一冊目
小冊子手記 白紙双紙 です。
よろしくお願いします。
やぁ。名も知らぬ読者殿。気分はどうかな、などと質問を投げかけても私には君の返事など聞こえないので意味はないな。
君に掛けた呪いについて教えることは一つもない。ただ君は私が用意した小冊子を集めて読むだけなのだ。君がどういう思いを持ってこの小冊子を手に入れたのか、そしてこの呪いを受け入れたのかなんて、私には微塵も興味がない。なぜなら、読者の君と作者の私と会話を交わすことが出来ないからだ。
もし私に会えたのなら、話をする場でも設けてあげよう。私に会えた所で、君の人生が大きく変わることはないがね。
それでは、物語を始めようじゃないか。
これは私がとある呪術師を追跡した話だ。創作ではない、実話だ。
では、順を追って語っていこう。
その日、私は行きつけの骨董店に入るため表参道近くにある骨董通りへと向かっていた。骨董通りと呼ばれているからといって、骨董屋が多いわけではない。
骨董店の行き方はやや複雑だ。私はいつも道順を間違えないよう行き道を口ずさみながら歩くことにしている。
西麻布方面を進行方向として右側の歩道を進んでいくと、右に曲がれる角があるので右折して直進。T字路に出たら左折して真っ直ぐ。蔦に覆われた洋館を気にしながら足は止めない。しばらく歩くとこの道は三又に道が分かれているのでここも左に曲がり元の骨董通りまで戻っていく。十路の交差点に出たら信号は必ず青になっているので白と黒のストライプを踏みながら渡り切る。
足を止める。正面のビルをしばらく眺めてから体を左に向けて再び直進して、地面に白と黒のストライプが見えたら右に曲がる。
突き当りに到着するまで、十、九、八、七、六、五、四、三、二、一。
ここで足を止めて左を向く。あと少し。
なるべく小さな歩幅で五歩ほど直進する。
体の向きを右に向けて私は呟く。
「まほろば骨董店の入り口はここだ」
これでようやく到着することが出来た。
オフィスビルの谷間に不似合いなモダンな店構えをした骨董店。創業は大正時代からと聞く。店名に反してお世辞にも素晴らしい場所とは思えない色あせた店だ。
勘違いしないで欲しい。店構えは素晴らしくなくとも、店内は素晴らしいといえる。
日本だけでなく諸外国から集められた珍しい逸品がこの店には揃えられている。
私は立て付けの悪いガラス戸を強引に開いて店内に入り込んだ。
乱雑に陳列された物々を掻い潜りまたは物色していく。今にして思えば、用のある店主の元へ真っ先に向かうはずが、どういうわけかこの日はそれが出来なかった。
骨董品独特の匂いに当てられながら、私は探していた。
私を呼び寄せている何かをだ。
散策していく中で、私は骨董品とは思えない長方形の木箱を見つけてこれだと呟いた。装飾も染色もされていないただの木箱を両手で持ち上げると予想していたよりも重い。木箱の底にある突起物に触れたので、覗きこんでみる。巻ネジが見える。
自鳴琴か。これは工場で作られたものではなく自作品だ。作りの甘さが素人目でもわかる。手作りなので製作者のサインか名前があると思って探してみたが見当たらない。
「なんだ、あんたか」
振り返ると店主がいた。年は私よりも十は上のはずだが、見た目だけで言うと私と同年代にしか見えない。
「客に対して何だとは、ご挨拶じゃないか。元気にしていたかい?」
「元気があろうともなかろうとも、こちらの生活は変わらないよ」
「それもそうだ。来て早々だが、一つ聞きたい。これをどこで仕入れてきた?」
「仕入れたんじゃない。買い取っただけだよ」
「呪いが掛けられていると知っていて?」
「なんせあの円城了が作った自鳴琴だからね」
その名を聞いて私は驚いた。私達が身をおく世界ではその名を知らない者などいないと言われるほどの有名人だ。
「円城了と名乗った者が本当にこれを? 買い物をするではなく、この呪術を施した物を売りにきたのかい? 理由が知りたいね」
「生憎と、売り手の都合もまたその理由も聞かないのがうちのやり方だよ」
そうだったな。私も過去にここで買い物をしたことがあったが曰くつきであればあるほど、店主は出処と元の持ち主の話しをしたことはなかった。
「ただ、向こうが勝手に独り言を呟いていた。そのオルゴールを売りに来た円城了は、あんたがそれを手にすると予言していたよ」
「面白い」
私は彼の、円城了と名乗った人物の思惑通り自鳴琴を手にしてしまった。これは運命という陳腐な言葉で片付けたりしない。この自鳴琴をここへ売りに来た円城了に失礼というものだ。
気に入った。これを制作した呪術師に会いたくなった私は店主から自鳴琴を購入して店を後にした。購入金額は伏せておこう。
私は買い物とは出会いだと思っている。非常に良い買い物ができた。やはりこの店が取り扱っている品物は素晴らしい。いつ来ても私の心を踊らせてくれる品がある。
名も知らぬ読者の君はなぜ呪術が施された自鳴琴を購入したのだと疑問を抱くはずだ。これは私に向けたメッセージでもあるのだ。それにだ。私もそれなりに呪術を扱える人間だ。これがどのような呪いが施されていて、呪いが発動する条件すらも容易く理解できる。
この自鳴琴はドラムのネジを回さなければ呪いは発動しない。この自鳴琴のドラムを回しメロディを聞いたものは激しい睡魔に襲われ、疑問を抱くことも出来ずに眠りに落ちてしまう。
自鳴琴としての役目を果たせないただの木箱に触れながら今後の予定を組み上げていく。かの有名な円城了は呪術の自鳴琴をこの私に渡すことで挑発してきたのだ。いいだろう。受けて立とうじゃないか。呪術を使い道具までも制作する円城了を追い詰めてやろうじゃないか。
場合によっては私の仲間にしてあげてもいい。いや、向こうがそれを望んでいるかもしれないがね。
ここまでが骨董店で起きた出来事だ。自鳴琴を手に入れた私は、どうやって円城了という呪術師を追い詰めるのか、それは次の小冊子に記すとしよう。
二冊目の小冊子はまほろば骨董店の店主に渡してある。住所も書いておくから参考にするといい。
では、名も知らぬ読者殿。
次の小冊子で。
まほろば骨董店 港区南青山五丁目七―☓☓
最後まで読んでいただきありがとうございます。
小冊子手記 白紙双紙 は如何でしたでしょうか。
楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。
先日の後書きでは、本日投稿できないと残しましたが、
なんとか間に合いました。
次回は新章です。
明日も投稿を予定しています。
よろしくお願いいたします。




