同じ顔
目の前の光景を、祐介は嘘だと思った。
なぜならそこには、存在しないはずの人間が立っていたから。
すでに死んでいるはずの人間。
「明美ちゃん!キミは明美ちゃんだろ!」
祐介は大声で追求した。
露になった“迎えの者”の顔。
そこには明らかに、9歳で死んだ明美の面影が残っていたからだ。
もっとも、表面的な外見自体は少なくとも10代後半くらいまでは成長した姿だったが。
「………そうだ、お前たちも見せてやれ」
“迎えの者”が、淡々と仲間に命じた。
すると“迎えの者”の仲間たちは、被っていた帽子を一斉に取り去った。
「えっ…!」
祐介はさらに驚愕した。
「明美ちゃんが…何人も…?」
仲間たちは全員、“迎えの者”と同じ顔をしていた。
服屋のマネキンのように、一様に同じ顔。
何だ。何が起きている。
祐介は頭をかかえた。明らかに混乱していた。
「こいつを捕らえろ!」
“迎えの者”が命令すると、仲間たちが一斉に祐介に飛びかかった。
「おいやめろっ…一体どういう事だ!説明しろ!」
祐介は抵抗したが、多勢に無勢でほどなく取り押さえられた。
「キミは明美ちゃんじゃないのか!どうして皆同じ顔なんだ!」
「…うるさいから、叫ばないで」
“迎えの者”は祐介の服のポケットに手を入れて、さっき自分が渡した飴を取り出した。
そしてそれを、動けない祐介の口に無理やり突っ込んだ。
「んぐっ!」
「さっき素直に舐めていればよかったのに」
祐介の口の中に、あの時とおなじあまじょっぱい味が広がった。
という事は、今自分は泣いているのだろうか。
わからない。もう全身の感覚がなかった。
「舐めていれば…少なくとも危険はなかったのに…」
しばらくすると、祐介は意識が遠くなるのを感じた。
「ん………ん……」
“迎えの者”が祐介の顔をのぞきこんで何か言っているのがぼんやりと見えた。
グワングワンと脳内で音が反響するだけで、何を言っているのかさっぱりわからない。
そして、祐介の記憶は完全に途切れた。