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禁書読書  作者: アサクラ サトシ
第二章 友人来訪
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友人来訪 その八

友人来訪 その八 です。


よろしくお願いします。

 伊藤さんの背中を追いながら代々木公園の原宿門を通り過ぎて徒歩五分。辿り着いた場所は神宮橋だった。

 行き交う人のほとんどが十代から二十代といった若い人ばかりで、学校帰りの小学生の姿もあった。こんな人の多い場所にオルゴールのパーツであるドラムを隠しているのも意外性がある。ただ、橋と言ってもこの神宮橋の渡りは短く幅も広くないし、一見しても何かが隠されているような物体は見当たらない。

 オルゴールのドラムなのだから、雨ざらしすることもないので箱にでも収めているとは思うけれども、そんな物が橋の上ないし見えるような所に置かれていたら清掃している人に回収されるだろう。

 一方で、案内をしてくれた伊藤さんは荷物を地面に置いて三味線を取り出そうとしている。

「なにをしているんですか?」

 原宿で浴衣姿に狐の面を付けているのだから注目を浴びているのも、気にせず伊藤さんは三味線を肩から下げた。個性的なファッションとして捉えたら、いかにも原宿らしい服装かもしれないけれど、僕には人の服装を評価する知識とセンスがない。

「あたしはてっきりこの仕業を目にした時は魔法の類だと思っていたんだ。まさか、呪いだったとはね」

「あの、なんの話ですか」

「口で説明するよりも見せたほうが早い」

そう言い切って伊藤さんは右手に持っていた撥で三味線を弾きだした。

 心の準備もなく演奏が始まる。三味線が奏でる音が神宮橋を支配していく。

 代々木公園で聴いていた曲目よりも優しくて聴きやすい。でも、先ほど聴いていた音とは感じ方が段違いだった。前の演奏が個人対個人にだとしたら、いま聴かされている曲は人ではないもっと別な何かに向けられた感覚だった。上手く言い表せられないのは僕の語彙力が無いせいかもしれないが、いま伊藤さんが弾いている曲は人ではないものに向けられている。

 演奏が始まって周辺が変化していった。僕らの回りに大勢の聴衆する人が増えたのも変化の一つだが、別の意味で人を増やしていることがあった。

 僕らと伊藤さんとの間に蜃気楼のような歪みが生じていき、そこから塊のようなものが形成されていく。

 僕はその歪みに向けて手を広げた。歪みの中から出現するものこそが僕が求めていたものだと気づいたからだ。

 歪みから生まれた塊が完全なドラムを形成し僕の掌へと落下する。

 同時に割れんばかりの拍手が起こった。観衆たちは予想以上の人だかりをつくっていて、神宮橋の上には見渡す限り黒い人だかりだった。

「道を開けろ!」

 伊藤さんが拍手に負けないくらいの声を張り上げると、打ち合わせをしたかのように聴衆たちの拍手はピタリとやんで、彼女の前に一本の道を作り上げた。

「逃げるぞ。荷物頼んだ」

 僕の耳元で囁いてすぐ伊藤さんは三味線を手にしたまま駆け出した。僕は言われた通り、伊藤さんの荷物を持ってここへ訪れた時と同じように彼女の背中を追った。僕に続いて桜子ちゃんと高橋さんも伊藤さんを追いかける。

 当然とはいえ悔しいのは、僕のほうが早く走りだしたのに桜子ちゃんと高橋さんはあっという間に伊藤さんと肩を並べて走っていた。僕はというと距離が縮まるどころか話されていくだけだった。

 全速力で明治通りを渋谷方面に走る僕らは、それはもう注目の的だった。テレビドラマの撮影と思われてもしかたがないくらいの走りっぷりなのだから。

 曲がり角に差し掛かり、歩道橋の真下に出て三人を見失う。右に曲がれば代々木方面だけれど、どう見ても見当たらない。僕は嘘だろと思いながら歩道橋を見上げると、三人はどういう階段の登り方をしたのかわからないが、歩道橋のちょうど真ん中で腰を屈めていた。

 すでに僕の両膝は笑っていたので一段ずつ無理をせずに階段を昇る。歩道橋の上で涼しい顔をしているのはさすがは柔道をしていた桜子ちゃんの息はそこまで乱れていない。高橋さんは疲労感こそ見えるが笑みがあった。伊藤さんは、狐の面を付けたままなので表情こそ分からないが、肩で息をしているのがわかる。

 ようやく三人の元へたどり着いた僕はその場に座り込んでしまった。

「運動不足だな。今のうちに鍛えておけ。まぁ、あたしの荷物も持っていたから仕方ないかな」

 ありがとなと伊藤さんが礼を言って自分の荷物を引き取ってくれた。

 僕は激しい動悸を抑えるのが必死でなにも言えない。その代わりに、桜子ちゃんが僕の言いたいことを代弁してくれた。

「さっきのはいったい何だで? あんたも呪術師つーやつかいな」

「呪術師のくせに呪いを掛けられていたら間抜けだ。あたしは普通の人だ」

「本当ですか?」

 息切れをしながら高橋さんが発した言葉はフキダシとなった。どうやら伊藤さんに疑いを持っているらしい。それも当然だ、あんな物をみせられたら普通なんて言われても信じられるわけがない。

「ごめん、間違えた。素顔は美人だ」

 桜子ちゃんが鼻で笑う。

「外見に自信がないけん、しゃんもんずっと被っとーに決まっとーわ」

「馬鹿め。あたしはすっぴん美人と言われるほどだぞ」

 伊藤さんが狐のお面を外して素顔を晒して、僕らは息を飲んだ。化粧こそされていないが、色白で長い鼻筋に、愛嬌のある目つき。輪郭もスッとしている。誰がなんと言おうと、美人と言われる人のお顔だった。

「よし、いいリアクションだ。性格ブスと言われているが、顔だけはいいんだよ」

 自分で自分のことを綺麗だと自覚している女性か。これは、桜子ちゃんが嫌いなタイプだったな。露骨に嫌な顔をしないでくれるといいけどと。

「伊藤さん、ごめん。負けました」

 あ、自分の失言を認めて謝った。

「そうだろー。でも、顔だけで近寄ってくる男なんて相手にしないけどな」

「もしかして、それもあってお面を付けているとか?」

 高橋さんが狐の面を指さす。

「それもあるけどさ。やっぱヴィジュアルって重要だろ。狐の面を被って三味線弾いていたら注目されんじゃん。普通に弾いたって面白く無いからな。表現者は楽しませてなんぼだ」

 唇の両端を上げてニィっと笑った伊藤さんは、本当に綺麗だった。

「というか、お面とって良かったんですか?」

 息が整いようやく言葉を発することが出来た。

「もう演奏もしないし、狐のあたしは終わりだ。いまからはただの伊藤秋野だ」

 元の人間に戻りました宣言を受けた僕らは声を出さずに「はぁ」と感嘆しながら頷いた。手前勝手にする人だけど、憎めないのはやっぱりこの人の持つ人柄だなというところで落ちつける。

「てか、すげー話が反れたな。あたしは呪術師じゃない。それを隠したのはあたしじゃなくて、二人組の片割れだって、これは聞こえるのか?」

 聞こえますと僕ら三人が各々答える。

「でも、二人組って」

 僕のふとでた疑問に伊藤さんは焦るなと一蹴させた。

「優太が持っているドラムを隠したのは――――の奴だ。ん? 聞こえないのか。容姿が駄目なんだな。もういいや、聞こえなくても話を続けるぞ。そいつは手の平にドラムを載せたまま、あたしに『このドラムを隠すイメージで三味線を弾け』といったから言われる通りに弾いた」

「――――の応用かな」

 高橋さんがボソリと呟くも、僕の耳には届いていない。

「――――というのも呪いの一種だったと聴いたことがあるぞ。呪術ととの違いはなんだ?」

 伊藤さんが感心しながら高橋さんが呟いたと思われる言葉を復唱した。これで確定だ。僕にだけ特定の言葉が聞こえないようになっている。

「私はそちらの専門ではないですから詳しくは言えません。でも、大分類としては呪いで正しいです」

「色んなことができんだな。――――って」

 こうも聞こえない言葉を連発されると気が変になりそうだ。僕は話題の方向を転化させるため鞄からオルゴールを取り出して、三人の注目を集めた。

「ドラムを隠した二人のことは気になるけれど、僕らの目的はこっちだからね」

 三人の返答を待たずに僕はオルゴールの蓋を開けてドラムをオルゴールの定位置にはめ込んでみる。

「そのオルゴールがなんだって言うんだ?」

 こちらの事情を全く知らない伊藤さんに掻い摘んで説明した。

「優太も物好きだな。なんでまたそんな面倒な本を読んだりしたんだ?」

「ちょっと非日常に足を突っ込んでみたくなったんですよ」

「ふーん。まぁ、あたしの役目はこれで終わりだな。夕方まで時間があるからあたしはここでお暇するわ」

 すでに三味線や狐の面も片付けた伊藤さんが高橋さんと携帯番号を交換しあう。小冊子探しには興味を示さず、あとは自分の呪いを解いてもらうだけだと告げた。

「そっちはそっちでがんばれ」と捨て台詞を吐いて歩道橋から居なくなった。

 階段を降りていく伊藤さんを見送って僕らは顔を突き合わせた。

「ほんに身勝手な人だったな」

「あれくらいさっぱりした性格の人も珍しいけどね」

「こうしてオルゴールを渡すことができて肩の荷も降りたんだよ。それに、あの人が言ってた通り役目は終わったんだ」

 そういうもんなんかなーと桜子ちゃんは言ったが、そういうものなのだ。自分が関わっていい領域というのは必ずあって、必要以上に関わることなんてない。

 そろそろ無駄話もやめよう。

 僕は手にしていたオルゴールの蓋を締めてからドラムのネジを限界まで巻いて、桜子ちゃんに渡す。

 僕が藍染めの小冊子を手にすると、桜子ちゃんがゆっくりとオルゴールの蓋を開けてくれた。

 歩道橋下を走る車の騒音でオルゴールから流れ出るメロディがかき消されるかと思ったが無用の心配だった。か弱いけれども存在感のある独特の金属音が聞こえ始める。

 本当にこれで小冊子は開くのだろうか。

 硬く開かなかった小冊子に指が差し込まれ、ページを捲ることができた。

 時間は掛かったけれど、そしてまた変な人と出会ってしまったけれど、ようやく二冊目の小冊子を読むことができそうだ。

 歩道橋の上、十代の女の子たちに見守られながら、僕は二冊目の小冊子を読み始めた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

友人来訪 その八 は如何でしたでしょうか。


楽しんで貰えたのならうれしいです。


明日も投稿を予定しています。

よろしくお願いします。

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