思いながら辺りを見回したが、やはり見えない。

 僕が首を傾げていると、天見さんも辺りを見回す。一体、なにがしたいのか見当がつかない。

 天見さんがアディダスオリジナルショップの前で足を止めたので、僕らも歩む足を止めた。

「じゃあ、私が囮になるか」

「囮ってどういうことです?」

「本当は理緒がいればもっと話が早いんだけどね。桜子、ちょいと協力してくんない?」

 桜子ちゃんに向けて片目を瞑って協力要請をしてきた。

 正直、良い予感が全くしないが、求められた桜子ちゃんの反応はというと。

「お、うちにできることがあるならなんだってすーで!」

 無邪気に喜ぶ始末だ。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

友人来訪 その十一は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しいです。


明日も投稿を予定しています。

よろしくお願いします。

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