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終末の異世界紀行  作者: 佐倉美羽
『人形の国』

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第2話 人形の国

 もうどれくらい時間が経ったでしょうか。多分5日くらいは経ったと思います。ここは不思議と疲れや眠気が訪れません。そして、ずっと夜のままです。私は、依然としてこの人形の国を歩き回っていました。

 ……失礼。ただ、歩き回るのではなく、出口を探したり、他の人間がいないか探してみたり。つまり私は観察をしていました。


 誰にも助けてもらえないなら、自分で何とかしないといけませんし。他にやることもありませんでしたから。それと、鏡に映った私は、なんだか思ったよりも綺麗で驚きました。

 ……まぁ、寂しさは、消えてくれませんでしたが。


 分かったことは、人形の国はドーナツのような形状をして、とても広い。中央にある花畑を囲うように、作り物のようなおしゃれな街並みが広がっています。中には露店やカフェ、本屋、飲食店?や白い箱のような家もありました。そして、人形たちはそこで生活をしている。ネジやボルトのような通貨を使って、毎日同じことを繰り返していました。


 私は、カフェテラスの一つに腰かけながら、じぃっと人形たちを見ていました。まるで自分も人形になった気分です。道行く子供人形を目で追い、近くに座った老人形をまじまじと目に留め、お盆を持ってグラスを運ぶ店員人形の動きを目に映す。


 ――あれ?


 違和感がありました。何か他の人形と違うような、間違い探しで何となく答えが浮かび上がってくるような、ちいさな違和感。隣に座った紳士の人形。目を細めて、集中して見てみます。


 ――あっ!


 気が付きました。この人形、指が欠けています。左手の薬指が、丸ごとない。壊れています。裕福そうな人形なのに、完璧ではない。傷がある。

 異世界にやってきて、ようやく得られた“変化”でした。ここにいる人形たちは体型から年齢、性別に至るまで様々な形状がありました。ですが、改めてよく見てみると、どれもどこか壊れています。


 私は再び腰を上げて歩き回ってみました。ある男の人形は目がありませんでした。ある女の人形は歩き方がぎこちなかったです。そのほかにも腕や脚、頭の一部と言ったどこか欠損した人形達ばかりです。


「壊れたまま、直されない人形の国……?」


 これは、いったいどういうことなんでしょうか……

 手がかりの様で、全く役に立ちそうにない。それでも、この謎を追えば何かわかるはずだと言い聞かせ、そう、縋る思いで、人形の傷を探して回りました。


 その際に、白い壁に覆われた静かな家を見つけました。他の家は瓦に可愛らしい装飾窓、煉瓦で建てられたていたのに、この家だけは何もない。のっぺりした白い家。扉と窓があるだけの、お豆腐みたいな家でした。


 見上げると、なんだか落ち着くような、そんな気がして。そして、手癖のように扉をノックしていました。コン……コン……コン……。乾いた音が響きましたが、返答は返って来ません。


 ――ここは、どこかお薬のような匂いがします。病室……なんでしょうか。


 息を呑みこみ、ドアノブに手を掛けました。ギィ……と、音を立ててゆっくりと扉が開かれます。


「誰かいますかー……」


 薄暗く、窓から差し込む月明かりが頼りなく部屋を照らしていました。白い壁に覆われた、シンプルな部屋。慎重に足を踏み入れると、奥に大きなベッドがあります。

 それは、夜そのものでした。夜の帳を下ろしたような黒髪。陶磁の白肌に黒曜石のような瞳。小さな鼻に、ぷっくりとした愛らしい唇。目を奪われるような少女の人形。そして、何よりも目を引くのが、腹部。ひどく裂けて、砕けて、潰されて、もはや立ち上がることも出来そうにない。

 見た瞬間、なぜか懐かしい気持ちになりました。どこかで会ったような。大切な、誰かのような。思わず生唾を飲み込んでいました。確かに、美しい人形でした。でも、どうしてか、この見捨てられたように動かず、言葉もなくベッドに横たわる人形に強く惹かれました。まるで、その痛みに覚えがあるように。


「あ、あの……」


 震える声で人形に呼びかけます。自分でも気づかず手を伸ばしていました。恐る恐る、初めて誰かと手を握るように。今までどの人形も反応はありませんでした。でも、どうしてか、私は黒い人形に声を掛けていました。まるで、人間に語り掛けるように、そっと優しい声色で。


「こ、こんばんは……。大丈夫ですか……?」


 すると、どうでしょうか。人形の目が、微かに動いた。そして、私の眼をまっすぐに見据えた。「近づかないで」そう目で訴えるようでした。


「ァ……」


 黒の人形は微かに喉を震わせたような気がしました。それは。とても小さくて、弱弱しい声。迷子になった子供がすすり泣くような、きっと誰もが素通りしてしまう空気の振動。でも、私にとっては、クジラの唄のように、魂の奥底まで響き渡たりました。


「どうか、怖がらないで。私は、貴女の味方。大丈夫、大丈夫です」


 口よりも心が先に動いていました。私はこの時すでに、決意していたのです。そうするために、私はここに呼ばれたんだと、直感しました。


 ――この人形を、直したい。貴女を救いたい


 とても、静かな夜でした。白い部屋で私は黒く美しい人形と出会った。怯えたように目を瞑るあなたの手を、私はそっと握る。冷たくて、無機質な肌触り。薬の匂い。ベッドの脇に膝まずいて、その硬い手を両手で包み込んでいました。記憶の中、ノイズの切れ間に見えた。白い部屋。病室のベッド。私の手を握り、じっとこちらを見つめていた、あなたのことを。


――あなたは、私の一番の友達だよ。


あたたかな言葉とともに、微かに蘇る思い出。恐る恐る開いた黒い瞳と目が合います。私は目を逸らさずに、まっすぐ受け止めました。


「貴女の名前は、マキナ」


 どうしてか、頭の中でその名前が思い浮かんでいました。これ以外の名前はあり得ない。魂に紐づけられた名前。そんな気がしました。

 永遠に続く夜の世界で、私はマキナと出会った。太陽が死に、月が息づく世界で出会った特別な人形。

 見つめ合い微笑むと、黒い人形、マキナはコクリと頷いていました。


 つづく

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