監獄
「おい」
祐介は呼びかけた。
「………」
ミケは応えない。祐介を無視して、ただ無表情で監獄の隅に座っている。
「返事くらいしろよ」
「………」
ミケは応えない。
祐介は舌打ちした。
この状況が、あと何時間続くのだろう。
あの「お知らせ」が予告した「世界終了」の時間まで、あと何時間あるのだろう。
そもそも「世界終了」とは、何がどうなる事をそう言っているのだろう。
何もわからない。その上、同じ監獄の中にいる、死んだ幼なじみにそっくりな女はだんまりを決め込んでいる。
もう限界だった。
祐介は立ち上がった。大股でミケの座っている所まで歩くと、若干うなだれた首根っこに手を伸ばした。
とりあえず何でもいい。反応させたかった。
しかしその時、祐介の目の前からミケの姿が消えた。手が空を切る。
「はっ?」
とぼけた声をあげた次の瞬間。
「ぐおぉっ!」
側方からものすごい力で突き飛ばされ、祐介の身体は反対側の壁まで吹っ飛んだ。
コンクリートの壁に背中を強打し、祐介はその場にくずおれた。
その姿を、ミケが冷たい目で睥睨していた。
「汚い手で触らないで」
相当怒っていた。
祐介はやっとの事で身を起こした。驚愕していた。ミケの異常なまでの筋力に。
「お、おかしい…」
普通の人間の女なら、こんなに強く突き飛ばせはしない。
それに、祐介に首根っこを掴まれそうになってとっさにかわした速度も異常だった。
「ミケ…君はいったい…」
「言ったでしょ?」
ミケは冷たく言い放った。
「私の名前は『H-0023』」
「だからそれは何なんだ?」
ミケは無表情のまま数秒沈黙した。
話そうかどうか迷っているのだと祐介にはわかった。
沈黙の後、ミケは表情を幾分緩めて口を開いた。
「…まあ、いいわ。どうせあなたは逃げられやしない」
ミケは鉄格子に歩み寄り、一本の格子に指をからめた。
「私はある科学者の手によって、人工的に作られた生き物よ」
嘘だろ。そう祐介は言おうとしてやめた。
テレビがジャックされ、同じ顔の集団に拉致され、男の身体が女の片腕に吹っ飛ばされる。
こんな異常な事ばかり起きているのだから、真相を知る為にはある程度常識を捨てた方がいいと祐介は思い始めていた。
「人工的にって言う事は…ロボットなのか?」
「ロボットじゃないわ…むしろ、クローンと言った方が近いわね」
「クローン?」
祐介はオウム返しする。
どうしてミケが秘密を明かす気になったのかわからないが、今はありがたく情報収集させてもらおう。
「私の身体には、機械やコンピュータの類は一切使われていないわ。全てが生身の身体組織からなっている」
ミケはそう言うと、その顔の皮膚を指でつまんで引っ張って見せた。
表情を変えずにそんな事をしている姿が滑稽で、祐介はすこし笑ってしまった。
ミケは指を離し、話を続けた。
「ただ、その科学者の人工人間制作プロジェクトにはひとつ問題があった。身体組織を人工的に培養出来たとしてもただ一つだけ、現代の科学力では絶対に作れないものがある」
「………」
祐介には結論が読めた気がした。
ミケが明美に似ている理由。それは…