【後編】「お姉様はいつも私の邪魔をしていましたわ!」と言われて婚約破棄されたので、私の真の力をお見せしますわ!〜陰ながら聖女である妹を支え続けた結果、断罪の場で正体が発覚しました!?〜
「聖女クロエ様........あなたは、教会の運営資金を不正に横領した疑いがございます」
大聖堂の評議会に集まった神官たちの前でそう告発したのは、隣国から派遣されてきた使者オズワルドだった。物腰は柔らかいが、その目の奥には妙な打算が見え隠れしている。
「あら、随分と大それた濡れ衣ですこと」
わたくしが涼しい顔で応じると、オズワルド殿は懐から書類を取り出した。
「証拠はこちらに。運営資金の帳簿と、クロエ様の私的な支出記録、金額に不審な一致がございます」
差し出された書類を一瞥して、わたくしは思わず苦笑した。
「あら、この帳簿、随分と都合よく数字が並んでおりますこと。ちなみにオズワルド殿、この書類はどちらで入手なさいましたの?」
「そ、それは教会内の協力者から――」
「協力者、ですって? 教会の内部資料を、他国の使者に横流しする協力者がいらっしゃるとは.......それこそ問題ですわね」
痛いところを突かれたらしいオズワルド殿は、明らかに動揺していた。
「わ、私はただ、正義感から告発を――」
「正義感がおありなら、まずご自分の情報源の正当性を疑うべきかと存じますけれど?」
淡々とした切り返しに対し、周囲の神官たちの間からも疑わしげな視線が、話の切り出しも早々にオズワルド殿へと向けられ始めていた。
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「クロエ様、大事はございませんか」
背後から静かに歩み寄ってきたのは、護衛のガイウスだった。剣の柄に手をかけたまま、油断なく周囲を警戒している。
「ええ、ガイウス。それより、この茶番.......そろそろ真相を明らかにいたしましょうか」
「茶番、とは聞き捨てなりませんな.....?」
オズワルド殿が眉を上げる。わたくしは静かに彼を見据えた。
「あら、これは失礼いたしました。あまりにもちゃっちい台本でしたので茶番なのかと」
「うっ......し、しかし......!」
「では茶番ではないと仰るなら、この帳簿の筆跡、鑑定させていただいてもよろしいかしら。わたくしの筆跡とは、微妙に癖が異なっておりますけれど」
「なっ……!?」
「それに、支出記録の日付......わたくしが公務で王都を離れていた日と重なっておりますの。不在中にどうやって帳簿を記帳したと仰るおつもりかしら」
冷静沈着と次々に指摘していく私に、オズワルド殿は言葉を失った。周囲の神官たちからも、ざわめきが広がり始める。
「だ、だが、帳簿の内容自体が事実であることに変わりはないだろ......!? 違うか......!? これが事実ならばーー」
「事実かどうかは、正式な監査を経てから申し上げるべきことですわね。それとも、監査を経ずとも確信できるほど、事前に内容をご存知でしたの?」
矢継ぎ早の追及に、オズワルド殿の額に汗が滲み始めた。
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「そ、それは、その、記帳の日付を間違えただけで――」
「間違えた、ですって? 教会の正式な帳簿の日付を、間違えるとは随分と杜撰なお仕事ですこと。それとも、最初から捏造だったから、辻褄が合わなかったのかしら」
畳みかけるような追及に、オズワルド殿はとうとう反論の材料を失った。
「実のところ、王都の商人筋から興味深い話を伺っておりますの。オズワルド殿の母国が、優秀な聖女を自国に引き抜くため、あらゆる手段を検討していると」
「な、なぜそれを……!?」
「あら、ご自分で認めてくださるとは、随分と親切でいらっしゃること」
にっこりと微笑むわたくしに、オズワルド殿はしまった、という顔と共に完全に言葉を失った。
「聖女様を失脚させ、後ろ盾を失わせた上で、我が国への移籍を持ちかけるつもりだったのだろう」
静かに割り込んできたのはガイウスだった。剣を鞘に収めたまま、鋭い視線でオズワルド殿を見据えている。
「教会の不正を捏造してまで、他国の聖女を引き抜こうとするとは、外交儀礼としても甚だ不作法だ」
「そ、それは……」
「証拠は既に揃っている。母国への報告と併せて、正式に抗議させてもらう」
「ま、待ってくれ、これは私個人の判断で――」
「個人の判断で他国の聖女を陥れようとする使者を、母国が野放しにするとは思えないが?」
私と同様に淡々と告げるガイウスの言葉に、オズワルド殿はがっくりと肩を落とした。周囲の神官たちからも、冷ややかな視線が一斉に注がれる。
「――お見事な連携でしたわね、ガイウス」
「クロエ様の推理があってこそです。私はただ、後ろで睨みを利かせていただけですので」
謙遜する様子に、わたくしは思わず笑みをこぼした。
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「――というわけで.......今回の騒動、無事に解決いたしましたわね」
評議会が終わった後、大聖堂の庭園でわたくしは小さく息をついた。
「クロエ様の機転がなければ、危ういところでした」
「あら、ガイウスの牽制があったからこそですわ。剣を握っただけで随分と説得力が違いますもの」
軽口を叩き合いながらも、わたくしはふと、この数ヶ月の出来事を思い返していた。断罪から始まり、聖女としての新たな人生、そしてこの騒動――思えば、随分と賑やかな日々だった。
「.......クロエ様」
改まった声音に、わたくしは振り返った。ガイウスは珍しく緊張した面持ちで、こちらをまっすぐ見つめている。
「今回の一件で、改めて確信いたしました。私は、クロエ様の隣にいる時が、何よりも自分らしくいられると」
「あら、随分と唐突でいらっしゃること」
「唐突ついでに申し上げます。聖女としてでも、令嬢としてでもなく、クロエ様ご自身を.......“生涯”お守りしたいと思っております」
ガイウスの飾らない言葉に、わたくしはしばらく声が出なかった。柄にもなく胸の奥が温かくなるのを感じる。
「それは.......求婚のおつもりかしら......?」
「――はい。まだ婚約者としての資格はございませんが、いずれ正式にそう申し上げられる日を目指しております」
「随分と気の長いお話ですこと。もっとも、性急な殿方より、そのくらい慎重な方がわたくしの好みではございますけれど」
「では、望みはあると受け取ってよろしいでしょうか.....?」
「さあ、それはこれからの働き次第ですわね」
からかうように返すと、ガイウスは真剣な顔のまま深く頷いた。
「では、これからも全力でお仕えいたします」
「生真面目すぎるところも、少し肩の力を抜いていただけると助かりますけれど」
生真面目な回答に、わたくしはとうとう笑ってしまった。
「あら、随分と気の長いお話ですこと。ですが、その実直さ、嫌いではございませんわよ」
「......っ、身に余るほどのお言葉です」
「まずは、婚約者候補として、傍にいることをお許しいたしますわ。殿方の誠意は時間をかけて見極めるものですしね?」
「――光栄でございます」
深く頭を下げるガイウスの様子に、わたくしは小さく笑みをこぼした。断罪される悪役令嬢のはずが、聖女となり、こうして誠実な騎士に見初められる未来まで手に入れるとは、前世の自分に教えてやりたい気分である。
「ちなみに、婚約者候補としての第一の務めは何かしら?」
「クロエ様のお望みとあらば、何なりと」
「では、次の陰謀が起きた時も、今日のようにきちんと隣で睨みを利かせてくださいませ。それが、当面の合格条件ですわ」
「承知いたしました。何度でも、喜んで」
大真面目に頷くガイウスに、わたくしはとうとう声を立てて笑った。
「さて、次はどのような騒動が待っているかしら」
「今度こそ、平穏な日々を、と申し上げたいところですが」
「あら、平穏な日々を望むには、わたくし、少々騒動を呼び込みやすい体質のようですわね」
そんなことを私が呟いていた刹那、ふと、ガイウスが一歩だけ距離を縮めた。
「……クロエ様」
「何ですの――」
問いかけが最後まで紡がれるよりも早く、額へそっと優しい口づけが落とされる。
「……っ!?」
何が起きたのか理解した瞬間、頬に熱が一気に集まった。
「クロエ様でもそのようなお顔もなさるのですね」
珍しく口元を緩めるガイウスに、わたくしは思わず視線を逸らす。
「な、何を笑っておりますの……!!!」
「これは失礼しました.......ただ、少し可愛らしいと思ってしまいまして」
その一言が決定打だった。
耳まで真っ赤になったわたくしは、小さく唇を尖らせる。
「……バカ」
そのか細い一言に、ガイウスは穏やかに目を細めた。
笑い合う二人の頭上に大聖堂の鐘は、まるで二人の未来を祝福するように、静かに響き続けていた。断罪から始まった物語は、こうして、静かな幸せの予兆を残して幕を閉じたのである。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
このシリーズは、断罪される悪役令嬢だったはずのクロエが、実は本物の聖女であり、長年妹を陰で支え続けていたという真実が明らかになるところから始まりました。全3編を通して、妹への複雑な想い、元婚約者への痛快な返り討ち、そして誠実な騎士との出会いまで、駆け足ながら書き切ることができて嬉しく思います!
もし少しでも楽しんでいただけましたら、評価ポイントとブックマークをいただけると、これほど嬉しいことはありません!!!
「ガイウスとクロエ、お似合いだった」「シリーズ通して面白かった」など、感想コメントもお待ちしております!
このシリーズはこれで完結となりますが、他にも悪徳令嬢もののシリーズを書いておりますので、よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また別のお話でお会いしましょう!




