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THE LAST SMILE  作者: 更木多秋一
Document1—夢—
2/8

世界終了のお知らせ

雪はやんでいた。時間は午前8時30分。祐介は歩いていた。

一歩一歩踏みしめる度に、積もった雪がきゅっきゅっと音をたてる。

例年雪が降ると、翌日にはもう道の端に雪をかき集めてできた山がちらほら見られたものだが、今日は雪かきをする人もいないようだった。

それもそうだろう。あんなとんでもない事が起きているのだから。


『明日午前0時00分をもって、この世界は終了致します。いままでありがとうございました』


今朝、午前4時に突如放送されたこのアナウンスは、今や5分おきに流れて全国のお茶の間をノイローゼに追い込みつつあった。

実際に全国のお茶の間に確認したわけではないが、近所に電話をかけまくった母親によればこの付近一帯のテレビで同じ事が起きているらしい上に、国営放送から全国ネットの民放までの全チャンネルがこの『世界終了アナウンス』にジャックされている事から祐介はそう判断した。

何か異常な現象が起きているとは思ったが、祐介はとりあえず両親を残して家を出発する事にした。

今日はセンター試験の本番だ。テレビがおかしくなったくらいで遅刻するわけにはいかない。そう思って駅に向かった祐介は、自分の考えが甘かった事に気付いた。

『原因不明の信号・踏切・電源トラブルにつき、全線で運行を見合わせております』

本来電車の発着を知らせるはずの電光掲示板に赤文字で表示された一文。

異常な現象は、公共交通機関にまでその影響を及ぼしていた。


そして、祐介は雪の積もる道を歩いている。

電車が動いていない事を知った祐介は、駅を出て受験会場まで歩いてみる事にしたのだった。

元々、余裕を持って行きたいから電車に乗ろうと思っただけで、歩いて行けない事もない距離だった。

祐介はその途中で、コートのポケットから出した携帯電話を開いた。

受験勉強の妨げになるので昨日まで滅多な事では開かないようにしていたが、このおかしな状況について情報を得るには最適なツールだと思ったからだ。

画面が表示された瞬間、祐介の目に飛び込んだのは大量のメール着信だった。それも同一の発信者から。

『発信者:KELVIN』

スパムかと思いながらメールを開いた祐介は、次の瞬間頭が痛くなった。

『明日午前0時00分をもって、この世界は終了致します。いままでありがとうございました』

テレビで放送されているアナウンスそのままの内容が、テキストで携帯電話に数分おきに配信されていた。


午前8時50分。受験会場のとある私立大学キャンパスに来てみると、既に閉鎖された門の前は動揺した受験生と思われる集団で混雑していた。

みな不安そうな顔をして忙しなく口を動かし、この状況に関して情報を交換し合っているようだった。

その中の一人が、祐介の姿を見つけて声を上げた。

「おい、祐介!」

それは、祐介と同じ高校に通う友人だった。

祐介は友人に近づき、軽く挨拶した。

「それにしてもすげー事になってんな」

「祐介のとこにも来たのか?『世界終了メール』」

「ああ、来た。お前のうちのテレビはどうよ?」

「やばいやばい。チャンネルどこ変えても『世界が終わります』しか言わねえんだもん。母ちゃんなんか気持ち悪いっつって寝込んじゃってさ。…でも」

「でも?」

「まだ無事な情報ツールは存在してるんだなこれが。一昔前の文明の利器ってやつ?」

「何だそれ」

友人は肩掛け鞄の中をまさぐり、機械のような物を取り出した。

「ラジオだよ。ネイティブ的発音ではレイディオウ、な」

おどけたように鼻で笑いながら、友人は携帯ラジオのアンテナを引っ張り出す。

なるほど、祐介が周囲を見回すと、何組かのグループが各々ラジオを囲んでいた。

友人が電源を入れると、スピーカーからノイズの混じったニュース音声が聞こえて来た。

『…本日早朝から全国で起きている原因不明の異常現象により、テレビやインターネットなどの情報インフラ、そして電車や信号などの交通インフラにも多大な影響が出ています。政府では今、緊急の閣僚会議を開いて対策本部の設置を含めた今後の対応について審議を行っている模様です』

「かなりやばい事になってないか?」

想像以上のスケールの大きさに、祐介は生唾を飲み込んだ。

「だから、やばいんだよ。ここまで影響が出るって事は、あと15時間で世界が終わるっていうのもまるっきり嘘じゃないのかもって気もするし」

「それ、どういう意味だよ」

『いま当局に入っている情報によりますと、この異常現象の影響による交通インフラ障害がもとで、既に数件の車両事故が発生しております。これから外出される方は、できるだけ自動車の利用を避けて見通しの効く道を選んで移動して下さい』

「…な?既にヒトにもモノにも実害が出てる。これで影響がさらにエスカレートしたら、マジに人が死にかねないぞ」

『なお、本日は大学入試センター試験が行われる予定でしたが、先ほど、試験の実施を延期すると大学入試センターから正式に発表がありました』

「ふーっ、やっぱり今日はナシか」

友人は気が抜けたようにため息をついた。

周囲のグループからも、緊張の糸が切れたのが伝わって来た。

祐介は黙って空を仰いだ。

つい数時間前まで、まさかこんな事になるとは思いもしなかった。

これから一体、どうすればいいのだろう。

その時、友人が悲鳴をあげた。

「おい嘘だろ!?お前もかよレイディオー!」

次の瞬間友人の手の中でラジオがガガガッと妙な音をたてて…


『明日午前0時00分をもって、この世界は終了致します。いままでありがとうございました』


もう聞きたくなかったメッセージが、再び祐介の鼓膜を揺らした。

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