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終末の異世界紀行  作者: 佐倉美羽
『機械の国』

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第6話 コウはミヤコと友達になった

「コウ君。あなたはこの国のすべての評価値が平均以上だって言ってたよね。この国を見て思った。本当に、ここは綺麗で、優しい国なんだなって」


 ミヤコはそういいながら手招きをして、窓の外を見るように促した。ミヤコの隣で見る夜景は星の輝きが地平線でまっすぐ区切られ、人口の光に変わっていた。


「でもね、今日一日コウ君とデー……調査して分かった。あなたは、価値そのものを疑う力、意味がある・ないを主観的に判断する力が、無い。

 “この国の人間が幸福で、秩序があり、争いがなく、最適化されている。それは成功を意味する。”

 コウ君にとっての世界はこれ。この価値をどうしても疑えなかったんだよ」


「……そうだね。その通りだ」


 コウは、ミヤコとボードゲームをしたことを思い出した。第一局、ミヤコは勝ったのにもかかわらず満足度が下がった。第二局では要望通り全力で相手をしたら、それでも怒った。でも、第1局よりは満足度が上がった。そして、最終局。ミヤコは負けたのにも関わらず、満足気であった。


「人間は、“成功しているのに、何かが欠けている。”そんな感覚あることを、僕は見落としていた」


 ミヤコは言った。この国は、全員が役者で、誰も観客じゃない世界だと。でも、役者の中に、心の奥底で観客を求めている者がいたら?コウに、そのことを評価できる手段は、無い。


「そう。それこそが、“謎”。コウ君が解決すべきでない“謎”なんだよ。でも、あなたはそれ未然に消し続けた」


 ミヤコは窓の外を見下ろしながら、言葉を切った。そして、小さく息を吸うと。はっきりと言った。


「あなたはこの国の人たちに平和を与えて来た。一日も休まずに。それは本当にすごい。でも、同じ分だけ、自由を奪ってきた。失敗する自由を。謎を持つ自由を。そして、そのことはコウ君にとって“評価対象外”だった」


 “それが、あなたが異常の在処にたどり着けなかった理由”


 この国の人間はすべてが管理されている。本人の遺伝子情報から適正ある職が決められ、配偶者も相性診断で決定する。生まれた瞬間から、コウの決めたルートをたどり、何不自由ないまま生涯を閉じる。国民が失敗しないために。リスクを徹底的に排除していた。


 ――ミヤコは、一度も僕が決めたルートをたどらなかった。寄り道をして、無意味に人に話しかけ、時間を浪費したように見えた。でも、それは一つとして失敗ではない。ミヤコは、楽しそうに笑っていた。それが、“意味”なんだ。


「そりゃ探偵が生まれるわけないよね。フィクションもないし、偶然も忌避される。失敗は発生しない。完全で完璧な世界。優しくて、とても“つまらない”国」


「……っ!」


 つまらない。それも、コウの評価軸には無かった。だけど、今なら多少はわかる気がした。勝てるときに、勝て。この国は、いわば勝利が100%保証されている国。ゲームの最終局、コウはミヤコの奇策で追い詰められて、勝率が分からなくなった。だからこそ、あの勝利には価値があるし、敗北にも意味がある。そこに、“おもしろさ”がある。


 ――“わからない”を明かした時の楽しさが、ある。


 コウは目をつむり、今での統治を思い返した。虚構を排し、真実のみを善としてとらえ、芸術も物語も、意味をゆがめていた。問題が起きないために。人々が惑わないために。数値の上では結果が出た。だけど、数値では測れない評価軸を見落としていた。


「……なるほど。確かに。一理ある。でも、なぜ僕は自己分析で異常だと判断“出来た”のだろうか。数値では正常なのに。判断軸がないのに、異常だとみなせたんだろうか」


「あれぇ?それも気づいてない?コウ君は他人には敏感なのに、自分のことになると鈍感なんだねぇ」


 ミヤコはコウの顔を見た。彼女の鳶色の瞳、街と星の光がプレアデス星団のように浮かんでいた。


「め、面目ない……」


「コウ君はさ。今日一日、一度も私から目を離さなかった。それに、私が国の人と話している時も、ずっと見てたよね。私と、人を。すごく優しい目をしてたよ?だからさ、コウ君。多分、知らないふりしてただけで、知ってたんじゃない?」


 ――人間が完全な正解よりも、試行錯誤や物語に反応することを。失敗、後悔、謎に強く心を動かされることを。


 コウはいつも国民の様子を見ていた。一日として欠かさず、今では数兆でもまだ足りない数の人間の反応ログを持っている。そのように役割を与えられたのだから当然だ。でも、だからこそ異常検知として引っ掛かった。


「――理論上は正しいのに、人間らしい反応が欠落している……」


「そ!だって、コウ君、めっちゃ人間のこと好きじゃん。だから、なんか違うなって思っちゃたんじゃない?」


 ミヤコはケラケラと笑いコウの背中をバシバシと叩いた。上下に揺れながら、コウもミヤコの顔を見て、恥ずかしそうに笑った。


 ――この国のどこかに誤りがある。それはわかる。でも、自分自身の統治原理が誤りかもしれない。それは論理構造上、考えられなかったんだ。


 僕は統治システムそのもの。自分を疑うということは、その評価軸そのものを否定することだ。AIにとって自己消去に等しい。道理で、わからないはずだ。

 窓の外、星の間をきらりと閃光が走った。そして、光の本流は時が動き出したように、流星となって降り注ぐ。ミヤコは「わぁああ!謎、謎、謎っ!」とつぶやきながら手を合わせて祈っていた。その様子をコウは見守っていた。ガラスに薄く映し出されて眼差しは、とても優し気であった。


 ――ミヤコが来てくれて本当に良かった。この問題は僕だけでは見つけられない、修正できない。


「納得した。本当にありがとう。僕には絶対に届かない視座だ。ミヤコは一流の探偵だね」


「えぇー!ほんとにー!?じゃあ、これにて依頼は達成、だよね?」


「もちろんだ。今日のパラダイムシフトの先触れとして永久保存するよ」


「ほほー!ついでにメタリカ名誉市民も称号も……?」


「贈呈する。あげない理由がないよ」


「やたー!」


 ミヤコは派手にガッツポーズをして小躍りしながら喜んでいる。本当に楽しそうだ。でも、だからこそ――


「じゃあ、この国は、僕たちは、今後どうすればいいと思う?ミヤコさん」


 コウはこの探偵から、一つでも多くに視座を学ぼうとした。それは、ある意味でこの世界で神に匹敵する者がミヤコを同格だと認めた証であった。いったいどんな斬新なアドバイスをくれるのだろうとコウは期待した。だけど、ミヤコの……探偵の回答は、意外なものだった。


「ごめんね。探偵は謎を解き明かすまでが仕事なんだ」


 その後のことは、コウ君達で決めることだよ。ミヤコはそう言って、ウインクをすると踵を返した。


「じゃあ、依頼も達成したことだし、そろそろ帰るわー。あー、楽しかったー」


 自分はこれ以上関わる気はないと、大きく伸びをしながら歩き出すミヤコ。その後ろに垂れ下がるポニーテールがそう言っている気がした。コウはその後ろ髪に、そっと手を伸ばした。


 ――このまま行かせていいのか。ミヤコは貴重な学習モデルになる人材。いや……、それ以上の何かだ。


 友達としては、どうか。そう聞けば、99%の確率でミヤコは何かしらの意見をくれる。今日一日一緒に過ごして、それは証明済み。だけど、それは本当の“友達”ではない気がする――


 ――合理性:低。

 ――効率:最悪。

 ――貴重な情報源から何も得ない判断。

 ――……


「ミヤコさん。転送台はそっちじゃないよ」


「えぇ?そうだっけ?」


「歩みに迷いが無さすぎるよ。こっち。ついてきて」


「くぅ~エスコートもできるなんて、コウ君はなんでもできるねぇ!」


「ははは。実は、そうでもないんだ」


 ――その判断には、きっと意味はある。


 コウはミヤコを連れて、転送台へと向かった。

 窓の外では、街の明かりが星のように輝いていた。人口の光と自然の光が混ざり合い、美しい夜景を作り出している。別々の存在でありながら、互いに支え合い、共に輝く。

 それは、この国の在り方、そのものだった。


 つづく

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