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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第二章 友人来訪
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友人来訪 その十

友人来訪 その十 です。

よろしくお願いします。

 こういっては失礼だけれど、あの高橋さんにオタクな彼氏がいるなんて想像ができない。

「高橋さんもその、アニメとか漫画が好きだとか?」

「いんや。あの子はそぎゃんもん好まんけんな」

 では、何故と詰問したくなるけれど、他人の恋愛観に口出しするのは野暮だし無意味だ。

「まぁ、二人が上手くいっとるんならそれでいいがね。邪魔しちゃいけんしな。そんで、うちらはどげすーで? 夕方といても大雑把だしなー」

「適当に時間を潰したほうがいいかもね。スタバとかでコーヒーでも飲みながら時間を潰そうか」

 今日はほとんど歩いていたし原宿では全速力で路上も駆けた。いいかげん、どこかで体を休めないと明日の仕事に支障を来しそうだ。臨時収入もあるし懐の心配をする必要もない。僕は渋谷のスペイン坂にある老舗のカフェまで足を伸ばした。

 何年ぶりに訪れたのか、もう覚えていないけれどセンター街(いまではバスケット通りと呼ばれているが馴染めない)からパルコパート3を繋ぐ坂道で、僕はよく坂を昇りきった所にある単館シアターのシネマライズで映画を観に来ていた。

 書店に勤め始めてから、このカフェに訪れることは殆どなかったけれど、店の雰囲気もまた客層の変わりもなく落ち着ける場所であることに安心した。

 正しくはカフェアンドバーといった形式のお店で昼間はカフェだが十七時以降はバータイムとなる。まだ十六時なのでお酒はまだ取り扱っていない。内装は北欧を感じさせるパブをイメージさせ、インテリアのほとんどが木製のテーブルに椅子が設けられていてクラシックなところがいい。照明も明るすぎず暗すぎずといった感じで居心地の良さもある。何より一番の利点は、センター街で闊歩するような若い子が来るようなお店ではなく、少し大人になった人達が楽しめる空間となっているので、若い子特有の下品な騒がしさがない。

「大人なカフェだがね。うちみたいなんが入ってもいいだーか」

 そういえば、桜子ちゃんは小洒落た店は好きではないと言っていたのをいまさら思い出した。

「入りにくいのなら他のお店にする?」

「いんや、ここがいい。うちもそろそろ大人にならんといけんけんな」

 まだ十代なのだし、背伸びしなくてもと思うけれど、島根県という地方から上京したばかりだ。東京での生活にも慣れていきたいのだろう。

 注文したドリンクがトレイに乗せられたので受け取り、僕らはテーブル席についた。

 僕はラッテマキアートで桜子ちゃんはソイラテを頼んでいた。お互いに一口飲んで軽く溜息を漏らした。

「この間の時も長い一日だったと思っちょったけど、今日もまた長くなりそうな感じだが」

「伊藤さんのこともあるだろうけど、元々は天見さんと月森さんの二人が僕に会いたいと言ったみたいだけど、どんな話だろうね」

「――――についてじゃないだーか。円城了も――――だって聴いた時はこんな偶然もあるんかやって、普通におべたわ。鳥肌すごかったけんな」

 また聞こえない。円城了の正体を表す言葉だとは思うんだけど、考えるための素材が足りないで思考することが出来ない。

 僕はいい機会だと思い、円城了と天見風鈴、月森小町の三人に共通する言葉が聞こえない事実を桜子ちゃんに伝えた。

 桜子ちゃんは飲んでいたソイラテが気管に入ったらしく噎せてしまった。申し訳ない。

「なしてあん時にちゃんと言ってくれんかったの」

「オルゴールのドラムを見つけることを優先したかったんだ。伊藤さんと同じ呪いではない何かだとしたら、天見さんたちと合流するまで伏せたほうがいい」

「じゃあ、なんでいま話したん?」

「聞こえない言葉に合わせて会話ができるほど器用じゃないよ。それに、桜子ちゃんには嘘を付くみたいで嫌だったんだ」

「そげか」

「そうだよ」

 桜子ちゃんは僕の返答を気に入ったらしく、頬を緩ませながらソイラテを一口飲み終わると、何かを思いついたらしくテーブルに置かれていた紙ナプキンを一枚つまんで、カウンターに向かって店員に話しかけている。

 桜子ちゃんが店員に頭を下げてこちらに戻くると、椅子に座らず僕の前に立って紙ナプキンを見せてきた。

「何が書かれとるか見える?」

 彼女が持っていた紙ナプキンを見ると文字らしき物が書かれているだけで、読み取ることはできなかった。字が汚くて読めないとかではなく、文字であることは認識できても読めないのだ。きっと、言葉で言えないから文字にすればと考えたのだろう。

「ごめん、読めないや」

「そげか。また無駄なことしたわ」

「無駄じゃないさ。いまの僕には特定の言葉を耳にすることも、文字を認識することも出来ないんだ。これは新しい発見だよ」

 新しい発見とは前向きな発言をしたけれど、実際のところは新たなマイナス部分をしったことになる。だけど、僕のために行動してくれた桜子ちゃんに無駄だと思ってほしくはなかった。それ故に、新しい発見だと僕は言ったんだ。

「うちのことをフォローしてどげすーで。いま困っちょるのは井上さんのほうなんだで?」

 僕の心内は完全にバレていたようだが、それでもいいんだ。これは桜子ちゃんに対する、僕なりのお礼なのだから。

「にしても、井上さんはいつ聞こえないようになったんだーか」

 自分の席に戻りながら僕に掛けられている呪いではない何かについて話しだした。

「一冊目の小冊子を読んだ時からだと推測している。もう読み返すことすらできないけれど、春生から受け取った直後に読んだ文章の中には感情の篭った言葉をフキダシで見ることと、もう一つ、特定の言葉を認識できないようにされたんだ」

「うちもそぎゃんことだと思うんだけどな。でも、そげだったら天見さんや月森さんと会っても無駄な気がするに」

「どうして?」

「あんな、よー思い出してみ? 伊藤さんは呪いではない呪いっつーやつを掛けられとる。そこはわかっとーでしょ?」

「うん、特定の言葉を発声することができない。だから、僕は高橋さんに確認したんだ」

 声が出ないということもあるのなら、聞こえないということもあり得るのかと。

「やっぱ、勘違いしちょる。いーか? 井上さんは小冊子の呪いで聞こえなくなったんなら、それは天見さんたちが使っとる力では解決できんのだで」

 桜子ちゃんの指摘にされて、ようやく自分の勘違いに気づいた。円城了の呪いもどきと山本和博が小冊子に施した呪いとは別物なんだ。

「だけん、天見さんたちにこの話をしても、山本和博っつー人が使った呪いは解けんってことだわ」

「結局、三冊目の小冊子を読まないと駄目なのか」

 伊藤さんが言葉を発せられない事と、自分が特定の言葉を聴くことが出来ないということを同一視してしまったことが勘違いの原因だ。混乱していたからまともに考えることが出来なかったとはいえ、安直な答えを出したものだ。

 失敗の理由を自己完結させると、新たな疑問も生まれた。

 山本和博という呪術師は、フキダシが見える、感情を読み取れるという呪いの他に円城了の正体とも言える言葉までも聞こえないようにさせたのか、その理由だ。

 しこりのようなものが頭に張り付く。またどこかでボタンの掛け違いをしていると。僕が円城了について聞こえないという呪いは本来であれば知ることがなかったと考え直す。

 高橋さんが居たから偶然にも知ってしまったもう一つの呪い。

 さらに考える。

 聞こえなかった『それ』は円城了の正体ではなく、呪術以外の能力を指しているに違いない。天見風鈴と月森小町を語った時も聞こえなかったのだから。

その能力を僕が知ってはいけない理由だと思考を推移するも考えるための素材が、またもや足りなくてここで打ち止めとなる。

「また考え事しとらいたでしょ?」

「あ、ごめん」

「謝らんでいいよ。てかな、井上さんは謝りすぎだで。好きなだけ考えればいいがね。うちはね、そぎゃん風に考えこんじょる井上さんを見るのが好きだで」

 その言葉はフキダシとなって僕に届いたけれど、彼女の言葉通りの感情が込められていた。聴くだけでも照れてしまうのに感情までも伝わってしまうと、顔も体も緩んでしまう。

「ありがとう」

 それ以上の言葉も伝えたかったけれど、生憎と彼女からの許可が下りていない。僕の本心を伝えてもいいという許可だ。

 これが、いい呼び水になったのか、僕らは小冊子のことも、呪いのことも、全部忘れて普通のありきたりな世間話をすることになった。

 桜子ちゃんには柔道や兄の春生から吹きこまれた神話などの雑学以外に知っていることや、好きなことなど。

 僕は小説という孤独な世界に没頭する以前、何を楽しみにしていて生活をしてきたのか。年の差があるから見てきて物や、価値観は違うところはあったのだけれど、その違いすらも僕らは楽しむことが出来た。

 僕らの手元にあったラッテマキアートとソイラテはとっくの昔に底をついていたけれど、会話の底は付きなかった。

 二人だけの時間を断ち切ったのは、桜子ちゃんの携帯電話に届いたメールの着信音だった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

友人来訪 その十 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


明日も投稿を予定しています。

よろしくお願いします。

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