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終末の異世界紀行  作者: 佐倉美羽
『悪魔の国』

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31/50

第1話 下級悪魔は成り上がる

 狙うのは筋金入りのクズだ。

 それも、上位1%にも満たないクジラ級の超大物。


 だが、殺すんじゃない──

 “頼らせる”んだよ。


 欲に溺れそうなやつほど、救いのロープを欲しがるものだ。

 俺たち悪魔はロープなんて持ってない。

 あるのは、契約という名の銛だけ。


 でもな?

 クジラがそれを“救い”だと思ってくれれば、それでいいんだよ。


 真っ赤なオフィスビルの最上階、“信用”の悪魔はそう嘯いた。


 ここは悪しき罪人達が堕ちる場所──悪魔の国。

 俺が転生した場所だ。


 あぁ、“信用”の悪魔ってのは俺の通名ね。

 俺が名乗ったわけじゃない。本当の名前はマモル。

 人間だったころはそう呼ばれてた。

 もうしばらく聞いてないけどな。


 今は新入社員向けのVTR撮影中だ。


「ここでは、“コレ”が全てだ。お前らもコレが欲しいんだろ?

 だからここに来たんだよな」


 パチンと指を鳴らす。

 指先から“コレ”、すなわち人間の魂が現れる。

 翡翠色の炎がゆらりと揺れ、かすかに泣いているようにも見えた。

 俺色に染めた、人間の魂。


「分かるか? コレさえあれば無敵になれる。

 酒も女も薬もいくらでも手に入るし、地獄の王アレトゥスとも取引できる。

 俺みたいなカスの下級悪魔でも、上級悪魔になれる」


 別に自慢じゃない。

 ただの現実だ。

 地獄の中枢“赤塔”を間借りして商売できる奴なんてそうそういない。


 ここでは“人間の魂”の数がそのまま身分だ。

 簡単だろ?

 魂を持ってるやつが偉い。強い。カッコイイ。


 つまり、人間の魂は“金”だ。


 転生した時は驚いたけど、結局は人間時代と同じ。

 金があれば、なんでも買える。

 いい暮らしができるし、うまい飯も食える。

 寄付すれば、いい人にだってなれる。

 イリオモテヤマネコだって救える。

 俺はいい人になりたい。

 だから、俺は金持ちになりたかった。


 俺の話をしよう。

 中流階級の生まれで、大卒から営業マンとして働いてた。

 向いてたね。

 月間ノルマなんて、俺が生きてる間はずっと一位。

 年間で十億くらい売りさばいてた。

 ……まあ、月間一億の目標は三ヶ月くらい未達だったけどな。

 それでも皆、羨望の眼差しで俺を見てた。

 順風満帆。完璧だった。


 で、死んだ。

 社用車を運転してたら横から突っ込まれて即死。

 ガツンと首に衝撃。

「あ、死んだぁ」って思ったね。


 気づけば、ここ。悪魔の国。


 血の池や針の山なんてない。

 代わりに、真っ赤な空の下に欲が溢れてる。

 風俗、バー、ラブホテル、ヤクザビル。

 どこを見ても、ろくでなし共が酒を飲み、娼婦が客引きをして、ラリッた悪魔達が殺し合いをしてる。

 “欲望のショッピングモール”って感じのクソな街だ。


 ショーウィンドウに映った俺は、スーツに血みたいに赤いネクタイ。頭には二本の赤い角。そして、笑顔の仮面を被った姿。赤い目がやたらとギラついてたよ。典型的なインプ。下級悪魔だ。


 やるべきことはすぐにわかった。

 営業マンのときと同じだ。

 俺は客の懐にあるモノを、笑顔で自分の懐に入れるだけ。

 抜き取るんじゃないぞ?

 客に、入れてもらうんだ。

 そういうゲーム。

 生きてても死んでても、やってることは結局変わらねぇ。


「いいか。俺の言うとおりにすれば、お前らみたいなボンクラでも絶対にクジラを狩れる。白鯨みたいな大物だってファックできる。

 よく聞け。俺が、お前たちをエイハブ船長にしてやる。

 この悪魔の国で好き放題できる。

 上級悪魔だって夢じゃない。


 お前らは今から勝ち組になるんだ。

 だから――」


 ――俺を信じろ。


 じゃあ、そこから俺がどうやって“信用”の悪魔に成り上がったのか。その話をしようか。

 ……ここだけの話、最初のクジラ狩りは俺の想像していたよりずっと“化け物”だった。

 あれを仕留めた日から、俺の地獄……いや、悪魔の国が始まった。


 ◇◇◇


「おい。マモン。魂の一つも集められねぇ役立たずのインプ野郎。聞いてんのか」


 ソウルリンク証券の朝は飢えた狼の巣窟みたいだ。

 悪魔の国で俺が務める魂取引会社。魂経済の中心ね。

 で、このいけ好かない山羊頭の野郎が俺の上司。黒スーツが筋肉でパツパツだ。


「はい。聞いてます。ボス」


「お前の仕事は契約屋だ。一日5000人にDM,電話、メッセージをしてアポを取れ。大罪級の業持ちは俺に繋げ。いいな。わかったなら、とっとと掛けまくれ!」


 インプの“マモン”。それが悪魔の国の俺。そんで転生生活初日でこれだよ。まだ始業開始もしてねぇっつーの。

 だけど、悪くねぇ。見渡すが限り異形の悪魔だらけ。ライオンや蛇と言った獣頭。映画泥棒みたいなカメラや電球頭の悪魔もいた。全員が、アドレナリンを静脈にキメたみたいに血走った眼だ。


 俺はPCの電源をつけて、スマホの具合を確かめるためにアプリを立ち上げた。人間界でもあったSNSアプリの数々。使い慣れているものばかりだ。まさか、悪魔が人間界にこういった形でアクセスしてたなんてな。


「お、君かぁ。噂の新人。えー、名前は……」


 心の底に響くような男の声が聞こえたと思ったら俺の肩を両手で揉み揉み。見上げると、浅黒い肌に尖った耳。人間に近い外見だけど二つ生えた角が実に悪魔だ。この会社のエースで俺のもう一人の上司、ダンタリオン。


「マモンと言います。よろしくお願いいたします」


「マモン君。よろしく頼むよ。で、君面接で自分と親の魂欠けて面接官と取引しようとしたって本当?」


 ちなみにこれはマジだ。


「ええ、はい。とにかく目立たなきゃって思いまして」


 面接は楽勝だったな。面接官が俺をインプだからって侮ってくれたお陰で、めちゃくちゃやりやすかった。

 ダンタリオンはNo.3ホストのように親しみやすい顔をくしゃりと歪めて、「インプなのにその自信!すごいな。今日ランチどう?」と、俺の肩を揉みしだいた。


「はい!嬉しいです。ダンタリオンさんとご一緒出来るなんて!」


「おい!新人!てめぇ調子乗んなよ?そう言うのは契約の一件でもとってからにしろ。ダンタリオンさんもあんま甘やかさないでくださいよ」


「おっと、小言の悪魔に捕まっちまう。じゃ、ボクはこのへんで。頑張りたまえよ。マモン君」


 そう言って、ダンタリオンはヒラヒラと手を振って自席へと戻っていった。うーん。かっこいい。俺は、肩にグルグルと回して、やる気を出す。血流が頭に巡らせ、循環させるイメージだ。


 “悪魔ども!お前らがこの悪魔の国経済の担い手!!根性入れろ!欲深い人間どもから魂を狩って買って刈りまくれ!!”


 始業のベルが鳴った。さぁ開戦の合図だ。ぶちかましてやるぜ。


 ◇◇◇


 そして――昼休み。

 マモルはデスクで息絶えていた。


 つづく


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