特訓、Cランクダンジョン
少し設定変えました。
2026.4.28 不備ご指摘ありがとうございます!
Bランクダンジョンで手痛い洗礼を受けた翌日。
俺は偽造ライセンスをフル活用し、関東近郊に点在するCランク以下のダンジョンを、まるで営業回りのように次々とハシゴしていた。
目的は明確だ。
『Bランクの過酷な環境を素手で生き抜くための耐性スキルの獲得』、そして『暴力的なまでの基礎ステータスの底上げ』を達成する事だ。
「よしエク子。一つ目のターゲットだ」
「はいマスター! Cランク魔物『猛毒ヒキガエル(ポイズン・トード)』! この第8ダンジョンの中層に生息しています!」
薄暗い湿地帯のエリア。
腐敗臭のする泥沼の中から紫色のグロテスクなカエルが姿を現した。
『ゲコォォォォッ!!』
カエルが口を大きく開け、紫色の毒霧を広範囲に吐き出す。
俺は息を止め、毒霧の中を一直線に突っ切った。
ジャージの表面がシュウシュウと音を立てて溶け、皮膚に痛みが走る。
だが、怯まない。
「邪魔だッ!」
カエルの顎の下へ滑り込み、オークから奪った剛腕でアッパーを叩き込む。
グチャッ、という嫌な音と共にカエルの巨体が宙に浮き、そのままひっくり返って絶命した。
『――条件達成。【存在強奪】が発動します』
砂嵐のノイズと共にカエルが消滅する。
皮膚を焼いていた毒の痛みがスッと消え去り、心地よい清涼感が身体を包み込んだ。
「タスク一つ目、完了ですね! 猛毒ヒキガエルの初回ボーナスで、【毒耐性 Lv1】と【酸耐性 Lv1】を獲得しました!」
「上出来だ。これでタランチュラみたいな奴や、スライム系の酸を素手で殴っても腕が溶けずに済む」
俺は思考を切り替え、すぐさま次のダンジョンへと向かった。
休む間もなく、次は氷雪地帯の広がる第10ダンジョンへ。
ターゲットは氷の身体を持つCランク魔物、『白銀の雪男』だ。
『ガアアアアッ!』
絶対零度の冷気を纏う丸太のような腕が振り下ろされる。
俺はあえてそれを左腕でガードした。パキパキと腕が凍りつき、感覚が失われていく。だが、右の拳は生きている。
「砕けろッ!!」
氷の装甲ごと、イエティの胸板を正拳突きで貫く。
存在強奪が発動し、凍りついた腕が熱を取り戻した。
「マスター、【氷耐性 Lv1】と【寒冷適応】を獲得です! ステータスの上がり幅も凄まじいですよ!」
「いいぞ。その調子で、次は本命の『火属性』だ」
火、水、雷、風、土。
あらゆる属性を持つCランク魔物をピンポイントで探し出し、素手で殴り殺してはその『概念』を強奪していく。
パズルピースを埋めるように、足りない耐性を一つ一つ自分の中にインストールしていく感覚。
元事務員として、この地道だが確実な「作業」は嫌いじゃなかった。
――そして、スキル集めを終えた三日後。
「さて、耐性の準備は整った。……ここからが本当の地獄だ」
俺がやってきたのは、ゴブリンの上位種である『ホブゴブリン』や『オーク』が大量に群れをなして生息する、Cランクダンジョンの魔物溜まり(モンスターハウス)だった。
無数の獰猛な魔物たちが、侵入者である俺を見つけて一斉に武器を振り上げる。
「エク子。【存在強奪】の自動消去設定をオフにしろ」
「了解です! 対象の完全消去を行わない『チリツモモード』に切り替えます。これで得られるステータスは初回の1/10になりますが、魔物はダンジョンのルールの通り、倒しても倒してもすぐにリスポーン(再湧き)しますよ!」
「ああ。……一匹残らず、時間の許す限り殴り続ける」
俺はボロボロになったジャージの袖をまくり、魔物の群れに向かって駆け出した。
そこからは、文字通りの泥仕合だった。
「オラァッ!!」
ホブゴブリンの棍棒を躱し、顔面に肘打ちを叩き込む。
倒れた傍から次のオークが迫り、その膝を蹴り折って首の骨をへし折る。
血飛沫が舞い、骨が砕ける音が絶え間なく鳴り響く。
『――【筋力】(+0.5)』
『――【耐久】(+0.3)』
『――【敏捷】(+0.4)』
視界の隅で、エク子が表示するステータス上昇のログが、滝のような勢いで流れていく。
一回の加算は微々たるものだ。
だが、十匹倒せば一匹分。百匹倒せば十匹分。千匹倒せば――。
「ハァッ……ハァッ……!」
痛覚は麻痺し、疲労で肺が焼け切れそうになる。
しかし、休むわけにはいかない。俺の時間は無限じゃない。
美桜の命のタイムリミットが、常に背中を突き刺している。
殴って、蹴って、砕いて、奪う。
倒した魔物は光の粒子となって消え、数分後にはまた新たな個体となって俺の前に立ち塞がる。
それをまた、殴り殺す。
ただひたすらに、効率的に、命を数値に変換する作業。
そう信じて、不眠不休で魔物を狩り続けた、三日目のことだった。
『――【筋力】(+0.0)』
『――【耐久】(+0.0)』
「……ん?」
俺はホブゴブリンの首の骨をへし折りながら、視界の隅に流れたログに違和感を覚えた。
ゼロ? 上昇値がゼロになった?
「マスター、ストップです! 無駄です、これ以上狩ってもステータスは上がりません!」
「どういうことだ、エク子。チリツモなら無限に強くなれるんじゃなかったのか?」
エク子は空中にホログラムのウインドウを展開し、赤く点滅する文字を指差した。
「【ランクキャップ(階級上限)】に引っかかってしまった様です!
【存在強奪】は相手の『存在』を取り込むスキルですが、器のステータスが一定の水準を超えると、格下の魔物の存在を取り込んでも『薄すぎて』能力値に反映されなくなるんです!」
「……つまり、Cランクの魔物から得られる力には『上限』があるってことか」
「はい! 今のマスターのステータスは、Cランク帯の魔物から搾り取れる限界値……つまり『Cランクという次元の天井』に到達してしまいました。
これ以上強くなるには、Bランク以上の強大な存在を強奪して、上限そのものを突破するしかありません!」
俺は血だらけの拳を下ろした。
スライムやゴブリンを何万匹狩り続けても、強くはなれない。
ゲームのような残酷なシステムだ。
エク子が展開した最終ステータスを確認する。
-----------------------------------------
【名前】結城 誠(35)
【職業】無職(適性なし)
【称号】強奪する者・殺戮の鬼(NEW)
【Lv】24(↑UP)
【HP】850
【筋力】780(Cランク上限到達)
【耐久】650(Cランク上限到達)
【敏捷】420(Cランク上限到達)
【ユニークスキル】存在強奪
【獲得スキル】
暗視 Lv3、物理耐性 Lv4、自己再生 Lv3、
毒耐性 Lv2、酸耐性 Lv2、氷耐性 Lv2、
熱耐性 Lv3(NEW)、麻痺耐性 Lv1(NEW)、
気配察知 Lv2(NEW)、痛覚軽減 Lv1(NEW)、
寒冷適応(NEW)
【装備】ボロボロのジャージ
-----------------------------------------
「筋力が780……これでも、Aランクの重戦士を上回る立派な数値ですよ! チリツモ作戦、大成功です!」
「すごいな、そんなに上がったのか……」
「はい! 今のマスターなら、そこらの装甲車くらいなら素手でひっくり返せます! しかも【熱耐性 Lv3】まで獲得済み! これなら、Bランクの環境ダメージも大幅にカットできます!」
俺はゆっくりと立ち上がり、拳を強く握り込ん
だ。
数日前までの、ただ力任せに殴っていた時とは違う。力の制御、筋肉の連動、相手の気配を読む感覚。
何体もの魔物を素手で殺し続けたことで、俺の身体には『闘争の本能』が完全に根付いていた。
「……これなら、行けるな」
「はいっ! 今週末の幹部会まで、残り二日。いよいよBランク魔物へのリベンジですね!」
俺は自販機で買った水を頭からかぶり、血と泥を洗い流した。
全身に漲る、圧倒的な暴力の予感。
安全地帯に引きこもって無限に強くなる甘い道は閉ざされた。
一億円を稼ぐためには、やはり常に死と隣り合わせの深層へ潜り続けるしかないらしい。
Bランクダンジョン『焦熱の地下渓谷』。
あのクリムゾン・サラマンダーの赤い鱗を、今度こそこの素手で粉砕してやる。
♦
現在の所持金:579,700円(※自販機利用)
妹の治療費まで:あと98,420,300円




