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【存在強奪】 ~やけくそでダンジョンに素手特攻したら、存在もスキルもステータスも奪える能力に目覚めました~  作者: 仁科異邦


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音速の変質者、毒蛇の誤算


 『クリスタル・セージ』を無事(?)討伐し、深層への鍵を手に入れた俺は、ダンジョンの正面ゲートを駆け抜けた。

「……おい、今、ゲートから何か出なかったか?」


「出たな。変態パンイチ男の残像が、マッハで駆け抜けていった。……俺、もう慣れたわ」

「俺もだ。むしろパンツ履いてて偉いなとすら思った」


 警備員たちの諦めきった会話を背中で聞き流し、俺はドドンキへと駆け込んだ。


 二日酔いでガンガンする頭を抱えながら、いつもの1980円の無地スウェット上下を購入し、トイレで着替える。


「……エク子。俺の尊厳は、もうマイナスへ振り切ってる気がする」


「気にしないでくださいマスター! 英雄とは常に孤独で、時に変態扱いされるものです! 歴史上の偉人だって、お風呂から裸で飛び出してアルキメデスの原理を叫んだりしてますからね!」


「一緒にすんな、それに知力が違う(負けてる)から……」

 吐き気と頭痛に耐えながら、俺は指定された『黒犬』の本家の大広間へと向かった。


 ◆


 黒犬家本家にて。

「――依頼のターゲットだ。確認してくれ」


 大広間の重厚なテーブルに、俺は黒く禍々しいオーラを放つ【深層のディープ・パス】を無造作に放り投げた。


「ッ……!!」

 その瞬間、控えていた左京玄弥の表情が、微かに、だが確実に引き攣った。上座に座る宗一朗すら目を丸くし、まどかは信じられないものを見るように鍵と俺を交互に見つめている。


「結城誠……。あなた、本当に一人で『幻惑の水晶宮』を攻略したの……? 魔法耐性が皆無なのに、あそこの精神汚染と極大魔法の雨を、どうやって……」


「ああ、あのチカチカ光るやつか。ちょっとアルコール(物理)を入れて、目を回して全部無視した。ボスには適当に絡んでたら、なんか勝手に自爆して砕け散ったよ……」


 俺が二日酔いの頭を押さえながら面倒くさそうに答えると、左京玄弥の銀縁眼鏡の奥の瞳が、驚愕と恐怖で激しく揺らいだ。

(……アルコールを入れて、目を回しただと? まさか、己の精神を意図的に混濁させることで、高位の精神干渉魔法の『認識』そのものを強制シャットアウトしたとでも言うのか!?)


 左京玄弥の脳内で、勝手な深読みと高度な勘違いが猛スピードで展開されていく。

(それに、ボスに絡んで自爆させただと……? あのBランク最上位の『クリスタル・セージ』に対して一切の魔法を使わず純粋な『暴力の圧力』だけで、自爆にまで追い込んだというのかッ……! これは人間業じゃない、こいつは本当に……底なしの怪物じゃないか……!)


 俺はただ呑みすぎて、酔っ払に、ボス相手に愚痴をこぼしていただけなのだが、成し遂げた結果は、玄弥の常識を根底から破壊していた。


「左京玄弥」

「……ッ、なにかな誠君」

 俺がスウェットのポケットに手を突っ込んだまま声をかけると、玄弥は声のトーンを隠しきれずにわずかに上ずらせた。


「お前が推薦してくれたダンジョン、最高だったぜ。……おかげで、ずっと欲しかった『チケット』が手に入った」


「チ、チケット……?」

「ああ。俺は最初から、Bランクのボスなんかに用はない。……俺の目当ては、この鍵で開く扉の先だ」


 俺はテーブルの上の【深層の鍵】を拾い上げ、宗一朗とまどかに向かって真っ直ぐに宣言した。


「宗一朗さん。依頼は確かに達成しました。ただ、この鍵の『所有権』は俺でも良いですか? ……Aランク最深部、エリアボス『蒼竜ブルードラゴン』を狩るために必要なので」


 静寂。大広間が、水を打ったように静まり返った。

「蒼竜だと?……貴様、本気で言っているのか?」

 宗一朗が、これまでにないほど険しい声を出した。


「ええ。俺がこの鍵を使って蒼竜を倒し、その素材を全部を『黒犬』に卸す。それで手打ちにしてくれませんか」


 Aランクエリアボス蒼竜の素材。それは、日本の国家予算すら動かしかねない超弩級のシノギだ。もちろん、素材のみで、特級エリクサーは渡すつもりはないが。


 宗一朗は顎を撫で、数秒の沈黙の後、豪快に笑い声を上げた。


「カッカッカッ! いいだろう! Bランク最上位を単独で捻り潰した男だ、もはや常識の枠で測る気はない! 鍵は貴様に預ける。……まどか、約束の報酬を出してやれ!」


「は、はい……! 結城誠、あなたの口座に3000万円振り込んだわ」

 まどかが震える手で端末を操作する。


 スマホの通知音が鳴り、俺の口座残高が一気に跳ね上がった。

「助かる。……さて、それじゃあ俺は忙しいんでな。二日酔いが治ったら、トカゲ狩りの準備に入らせてもらう」


 俺は踵を返し、大広間を後にした。

 すれ違いざま、玄弥の顔をチラリと見る。あの柔和な笑みは完全に剥がれ落ち、ひたすらに冷たい汗を流して俺を凝視していた。


 俺の破天荒な攻略を前に、小手先の策はすべて無意味だと悟ったのだろう。

(……エク子。これで準備は整ったな)


「はい、マスター! 残るはマスターのステータスを、蒼竜のブレスを耐え切れるレベルまで引き上げるのみですね!」


 特級エリクサーまで、あと一歩。

 俺はドドンキの安物スウェットの紐を締め直し、決戦の地となるAランク深層へと意識を向けた。



現在の所持金:57,065,560円(※報酬3000万加算、スウェット代1980円出費)

妹の治療費まで:あと17,934,440円

特級エリクサー(蒼竜からの強奪)投与リミットまで:あと15日

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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