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犯人はいつもお前だ!!!

作者: りつりん
掲載日:2026/05/27

「この中に犯人がいます。そして、その犯人は九重史郎というやつです。ええ、わかってます。皆さんの中に、そんな奴がいないということは。そう、つまり、そいつは別人に成りすましているのです。……え? なんでわかるかって? それはね、その九重って奴が私のストーカーで、毎度毎度、探偵である私を呼び寄せるために事件を起こすからだよ! こんちくしょう!」

 私は叫んだ。

 季節は夏に入りかけた五月の下旬。

 町一番の金持ちである四宮家に泥棒が入ったとの報を受け、出向いた豪邸の中で私はこれでもかと声を張り上げた。

 今回の事件の犯人は九重。

 初手で、というか、私の事務所に連絡が来た時点で九重って奴が犯人だってことはわかっている。

 じゃあ、何しに私がここに来たかって?

 それは九重を見つけ出すため。

 もう皆それわかり切っていて、私に電話してきた刑事も『んふふ、九重またやりましたよ』なんて含み笑いしてやがった。

 なんなん? 

 なんなんこれ?

 私は数年前まで、町一番の探偵で、いくつもの難事件を解決してきたのに、今は九重の事件ばっかり相手にしてる。

 しかも、九重の起こす事件は泥棒とかそんなんばっか。

 私はもっとトリックが幾重にも張り巡らされた難事件を解決したいんよ!

 させてよ!

 でも、そうもいかんのもわかってる!

 九重の絡む事件、絶対に私が来ないと解決しない。

 絶対、九重、私が来るまで正体を明かさないし、そうなると警察も容疑者を事件のあった屋敷とかから出そうとしない。

 もっと柔軟に対応しよ?

 どんな権限でそこまで拘束するのさ。

 まあ、それはもう今さら仕方ないとして。

 一回、九重が起こした町はずれの洋館でのトイレットペーパー盗難事件を放っておいたことあるけど、一か月経ってもあいつ、正体明かさなかったからな!

 みんなあいつの粘り強さにビビってたからな!

 めんどい!

 でも、私に正体を見透かされると素直に『はい。僕が犯人でした』って証拠雁首揃えて警察に差し出すんよ!

 あいつが捕まるたびに私は刑期長くしろって言ってんのに、なんか知らんけど、長くても一週間くらいで出てくる。

 そんでもって、また事件起こす。

 そんなことを数年、繰り返してきたせいで、私が絡む事件は『九重ラブランデブー事件』と称され、ワイドナショーのネタとして消費されるばかり。

 本当にふざけんなよ。

 と、そうは言いつつも、探偵として呼ばれたからには解決しないわけにはいかない。

 私は探偵として、容疑者一人一人に丁寧に話を聞いて回った。

 そんでもって二時間後。

 くあ!

 今回もわからん! 

 話を聞いたけど、どいつも九重感ないすわ!

 皆が皆、本人っぽい!

 九重の奴、またうまく変装してる!

 え? 

 九重だけを見つけ出せばいいなら本人確認を丁寧に行えばいいのではって?

 九重が変身してるだけなら、ボロが出るだろって?

 わかってるよ!

 でも無理!

 一度、戸籍謄本とかマイナンバーカードとか、そう言うので本人確認行ったことあるけどさ、九重の奴、そのレベルまで完全に擬態してくるんだわ。

 しかも、そのほかも完璧なんだわ。

 なんで、他人の妻からプレゼントされたネックレス持ってるん?

 なんで、他人の両親の経歴事細かに知ってるん?

 なんで、他人の上司の癖とか知ってるん?

 え、協力してる?

 擬態された人、九重に協力してる?

 逮捕案件ぞ?

 マジで。

 で、もう、どうしようもなくて早期解決(九重発見)のために家族に会わせたりとかしたこともあるけど、家族でも見抜けんかったからね!

 家族頑張れよ!

 自分たちが見抜けないくせに『探偵さん、今回も九重当ててくださいね』じゃねえよ!

 自分の家族が容疑者なってんだぞ! 

 本気度が足りないんじゃないかな!?

 こっちは探偵したいんだよ!

 九重当てゲームしたいんじゃないんだよ!

 事件の解決法が探偵じゃないんよ!

 ただの間違い探しなんよもはや!

 九重の事件ばっかり担当しちゃうから、全国名探偵ランキングで一時期トップ10に入ってたのに、今はランク外だし、なんなら、私のために全国ラブ探偵ランキングってのが創設されて、そこに私だけ放り込まれてずっと一位!

 私しかいないからね!

 地獄!

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

 とにかく!

 何とかして私が九重にたどり着かないと終わんないの!

 本当に質が悪い!

 しんどい!

 しんどいんすわ! 

 なんでストーカーである九重をストーカーされてる私が探さなあかんの?

 逆じゃない?

 私が探され、追い詰められる立場じゃないん?

 で、解決したら解決したで九重、言うんすわ!

『今回も、僕とあなたの愛が証明されましたね』って!

 ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

 思い出しただけでゲボ吐く!

 ダボが!

 でもやらんといかん!

 じっちゃんは知らんけど、私のプライドが許さん!

 というわけで、実況見分とかその他諸々丁寧にやってみた。

 そんでもってさらに数時間後。

「わかるかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 証拠なんもない!

 九重に繋がる証拠なんもない!

 残せよ! 

 なんとか残せよ!

 指紋でも毛でも唾液でもなんでもいいからさ!

 今回も泊り確定じゃん!

 もう日、沈んでんだもん!

 いや、別に泊まらなくてもいいけど、依頼者の富豪爺さんが『探偵さんのお部屋も容易してますんで』って言うんだもん! 

 帰りづらいじゃん!

 依頼者からの親切って、一番断りづらいやつじゃん!

 いや、もう被害届取り下げようよ!

 盗まれたのボールペンじゃん!

 しかも、なんかこうハイブランド的なものでもない、その辺に売ってるやつじゃん!

 滑らかな書き心地が約束された大量生産品じゃん!

 『妻の形見なので九重から取り返してほしいんです』って言ってたけどさ、その横に妻、いたからな!

 妻も笑ってたからな!

 なんだよ! 

 九重も九重だよ!

 もっと凄惨な事件とか起こせよ!

 解決しがいのある事件、持ってこいよ!

 って、前に直接九重に行ったら『あなたの関わる事件であなたに傷ついてほしくないんです』って言われた。

 ごめんね! 

 名探偵のくせに血とかグロとかそういうの苦手で気を使わせてごめんね!

 気づいてたんだね!

 殺人事件で私がずっと薄目で捜査とか推理してたこと!

 犯人が気を使う名探偵って、前代未聞過ぎて最初みんなびっくりしてた!

 情けない名探偵でごめんね!

 それは置いておいて!

 容疑者たちもノリノリで『この部屋で一晩過ごしましょう』『その方が安全ですね』『ふん! 俺は一人で寝るからな! 部屋、案内しろよそこのメイド!』『おい! それはマズいって』とかやり取りしてんじゃねえよ! 

 別に殺人事件じゃないからね!

 あとわかってっからな!

 お前らがこっちチラチラ見ながら『えー、今回はどんな感じで九重見つかるかな?』『探偵さん、大変そー』とか言って笑ってんの!

 帰るぞ!

 探偵帰っちゃうぞこら!

 私が本気出したら、この茶番からいつまでも抜け出せなくすることもできるんだからな!

 

 翌日。

 朝、金持ちの家に相応しい豪勢な食事ありつけた。

 これは好き。

 九重、私の趣味を理解しているせいか、私の好きな料理とかを提供してくれる豪邸狙ってくれる。

 事件起こされる側もそれ理解していて、私の好きな料理をふんだんに出してくれる。

 これは感謝してる。

 他人の金で食う食事は旨い。

 それはさておき、九重探し、じゃない、事件を解決しなければ。

 名探偵として。


 さらに数日後。

「いい加減、解決させろよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 叫んだ。

 喉張り裂けてもいい。

 そんな勢いで叫んだ。

 もう無理!

 全然九重見つかんない!

 いつもはもうちょい解決に繋がる何かしら残してくれるじゃん!

 今回なんもない!

 九重見つかんなさ過ぎて、推理関係なくシンプルに容疑者全員にビンタしたくなってきた。

 あいつなら私にビンタされて喜ぶはず。

 いいや駄目だ!

 名探偵、そんなことしない!

 めっ!

 名探偵な私、めっ!

 頑張れ!

 名探偵な私頑張れ!


 そこからさらに数日後。

「帰して! 私を家に帰してええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 発狂寸前。

 何をどうやっても九重が誰かわかんない。

 いつもはもうちょい手心加えてくれるじゃん?

 私が九重見つけられないって焦ると、少し九重感出してくれるじゃん?

 なんなん?

 私への愛、冷めちゃったの?

 いつまでも九重の想いに応えない私を苦しめたくなったの?

 なんかもう泣きたい。

 無理。 

 でも、逃げられない。

 見つけないと事件終わらないし。

 終わらないと警察も帰らせてくれないし。

 なんの異能だよ。

 怖すぎんだろこれ。

 なんて、ぶちぶち考えてると、容疑者の一人がそっと私の肩を叩き、とある方向を指差した。

「ん?」

 そこには、なんだか賑やかな飾り付けがされていた。

 九重を見つけることばかりに囚われていたけど、部屋全体を改めて見ると、なんだかやたらとハートをあしらった飾り付けがされていた。

「なにこれ?」

 意味が分からず、私はフリーズする。

「え、もしかしてあなたが九重?」

 困り果てた私にようやく九重が救いの手を差し伸べてきたのだろうか?

 そう思って容疑者を見つめると、フルフルと首を横に振り、そのまま部屋を出て行ってしまった。

「んぐうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!」

 自分でもビックリした。

 すっごい低い声出た。


 さらに数日後。

「名探偵の私に解明できない謎はない! 今日の朝ごはんは蜂蜜たっぷりのパンケーキだ!」

 ビシッと朝ごはんの乗った長テーブルを指差す私。

「やった当たった! さすが名探偵!」

 朝ごはんが当たったことが嬉しくて、私はその場で飛び跳ねる。

 テーブルを囲む容疑者たちも笑顔で拍手を送ってくれる。

 うふふ、さすが名探偵な私。

 私! 

 名探偵!

 私、名探偵!

 むぐうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああメンタル爆裂爆散寸前!!!!!!!!

 誰か、私を〇して。

 もう無理。

 ほんとになんなん?

 九重なんなん?

 容疑者の奴らもなんなん?

 お前ら仕事ないんか?

 もうかれこれ二週間近く閉じ込められてるけど、仕事大丈夫なんか?

 もしかして、これ、陪審員制度的なやつ?

 知らんけど。

 私はこれが仕事だけど、もう無理よ?

 有給とか取りたい。

 自営業の私にそんなのないけど取りたい。

 取らせてくださいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!

 あと、なんかハートの飾りつけとか徐々に増えて来てて、目がちかちかする!

 ショッキングピンクが視界に多いとしんどいのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 誰が増やしてるの?

 寝て起きると増えてる。

 怖い。

 意図が掴めないよぉ……。

 そんな限界な私の肩を、再び容疑者の一人が叩く。

 前回と同様、どっか指差してるのでそちらを見ると、さっきまではなかったはずの垂れ幕下がってた。

「んあ? 名探偵さん、誕生日おめでとう? おめでとう?」

 そこには、私の誕生日を祝いますよ的なメッセージが載っていた。

 私が垂れ幕を認識すると同時に、容疑者の一人がぶるぶると震えだし、パカリと頭頂部が割れて、そこから九重が飛び出してきた。

 手には大きな薔薇の花束。

 いや、どこに格納してたよそれ。

「やっと、やっと会えた……」

 なんかもう全てが意味わからんけど、ようやく九重が現れたことで私は安堵し、腰が砕けてしまう。

 そんな私にそっと近づき、九重は体を支えてくれた。

 こちらを微かにも傷つけたくない。

 そんな気持ちが伝わってくるソフトタッチにめちゃくちゃイラついた。

 てめえのせいで、こっちのメンタルはズタズタだからな。

 そんな気持ちを乗せて睨みつけると、九重は微笑みながらこちらにこれまでの経緯を説明し始めた。

「なになに? 今回の事件は私の誕生日に向けて起こした? 普段は事件起こして一緒の時間過ごして終わりだけど、今回は事件を通して徐々に名探偵さんに誕生日気分を感じてほしかった? ああ、なんか徐々にハート増えてたのはそのせいだったのか。いや、事件中に誕生日へのカウントダウン的なアレコレが始まってるなんて思わんだろ。ふざけんな。……あ! もしかして、私の泊ってた部屋に日に日に知らない服とか靴が増えてたのも九重からのプレゼント的な? え? それは知らない? え、こわっ」

 と言うわけで、九重は駆け付けた刑事に逮捕された。

 自分の手柄じゃないのに、自分の手柄のように振舞う刑事にシンプルに腹が立った。

 今度会った時はてめえの命日だ。

 ただまあ、私はようやく解放されたことでそんな些細なことはどうでもよくて、とにかく家のベッドで寝たいなという気持ち一択。

 誕生日だけど、もうそれもどうでもいい。

 しかし、九重が連行されるというタイミングで、メイドさんが部屋に飛び込んできた。

 どうやら何かあったらしい。

 聞き耳を立ててると、どうやら屋敷の爺さんの部屋に飾ってあった、国宝級の絵画が誰かしらに盗まれたとのこと。

 ……もしかして、九重?

 誕プレとしての事件起こしてくれた感じ?

 ふーん。

 やるじゃん。

 ちょっと見直したぞ。

 久しぶりに名探偵っぷりを発揮できそうな予感にわくわくしていると、刑事の傍にいた九重がひそひそと刑事に耳打ちする。

 耳打ちされた刑事はこちらに声を飛ばしてくる。

 え?

 この事件は九重が起こしたやつじゃない?

 だから、私は関わっちゃダメ?

 浮気になっちゃう?

 え、何が浮気?

 どこが浮気?

 いや、グッて親指立てんなよ!

 そんでもって、そんな刑事の仕草に照れくさそうに頬を赤らめんなよ九重。

 エグイって。

 外堀固められてる感じエグイって。

 ふん! 

 私はこの事件勝手に解決するからな。

 は?

 また九重が事件起こしたら呼ぶから待機よろしく?

 よろしく?

 名探偵なのに?

 きちんとした事件には関わらせてもらえないの?

 そっか。

 そうなんだ。

 ふーん。

「びゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

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