後悔と決意
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イオ 視点
ジール侯爵との交渉を終え、戻ってきたのは空が白み始めた頃だった。
ドアの前でリノアをずっと守ってくれていたモーガンの肩を叩き、俺はそっと部屋に入る。
薄明りの中でリノアは、ふかふかの布団にくるまりドラゴンを抱いてすやすやと寝ていた。
「はぁ。良かった……。」
かわいい寝顔に疲れもイライラも一気に吹き飛んだ。
「俺のせいで、怖い思いをさせてすまなかった……。」
そっときれいなワインブラウンの髪に触れる。
今回の事件は、ジール侯爵令嬢のソフィアが起こしたものだった。
ジール侯爵令嬢は今までに何度も俺に婚約を打診してきていたが、すべて丁重に断ってきた。
それでもあの手この手といろいろ罠を張られていたが、自分自身を守る事は容易にできていたから油断していた。
直ぐにリノアを狙うとは……。
もっと俺が気を配るべきだった。
護衛ももっとつければよかった。いや俺がついていけば……。
ジール侯爵は事実を突きつけられ逃れられないことを知ると、この件を公にしないために娘を捨てた。
すぐさまソフィアを北のノアナ王国修道院に送り、二度とバーンズ公爵家には関わらないことを誓い、さらにはエバンズ伯爵令嬢への謝礼として多額の見舞金を寄こした。
「お金なんていらないってきっとリノアは言うだろがな……。」
俺はこれからリノアをどうやって守ろう……。いや俺の持てるすべてを使ってリノアを守る。
渡したペンダントには、リノアに危険がせまったら俺に居場所を知らせる魔法をかけてあった。
ペンダントと対のブレスレットが光った時は心臓が止まるかと思った。
リノアへの思いは最初のうちは天使への興味程度だったはず……。
一緒に過ごすうちに俺は、リノアの純粋無垢な心と笑顔に魅入られすっかり心を奪われていた。
あまり他人に興味がなかった俺が……。初めて人を愛する気持ちを知った。
そして自分以外を守ることの意味も。
「ぜったいに俺が守るからな……。」
リノアを見つめながらついその柔らかな頬に触れようとすると、ドアの隙間から見えるモーガンに咳払いされた。
「なんだよ……。」
小さく舌打ちして視線をリノアに戻すと、瞬きをする瞳と眼があった。
「イオ様……。」
んーーーー。寝起きのリノアもかわいい。
俺の名を呼び、リノアはなんどか瞬きすると突然目を大きく開き俺に抱きついてきた。
「イオ様お帰り!どこも痛くないですか?怪我してない?心配してた、会いたかった……。」
うわぁ~。リノアは俺の心臓を爆発させる気か!
それともこれは俺の妄想か夢か!夢なら思いきり抱き締めてしまえ!
リノアを抱きしめ返したところで母上に背中を平手で思いきり叩かれた。
「私のかわいいリノアに何してるの!この馬鹿息子」
あっという間にリノアを引きはがされ、さらにはモーガンに腕を引かれ一歩後ろに離される。
おまけにドラゴンが俺の頭を甘噛みしている。
なんだよみんなして!
「リノア大丈夫?朝から猛獣が居て怖かったわね」
「あ あの、グレースお母様。イオ様のお顔を見たら嬉しくて、私が飛びついてしまったんです。ごめんなさい」
「あらあら。まあまあ♪ そうなのねリノア。でも男は誰もが狼だからね、今後は気をつけるのよ」
「はい。グレースお母様」
「俺が寝ないで頑張っている間になんで母上はリノアにお母様と呼んでもらえる様になってるんだ、リノア。俺のことはイオって呼んで、イオって呼ばなきゃ返事しない」
後ろからモーガンに肩を掴まれる。
「イオ様、男の嫉妬は見苦しいですよ」
「なんだと、モーガン」
モーガンに振り返り反論しようとすると、後ろから服の裾が引っ張られた。
「あの。様をつけないで呼んでいいなら呼ばせてください……。イオ」
わーーーーー。殺人的な上目遣い。
「もちろんいいよ」
嬉しくてリノアを抱きしめようとすると今度は後ろから襟ぐりを掴まれ引き離された。
「モーガン!………… !!父上」
振り返ると掴んでいたのはモーガンでなく父上だった。
「リノア嬢、グレーズやイオをそう呼ぶなら、私のことはセルお父様と呼んでおくれ。
やー娘ができてうれしいなぁ」
もーーー。みんなで俺を邪魔しやがってーーー。
バーンズ公爵の名前はアクセルです。公爵は愛称+お父様と呼ばせたいようです。




